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スティーブンからの手紙

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数ヶ月ぶりの王城でマーガレットは一人スティーブンの手紙に向き合っていた。

本当は家族の交流の日なのだが家族に事情を話して手紙を読む時間を設けてもらったのだ。

手紙は軍の配置転換でバーンズに戻る予定だった兵士に渡されたが、その兵士が敵襲に合い生死の淵を漂った。そのせいでマーガレットの手に渡るのにとても時間がかかってしまったらしい。

マーガレットはなかなか手紙を読む勇気が出なかった。手紙を読んでしまうと、スティーブンの死を受け入れなければならないような気がしたからだ。

マーガレットは自分の部屋で手紙を読む気になれず8本の柱が立つ東家に手紙を持ってきた。そこで、ゆっくりお茶を飲みながら心を落ち着けて読もうという算段だ。
用意されたお茶を飲み、丁寧に封筒を開けると中から出てきたのは安価な更半紙だった。少しザラザラした紙にスティーブンらしい力強い文字が並んでいる。

マーガレットは深呼吸をすると文字を目で追った。



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マーガレット嬢

西の地でも落葉が始まりました。マーガレット嬢はいかがお過ごしでしょうか。バーンズの都では冬支度が始まっているのでしょうね。
この冬、私は西の砦の最前線に移動が決まりました。自ら移動を志願したのです。
マーガレット嬢がお聞きになるとまた「どうして」とおっしゃるのでしょうね。
戦争は辛く厳しく常に死と隣り合わせです。私がこれまで二十年、公爵令息として身につけてきた価値観も机上の勉強も戦争は一日で覆してしまいました。

もう、私は以前の私ではないでしょう。
思えば、以前の私は周りに流されるばかりで自分というものがなかったように思います。しかし、戦争では自分というものを持たなければ生き残れず、皮肉な事に死と隣り合わせの環境になって私は初めて「生きる」という事を知ったのです。

私が最前線に移動したのは一種の賭けであります。
もし、私が最前線で生き残り、ロジャースが勝利した日には、私とマーガレット嬢の婚約を解消していただきたいと思っています。
私は公爵家から出て一人の男として自由に生きていきたいのです。

これは私のわがままであり、マーガレット嬢には何も悪いところはありません。私が戦争によって変わってしまったのです。
どうか、マーガレット嬢の新しい婚約者がすぐに決まることを、そしてその婚約者と愛し愛される関係になれることを祈っております。

日に日に寒くなりますのでご自愛ください。
スティーブン


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マーガレットは手紙に書かれていることが信じられなかった。スティーブンとの間には確かに愛があると感じていた。しかし、スティーブンにとってそれは流されている ・・・・・・だけだったのだろうか。


スティーブンと初めて出会ったのは覚えていないくらい小さい頃だった。その頃からマーガレットは優しいスティーブンがお気に入りでいつも彼の後ろをついて回っていた。

スティーブンと婚約者となり将来結婚するのだと知った時の喜びは今でもはっきりと覚えている。あれはマーガレットが十歳のことだった。

それ以来、スティーブンに相応しい女性になろうと精一杯背伸びしてきたが、五歳という歳の差はマーガレットが思っているよりも大きかったのだろうか。

いつもマーガレットを見て微笑んでくれたあの眼差しも偽りのものだったのだろうか。


新しい婚約者と愛し愛される関係・・・
その関係がスティーブンとの間にすらなかったのに、アンソニーとの間で築けるわけがない。彼はヴァージニア様と別れるきっかけになったマーガレットを憎んでいる。

ヴァージニア様はマーガレットから見ても素敵な女性でアンソニーが彼女に恋をするのも、彼女との間に割って入ったマーガレットを疎ましく思うのも仕方ないと思っていた。

しかし、それを仕方ないと思えるのはスティーブンとの間に確かな愛があると、あったと思っていたからだ。それがマーガレットにとっての心の拠り所だった。
心の拠り所が脆くも崩れ去った今、マーガレットの心はひらひらと舞う落ち葉のように不安定に落ちていくようだった。
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