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ヴァージニアの婚約

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マーガレットとアンソニーはその後の視察も滞りなくこなした。
母の言う通り恋はいつか風化するのかもしれない。
バーンズを出た時はスティーブンのことを思って塞ぎ込みがちだったマーガレットも、スタークの王宮に戻る頃には普段通り生活できるようになっていた。

そうななると頭を離れないのがアンソニーと良い関係を築けという母の言葉だ。

マーガレットはアンソニーのことをもっと知りたいと思ったがいざ話しかけようとすると何故か真面目な話をしてしまう。アンソニーはヴァージニアを好きなのだからあまりマーガレットから距離を詰めて嫌がられたらどうしよう・・・という思いがよぎるのだ。



そんな中、王宮に帰るとマーガレットの扱いがとても良くなっていた。
当然、王太子妃教育でも今までのように睡眠時間を削るような課題は出なかったし、マーガレットにあてがわれた部屋も今までの倍ほどの広さのある日当たりの良い部屋に移されていた。

食事もこれまではスターク風のスパイシーな味付けが多かったが、ロジャース風の素朴な味付けのものも用意されるようになった。

視察旅行から戻ってすぐに対応が変わったので、アンソニーが事前に何か指示を出してくれたのだろう。

しかし、マーガレットはアンソニーとはこれまで経済や政治の話しかしてこなかったため、自らの環境のことについてなかなか話せなかった。

王宮に帰ってから、アンソニーは自身の執務のアドバイスをマーガレットに求めるようになったし、ダンスの練習の相手もしてくれるようになった。
全く開かれなかったお茶会もほとんど毎日開かれるようになったが、やはり会話は硬いものがほとんどだった。


王宮に戻ってしばらく経つと学園に復学した。
視察旅行前はクラスメイトから無視されていたが、復学初日にクラスの女子生徒が話しかけてきた。

「マーガレット様、一緒にランチをいただきませんか?」

どうやら、視察先で見て回った領地を故郷に持つ子弟たちや王宮使えの親を持つ子供たちを中心にアンソニーがマーガレットと仲睦まじく過ごしているとの情報が出回ったらしい。まだ、ロジャースへの偏見は少し残っているだろうけれど、話すチャンスさえもらえれば、マーガレットはこの国の貴族に自分を認めてもらえる自信があった。



それからしばらくして、学園でのパーティーが近づいてきた。
パーティーはデビュー前の練習としての意味合いが強い。
マーガレットは当然、アンソニーにエスコートされて参加する事が決まっている。

そして、パーティーの少し前のこと。

「マーガレット様、私の新しい嫁ぎ先が決まりましたの。北のロマノフ国のシュミット公爵家の嫡男ヨハン様ですわ。」

ヴァージニアとランチを取っていてそう打ち明けられた。

「え!?北の国に嫁がれるのですか。」

マーガレットは驚きと悲しみで包まれてしまった。

「そうなの。家格が釣り合う婚約者がなかなかいなくて。シュミット公爵家の嫡男様は流行り病で昨年、婚約者を亡くされたみたいで席が空いたのよ。」

「ヴァージニア様がスタークから居なくなるなんて・・・寂しくなります。」

「そうね、私も悩んだのよ。でも、ヨハン様はとても良いお方ですの。それに、北の国からはコークスを多く輸入してますでしょう?今後、産業が発展していく時に繋がりをより強めているのはいい事ですわ。」

「ヴァージニア様には本当に感謝しているんです。私、ヴァージニア様が居なかったら、きっと嫌われ者のままでしたわ。」

「そんな事ないわよ。あなたは素敵だもの。きっとちゃんと付き合えばみんなあなたのことを好きになったわ。私はそれをちょっと早くしてあげただけ。」

「ちゃんと付き合ってもらえるようになるのがどれだけ大変か・・・ヴァージニア様、もし北の国で少しでも嫌な事があったらすぐにスタークに帰ってきてくださいね。」

マーガレットがそう言うとヴァージニアは困ったような顔をして言った。

「あなたが、考えなしにそんなふうに言うなんて珍しいわね。私が帰ったら戦争になるかもしれなくてよ。」

「そうですわね・・・」

マーガレットはしょんぼりしたがヴァージニアは明るく続けた。

「でも、大丈夫よ。ヨハン様は本当にいい方なの。それでね、今度の学園のパーティーとその後の春の王宮のパーティーにも私のエスコート役として参加いただくことになったんだけどね、パーティーに参加する前に有力な方とは顔繋ぎをしておきたいのよ。それで、ポッツ公爵家で来週、ガーデンパーティーを開くことにしたの。是非、トニーといらしてちょうだいな。」

「えぇ、是非、参加させていただきますわ。」

翌日、ヴァージニアからパーティーの招待状が届いた。
それは流麗な字で書かれていて、流石としか言いようがなかった。
自分も妃教育を頑張っているつもりだったが、全然ヴァージニアには追いついていないんだなということを感じたのだった。

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