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第四話 レイフと国守樹
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「レイフ様・・・」
レイフが国守樹の研究に没頭していると声をかけられた。振り返るとそこには新しい婚約者となったジャニスが居た。
「帰れっ。フィーに勘違いされたくない。」
「これまで、そんな事、気にもされていなったのに・・・」
「あぁ、他の人が何と言おうと真実が全てだと思っていたからな。僕の真実はフィーを愛していると言うことだけだ。でも、人は真実など確認してくれない。人は自分が見て信じたことを真実だと思ってしまうらしい。」
「じゃあ、私のことは・・・?」
「君は優秀な同僚だが、それだけだ。」
「そんな・・・」
それだけ言うとレイフは国守樹の研究に戻った。
しかし、国守樹は何をしても変わらずに悠々と地面から立っているだけだった。
ここまで何をやっても反応のない研究は初めてだった。
ある日、レイフはフィーが好きだったアップルパイを持ってきた。それはフィーを悼む気持ちからだった。
「今日は君が好きだったアップルパイを持ってきたんだ。わざわざアンダーソン公爵家の料理人に作ってもらったんだよ。」
そう言って樹の根元に置いてみた。すると、しばらくして、アップルパイが樹の中に消えて行った。
どういうことだ?やはり、樹の中にフィーが居てアップルパイを食べようとしている?
それからは毎日フィーが好きだった食べ物を持って樹の元を訪れた。
食べ物は樹の中に吸収されて行った。
「食べ物は喰らうのに僕は食べてくれないんだね。」
夏至も過ぎ、本格的に暑くなってきてもレイフの研究は続いた。レイフは国守樹の木陰で持ってきた弁当を食べると、ついうとうとしてしまった。
そして・・・
「お兄さん、こんなところで寝てはダメよ」
誰かに話しかけられて目を覚ますと、そこには愛らしい栗色の髪をした少女が立っていた。
「フィー?」
それは確かに記憶している幼い日のフィーにそっくりだった。
「お兄さん、私のこと知ってるの?」
「フィーなのか?」
「わからない。気付いたらずっとここにいるの。」
そう言われて辺りを見渡すとそこは色とりどりの花の咲いたとても美しい場所だった。
空はピンクから黄色へのグラデーションになっていて、ここがこれまで居た世界とは違うことを示していた。
「ここはどこ?」
「さぁ、知らない。」
そう言って少女は走って行ってしまう。
「まって。」
レイフは女の子を追いかけた。
そうして少女が走って行った先に小高い丘と樹があり、その向こうに青い青い海が広がっていた。
少女はしばらく海を見つめた後、振り返った。
「あれが何か知ってる?」
「海かい?」
「うみ・・・飲まれそうでこわいの。」
そう言って少女はブルっと震えた。
「お兄さんの目も海と同じ色。」
ふと、昔、フィーが「レイフ様の瞳の色は海のようですわ」と言っていたのを思い出した。
「僕の瞳も怖い?」
少女は少し考えた後、「ううん」と言って首を振った。
「お兄さんの瞳はあたたかいもの。」
そう言ってニコッと笑った少女の顔が記憶にある笑顔のフィーと完全に一致した。
レイフは再びフィーの笑顔を見ることができ、自然と涙が出た。何度か涙をぬぐっているうちにレイフは国守樹の下の世界に戻ってきていた。
「夢・・・」
しかし、戻ってきた世界は夏の日差しの暖かさがなく、秋の気配が漂っていた。
異世界とこの世の時間の流れが違って、向こうでは一瞬の時間なのにこちらではがかなり経ってしまっているというのはたまに聞く話だ。
あの一瞬の時間で夏が秋になったのか。王宮の者たちは自分を探しているだろうか?そう思いながらおそるおそる王宮に戻った。
しかし、みんなの反応がおかしい。数ヶ月消えていた人間に向ける目ではない。
「レイフ様、こちらにお戻りとは珍しいですね?」
そう言って話しかけてきたのは兄の側近で確か公爵家のジョナサンだったか。なんだ、魔法塔で生活していると思われていただけなのか。
「いや、今日からは王族用の離宮で生活しようかと思って。」
「何の冗談ですか?」
「冗談では・・・。もう、魔法塔での研究もやめて久しいからな。」
「研究をやめる?レイフ様が?先日も移転魔法についての研究を発表されたばかりではないですか。」
「移転魔法についての研究?」
「確か魔力がない人でも移転魔法が使える魔道具、移転扉でしたか?の発表を・・・」
「今、何年だ?何年何月何日だ?」
「えーっと、CM歴58年の11月5日です。」
「58年・・・と言うことは僕は16歳?」
ジョナサンはレイフの勢いに押されかなり焦っている。
訳がわからないと言う顔で答えた。
「え、えぇ。16歳になられたかと思います。」
「ということは・・・」
そう言ってレイフは走り出した。
魔法塔に行った。自分を説得するれば、彼女を救える。まだ彼女は生きているはず。
彼女を・・・
・・・・・・・彼女の名は何だっただろうか。
レイフが国守樹の研究に没頭していると声をかけられた。振り返るとそこには新しい婚約者となったジャニスが居た。
「帰れっ。フィーに勘違いされたくない。」
「これまで、そんな事、気にもされていなったのに・・・」
「あぁ、他の人が何と言おうと真実が全てだと思っていたからな。僕の真実はフィーを愛していると言うことだけだ。でも、人は真実など確認してくれない。人は自分が見て信じたことを真実だと思ってしまうらしい。」
「じゃあ、私のことは・・・?」
「君は優秀な同僚だが、それだけだ。」
「そんな・・・」
それだけ言うとレイフは国守樹の研究に戻った。
しかし、国守樹は何をしても変わらずに悠々と地面から立っているだけだった。
ここまで何をやっても反応のない研究は初めてだった。
ある日、レイフはフィーが好きだったアップルパイを持ってきた。それはフィーを悼む気持ちからだった。
「今日は君が好きだったアップルパイを持ってきたんだ。わざわざアンダーソン公爵家の料理人に作ってもらったんだよ。」
そう言って樹の根元に置いてみた。すると、しばらくして、アップルパイが樹の中に消えて行った。
どういうことだ?やはり、樹の中にフィーが居てアップルパイを食べようとしている?
それからは毎日フィーが好きだった食べ物を持って樹の元を訪れた。
食べ物は樹の中に吸収されて行った。
「食べ物は喰らうのに僕は食べてくれないんだね。」
夏至も過ぎ、本格的に暑くなってきてもレイフの研究は続いた。レイフは国守樹の木陰で持ってきた弁当を食べると、ついうとうとしてしまった。
そして・・・
「お兄さん、こんなところで寝てはダメよ」
誰かに話しかけられて目を覚ますと、そこには愛らしい栗色の髪をした少女が立っていた。
「フィー?」
それは確かに記憶している幼い日のフィーにそっくりだった。
「お兄さん、私のこと知ってるの?」
「フィーなのか?」
「わからない。気付いたらずっとここにいるの。」
そう言われて辺りを見渡すとそこは色とりどりの花の咲いたとても美しい場所だった。
空はピンクから黄色へのグラデーションになっていて、ここがこれまで居た世界とは違うことを示していた。
「ここはどこ?」
「さぁ、知らない。」
そう言って少女は走って行ってしまう。
「まって。」
レイフは女の子を追いかけた。
そうして少女が走って行った先に小高い丘と樹があり、その向こうに青い青い海が広がっていた。
少女はしばらく海を見つめた後、振り返った。
「あれが何か知ってる?」
「海かい?」
「うみ・・・飲まれそうでこわいの。」
そう言って少女はブルっと震えた。
「お兄さんの目も海と同じ色。」
ふと、昔、フィーが「レイフ様の瞳の色は海のようですわ」と言っていたのを思い出した。
「僕の瞳も怖い?」
少女は少し考えた後、「ううん」と言って首を振った。
「お兄さんの瞳はあたたかいもの。」
そう言ってニコッと笑った少女の顔が記憶にある笑顔のフィーと完全に一致した。
レイフは再びフィーの笑顔を見ることができ、自然と涙が出た。何度か涙をぬぐっているうちにレイフは国守樹の下の世界に戻ってきていた。
「夢・・・」
しかし、戻ってきた世界は夏の日差しの暖かさがなく、秋の気配が漂っていた。
異世界とこの世の時間の流れが違って、向こうでは一瞬の時間なのにこちらではがかなり経ってしまっているというのはたまに聞く話だ。
あの一瞬の時間で夏が秋になったのか。王宮の者たちは自分を探しているだろうか?そう思いながらおそるおそる王宮に戻った。
しかし、みんなの反応がおかしい。数ヶ月消えていた人間に向ける目ではない。
「レイフ様、こちらにお戻りとは珍しいですね?」
そう言って話しかけてきたのは兄の側近で確か公爵家のジョナサンだったか。なんだ、魔法塔で生活していると思われていただけなのか。
「いや、今日からは王族用の離宮で生活しようかと思って。」
「何の冗談ですか?」
「冗談では・・・。もう、魔法塔での研究もやめて久しいからな。」
「研究をやめる?レイフ様が?先日も移転魔法についての研究を発表されたばかりではないですか。」
「移転魔法についての研究?」
「確か魔力がない人でも移転魔法が使える魔道具、移転扉でしたか?の発表を・・・」
「今、何年だ?何年何月何日だ?」
「えーっと、CM歴58年の11月5日です。」
「58年・・・と言うことは僕は16歳?」
ジョナサンはレイフの勢いに押されかなり焦っている。
訳がわからないと言う顔で答えた。
「え、えぇ。16歳になられたかと思います。」
「ということは・・・」
そう言ってレイフは走り出した。
魔法塔に行った。自分を説得するれば、彼女を救える。まだ彼女は生きているはず。
彼女を・・・
・・・・・・・彼女の名は何だっただろうか。
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