19 / 25
19.
しおりを挟む
始業式の日、エリカはマリエにリュウと別れたことを報告し、マリエの胸で思いっきり泣いた。
「リュウと別れたことは残念だと思うんだ。不謹慎だと思うんだけど、わたし、こうやってエリカに報告してもらえてすごく嬉しい」
とマリエは言った。
確かに昔は友達とは言っても壁があったように思う。それはエリカが無駄にマリエとの境遇というか立場を意識していたからかもしれないし、マリエが恋バナを避けていたからかもしれない。
二人の間にあった壁がここ半年でほとんどなくなっていた。
「その割にはマリエはナカガワとのことあんまり言ってくれなかったけどー」
と言うとマリエは罰の悪そうな顔をして言った。
「今だから言えるけどわたし、エリカに嫉妬してたんだ」
「嫉妬?」
マリエは恵まれていてエリカはそんなマリエが嫉妬するなんて思っていなかった。
「エリカは頭もいいし彼氏ともうまく行ってて、アルバイトもして自立してるし羨ましくて、そんなエリカからしたらしょうもない悩みかなって」
そう言ってマリエは俯いた。
エリカはマリエの手をガシッと握った。
「そんな事ないよ。最近は成績も下がってるし彼氏とは別れたし、わたしはアルバイトしなくても良いマリエが羨ましいよ!マリエも嫉妬したりするんだね」
「当たり前だよ」
「わたし、マリエはそういうの無縁なのかと思ってた。実を言うとわたしね、ずっとマリエに嫉妬してた。うちはお金ないからご飯もまともに食べれなくて肌も髪も荒れ放題なのにマリエはいつもツヤツヤしててかわいいし。それなのにわたしなんかに優しくて友達でいてくれるし、人のことを羨んだこととかないんだろうな、他の人と自分との違いに落ち込んだり腹黒いことを考えて自分を嫌いになったりすることもないんだろうなって」
そこまで言うと、マリエが逆に手を握り返してきた。
「そんなわけないじゃない。私だって普通の17歳の女の子だよ。自分より成績がいい子を見たらうらやましいと思うし、エリカみたいに自立してる子にすごく憧れるよ。私は八方美人だから嫌いな子にも媚びて心にもないこと言って、そんな自分ってどうなんだろうって落ち込むこともあるしさ」
「そうなの?」
「そうだよ。それにね、多分、エリカの方が何千倍も純粋だよ」
「そうかな?」
「そうだよ。だって私の行動全て純粋なものだって思ってたんでしょ?そんな訳ない。私かなり打算的だし」
「知ってるよ。でもそれって自分に正直だからでしょう?わたしね、マリエとナカガワはそういう意味ですごくお似合いだなって思ってたんだ。2人とも自分に嘘を付かずに生きてて羨ましいなって思ってたから」
「逆にだからうまくいかなかったのかも」
そう言ったマリエはどこか吹っ切れた顔をしていた。私は勝手に心の中でマリエを神格化していたのかもしれない。
*
次の日の放課後、学校の自転車置き場でナカガワが話しかけて来た。
「リュウとのことで話があるんだけど週末会えないかな?」
話しかけて来たナカガワはどこかいつもと様子が違った。いつもの自信に満ちた雰囲気が無いように見えた。リュウの事で何を話すことがあるのだろうか。
「リュウとのこと?わたしもうリュウとは別れたよ?」
「そういうことじゃないさ」
「何のこと?」
「うちの親が未成年の2人が同棲のように暮していたことについて、ちょっと」
「うちの親ってナカガワのお母さん?リュウのお父さんじゃなくて?だって離婚してリュウとお母さんは関係ないでしょ?」
「うちだとそういう訳にはいかないんだよ。それで話し合いがしたい」
「やだよ。こっちに話すことなんてないよ。なんか悪い予感がする」
「お願いだよ」
そう言ったナカガワは中間管理職のくたびれたお父さんみたいでひどく疲れていた。
「あんた、なんか疲れてるよ。ちゃんと寝てるの?食べてるの?」
「クロサワには関係ないだろ」
「話し合いってナカガワの意思?」
