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高校生の頃 side圭①

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手塚圭は小さい頃から背が高く運動神経が良かった。
小学四年の時に同級生に誘われてミニバスをはじめ、中学でもバスケ部に入部し、中3の時、県大会でベスト4に入った。
キャプテンだった圭は注目を浴び、隣県のスポーツ強豪校から声をかけられた。
当然だと思った。チームとしては負けてしまったが、県大会で見たどの選手も自分よりレベルが低いと感じたからだ。
セレクション試験に合格し、高校は寮生活をしている。

圭の高校は多くの部活で全国大会レベルで活躍していて遠方からの入学者も多い。

スポーツ推薦で入学する者は高校に入学する前の春休みから招集され、練習に参加することになっている。
練習を始めても同じ一年の中には自分より上手い選手はいなかった。

しかし、2年に玉城というバケモノクラスの先輩がいた。日本バスケ界に久しぶりに現れた大型新人で、テレビにも取り上げられるような選手である。

圭は運が悪いことにその玉城とポジションが被っていた。

一年の時はなんとかガムシャラに頑張っていたが2年に上がる頃には玉城には追いつけないと悟ってしまった。

圭はそれまで誰よりも練習していたが、どうせ追いつけないならそこまで頑張らなくても良いか、と思うようになった。
圭の練習量はかなりのもので、チームのトレーナーから休息は上達するためにも必要だからやりすぎも良くないと何度も言われていた。
圭は部活が休みの時には自主練も休むようになった。

活きのいい男子高校生が集まって休みがある、となるとやることはひとつである。合コンだ。

スポーツクラスはモテる。特にメジャーなスポーツだと多少顔が不細工でもモテる。しかし、彼女が居るヤツは少ない。
それは、部活が忙しくて付き合ってもなかなか続かないと言うのもあるが、スポーツクラスは男女交際が禁止だからである。

脳筋で真面目な彼等は「何で禁止なんだよー。彼女欲しいなー。」などと言いながら律儀にそれを守り、彼女は作らない。
しかし、女の子と触れ合いたい。
だから休みの日はだいたい合コンが開かれる。
ただカラオケに行ってジュースを飲むだけの可愛い会合であるが、スポーツに明け暮れる男子高校生はみんな楽しみにしていた。

一年の頃の圭は休みの日も自主練習をしていたため、参加した事がなかった。なので二年になってはじめて合コンに参加した。

合コンのあった日はどの子が可愛かったとか、どの子と付き合いたいとかそう言う話で持ちきりである。

そんな流れで
「圭はどういう子が好みなの?」
と聞かれてうまく言葉が紡げなかった。

どういう子が好み、と聞かれてふと頭によぎったのは中三の時に自分に告白してきた隣の中学の子だった。

たまに公園でバスケを一緒にする子。負けず嫌いで、バスケが好きで、話していてとても楽しかった。大きな目をキラキラさせながら圭のプレイを見て、的確にアドバイスをくれた。

そんな子に告白されたのだから付き合ったのか、と言うと否である。なぜなら、その子が男の子だったからだ。
別に自分はゲイだとか同性愛だとかに偏見は無いと思っていた。しかし、実際自分が告白されると反射的に断ってしまっていた。

それまで彼のことを恋愛対象として見たことはなかった、というのもあるのかもしれない。

しかし、その日以来彼は公園に来ることはなくなった。

告白を断ってから何度もその彼、タカヤの夢を見た。
はじめは告白を断った罪悪感がそんな夢を見せるのかと思ったが、よく考えると圭が告白を断るのはこれが初めてではなかった。
夢はそのうちタカヤがあられもない痴態で圭に迫ってくるというものにまで発展した。何度かそんな夢を見ているうちに、意識がある際の妄想オカズにも彼が出てくるようになった。圭はタカヤへの恋心を否定できなくなっていた。

しかし、だからといって、連絡先も知らず家も知らないのだ。隣の中学の前で待ち伏せするわけにもいかず、再会したところで振ってしまった相手と今更どうこうなるのも難しい気がして、結局何もできなかった。

圭の恋心はずっとそこで止まってしまっている。
バスケに熱中するあまり新しい出会いもなかった。
次また好きになるのが男だったら?と思うと次の恋愛をするのが怖かった。


