【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル

文字の大きさ
上 下
4 / 6

第四話 レイフと国守樹

しおりを挟む
「レイフ様・・・」

レイフが国守樹の研究に没頭していると声をかけられた。振り返るとそこには新しい婚約者・・・・・・となったジャニスが居た。

「帰れっ。フィーに勘違いされたくない。」

「これまで、そんな事、気にもされていなったのに・・・」

「あぁ、他の人が何と言おうと真実が全てだと思っていたからな。僕の真実はフィーを愛していると言うことだけだ。でも、人は真実など確認してくれない。人は自分が見て信じたことを真実だと思ってしまうらしい。」

「じゃあ、私のことは・・・?」

「君は優秀な同僚だが、それだけだ。」

「そんな・・・」

それだけ言うとレイフは国守樹の研究に戻った。
しかし、国守樹は何をしても変わらずに悠々と地面から立っているだけだった。

ここまで何をやっても反応のない研究は初めてだった。

ある日、レイフはフィーが好きだったアップルパイを持ってきた。それはフィーを悼む気持ちからだった。
「今日は君が好きだったアップルパイを持ってきたんだ。わざわざアンダーソン公爵家の料理人に作ってもらったんだよ。」

そう言って樹の根元に置いてみた。すると、しばらくして、アップルパイが樹の中に消えて行った。

どういうことだ?やはり、樹の中にフィーが居てアップルパイを食べようとしている?
それからは毎日フィーが好きだった食べ物を持って樹の元を訪れた。
食べ物は樹の中に吸収されて行った。

「食べ物は喰らうのに僕は食べてくれないんだね。」

夏至ミッドサマーも過ぎ、本格的に暑くなってきてもレイフの研究は続いた。レイフは国守樹の木陰で持ってきた弁当を食べると、ついうとうとしてしまった。


そして・・・

「お兄さん、こんなところで寝てはダメよ」

誰かに話しかけられて目を覚ますと、そこには愛らしい栗色の髪をした少女が立っていた。

「フィー?」

それは確かに記憶している幼い日のフィーにそっくりだった。

「お兄さん、私のこと知ってるの?」

「フィーなのか?」

「わからない。気付いたらずっとここにいるの。」

そう言われて辺りを見渡すとそこは色とりどりの花の咲いたとても美しい場所だった。
空はピンクから黄色へのグラデーションになっていて、ここがこれまで居た世界とは違うことを示していた。

「ここはどこ?」

「さぁ、知らない。」

そう言って少女は走って行ってしまう。

「まって。」

レイフは女の子を追いかけた。
そうして少女が走って行った先に小高い丘と樹があり、その向こうに青い青い海が広がっていた。
少女はしばらく海を見つめた後、振り返った。

「あれが何か知ってる?」

「海かい?」

「うみ・・・飲まれそうでこわいの。」

そう言って少女はブルっと震えた。

「お兄さんの目も海と同じ色。」

ふと、昔、フィーが「レイフ様の瞳の色は海のようですわ」と言っていたのを思い出した。

「僕の瞳も怖い?」

少女は少し考えた後、「ううん」と言って首を振った。

「お兄さんの瞳はあたたかいもの。」

そう言ってニコッと笑った少女の顔が記憶にある笑顔のフィーと完全に一致した。

レイフは再びフィーの笑顔を見ることができ、自然と涙が出た。何度か涙をぬぐっているうちにレイフは国守樹の下の世界に戻ってきていた。

「夢・・・」

しかし、戻ってきた世界は夏の日差しの暖かさがなく、秋の気配が漂っていた。

異世界とこの世の時間の流れが違って、向こうでは一瞬の時間なのにこちらではがかなり経ってしまっているというのはたまに聞く話だ。

あの一瞬の時間で夏が秋になったのか。王宮の者たちは自分を探しているだろうか?そう思いながらおそるおそる王宮に戻った。

しかし、みんなの反応がおかしい。数ヶ月消えていた人間に向ける目ではない。

「レイフ様、こちらにお戻りとは珍しいですね?」

そう言って話しかけてきたのは兄の側近で確か公爵家のジョナサンだったか。なんだ、魔法塔で生活していると思われていただけなのか。

「いや、今日からは王族用の離宮こっちで生活しようかと思って。」

「何の冗談ですか?」

「冗談では・・・。もう、魔法塔での研究もやめて久しいからな。」

「研究をやめる?レイフ様が?先日も移転魔法についての研究を発表されたばかりではないですか。」

「移転魔法についての研究?」

「確か魔力がない人でも移転魔法が使える魔道具、移転扉でしたか?の発表を・・・」

「今、何年だ?何年何月何日だ?」

「えーっと、CM歴58年の11月5日です。」

「58年・・・と言うことは僕は16歳?」

ジョナサンはレイフの勢いに押されかなり焦っている。
訳がわからないと言う顔で答えた。

「え、えぇ。16歳になられたかと思います。」

「ということは・・・」

そう言ってレイフは走り出した。
魔法塔に行った。自分を説得するれば、彼女・・を救える。まだ彼女は生きているはず。


彼女を・・・


・・・・・・・彼女の名は何だっただろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?

下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。 主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】可愛くない、私ですので。

たまこ
恋愛
 華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

window
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください

みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。 自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。 主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが……… 切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

【完結】私の大好きな人は、親友と結婚しました

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
伯爵令嬢マリアンヌには物心ついた時からずっと大好きな人がいる。 その名は、伯爵令息のロベルト・バミール。 学園卒業を控え、成績優秀で隣国への留学を許可されたマリアンヌは、その報告のために ロベルトの元をこっそり訪れると・・・。 そこでは、同じく幼馴染で、親友のオリビアとベットで抱き合う二人がいた。 傷ついたマリアンヌは、何も告げぬまま隣国へ留学するがーーー。 2年後、ロベルトが突然隣国を訪れてきて?? 1話完結です 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...