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次の日も学校だった。
2学期制をとっている青木高校は世間より少し夏休みが短い。
昼休み、中庭でバスケをしている集団の中に昨日の男子生徒を見つけた。
「ねえ、あそこの背の高い人、誰かわかる?」
マリエに聞いてみる。
「本気?隣のクラスのナカガワじゃん。青高のナカガワって言ったら他の学校の子でも知ってる有名人だよ」
驚いたマリエがすこし呆れた様子で教えてくれた。
「有名なの?なんで?」
「そりゃ、かっこいいからでしょ」
確かに顔はいいかもしれない。背も高いしバスケもまぁ、悪くない。
「なになに?惚れちゃった?」
「ばかっ!そんな訳ないじゃん」
「今日の放課後、カラオケに行くことになってるけど一緒に行く?バイトないんでしょ?」
そう、世間が夏休みに入ったことによりバイト先のシフトが夏休みシフトになってしまった。そのせいで今週はなかなかバイトに入れないのだ。
「マリエと二人なら行きたいけど、他の人も来るなら行かない」
君子危うきに近寄らずである。
それにエリカはどうもマリエ以外の女子に馴染めていない。エリカがカラオケなんて行ったら他の人のテンションはだだ下がりだろう。
*
放課後、カラオケに行くのであろう集団が廊下でたむろしていた。マリエもその中にいて帰り際、もう一度カラオケに誘われた。
「エリカもカラオケ行こうよ」
マリエの隣にいたイトーさんが嫌そうな顔をする。
しかし何人かの男子生徒から強くおされ、少しくらいなら、ということでカラオケに行くことになってしまった。
隣を歩いていたイトーさんと名前も知らない男子生徒となんとはなしに会話しながら自転車置き場まで歩いて行く。
マリエやナカガワはバス組なので別行動である。
「クロサワさんが放課後遊ぶって珍しいね」
クロサワというのはエリカの苗字である。
「普段はバイトで忙しいから」
あまり二人とは目を合わせずに答える。
なんというか初対面の人との間を持たせるだけの会話だというのがイトーさんの声のトーンからありありとわかった。
「今日は?バイトないの?」
「他の高校が夏休み入ったからシフトが減っちゃって」
「バイト何してるの?」
「ショッピングモールの中のとんかつ屋さんだよ」
興味のない話の応酬だったはずが、エリカがトンカツと言う言葉を出した途端、少し間が空いた。
エリカが二人の顔を見ると意外だったのか2人とも少し驚いた顔をしていた。
「なんでとんかつ屋さん?」
今度のセリフは間を持たせるためだけの会話ではなくエリカに興味を持ってくれている言葉だった。
「賄いが出るし、とんかつ美味しいから」
「なんか意外。クロサワさんって、もっとこう・・・」
「もっとこう?」
イトーさんの言葉が途中で止まったのでなんとはなしに繰り返してみる。
「いや、思ってたのとちょっと違うかも」
「そう?夏休みはシフトバラバラだけど普段の平日なら夜は毎日入ってるから食べにきてよ。ちょっとならまけてあげられるし」
「毎日?クロサワさんが放課後誰とも喋らないでソッコーで帰るのってそのせい?」
「そうだよ」
なんだか2人の雰囲気が急に柔らかくなった気がしたが、エリカにはその理由がよくわからなかった。
カラオケでは右手がマリエ、左手がイトーさんという並びで座った。
そのカラオケ大会はかなり大人数の集まりだった。男バスとダンス部は部活の活動場所が近く、活動時間もだいたい被る関係で昔からカップル率が高いとのことだった。
たまにこうやって活動がないときに一緒にカラオケに行ったりするらしい。
「クロサワさんは部活やんないの?」
イトーさんが何気なく聞いてくる。
「私、バイトやってるしそんな時間ないよ」
「うちってバイト禁止じゃなかった?」
イトーさんの向こうにいる男子が突っ込んでくる。
「学校の許可は取ってあるから大丈夫だよ」
誰が頼んだのかテーブルに置いてあったポテトの盛り合わせをつまみながら答える。
こういうところでポテトを食べるのは初めてだったが案外、美味しかった。
ポテトを食べながらニヤニヤしているとイトーさんがたずねてきた。
「どうしたの?」
「ポテトが美味しかったから」
と言いながらもぐもぐしているとイトーさんに何故だかぎゅーっと抱きしめられた。
なんなんだ。
その様子を見ていたマリエが
「私のエリカなんだからね」
とイトーさんに冗談まじりで言った。
マリエに抱きつかれた事が嬉しくて、エリカもマリエに抱きつき返した。
しかし、そんなマリエは私より明らかに反対側の隣に座っているナカガワの方に神経を集中しているようだった。
ただ、その日のマリエは意識をしすぎてお茶をこぼしたり全然知らない曲を予約したりと散々だった。
その様子に少々感の鈍い私ですらマリエがナカガワのことが好きなんだということがわかった。
こうやって放課後に誰かと遊ぶなんて中学2年以来で、まるであちらの世界に戻れたような気になった。
カラオケ代の出費は痛かったがその気分を味わえただけで満足だった。
それに1人だったらタクミとのことであれこれ考えてしまいそうなのでちょうど良かった。
一人であれこれ考えても何も結果は出ない。
もう一度話をしなくてはいけない、いや話をしたい。このまま関係が終わるのかタクミがどうしたいのか。
