17 / 25
17.
しおりを挟む
冬休みも青高は他の学校より少し短めで12月27日から休みに突入する。
クリスマスの翌日は終業式で午前中のみ学校だった。
夏休み前と同じようにバイト先がもう冬休みシフトに入ってしまっているため、その日バイトは休みだった。というわけでマリエと遊びに行くことになっていた。
修学旅行以来どこか元気がなかったマリエだったがその日は少し元気になっていた。
学校近くのカラオケ屋に行くとポツリポツリと話し始めた。
「わたし、ナカガワと別れたんだ」
「え!?」
ナカガワとマリエの二人はエリカから見るととてもお似合いだったからとても残念に思った。
「もう、だいぶ前からダメになってるなとは思ってたの」
マリエはどこか吹っ切れたような顔をしていた。
「そう。」
「ナカガワは多分、わたしのこと好きじゃなかったんだと思うの。三ヶ月付き合って結局、キスもしなかった」
「キスも?」
「わたし、しんどくて。昨日、わたしの方から別れてくださいって言ったの。ナカガワ何にも言わなかった。ちょっとは別れたくないって言ってくれるかなって期待してたんだ。でもダメだった」
エリカは何も言わずただ、マリエを抱きしめた。
ナカガワがマリエのことをどう思っているのかはわからないけれど、きっとナカガワは今、自分のことに必死で他の人のことを考える余裕なんて無かったんだろう。
でもそのことについてエリカの口から言うのは違うと思った。
言い訳はナカガワがすべきだ。でもナカガワは自分が振られてそれで完結している思っているから言い訳もしないのだろう。
ナカガワを振ることでマリエがこんなにも傷ついているなんてことなど、考え及ばないのだろう。
「マリエが前の彼氏と別れた時に『まだ好きだけど隣にいるのがしんどくなった』って言われたって言ってたじゃない?それ聞いたときはどういうことか意味がわからなかった。でも今はすごくよくわかるよ。わたしもナカガワの隣がすごくしんどかった。好きなのに、好きだから余計辛かった」
あぁ、きっとわたしもナカガワと同罪なんだ。わたしもあのときタクミがどれだけ傷ついたかなんて考えもしなかった。タクミももしかすると私に別れる事を止めて欲しかったのかもしれない。
エリカはそんなことをぼんやりと考えていた。
夏の頃は何かにつけてタクミのことを思い出していたが、最近は思い出さなくなったなぁ、とも。
あの日からたった五ヶ月しか経っていないのにエリカは随分変わった。タクミが好きと言ってくれた何事にも頑張るエリカはもう居ない。でも前より幸せだから不思議である。
*
年末年始はバイトもあったが、リュウ主導で大掃除を頑張った。
エリカは久しぶりに誰かと過ごす年末年始が嬉しくてスーパーで黒豆を買っては炊いてみたり、栗きんとん作りにチャレンジしたりしてみた。リュウとお正月に食べたかった。
大晦日の晩に年越し蕎麦を食べながらリュウがポツリとつぶやいた。
「俺、こういう年末年始はじめて」
「こういうって?」
「誰かとまったり過ごす普通の年末年始」
そう言いながらリュウはそばをすすった。
「え、意外。リュウってちゃんとした家の子かと思ってた」
「なんだよ、それ。ちゃんとしてるとかちゃんとしてないとかないって。うちは義母がちょっとした家の出でさ、年末年始はかあさんと兄貴は実家に顔を出すわけ。挨拶回りだとかいろいろさ。行きたくもないパーティーにも連れて行かれたりね。小学生のうちはそれについて行ってたけど、俺は血が繋がってないし、居ないもの扱いっていうかさ。それで中学くらいからはそっちには行かずに一人で過ごすようになったんだ」
なんでもないような口調でリュウが答える。
エリカはリュウのこう言うところに救われているな、と思った。
「そっか。わかるよ。うちも親は挨拶回りとか大変だったみたい。爺さんはその辺立ち回りが上手かったから爺さんが社長の頃はみんなで過ごす普通の年末年始だったけど、父さんは壊滅的にその辺の付き合いが下手で先方に振り回されっぱなし。父さんが社長になってからはわたしも淋しい正月だったな」
ちょっと前までは家族で過ごせないことがとても悲しくて、そうではない自分がみんなとは違う存在のように感じていた。
でも、リュウのあっけらかんとした態度を見ているとそんなこと、どうだって良いことのように感じるから不思議である。
「誰かとこうやってほっこりしながらご飯を食べるって当たり前のことだけどすごく幸せになるよね」
「うん。幸せだね」
その後はこたつでみかんを食べながら一緒にテレビを見た。リュウは空手をやっているからか年末恒例の格闘技番組を見たがったのでそれを一緒に見た。
テレビを見ながらうだうだ過ごす幸せな時間は年越しまで続き「あけましておめでとう」の挨拶をしてから眠りについた。
元日は朝からお節とお雑煮を食べて初詣に行き、午後からアルバイトの予定だった。
一生懸命作ったお節料理を美味しいと言ってくれるだろうかと思いながら準備していた時、神妙な面持ちでリュウがリビングに降りてきた。
「あのさぁ、ごめん。ちょっと親父から電話があって、あの人達、離婚したって。今後のこと話し合うから会いに行かなきゃ」
リュウのご両親が離婚した。
ということは、おそらく子連れ同士の再婚だからリュウは父に、ナカガワは母について行って他人になるのだろう。
リュウが家を出る理由がなくなってしまう。エリカとの関係はただの同居人でわたしにはリュウを留める力はない。
「そう。リュウにとったら良かったのかな?」
そう言ったエリカは心なしか震えていた。
「さぁ、わからない。話し合いの結果はエリカにも伝えにくるよ」
リュウはなんでもない風に出かけてしまった。
作った雑煮とお節料理がむなしかった。
クリスマスの翌日は終業式で午前中のみ学校だった。
夏休み前と同じようにバイト先がもう冬休みシフトに入ってしまっているため、その日バイトは休みだった。というわけでマリエと遊びに行くことになっていた。
修学旅行以来どこか元気がなかったマリエだったがその日は少し元気になっていた。
学校近くのカラオケ屋に行くとポツリポツリと話し始めた。
「わたし、ナカガワと別れたんだ」
「え!?」
ナカガワとマリエの二人はエリカから見るととてもお似合いだったからとても残念に思った。
「もう、だいぶ前からダメになってるなとは思ってたの」
マリエはどこか吹っ切れたような顔をしていた。
「そう。」
「ナカガワは多分、わたしのこと好きじゃなかったんだと思うの。三ヶ月付き合って結局、キスもしなかった」
「キスも?」
「わたし、しんどくて。昨日、わたしの方から別れてくださいって言ったの。ナカガワ何にも言わなかった。ちょっとは別れたくないって言ってくれるかなって期待してたんだ。でもダメだった」
エリカは何も言わずただ、マリエを抱きしめた。
ナカガワがマリエのことをどう思っているのかはわからないけれど、きっとナカガワは今、自分のことに必死で他の人のことを考える余裕なんて無かったんだろう。
でもそのことについてエリカの口から言うのは違うと思った。
言い訳はナカガワがすべきだ。でもナカガワは自分が振られてそれで完結している思っているから言い訳もしないのだろう。
ナカガワを振ることでマリエがこんなにも傷ついているなんてことなど、考え及ばないのだろう。
「マリエが前の彼氏と別れた時に『まだ好きだけど隣にいるのがしんどくなった』って言われたって言ってたじゃない?それ聞いたときはどういうことか意味がわからなかった。でも今はすごくよくわかるよ。わたしもナカガワの隣がすごくしんどかった。好きなのに、好きだから余計辛かった」
あぁ、きっとわたしもナカガワと同罪なんだ。わたしもあのときタクミがどれだけ傷ついたかなんて考えもしなかった。タクミももしかすると私に別れる事を止めて欲しかったのかもしれない。
