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高校生の頃 side圭②
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合コンの日、トイレに立った後は凛花と話をしなかった。
それでもその日以来、圭の密やかなる妄想はタカヤから凛花に変わった。
夏休みももうすぐ終わるというある日の夜、寮が何だかバタバタしているな、と思っていると「バスケ部は食堂に集合」という伝令があった。
集まってみるとコーチたちが深刻な顔をしていた。そうして伝えられたのは
「急きょ明日の練習は休みになる」ということだった。
集められた仲間たちと何があるのだろうと話しながら寮に戻った。
スポーツ強豪校の運動部が急に練習休みになるなんて事はほとんどないため、部員たちは少し浮き足立っていた。
その時、宮倉が「明日、一華ちゃんたち、遊園地に行くって言ってたな」とぽつりとつぶやいた。
「一華ちゃんって?」とジュンペーが聞くとこの前のバスケ同好会の女の子だと宮倉が答えた。
「それって女神も?」とジュンペーは俺を見ながら訪ねた。
「多分」と答えた宮倉にジュンペーが食いついた。
「それ、押しかけちゃおうぜ」と。
宮倉が女の子たちに連絡してくれて一緒に遊園地に行く事になった。
凛花は黒のシンプルなTシャツだったが今流行りの臍が出るかどうかという短めの丈で、動くと時折見えるお腹の肌にドキドキしてしまう。
ジュンペーは圭が凛花ばかり見ていた事に気付いたらしい。
「圭、凛花ちゃんのこと好きなんだろ?」
とトイレで隣同士になった時に言い当てられた。
「後でカップルで別れて行動できるようにしてやるから」
ジュンペーは圭の肩を叩いたトイレを後にした。
ジュンペーはこういうところで場を動かすのがうまい。ジュンペーに任せているうちにあれよあれよと凛花と二人で回る事になった。
「手塚くんは絶叫系得意?」
少し不安そうに上目使いで聞いてくる凛花はとても可愛かった。
「平気だけど」
と言うと安堵したような顔をした後、満面の笑顔で
「良かった。じゃあ、絶叫系まわろ」
と言ってくる。
凛花の笑顔は破壊力抜群だった。
二人で回る遊園地はとても楽しかった。
乗り物の好みも話のテンポも食べ物の好みも全てピッタリとあっていて、無理せず一緒に居るのが楽しかった。
彼女ができるってこんな感じなのかな、と思った。
圭も高校生男子である。
当然彼女は欲しい。スポーツクラスは彼女禁止という事になっているが隠れて付き合う分には問題ない。
実際、付き合っているヤツは何人かいる。
形骸化しているルールに何の意味があるのかとコーチに聞いたことがある。するとコーチは形骸化していてもそこに線があるってことが大切なんだ。と言った。
脳筋のお前たちが寮生活でルールがなかったらどうなるか、考えただけでも恐ろしいわ。だけどルールがあったら彼女を作ったとしてもコソコソと健全なお付き合いするだけで留まるだろう?
と言いながらニヤリと笑った。
そのあと、お前は分別があるから話したけど、この話は他の奴らにはするなよ、と言われた。
つまり、健全なお付き合いで留まれるなら彼女を作っても問題ないということだ。
これはもう、告白するしかない。
次、いつ会えるかわからないのだから告白するなら今だ。
太陽が沈み空が茜色に染まった時、圭は立ち止まった。
「なあ、今日楽しかったな。」
「そうだね。」
いざ告白するとなるとなかなか言葉が出てこない。
太陽が沈んだあとの残照が輝く時間のことをマジックアワーと言うのだったかな、などと余計なことを考えてしまう。
好きだと伝えなければ、告白しなければと思えば思うほど頭がこんがらがってうまく言葉が出てこなかった。圭がかたまっていると、凛花が言葉を紡いだ。
「すっごく楽しかった。一生の思い出にするよ。大丈夫、勘違いしたりしないから安心して。私、可愛くないしきっと手塚くんの好みじゃないよね。それなのに優しくしてくれて嬉しかった。今日はありがとう。」
勘違いとはどう言うことだろうか。
このセリフはなんだ。
自分が告白する事に集中しすぎていたため、凛花のセリフがうまく咀嚼できなかった。
そうこうしている間に再び凛花が言葉を紡いだ。
「あの、私、ちょっと用事があってもう先に帰るね。」
そう言って凛花はダッシュで出口の方に走って行った。
圭は固まったまま凛花の後ろ姿を見送るばかりで一歩も足を動かせなかった。
これはどう言うことなんだ?さっきまですごくいい感じだった。
凛花のセリフを咀嚼するが、言葉がうまく掴めなかった。
勘違いしないから、とはなんだ。
凛花は自分を可愛くないと思っているのか。
しばらく考えて、つまり、凛花は自分のことを可愛いとは思っておらず、だから、圭が凛花に気がないと思っていて、今日はすごく楽しかったけど、彼女になるなんて勘違いしないよ、とそう言うことなのか。
勘違いしないという言い方が気になった。
それは、すなわち、凛花の方は圭にファン以上の感情を抱いていると言うことではないのか。
そこまで思考が至った時、圭も出口の方に向かって駆けていた。
「ぜってぇ、逃さねえ」
しかし、凛花に追いつくことはできなかった。
駅まで行って圭は凛花がどちらの方向の電車に乗るのかすら知らない事に気付いた。
次に凛花に会えるのは二学期の始業式だ。
いつもと違う圭の様子に宮倉に「一華ちゃんに女神の連絡先聞いてあげようか?」と言われたが断った。
凛花は何かを勘違いしている。だから直接目を見て話さないとこじれる気がしたのだ。
つまらない始業式が終わるとスポーツクラスでは夏の間の大会で良い成績を残した部活や個人の発表があり、他のクラスよりホームルームが終わるのが遅かった。
クラスが終わると圭は弾けるように教室を飛び出し凛花のクラスに向かった。しかし凛花のクラスは既にがらんとしていた。
残っていた真面目そうな女子生徒に
「高谷は?高谷凛花は?」
と聞くと、
「さぁ、食堂じゃない?」
と言われたので食堂に向かう。
食堂の券売機の前で並ぼうとしている凛花を見つけて肩を叩いた。
友達と何か話していたが関係なかった。
「なぁ、ちょっと、話いい?」
そう声を掛けると凛花の腕を引っ張って運動グラウンドのあるエリアに移動した。
どこか落ち着いて話ができるところと思って
見渡すとサッカー部用のグラウンドの傍にある見学用のベンチが目についた。閑散としていてちょうど良かった。
椅子に座ると圭はずっと言おうと思っていたセリフを口に出した。
「あのさ、俺と付き合ってくれない?」
告白はシンプルに限る。
凛花は普通でも大きい目をさらに大きくして圭を見つめていた。
その瞳が可愛くてドギマギしてしまう。
「遊園地でもさ最後に言おうと思ってたのに居なくなるから。」
言い訳のように付け加えた後、聞こうと思っていたことを聞いた。
「何で俺の好みじゃないって思ったの?」
すると、凛花は圭から目を逸らし、遊歩道の脇の雑草を見つめた。
そうして何かを絞り出すように口を開いた。
「だって、だって、」
凛花の瞳は揺れ何かを考えているようだった。
「圭は昔、私が告白した時、断ったじゃない。可愛い女の子が好みだって言って。」
ありえない言葉を聞いて圭は
「はぁ?いつ?」
と思わず声に出していた。
「中三の夏」
と凛花はつぶやいた。
圭はグルグルと中三の夏のことを思い出していたが、中三の夏の告白といえばタカヤからの告白しか記憶にない。
こんな美人から告白されたら覚えているはずである。
「なんだよそれ?」
圭がそう聞くと凛花が少し拗ねたように答えた。
「北公園でシュート練習してた圭に二人で花火大会に行かないかって誘ったら『可愛い女の子が好きだからごめん』って言われた。」
そのエピソードを聞いて圭の脳の回路が繋がった。
そして、繋がった先の事実に驚いて思わずベンチから立ち上がった。
「お前、八中のタカヤか?」
圭はまじまじと凛花の顔を見た。
凛花も圭を見つめ返した。
言われてみれば大きな瞳も少し小さめの鼻もタカヤと同じである。
「高谷凛花だよ。」
あぁ、タカヤは凛花だったのか、と納得する気持ちが半分、まだ信じられない思いが半分で心の中をグルグルしていた。
「嘘だろ。」
と言うセリフが圭の口から自然とでた。
「言われてみれば顔が、確かに。でも、俺、タカヤって男だと思ってた。だってみんなタカヤって呼んでたし」
心の中で思っていることが口に出てしまっていた。
「苗字だからね」
凛花は肩をすくめた。
それはやはり圭の知るタカヤの仕草だった。
そうやって改めて凛花を見るとどうして今まで気づかなかったのだろうかと思うくらい、凛花はタカヤだった。
だから何故気づかなかったのかと無性に腹が立った。
「一緒に居るダチも男だったじゃねーか」
凛花に悪態をつくつもりは全然なかったが、思わずきつい口調になってしまう。
「うちのバスケ部、試合以外は男女混合だったんだよ。確かに男の友達の方が多かったかもだけど。」
そう言って気まずそうに見上げてくる凛花はやはり可愛い。
「なんだよ。早く言ってくれよ。俺がどれだけ悩んだと思うんだよ。」
そう言いながら圭は再び凛花の隣に腰掛けた。
「悩んだの?」
凛花が不安そうに尋ねてくる。
「そうだよ!悩んだんだよ。俺、お前に告白されてからお前の事が気になって。自分は男が好きなのかなって思ったり。やっと好きになれるオンナが出来たと思ったら本人かよ!」
前屈みになり顔を押さえながら圭が言う。
「私のこと男だと思ってたの?」
凛花は少し怒ったようだった。
「そうだよ。あの頃、僕って言ってたし。」
確かに男にしては線が細いとは思っていた。声変わりも遅かったし。しかし、圭の中の辞書には「僕」は男子が使うものだという思い込みがあった。
だから男だと信じて疑っていなかったのだ。
しかし、凛花はその部分の追求は諦めたようだ。
「じゃあ、中学の頃から・・・好き、だったの?」
好きと言う時に少し照れるような態度を取る凛花が可愛すぎて死ぬかと思った。
絶対に顔が赤くなっていると思い、両手で顔を抑えて前傾姿勢を取り、ひじを膝に置いた。
「そうだよ。いや、気付いたのは告白されたあとだけど。あの頃のタカヤってさ、すげー負けず嫌いで闘志剥き出しなのにちょっとプレスしたらすぐ尻もちつくのが意外で。だけど、その時の恥ずかしそうな顔が可愛いなって。俺にくれるアドバイスも的確だしスリーオンで一緒のチームになった時に何も打ち合わせしてないのに速攻がバチッと決まるし、そういうの、良いなって。でも男だからダメだってずっと思ってた。」
言い終わる頃に圭はやっと凛花の顔を見ることができた。
「嘘みたい。すごく嬉しい。」
そう言って微笑んだ凛花の顔が眩しすぎて思わず目を半眼にしてしまった。
「何で中学の頃からの知り合いだって言ってくれなかったの?」
圭が聞くと凛花は少ししょんぼりして答えた。
「自分から?中三の時に告白して振られた高谷凛花です。って?そんなの言えないよ。忘れられてるのかと思ってたから。」
確かにそうだ。自分の中では次タカヤに告白されたら男であろうが関係なく受け入れるつもりだったから早く言ってくれよ!と思ったが、凛花はそんなこと知らないハズである。
「告白してくれた子のこと忘れるわけないだろ。」
そう言うと圭は凛花の手を握った。
凛花の手は女子にしては大きいものの、バスケットボールを軽々片手で持ち上げることのできる圭の手と比べると随分小さく華奢だった。
「ずっと、圭のこと諦めなきゃって思ってた。だから本当に嬉しい。」
「俺も」
圭はそう言うと凛花の手を引っ張った。
凛花は圭の胸に倒れ込んだ。それを圭が受け止める。凛花の髪からふわりと優しい香りが広がって幸せな気分になった。
しばらくそうしていたが、サッカー部が練習を開始し練習のホイッスルの音に気づいた。
サッカー部が練習を始めたと言うことはバスケ部も始まる時間だと言うことだ。
圭は慌てて
「やばっ、俺も部活。」
と言った。
ここからバスケ部の体育館はそれほど離れていない。
しかし、圭は昼食抜きである。
それでも圭にはそれより重要な事項があった。
「連絡先!交換!」
そう言って慌てて二人は連絡先を交換した。
交換が終わると圭は「部活終わったら連絡する」と言って体育館にいそいだ。
それでもその日以来、圭の密やかなる妄想はタカヤから凛花に変わった。
夏休みももうすぐ終わるというある日の夜、寮が何だかバタバタしているな、と思っていると「バスケ部は食堂に集合」という伝令があった。
集まってみるとコーチたちが深刻な顔をしていた。そうして伝えられたのは
「急きょ明日の練習は休みになる」ということだった。
集められた仲間たちと何があるのだろうと話しながら寮に戻った。
スポーツ強豪校の運動部が急に練習休みになるなんて事はほとんどないため、部員たちは少し浮き足立っていた。
その時、宮倉が「明日、一華ちゃんたち、遊園地に行くって言ってたな」とぽつりとつぶやいた。
「一華ちゃんって?」とジュンペーが聞くとこの前のバスケ同好会の女の子だと宮倉が答えた。
「それって女神も?」とジュンペーは俺を見ながら訪ねた。
「多分」と答えた宮倉にジュンペーが食いついた。
「それ、押しかけちゃおうぜ」と。
宮倉が女の子たちに連絡してくれて一緒に遊園地に行く事になった。
凛花は黒のシンプルなTシャツだったが今流行りの臍が出るかどうかという短めの丈で、動くと時折見えるお腹の肌にドキドキしてしまう。
ジュンペーは圭が凛花ばかり見ていた事に気付いたらしい。
「圭、凛花ちゃんのこと好きなんだろ?」
とトイレで隣同士になった時に言い当てられた。
「後でカップルで別れて行動できるようにしてやるから」
ジュンペーは圭の肩を叩いたトイレを後にした。
ジュンペーはこういうところで場を動かすのがうまい。ジュンペーに任せているうちにあれよあれよと凛花と二人で回る事になった。
「手塚くんは絶叫系得意?」
少し不安そうに上目使いで聞いてくる凛花はとても可愛かった。
「平気だけど」
と言うと安堵したような顔をした後、満面の笑顔で
「良かった。じゃあ、絶叫系まわろ」
と言ってくる。
凛花の笑顔は破壊力抜群だった。
二人で回る遊園地はとても楽しかった。
乗り物の好みも話のテンポも食べ物の好みも全てピッタリとあっていて、無理せず一緒に居るのが楽しかった。
彼女ができるってこんな感じなのかな、と思った。
圭も高校生男子である。
当然彼女は欲しい。スポーツクラスは彼女禁止という事になっているが隠れて付き合う分には問題ない。
実際、付き合っているヤツは何人かいる。
形骸化しているルールに何の意味があるのかとコーチに聞いたことがある。するとコーチは形骸化していてもそこに線があるってことが大切なんだ。と言った。
脳筋のお前たちが寮生活でルールがなかったらどうなるか、考えただけでも恐ろしいわ。だけどルールがあったら彼女を作ったとしてもコソコソと健全なお付き合いするだけで留まるだろう?
と言いながらニヤリと笑った。
そのあと、お前は分別があるから話したけど、この話は他の奴らにはするなよ、と言われた。
つまり、健全なお付き合いで留まれるなら彼女を作っても問題ないということだ。
これはもう、告白するしかない。
次、いつ会えるかわからないのだから告白するなら今だ。
太陽が沈み空が茜色に染まった時、圭は立ち止まった。
「なあ、今日楽しかったな。」
「そうだね。」
いざ告白するとなるとなかなか言葉が出てこない。
太陽が沈んだあとの残照が輝く時間のことをマジックアワーと言うのだったかな、などと余計なことを考えてしまう。
好きだと伝えなければ、告白しなければと思えば思うほど頭がこんがらがってうまく言葉が出てこなかった。圭がかたまっていると、凛花が言葉を紡いだ。
「すっごく楽しかった。一生の思い出にするよ。大丈夫、勘違いしたりしないから安心して。私、可愛くないしきっと手塚くんの好みじゃないよね。それなのに優しくしてくれて嬉しかった。今日はありがとう。」
勘違いとはどう言うことだろうか。
このセリフはなんだ。
自分が告白する事に集中しすぎていたため、凛花のセリフがうまく咀嚼できなかった。
そうこうしている間に再び凛花が言葉を紡いだ。
「あの、私、ちょっと用事があってもう先に帰るね。」
そう言って凛花はダッシュで出口の方に走って行った。
圭は固まったまま凛花の後ろ姿を見送るばかりで一歩も足を動かせなかった。
これはどう言うことなんだ?さっきまですごくいい感じだった。
凛花のセリフを咀嚼するが、言葉がうまく掴めなかった。
勘違いしないから、とはなんだ。
凛花は自分を可愛くないと思っているのか。
しばらく考えて、つまり、凛花は自分のことを可愛いとは思っておらず、だから、圭が凛花に気がないと思っていて、今日はすごく楽しかったけど、彼女になるなんて勘違いしないよ、とそう言うことなのか。
勘違いしないという言い方が気になった。
それは、すなわち、凛花の方は圭にファン以上の感情を抱いていると言うことではないのか。
そこまで思考が至った時、圭も出口の方に向かって駆けていた。
「ぜってぇ、逃さねえ」
しかし、凛花に追いつくことはできなかった。
駅まで行って圭は凛花がどちらの方向の電車に乗るのかすら知らない事に気付いた。
次に凛花に会えるのは二学期の始業式だ。
いつもと違う圭の様子に宮倉に「一華ちゃんに女神の連絡先聞いてあげようか?」と言われたが断った。
凛花は何かを勘違いしている。だから直接目を見て話さないとこじれる気がしたのだ。
つまらない始業式が終わるとスポーツクラスでは夏の間の大会で良い成績を残した部活や個人の発表があり、他のクラスよりホームルームが終わるのが遅かった。
クラスが終わると圭は弾けるように教室を飛び出し凛花のクラスに向かった。しかし凛花のクラスは既にがらんとしていた。
残っていた真面目そうな女子生徒に
「高谷は?高谷凛花は?」
と聞くと、
「さぁ、食堂じゃない?」
と言われたので食堂に向かう。
食堂の券売機の前で並ぼうとしている凛花を見つけて肩を叩いた。
友達と何か話していたが関係なかった。
「なぁ、ちょっと、話いい?」
そう声を掛けると凛花の腕を引っ張って運動グラウンドのあるエリアに移動した。
どこか落ち着いて話ができるところと思って
見渡すとサッカー部用のグラウンドの傍にある見学用のベンチが目についた。閑散としていてちょうど良かった。
椅子に座ると圭はずっと言おうと思っていたセリフを口に出した。
「あのさ、俺と付き合ってくれない?」
告白はシンプルに限る。
凛花は普通でも大きい目をさらに大きくして圭を見つめていた。
その瞳が可愛くてドギマギしてしまう。
「遊園地でもさ最後に言おうと思ってたのに居なくなるから。」
言い訳のように付け加えた後、聞こうと思っていたことを聞いた。
「何で俺の好みじゃないって思ったの?」
すると、凛花は圭から目を逸らし、遊歩道の脇の雑草を見つめた。
そうして何かを絞り出すように口を開いた。
「だって、だって、」
凛花の瞳は揺れ何かを考えているようだった。
「圭は昔、私が告白した時、断ったじゃない。可愛い女の子が好みだって言って。」
ありえない言葉を聞いて圭は
「はぁ?いつ?」
と思わず声に出していた。
「中三の夏」
と凛花はつぶやいた。
圭はグルグルと中三の夏のことを思い出していたが、中三の夏の告白といえばタカヤからの告白しか記憶にない。
こんな美人から告白されたら覚えているはずである。
「なんだよそれ?」
圭がそう聞くと凛花が少し拗ねたように答えた。
「北公園でシュート練習してた圭に二人で花火大会に行かないかって誘ったら『可愛い女の子が好きだからごめん』って言われた。」
そのエピソードを聞いて圭の脳の回路が繋がった。
そして、繋がった先の事実に驚いて思わずベンチから立ち上がった。
「お前、八中のタカヤか?」
圭はまじまじと凛花の顔を見た。
凛花も圭を見つめ返した。
言われてみれば大きな瞳も少し小さめの鼻もタカヤと同じである。
「高谷凛花だよ。」
あぁ、タカヤは凛花だったのか、と納得する気持ちが半分、まだ信じられない思いが半分で心の中をグルグルしていた。
「嘘だろ。」
と言うセリフが圭の口から自然とでた。
「言われてみれば顔が、確かに。でも、俺、タカヤって男だと思ってた。だってみんなタカヤって呼んでたし」
心の中で思っていることが口に出てしまっていた。
「苗字だからね」
凛花は肩をすくめた。
それはやはり圭の知るタカヤの仕草だった。
そうやって改めて凛花を見るとどうして今まで気づかなかったのだろうかと思うくらい、凛花はタカヤだった。
だから何故気づかなかったのかと無性に腹が立った。
「一緒に居るダチも男だったじゃねーか」
凛花に悪態をつくつもりは全然なかったが、思わずきつい口調になってしまう。
「うちのバスケ部、試合以外は男女混合だったんだよ。確かに男の友達の方が多かったかもだけど。」
そう言って気まずそうに見上げてくる凛花はやはり可愛い。
「なんだよ。早く言ってくれよ。俺がどれだけ悩んだと思うんだよ。」
そう言いながら圭は再び凛花の隣に腰掛けた。
「悩んだの?」
凛花が不安そうに尋ねてくる。
「そうだよ!悩んだんだよ。俺、お前に告白されてからお前の事が気になって。自分は男が好きなのかなって思ったり。やっと好きになれるオンナが出来たと思ったら本人かよ!」
前屈みになり顔を押さえながら圭が言う。
「私のこと男だと思ってたの?」
凛花は少し怒ったようだった。
「そうだよ。あの頃、僕って言ってたし。」
確かに男にしては線が細いとは思っていた。声変わりも遅かったし。しかし、圭の中の辞書には「僕」は男子が使うものだという思い込みがあった。
だから男だと信じて疑っていなかったのだ。
しかし、凛花はその部分の追求は諦めたようだ。
「じゃあ、中学の頃から・・・好き、だったの?」
好きと言う時に少し照れるような態度を取る凛花が可愛すぎて死ぬかと思った。
絶対に顔が赤くなっていると思い、両手で顔を抑えて前傾姿勢を取り、ひじを膝に置いた。
「そうだよ。いや、気付いたのは告白されたあとだけど。あの頃のタカヤってさ、すげー負けず嫌いで闘志剥き出しなのにちょっとプレスしたらすぐ尻もちつくのが意外で。だけど、その時の恥ずかしそうな顔が可愛いなって。俺にくれるアドバイスも的確だしスリーオンで一緒のチームになった時に何も打ち合わせしてないのに速攻がバチッと決まるし、そういうの、良いなって。でも男だからダメだってずっと思ってた。」
言い終わる頃に圭はやっと凛花の顔を見ることができた。
「嘘みたい。すごく嬉しい。」
そう言って微笑んだ凛花の顔が眩しすぎて思わず目を半眼にしてしまった。
「何で中学の頃からの知り合いだって言ってくれなかったの?」
圭が聞くと凛花は少ししょんぼりして答えた。
「自分から?中三の時に告白して振られた高谷凛花です。って?そんなの言えないよ。忘れられてるのかと思ってたから。」
確かにそうだ。自分の中では次タカヤに告白されたら男であろうが関係なく受け入れるつもりだったから早く言ってくれよ!と思ったが、凛花はそんなこと知らないハズである。
「告白してくれた子のこと忘れるわけないだろ。」
そう言うと圭は凛花の手を握った。
凛花の手は女子にしては大きいものの、バスケットボールを軽々片手で持ち上げることのできる圭の手と比べると随分小さく華奢だった。
「ずっと、圭のこと諦めなきゃって思ってた。だから本当に嬉しい。」
「俺も」
圭はそう言うと凛花の手を引っ張った。
凛花は圭の胸に倒れ込んだ。それを圭が受け止める。凛花の髪からふわりと優しい香りが広がって幸せな気分になった。
しばらくそうしていたが、サッカー部が練習を開始し練習のホイッスルの音に気づいた。
サッカー部が練習を始めたと言うことはバスケ部も始まる時間だと言うことだ。
圭は慌てて
「やばっ、俺も部活。」
と言った。
ここからバスケ部の体育館はそれほど離れていない。
しかし、圭は昼食抜きである。
それでも圭にはそれより重要な事項があった。
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そう言って慌てて二人は連絡先を交換した。
交換が終わると圭は「部活終わったら連絡する」と言って体育館にいそいだ。
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