花火大会に一緒に行こうとタクミにメールした。
2学期制をとっている青木高校は世間より少し夏休みが短い。
昼休み、中庭でバスケをしている集団の中に昨日の男子生徒を見つけた。
「ねえ、あそこの背の高い人、誰かわかる?」
マリエに聞いてみる。
「本気?隣のクラスのナカガワじゃん。青高のナカガワって言ったら他の学校の子でも知ってる有名人だよ」
驚いたマリエがすこし呆れた様子で教えてくれた。
「有名なの?なんで?」
「そりゃ、かっこいいからでしょ」
確かに顔はいいかもしれない。背も高いしバスケもまぁ、悪くない。
「なになに?惚れちゃった?」
「ばかっ!そんな訳ないじゃん」
「今日の放課後、カラオケに行くことになってるけど一緒に行く?バイトないんでしょ?」
そう、世間が夏休みに入ったことによりバイト先のシフトが夏休みシフトになってしまった。そのせいで今週はなかなかバイトに入れないのだ。
「マリエと二人なら行きたいけど、他の人も来るなら行かない」
君子危うきに近寄らずである。
それにエリカはどうもマリエ以外の女子に馴染めていない。エリカがカラオケなんて行ったら他の人のテンションはだだ下がりだろう。
*
放課後、カラオケに行くのであろう集団が廊下でたむろしていた。マリエもその中にいて帰り際、もう一度カラオケに誘われた。
「エリカもカラオケ行こうよ」
マリエの隣にいたイトーさんが嫌そうな顔をする。
しかし何人かの男子生徒から強くおされ、少しくらいなら、ということでカラオケに行くことになってしまった。
隣を歩いていたイトーさんと名前も知らない男子生徒となんとはなしに会話しながら自転車置き場まで歩いて行く。
マリエやナカガワはバス組なので別行動である。
「クロサワさんが放課後遊ぶって珍しいね」
クロサワというのはエリカの苗字である。
「普段はバイトで忙しいから」
あまり二人とは目を合わせずに答える。
なんというか初対面の人との間を持たせるだけの会話だというのがイトーさんの声のトーンからありありとわかった。
「今日は?バイトないの?」
「他の高校が夏休み入ったからシフトが減っちゃって」
「バイト何してるの?」
「ショッピングモールの中のとんかつ屋さんだよ」
興味のない話の応酬だったはずが、エリカがトンカツと言う言葉を出した途端、少し間が空いた。
エリカが二人の顔を見ると意外だったのか2人とも少し驚いた顔をしていた。
「なんでとんかつ屋さん?」
今度のセリフは間を持たせるためだけの会話ではなくエリカに興味を持ってくれている言葉だった。
「賄いが出るし、とんかつ美味しいから」
「なんか意外。クロサワさんって、もっとこう・・・」
「もっとこう?」
イトーさんの言葉が途中で止まったのでなんとはなしに繰り返してみる。
「いや、思ってたのとちょっと違うかも」
「そう?夏休みはシフトバラバラだけど普段の平日なら夜は毎日入ってるから食べにきてよ。ちょっとならまけてあげられるし」
「毎日?クロサワさんが放課後誰とも喋らないでソッコーで帰るのってそのせい?」
「そうだよ」
なんだか2人の雰囲気が急に柔らかくなった気がしたが、エリカにはその理由がよくわからなかった。
カラオケでは右手がマリエ、左手がイトーさんという並びで座った。
そのカラオケ大会はかなり大人数の集まりだった。男バスとダンス部は部活の活動場所が近く、活動時間もだいたい被る関係で昔からカップル率が高いとのことだった。
たまにこうやって活動がないときに一緒にカラオケに行ったりするらしい。
「クロサワさんは部活やんないの?」
イトーさんが何気なく聞いてくる。
「私、バイトやってるしそんな時間ないよ」
「うちってバイト禁止じゃなかった?」
イトーさんの向こうにいる男子が突っ込んでくる。
「学校の許可は取ってあるから大丈夫だよ」
誰が頼んだのかテーブルに置いてあったポテトの盛り合わせをつまみながら答える。
こういうところでポテトを食べるのは初めてだったが案外、美味しかった。
ポテトを食べながらニヤニヤしているとイトーさんがたずねてきた。
「どうしたの?」
「ポテトが美味しかったから」
と言いながらもぐもぐしているとイトーさんに何故だかぎゅーっと抱きしめられた。
なんなんだ。
その様子を見ていたマリエが
「私のエリカなんだからね」
とイトーさんに冗談まじりで言った。
マリエに抱きつかれた事が嬉しくて、エリカもマリエに抱きつき返した。
しかし、そんなマリエは私より明らかに反対側の隣に座っているナカガワの方に神経を集中しているようだった。
ただ、その日のマリエは意識をしすぎてお茶をこぼしたり全然知らない曲を予約したりと散々だった。
その様子に少々感の鈍い私ですらマリエがナカガワのことが好きなんだということがわかった。
こうやって放課後に誰かと遊ぶなんて中学2年以来で、まるであちらの世界に戻れたような気になった。
カラオケ代の出費は痛かったがその気分を味わえただけで満足だった。
それに1人だったらタクミとのことであれこれ考えてしまいそうなのでちょうど良かった。
一人であれこれ考えても何も結果は出ない。
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