エリカはそんなことをぼんやりと考えていた。
夏の頃は何かにつけてタクミのことを思い出していたが、最近は思い出さなくなったなぁ、とも。
あの日からたった五ヶ月しか経っていないのにエリカは随分変わった。タクミが好きと言ってくれた何事にも頑張るエリカはもう居ない。でも前より幸せだから不思議である。
*
年末年始はバイトもあったが、リュウ主導で大掃除を頑張った。
エリカは久しぶりに誰かと過ごす年末年始が嬉しくてスーパーで黒豆を買っては炊いてみたり、栗きんとん作りにチャレンジしたりしてみた。リュウとお正月に食べたかった。
大晦日の晩に年越し蕎麦を食べながらリュウがポツリとつぶやいた。
「俺、こういう年末年始はじめて」
「こういうって?」
「誰かとまったり過ごす普通の年末年始」
そう言いながらリュウはそばをすすった。
「え、意外。リュウってちゃんとした家の子かと思ってた」
「なんだよ、それ。ちゃんとしてるとかちゃんとしてないとかないって。うちは義母がちょっとした家の出でさ、年末年始はかあさんと兄貴は実家に顔を出すわけ。挨拶回りだとかいろいろさ。行きたくもないパーティーにも連れて行かれたりね。小学生のうちはそれについて行ってたけど、俺は血が繋がってないし、居ないもの扱いっていうかさ。それで中学くらいからはそっちには行かずに一人で過ごすようになったんだ」
なんでもないような口調でリュウが答える。
エリカはリュウのこう言うところに救われているな、と思った。
「そっか。わかるよ。うちも親は挨拶回りとか大変だったみたい。爺さんはその辺立ち回りが上手かったから爺さんが社長の頃はみんなで過ごす普通の年末年始だったけど、父さんは壊滅的にその辺の付き合いが下手で先方に振り回されっぱなし。父さんが社長になってからはわたしも淋しい正月だったな」
ちょっと前までは家族で過ごせないことがとても悲しくて、そうではない自分がみんなとは違う存在のように感じていた。
でも、リュウのあっけらかんとした態度を見ているとそんなこと、どうだって良いことのように感じるから不思議である。
「誰かとこうやってほっこりしながらご飯を食べるって当たり前のことだけどすごく幸せになるよね」
「うん。幸せだね」
その後はこたつでみかんを食べながら一緒にテレビを見た。リュウは空手をやっているからか年末恒例の格闘技番組を見たがったのでそれを一緒に見た。
テレビを見ながらうだうだ過ごす幸せな時間は年越しまで続き「あけましておめでとう」の挨拶をしてから眠りについた。
元日は朝からお節とお雑煮を食べて初詣に行き、午後からアルバイトの予定だった。
一生懸命作ったお節料理を美味しいと言ってくれるだろうかと思いながら準備していた時、神妙な面持ちでリュウがリビングに降りてきた。
「あのさぁ、ごめん。ちょっと親父から電話があって、あの人達、離婚したって。今後のこと話し合うから会いに行かなきゃ」
リュウのご両親が離婚した。
ということは、おそらく子連れ同士の再婚だからリュウは父に、ナカガワは母について行って他人になるのだろう。
リュウが家を出る理由がなくなってしまう。エリカとの関係はただの同居人でわたしにはリュウを留める力はない。
「そう。リュウにとったら良かったのかな?」
そう言ったエリカは心なしか震えていた。
「さぁ、わからない。話し合いの結果はエリカにも伝えにくるよ」
リュウはなんでもない風に出かけてしまった。
作った雑煮とお節料理がむなしかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで
Another Storyを考えてみました。
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる