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高校一年生の頃 side凛花

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高校の入学式の前の日の夜、凛花は携帯の動画を一つ削除した。
それは圭がスリーポイントシュートを決める動画である。シュートを決めた後に笑いながら「シャッ!」とガッツポーズするところまでおさめられているお宝動画だ。

まだ恋心を自覚する前にバスケの参考にと撮影した動画だった。

圭のことは名前も学校も知っているが連絡先を交換するまでの間柄ではなかった。会えば一緒にバスケをする、ただそれだけの関係。だから、凛花にとって圭とのつながりはこの動画だけだった。

受験勉強でしんどい時、凛花はこの動画を見て癒されていた。
しかし、もう振られて半年以上経ち、流石にずっとこの動画に頼っている自分を未練がましく思い、思い切って削除することにした。

高校では出会いもあるだろうし前に進もう。
まだ圭を思うと心が締め付けられるが、キッパリと振られたのだ。諦めなくては。

「あぁ、中学生活が終わっちゃったな」
動画を削除した時凛花はポツリとつぶやいた。

もう会うこともないだろう。
今は目を閉じるとあの笑顔を思い出すけれど、いつか思い出すことも難しくなってくるのかな。

そんなことを考えながら眠りについた。




もう会うことは無い、そう思った次の日、圭と再会することになった。高校の入学式に圭がいたのだ。

凛花の学校は文武両道を謳い、特進クラス、普通クラス、スポーツクラスなど多くのクラスが設置され、ひと学年が1000人を超えるマンモス校である。その1000人の入学者の中から圭を見つけた凛花は「まさか」と思った。
何故なら二人の住む市からこの高校はかなり遠いからである。

凛花の県では私立であっても成績表の提出が求められ、入試に内申点が反映される。
3年の一学期まで「行く高校がないかも」と言われる成績だった凛花の内申は褒められたものではなく、二学期以降せっかく実力をつけたのに、近場の学校だとレベルの低い学校しか選択肢がなかった。

凛花は先生や親とも相談して、隣県にあるこの高校に進学することにした。
距離は遠いが快速一本、一時間半程度で行ける。学校が大学入試対策もしてくれるため予備校に通う必要もなく、寮生も居て人数も多いため学食も充実している。
母は弁当を作らなくていいことに喜び、野球好きの父は野球強豪校であるこの高校ならと快諾をしてくれた。ちなみに野球部は当然全員寮生活らしい。

だから、この高校に知り合いがいるだなんて思っていなかった。
きっと圭はスポーツ推薦でこの学校に入学したのだろう。
普通クラスの凛花とは接することは無いはずである。こっそり影から応援するくらいならいいかな?
凛花はふとそんなことを考えていた。


凛花の予想通り普通クラスとスポーツクラスは校舎が違うため学校でスポーツクラスの子を見かけるのは食堂や放課後の運動場くらいだった。

それでも背の高い圭が食堂にいると凛花はめざとく見つけてしまう。

凛花はバスケット同好会に入った。野球やサッカー、バスケやバレーなど全国を目指すような部活の場合、特進クラスや普通クラスの生徒が所属しようと思うとテストに合格しないと所属できない。
そのため、それらの強豪部のスポーツは同好会が用意されている。

「凛花なら女バスにはいれたんじゃない?」

と仲良くなったいっちゃんに言われたが、登校に一時間半もかけて通っている凛花は朝練に参加ができないし、下手に圭とお近付きになるのも嫌だなと思っていたため、女バスに入部すると言う選択肢ははじめからなかった。

勉強も小テストがしょっちゅうあり、そのたびに補習があるため、補習に引っかからないよう日頃からついていくのに必死だった。そんな中でゆるい同好会を楽しみながらほどほどの青春を送っている。
同好会の活動は週2日で、活動のない日に男子バスケ部が見学可能なアリーナで活動している時はこっそり見学に行ったりもした。
圭は練習でも誰よりも楽しんでいて、見ているこちらの心がほっこりして、凛花も勉強を頑張らなきゃなと思った。

同じ同好会のいっちゃんやサクラとバスケ部の公式戦を応援に行ったりもした。

強豪校だけあって選手層は厚く、一年生の圭はベンチにも入れていなかった。三年でもベンチ入りできない人もいるのだから当然といえば当然で、凛花は応援席に座っている圭の後ろ姿の方が気になった。

年が明けて新人戦があり、そこでは久しぶりに圭の試合を見ることができて嬉しかった。

なかなか圭への恋心を追い出すことが出来ず、恋愛面ではダメダメだったが、それ以外は充実した学校生活を送っていた。
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