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中間テストの結果は案の定2位だった。
リュウと話をしていたお陰で素直に受け入れることが出来た。
エリカはこれで良いのだ。
しかしエリカとは関係のないところでそう思っていない人がいた。
担任とナカガワだ。担任は職業上仕方ないとして厄介なのはナカガワだった。
結果が出た日の昼休みにわざわざクラスまで呼び出しに来たのだ。
呼び出されて校舎裏の自転車置き場まで行くと何故テストの点が悪かったのかと聞いてきた。
「ナカガワには関係ないよね」
口から出た言葉は存外に冷たく響いた。
彼女持ちの男がわざわざクラスに呼びに来てまでする話題だとは思わなかったし、呼び出す事による周りへの影響を考えないのはナカガワらしくないと思った。
「僕は君が心配なんだよ。僕は君が普通の家庭環境じゃないって知ってるから相談にも乗れるかと思って」
その言葉は本心のようだ。
「同情してくれてるの?」
「同情と言われればそうかもしれない」
「残念ながら相談するようなことは何もないんだ。むしろわたしはこれで良かったと思ってる」
きっと、今のエリカの顔はとても晴れやかだろう。
しかし、ナカガワはそのことに納得していないようだった。
「成績が下がってるのに?」
「わたし今まですごく勉強が大切だった。必死だった。でも最近はそんなに大切なものじゃないなって思うようになったの。今は二位でも全然悔しくないの」
「負け惜しみ?」
「違う。負け惜しみじゃない。わからないならわからないでいいよ。昔のナカガワとわたしは似てたのかもしれないけど、多分今はそうでもないんだと思う」
「夏のあの日………」
夏のあの日というのは台風の日の事だろう。
「僕は、、、君を守りたいと、支えていきたいと思ったんだ。でも知らない間にクロサワさんは変わってしまったんだね」
変わったと言われればそうかもしれない。
夏のあの日、家族のことに必死になるナカガワを見て眩しいと思った。
しかし今となっては幻想の家族に想いを抱き過ぎて現実を見れていないような気がする。
わたしはいつの間にか自分でも気付かぬうちに幻想の家族からは卒業してしまったのだ。
「そうなのかも。わたしね、わたしが頑張ったら家族が元に戻るって思ってた。それが幸せなんだって思ってた。でもそんなの違うって最近わかったの。幻を求めて頑張って、手に入らないなら今の場所で幸せになれば良いんだって気づいたの。ねぇ、ナカガワ。夏のあの日、家族について諦めないナカガワをすごいと思った。わたしも諦めなければどうにかなるのかなって。ナカガワみたいになりたいなって思った。でもね、そんなの無理だった。頑張れば頑張る分だけどんどん虚しくて、自分が満たされていない何かみたいな気がして。他の人と違うんだって住んでる世界が違うんだって高校にいる時もいつも息ができないくらいしんどかった。でも、そんな自分を受け入れて頑張る事を諦めたら急に息がしやすくなったんだ。ナカガワも諦めるところは諦めて良いんだと思うよ」
エリカの目から見たナカガワはとても窮屈そうに見えた。
「どうしてそんな事言うんだよ。僕はまだ諦めたくないんだ」
そう言いながらナカガワの目からは涙が流れていた。
夏のあの日とは逆に今度はわたしがナカガワを抱きしめてあげる番だと思った。あの時、泣けよと言ったナカガワは本当は自分が泣きたかったのかもしれない。
よく見るとナカガワは顔色も悪く、目の下にはクマが出来ていてかなり疲れた顔をしていた。ちっとも幸せそうには見えなかった。
予鈴がなるまで抱きしめていたのでせっかくのお弁当を食べる時間がなかった。
教室に戻ったのは本鈴がなると同時で、マリエからは物言いたげな視線を感じたがすぐに会話しなくて済んだことはありがたかった。
放課後にマリエと話をした。どこまで話すべきか悩んだが結局、ナカガワとわたしは学年の1位を争うライバルでその関係でちょっと言い合いになったと説明した。
大筋は間違っていないハズ。多分。
「言い合いって言っても喧嘩ってほどではなかったんだけど、ナカガワはもしかしたらしばらくわたしとあいたくないかもしれない」
と付け加えておいた。
*
クリスマスイブは当然アルバイトだったが、家に帰るとチキンソテーにコーンスープ、サラダにフランスパンといういかにもなクリスマスメニューが並んでいた。
「わぁすごい」
「ザ・ファミリークリスマスだろ?」
まだ祖父がいて母がいて父がいた頃の楽しいクリスマスの情景がパッと浮かんできた。
「ちょっと待っててね」
そういうと物置をがさごそと探して燭台と使いかけの蝋燭を出してきた。
「うち、クリスマスの時はこれで食べてたんだ」
そういうと、蝋燭に火を灯し始めた。
燭台は何種類かあって無骨な灯を取る用のものから、上に飾りがついていて、蝋燭で温められた空気が上に上がることによって天使が回転する仕組みになっている飾り付きのものもある。
この飾りの天使がくるくる回るのを見るのがとても好きだった。
年に一度の楽しみだったなと思い出した。
「へぇ、素敵だね」
そう言ってリュウは目を細めた。
二人で食べる特別なご飯はとても美味しかった。
リュウは小さめのショートケーキまで用意してくれていた。
エリカでなければ勘違いするかもしれない状況ではあるが、わたしはリュウの女性的な部分がクリスマスというイベントに反応しているだけだと知っている。
リュウと性的志向のことについて改めて話す機会はなかったのでわたしの想像でしかないがリュウはただ男の人が好きなだけでなく、女性になりたい願望みたいなものもあるのかもしれない。細かな部分で非常に女性的で、ロマンチックなものが大好き、可愛いもの大好き、イベントごと大好きというところがあった。
これまで抑圧されていたその思いがエリカの前だと隠す必要がないので爆発するのだろう。
リュウは普段の行動もわたしのまえだと女性、というか女性を通り越してお母さんのようだと思うことが多かった。
そんなリュウからのクリスマスプレゼントは手編みのマフラーだった。
模様なども入っていてとても可愛くてすぐに気に入った。
エリカからは手袋をあげた。
残念ながらこちらは市販のものである。
リュウと話をしていたお陰で素直に受け入れることが出来た。
エリカはこれで良いのだ。
しかしエリカとは関係のないところでそう思っていない人がいた。
担任とナカガワだ。担任は職業上仕方ないとして厄介なのはナカガワだった。
結果が出た日の昼休みにわざわざクラスまで呼び出しに来たのだ。
呼び出されて校舎裏の自転車置き場まで行くと何故テストの点が悪かったのかと聞いてきた。
「ナカガワには関係ないよね」
口から出た言葉は存外に冷たく響いた。
彼女持ちの男がわざわざクラスに呼びに来てまでする話題だとは思わなかったし、呼び出す事による周りへの影響を考えないのはナカガワらしくないと思った。
「僕は君が心配なんだよ。僕は君が普通の家庭環境じゃないって知ってるから相談にも乗れるかと思って」
その言葉は本心のようだ。
「同情してくれてるの?」
「同情と言われればそうかもしれない」
「残念ながら相談するようなことは何もないんだ。むしろわたしはこれで良かったと思ってる」
きっと、今のエリカの顔はとても晴れやかだろう。
しかし、ナカガワはそのことに納得していないようだった。
「成績が下がってるのに?」
「わたし今まですごく勉強が大切だった。必死だった。でも最近はそんなに大切なものじゃないなって思うようになったの。今は二位でも全然悔しくないの」
「負け惜しみ?」
「違う。負け惜しみじゃない。わからないならわからないでいいよ。昔のナカガワとわたしは似てたのかもしれないけど、多分今はそうでもないんだと思う」
「夏のあの日………」
夏のあの日というのは台風の日の事だろう。
「僕は、、、君を守りたいと、支えていきたいと思ったんだ。でも知らない間にクロサワさんは変わってしまったんだね」
変わったと言われればそうかもしれない。
夏のあの日、家族のことに必死になるナカガワを見て眩しいと思った。
しかし今となっては幻想の家族に想いを抱き過ぎて現実を見れていないような気がする。
わたしはいつの間にか自分でも気付かぬうちに幻想の家族からは卒業してしまったのだ。
「そうなのかも。わたしね、わたしが頑張ったら家族が元に戻るって思ってた。それが幸せなんだって思ってた。でもそんなの違うって最近わかったの。幻を求めて頑張って、手に入らないなら今の場所で幸せになれば良いんだって気づいたの。ねぇ、ナカガワ。夏のあの日、家族について諦めないナカガワをすごいと思った。わたしも諦めなければどうにかなるのかなって。ナカガワみたいになりたいなって思った。でもね、そんなの無理だった。頑張れば頑張る分だけどんどん虚しくて、自分が満たされていない何かみたいな気がして。他の人と違うんだって住んでる世界が違うんだって高校にいる時もいつも息ができないくらいしんどかった。でも、そんな自分を受け入れて頑張る事を諦めたら急に息がしやすくなったんだ。ナカガワも諦めるところは諦めて良いんだと思うよ」
エリカの目から見たナカガワはとても窮屈そうに見えた。
「どうしてそんな事言うんだよ。僕はまだ諦めたくないんだ」
そう言いながらナカガワの目からは涙が流れていた。
夏のあの日とは逆に今度はわたしがナカガワを抱きしめてあげる番だと思った。あの時、泣けよと言ったナカガワは本当は自分が泣きたかったのかもしれない。
よく見るとナカガワは顔色も悪く、目の下にはクマが出来ていてかなり疲れた顔をしていた。ちっとも幸せそうには見えなかった。
予鈴がなるまで抱きしめていたのでせっかくのお弁当を食べる時間がなかった。
教室に戻ったのは本鈴がなると同時で、マリエからは物言いたげな視線を感じたがすぐに会話しなくて済んだことはありがたかった。
放課後にマリエと話をした。どこまで話すべきか悩んだが結局、ナカガワとわたしは学年の1位を争うライバルでその関係でちょっと言い合いになったと説明した。
大筋は間違っていないハズ。多分。
「言い合いって言っても喧嘩ってほどではなかったんだけど、ナカガワはもしかしたらしばらくわたしとあいたくないかもしれない」
と付け加えておいた。
*
クリスマスイブは当然アルバイトだったが、家に帰るとチキンソテーにコーンスープ、サラダにフランスパンといういかにもなクリスマスメニューが並んでいた。
「わぁすごい」
「ザ・ファミリークリスマスだろ?」
まだ祖父がいて母がいて父がいた頃の楽しいクリスマスの情景がパッと浮かんできた。
「ちょっと待っててね」
そういうと物置をがさごそと探して燭台と使いかけの蝋燭を出してきた。
「うち、クリスマスの時はこれで食べてたんだ」
そういうと、蝋燭に火を灯し始めた。
燭台は何種類かあって無骨な灯を取る用のものから、上に飾りがついていて、蝋燭で温められた空気が上に上がることによって天使が回転する仕組みになっている飾り付きのものもある。
この飾りの天使がくるくる回るのを見るのがとても好きだった。
年に一度の楽しみだったなと思い出した。
「へぇ、素敵だね」
そう言ってリュウは目を細めた。
二人で食べる特別なご飯はとても美味しかった。
リュウは小さめのショートケーキまで用意してくれていた。
エリカでなければ勘違いするかもしれない状況ではあるが、わたしはリュウの女性的な部分がクリスマスというイベントに反応しているだけだと知っている。
リュウと性的志向のことについて改めて話す機会はなかったのでわたしの想像でしかないがリュウはただ男の人が好きなだけでなく、女性になりたい願望みたいなものもあるのかもしれない。細かな部分で非常に女性的で、ロマンチックなものが大好き、可愛いもの大好き、イベントごと大好きというところがあった。
これまで抑圧されていたその思いがエリカの前だと隠す必要がないので爆発するのだろう。
リュウは普段の行動もわたしのまえだと女性、というか女性を通り越してお母さんのようだと思うことが多かった。
そんなリュウからのクリスマスプレゼントは手編みのマフラーだった。
模様なども入っていてとても可愛くてすぐに気に入った。
エリカからは手袋をあげた。
残念ながらこちらは市販のものである。
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