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8. 悪役令嬢と従者

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「ヴォルフィはティターニア嬢に振られてからずっと塞ぎ込んでたんですよ。本当によかったですよ。」

ホテルに向かう馬車の中でルートヴィヒは従者というには軽い口調でそう言った。

「ルートヴィヒは幼馴染なんだ。こう見えて優秀な男で4学年も飛び級してる。」

「でも、これまでは他の従者の方がいらっしゃいましたよね?」

たしか、ヴォルフガングと一緒に街に出た時に付いていた従者は別の人間だった。

「それがさ、ティターニア嬢に振られたショックでこいつが引きこもっちゃったからこれまでの従者だと何も出来なくてさ、俺が世話する羽目になったんだよ。」

「えっ?でも、まだそんなに日にち経ってないと思いますけど・・・」

「移転魔法使えるからねー俺。」

「ええぇ!凄いですね。私も魔法は得意な方だと思ってましたけど移転魔法なんてファンタジーだと思ってました。」

「おぃ!」

「あ、ごめんごめん。一応、俺が移転魔法使えるってのは国家機密だから、内緒にしててね。」

「はい。」


そんな話をしているうちに馬車はホテルに到着した。


ホテルには前もって話がついていたらしく、すぐに支配人らしき壮年の男性が出迎えに来て部屋に案内された。ホテルの部屋に入る前に時にヴォルフガングは訪ねた。
「ここに入ったらもう引き返せない。わかっているな?」

その目は真剣で全てを覚悟した瞳だった。
ティターニアはごくりと唾を飲み込んで言った。

「はい。わかっております。」

そうして2人は部屋に入っていった。



その様子を見つめていたルートヴィヒは考えた。
彼女はどこまでわかっているのだろうかと。

ヴォルフガングの方の婚約に関してはまだ具体的には進んでいないだろうからどうとでもなるだろう。だが、この国の王子の婚約者を略奪なんて事になったら下手したら戦争が始まる。

そう言えば彼女は三日と言っていた。三日後に何食わぬ顔をして王子の婚約者にもどるのだろうか。それとも三日後に自害するつもりだろうか?

そんなこと、あのヴォルフガングが許すはずがない。

ヴォルフガングがどれほどティターニアを愛しているのか彼女はわかっていないのだ。




次の日、ティターニアが目を覚ました時、ベッドにヴォルフガングの姿はなかった。太陽はだいぶ高く上がっていて寝過ぎたせいだと思った。

一人で着れるような簡易のワンピースが置かれていたので、それを着るとちょうど扉をノックする音が聞こえた。

扉を開けるとルートヴィヒがフルーツを持って立っていた。

「起きたかい?お腹空いてるだろう?どうぞ。」

そう言ってズカズカと部屋に入ってきた。

「目覚めたのがわかったのですか?」

「あぁ、君は魔力が高いから動くとすぐにわかる。」

ルートヴィヒはフルーツの乗った皿を差し出した。

「ありがとうございます。」

「それで、君に聞きたいことがある。昨日、ヴォルフィと居るのは三日って言ってたけどどうして?三日たったら君はまたロビン王子の婚約者に戻るの?」

ティターニアは首を振った。

「それとも自害でもするつもり?」

自害・・・それが一番近い。
ルートヴィヒはこれまで出会った中で一番魔力が高いかもしれない。話してみる価値はありそうだ。信じてもらえなかったとしてもあと二日だし。

「あの、信じてもらえないかもしれないですけど、二日後に魔王が復活するんです。」

「魔王!?」

「信じられませんよね。でも、私はもう魔王に三度も殺されています。理由はわからないけど、魔王に殺されたら私は王子との婚約前に戻ります。」

「だから二日後までに思い出を作りたいと?」

「えぇ。」

「そう・・・と言うことは君は三度の人生を歩んできたわけだ。」

「はい。」

「それで今が四度目ってこと?」

「そうですね。信じてくれるんですか?」

「うーん。そうだね。魔王か・・・」

とルートヴィヒが唸った時に後ろから声が聞こえた。

「俺は信じるよ。」

ヴォルフガングが部屋に戻ってきていた。

「信じてくださるのですか?」

「あぁ。」

ティターニアにとってヴォルフガングのその言葉だけでこれまでの人生が救われたような気がした。
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