「・・・」
ナカガワは俯いて何も言わなかった。
「なるほど。ナカガワ家の誰かにアバズレを連れて来いって言われた訳だ。
その話し合いってさ、ナカガワの目から見てもわたしに必要だと思う?」
「・・・・・・」
ナカガワは何も言わずにしゃがみ込んだ。
何かと葛藤しているようだった。うつむいていて顔は見えないがひどく辛そうだった。もしかすると泣いているのかもしれない。
わたしは携帯を取り出してアルバイト先に電話をかけた。
「もしもし、お疲れ様です。クロサワです。今日体調が悪くてちょっとバイト休んでも大丈夫ですか?本当ですか?ありがとうございます。えぇ、明日までには必ず治しますから。失礼しました。」
「バイト休むのか?」
電話が終わるとナカガワが話しかけて来た。
「あんたをこんなふうに置いていけないでしょ」
「んだよ。優しくするなよ」
泣いたり怒ったり忙しい人だ。
「じゃあ私の前で泣かないでよ。あの夏の日、泣いてた私に優しくしてくれて嬉しかった。お礼がしたいだけだよ。話聞くよ?カラオケでも行こうか?」
「じゃあ、僕の家に来てよ」
そう言ったナカガワの顔は疲れていたが、瞳だけがギラギラと光っていた。内心怯んだが、ここで拒絶してはいけないような気がした。
「良いよ。ナカガワの家に行くよ。ナカガワの家JR駅前のタワマンだよね?バスをチャリで追いかけるで良い?」
「いや、一緒に帰ろう」
そう言ってナカガワが自転車を奪い取った。
しばらく歩いて高校の敷地を出た後、ナカガワが自転車にまたがって言った。
「僕が運転するからクロサワは後ろに乗って」
「えっ?でも」
「いいから。早く」
「腰に手を回して。よし行くぞ」
そう言ってナカガワはペダルを回し始めた。
ナカガワの背中はとても広かった。
ナカガワが結構早く自転車を漕ぐものだから腰に回した手に力が入った。
「リュウと別れたことは残念だと思うんだ。不謹慎だと思うんだけど、わたし、こうやってエリカに報告してもらえてすごく嬉しい」
とマリエは言った。
確かに昔は友達とは言っても壁があったように思う。それはエリカが無駄にマリエとの境遇というか立場を意識していたからかもしれないし、マリエが恋バナを避けていたからかもしれない。
二人の間にあった壁がここ半年でほとんどなくなっていた。
「その割にはマリエはナカガワとのことあんまり言ってくれなかったけどー」
と言うとマリエは罰の悪そうな顔をして言った。
「今だから言えるけどわたし、エリカに嫉妬してたんだ」
「嫉妬?」
マリエは恵まれていてエリカはそんなマリエが嫉妬するなんて思っていなかった。
「エリカは頭もいいし彼氏ともうまく行ってて、アルバイトもして自立してるし羨ましくて、そんなエリカからしたらしょうもない悩みかなって」
そう言ってマリエは俯いた。
エリカはマリエの手をガシッと握った。
「そんな事ないよ。最近は成績も下がってるし彼氏とは別れたし、わたしはアルバイトしなくても良いマリエが羨ましいよ!マリエも嫉妬したりするんだね」
「当たり前だよ」
「わたし、マリエはそういうの無縁なのかと思ってた。実を言うとわたしね、ずっとマリエに嫉妬してた。うちはお金ないからご飯もまともに食べれなくて肌も髪も荒れ放題なのにマリエはいつもツヤツヤしててかわいいし。それなのにわたしなんかに優しくて友達でいてくれるし、人のことを羨んだこととかないんだろうな、他の人と自分との違いに落ち込んだり腹黒いことを考えて自分を嫌いになったりすることもないんだろうなって」
そこまで言うと、マリエが逆に手を握り返してきた。
「そんなわけないじゃない。私だって普通の17歳の女の子だよ。自分より成績がいい子を見たらうらやましいと思うし、エリカみたいに自立してる子にすごく憧れるよ。私は八方美人だから嫌いな子にも媚びて心にもないこと言って、そんな自分ってどうなんだろうって落ち込むこともあるしさ」