そんなある日、「次の合コンにはあの子・・・が来るかも」と同室のジュンペーが言い出した。

圭は知らなかったが男子バスケ部内で密かに「女神」と呼ばれている少女がいるらしい。たまにアリーナでバスケを見学している女の子。
そういう子はだいたい向こうから積極的にアプローチしてくることが多く、いつの間にか見学に来る女の子は知り合いばかりになる。
そんな中で向こうから接触してくることはない女の子はバスケ部の中で話題になっていたらしい。
その子がまた美人だったので目立ったのだろう。いつしかバスケ部の男子たちは彼女のことを女神と呼ぶようになった。

そんな女の子の友達とバスケ部いちフットワークの軽い宮倉が知り合いになり、女の子が所属しているバスケ同好会と合コンが開かれる事になったらしい。

圭は女の子と仲良くなるつもりなんてさらさらなかったけれど、特に用事もないのに合コンを断るのも憚られ、惰性でいつも合コンに参加していた。
いや、断って自分がゲイだとバレるのが怖くて参加しているのかもしれない。

その合コンには少し遅れて参加した。
ベンチ入りしているメンバーだけ少し練習の内容が違ったからだ。部屋に入るとジュンペーが圭に手招きをした。
どうしたのだろう、珍しいなと思いながら圭はジュンペーの隣の席に座った。

ジュンペーが隣に座っている女の子を紹介してくれた。
女の子は凛花という名前で圭のファンだと言う。凛花はその日来ていた女の子たちの中で間違いなく一番可愛かった。

ジュンペーは女の子を紹介するとどういうわけかそそくさとその場を去った。
置いて行かれた圭は女の子と何を話して良いかわからず黙っていた。こういう場合、だいたい女の子から話かけてくれる。普段はそれに答えるだけで会話が成立していた。
それなのに凛花という子は一向に話しかけてこない。

バスケ部のグループLINEにジュンペーが『女神は圭のファンだった』と投稿し、この凛花という子が女神なのだと知った。

気まずい沈黙に耐えかねて圭が話しかけた。「俺のファンって?」と。
自分のことを好きだといってくれる女の子はこれまでも多かった。スポーツクラスでバスケ部というだけでも学内ではモテるのに圭は2年からベンチ入りしている有望株で顔もそれなりだったからだ。

「バスケが好きだってのが伝わってくるプレイで見ていてとても素敵だなって。」

凛花はそう言った。圭は驚いた。少しバスケをかじっている女の子が圭を褒める時、圭が得意なスリーポイントシュートを褒める子が多い。それか顔のことを言われる。だからこういう角度で誉められたのははじめてだったのだ。

「そう?」

と答えた圭はまんざらでもないでもない顔をしていたことだろう。

「新人戦も見に行きました。やっぱり上手いなぁって」

そう言った凛花のセリフがなぜかあの男の子、タカヤと被った。彼も公園でバスケをしている時、よく「やっぱり圭はうまいなぁ」と言っていた。その言い方がとても似ていたのだ。よく考えると声も似ているかもしれない。彼は中三だというのにまだ声変わりしていなくて女の子のような声だった。
小学校高学年から声変わりする子もいる中で圭も声変わりが遅くコンプレックスだったので圭がその事を指摘をすることは無かった。

新人戦は自分でも良い試合ができたと思う。
しかし、自分からそうだろう?というのも違う気がする。

「新人戦は同学年タメだけだからな。玉城先輩には負けてるし。」

謙遜するつもりが少し卑屈な言い方になってしまった。凛花は圭が機嫌を損ねたと思ったのか慌ててフォローしてきた。

「私、バスケはかじってる程度だから、技術的なことは烏滸がましくて何も言えないけど、プレイを見ていて一番楽しそうだなって思うのは、け、、手塚くんだよ。玉城先輩は確かに上手いけど楽しくなさそうだし、あの人にパス回したいとは思わないな。」

楽しいかどうかなんてこれまでの圭の物差しにはなかったことだ。言われてみると玉城はいつも深刻そうな顔をしてバスケをしている。周りからのプレッシャーが辛いのかもしれない。そう考えると少し玉城をかわいそうに思った。そして圭は「あ、この感じ知ってる」と思った。いつもタカヤが圭に言ってくれることは違う角度からの視点で、圭の心を軽くしてくれた。
そんなことを考えながら凛花の顔を見る。大きな瞳も小ぶりな鼻もタカヤに似ているかもしれない。そんなことを思っているとマイクを握ったお調子者の杉本が圭と凛花にちょっかいを出してきた。

「おっとー。この二人ラブラブですかー?見つめ合っちゃってー」

と煽ってきたのだ。

圭は恥ずかしくなり「んなんじゃねーよ。俺トイレ」と言って部屋を出た。





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