【完結】ボーイッシュガールの初恋

ゴールデンフィッシュメダル

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高校二年生の頃① side凛花

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二年になっても勉強と同好会の充実した生活がずっと続いていた。

背は相変わらず高いものの、すっかり女の子っぽくなった凛花に告白してくれる子も何人かいた。
しかし圭への気持ちを持ったまま付き合うのは誠実ではないと思い断っていた。

同好会も一緒で仲良しのいっちゃんとサクラも彼氏がおらず、いつも3人で過ごしていた。

そんな関係に変化が現れたのが二年の夏休みである。
その年、野球部が甲子園へ出場することになり、希望者は応援に行けることになった。強制ではなくあくまで希望制である。
凛花といっちゃんは学生時代の思い出になるし応援に行くことにした。サクラは親からの許可がおりなかった。
かなり長い距離をバスで行くのであるが、バスの席はクラスごとに学校側から指定されていて2人はバラバラのバスに乗り込むことになった。

そこで、いっちゃんがスポーツクラスの男子生徒と仲良くなったのである。しかも男バスの子だという。

同好会の活動が終わり、更衣室で着替えているタイミングでいっちゃんが言った。

「それでね、今日男子バスケ部が午後お休みらしいんだけどみんなでカラオケ行かない?」

そう言うとバスケ同好会の女子は色めきだった。
スポーツクラスの子とお近づきになりたいという子は多い。ただ、なかなかチャンスがないのだ。

みんなが盛り上がる中、自分は行かないというのも憚られ、カラオケになだれ込んだ。
これは、もしかして合コンというやつでは?と思いながら様子を見る。圭は居なかった。
少しがっかりしたような安心したような気持ちだった。

人数はかなり多く、部屋には20人近くの人が居た。自己紹介が終わったタイミングくらいでさらに男バスの子が入ってきて、その中に圭がいた。

つい目が圭を追ってしまう。
それに気付いた隣に座っていたなんとかくんという子が「手塚が好きなの?」と言って圭を呼び寄せてくれた。

凛花は
「好きというか、プレイがとても・・・」
と言った。
本当は心から好きだがそう思われるのは恥ずかしい。

圭をこんなに近くで見たのは久しぶりだった。
中学の頃に比べるとさらに一回り大きくなっていた。
スポーツクラスだと食事なんかも管理されてよりその競技にあった筋肉を付けられるように指導されるらしい。

少しむすっとして圭が隣に座った。
隣のなんとかくんが「圭、この子凛花ちゃん。お前のファンなんだって」と紹介してくれた。
凛花と圭の目が合った。
こうやって目を見るのはあの振られた時以来であった。

圭は凛花から目を逸らすと「どうもっす」と言って携帯をいじり出した。

隣にいたなんとかくんは紹介が終わったからか別の友達のところに移動してしまった。

もし二年前に自分が振った相手がここに居るとわかったなら、もう少し反応があっても良いだろう。
しかし、なんの反応もなかった。
圭は凛花のことをすっかり忘れてしまっているようだ。

自分ばかり意識してバカみたい、と思いながらも、逆に忘れられていることに少しホッとした。

二人の間には沈黙がずっと流れていたが周りがガヤガヤしているから気にならなかった。

「俺のファンって?」
沈黙に耐えかねたのは圭の方だった。
圭が凛花に話しかけてくれた。

「バスケが好きだってのが伝わってくるプレイで見ていてとても素敵だなって。」

そう言った凛花の頭の中にあったのは、公園で共にバスケをしていた頃の圭のことだ。

「そう?」

圭は驚いたように凛花を見た。
凛花は大きく頷いた。

「新人戦も見に行きました。やっぱり上手いなぁって」

そう言うと圭は
「新人戦は同学年タメだけだからな。玉城先輩には負けてるし。」
と少し不機嫌になった。

圭は強豪校で2年からベンチ入りしている。
しかしレギュラーではない。その事に焦っているのかもしれない。

「私、バスケはかじってる程度だから、技術的なことは烏滸がましくて何も言えないけど、プレイを見ていて一番楽しそうだなって思うのは、け、、手塚くんだよ。玉城先輩は確かに上手いけど楽しくなさそうだし、あの人にパス回したいとは思わないな」

そう言って圭を見ると圭はキョトンとした目で凛花を見ていた。
思わず見つめ合う形になってしまったが、その時、カラオケのマイクを握ってたお調子者のバスケ部の男子が
「おっとー。この二人ラブラブですかー?見つめ合っちゃってー」
と二人の様子にチャチャを入れたため、圭はその子の頭をバシンと叩いた後、「んなんじゃねーよ。俺トイレ」と言って部屋を出ていった。

その後、圭は部屋に戻ってきても別の場所に座ってしまい話す機会は無くなってしまった。

凛花はこれが最後の話す機会かもしれないと思うととても胸が締め付けられた。ただ、覚えてもいなかったのだからすっぱり諦めようと高校入学時以来2度目の決意をした。



ところが、その2週間後に再び圭と出かける事になった。
夏休み最後の思い出にいっちゃんとサクラと3人で遊園地に行く予定だったのだが、いっちゃんがいい感じだという男バスの宮倉くんが3人男の子を連れて来てトリプルデートする事になった。

そして、その中に圭が居たのだ。

凛花は自分の服装を見て失敗したと思った。
その日は動きやすいようにジーンズを履き、黒のTシャツを着ていた。
「可愛い女の子」が好みのタイプの圭の好みからは外れるだろう。
ふと、サクラを見るとふわふわのサーモンピンクのシフォンスカートに白いカットソーを着ていて、いかにも「可愛い女の子」だった。

圭ははじめ少し不機嫌だった。もしかしたらこういう集まりには来たくなかったのかもしれない。
遊ぶ暇があったらバスケの練習がしたい、圭はそういう男だ。
それでもいくつかの乗り物に乗った後には笑顔も見られた。その笑顔を見て凛花はときめいてしまう。グループはトリプルデートらしく3組のカップルで自然と別れることになった。

凛花は幸運にも圭と回ることができた。今日、死んでもいい。
ずっと諦めようと思っているのだ。別に気に入られたいなんて思わない。どうせ自分は圭の好みから外れているのだから、それだったら最後に思いっきり楽しませてもらおう。
そう思って凛花の好きな絶叫系を中心に回った。
女らしさのかけらもなかった。こういう女は圭の好みではないのだろうなと思いながらも、圭が一緒に楽しんでくれるので、友達として楽しんでくれるならそれでいい、と自分に言い聞かせた。

太陽が沈み空が茜色に染まった時、圭が立ち止まった。
「なあ、今日楽しかったな。」
「そうだね。」

圭は何か言いたそうにしているが、言葉が出てこないようだ。凛花はピンと来た。これは、今日は楽しかったけれど勘違いするなよ、みたいなことを言われるに違いない。圭は優しいから戸惑っているのだ。

「すっごく楽しかった。一生の思い出にするよ。大丈夫、勘違いしたりしないから安心して。私、可愛くないしきっと手塚くんの好みじゃないよね。それなのに優しくしてくれて嬉しかった。今日はありがとう。」

ダメだ。話していて涙が出てきそうだった。

「あの、私、ちょっと用事があってもう先に帰るね。」

そう言ってダッシュで遊園地を駆け抜けた。

帰りの電車の中ではなんとか泣かないように耐えたが、電車の窓に映る自分の姿はやはり少年のようでやるせなかった。
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