「そうなの?」
「そうだよ。それにね、多分、エリカの方が何千倍も純粋だよ」
「そうかな?」
「そうだよ。だって私の行動全て純粋なものだって思ってたんでしょ?そんな訳ない。私かなり打算的だし」
「知ってるよ。でもそれって自分に正直だからでしょう?わたしね、マリエとナカガワはそういう意味ですごくお似合いだなって思ってたんだ。2人とも自分に嘘を付かずに生きてて羨ましいなって思ってたから」
「逆にだからうまくいかなかったのかも」
そう言ったマリエはどこか吹っ切れた顔をしていた。私は勝手に心の中でマリエを神格化していたのかもしれない。
*
次の日の放課後、学校の自転車置き場でナカガワが話しかけて来た。
「リュウとのことで話があるんだけど週末会えないかな?」
話しかけて来たナカガワはどこかいつもと様子が違った。いつもの自信に満ちた雰囲気が無いように見えた。リュウの事で何を話すことがあるのだろうか。
「リュウとのこと?わたしもうリュウとは別れたよ?」
「そういうことじゃないさ」
「何のこと?」
「うちの親が未成年の2人が同棲のように暮していたことについて、ちょっと」
「うちの親ってナカガワのお母さん?リュウのお父さんじゃなくて?だって離婚してリュウとお母さんは関係ないでしょ?」
「うちだとそういう訳にはいかないんだよ。それで話し合いがしたい」
「やだよ。こっちに話すことなんてないよ。なんか悪い予感がする」
「お願いだよ」
そう言ったナカガワは中間管理職のくたびれたお父さんみたいでひどく疲れていた。
「あんた、なんか疲れてるよ。ちゃんと寝てるの?食べてるの?」
「クロサワには関係ないだろ」
「話し合いってナカガワの意思?」
「・・・」
ナカガワは俯いて何も言わなかった。
「なるほど。ナカガワ家の誰かにアバズレを連れて来いって言われた訳だ。
その話し合いってさ、ナカガワの目から見てもわたしに必要だと思う?」
「・・・・・・」
ナカガワは何も言わずにしゃがみ込んだ。
何かと葛藤しているようだった。うつむいていて顔は見えないがひどく辛そうだった。もしかすると泣いているのかもしれない。
わたしは携帯を取り出してアルバイト先に電話をかけた。
「もしもし、お疲れ様です。クロサワです。今日体調が悪くてちょっとバイト休んでも大丈夫ですか?本当ですか?ありがとうございます。えぇ、明日までには必ず治しますから。失礼しました。」
「バイト休むのか?」
電話が終わるとナカガワが話しかけて来た。
「あんたをこんなふうに置いていけないでしょ」
「んだよ。優しくするなよ」
泣いたり怒ったり忙しい人だ。
「じゃあ私の前で泣かないでよ。あの夏の日、泣いてた私に優しくしてくれて嬉しかった。お礼がしたいだけだよ。話聞くよ?カラオケでも行こうか?」
「じゃあ、僕の家に来てよ」
そう言ったナカガワの顔は疲れていたが、瞳だけがギラギラと光っていた。内心怯んだが、ここで拒絶してはいけないような気がした。
「良いよ。ナカガワの家に行くよ。ナカガワの家JR駅前のタワマンだよね?バスをチャリで追いかけるで良い?」
「いや、一緒に帰ろう」
そう言ってナカガワが自転車を奪い取った。
しばらく歩いて高校の敷地を出た後、ナカガワが自転車にまたがって言った。
「僕が運転するからクロサワは後ろに乗って」
「えっ?でも」
「いいから。早く」
「腰に手を回して。よし行くぞ」
そう言ってナカガワはペダルを回し始めた。
ナカガワの背中はとても広かった。
ナカガワが結構早く自転車を漕ぐものだから腰に回した手に力が入った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで
Another Storyを考えてみました。
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる