1 / 10
1回目人生①
しおりを挟む「ウソ、だろ」
この依頼は簡単な筈だった。
なのに、油断したわけでもないのに、いとも簡単に僕は味わったことのない極上のフカフカベッドで金髪に藍色の瞳の男に押し倒されていた。
________________________
2ヶ月前、裏社会ではサイレント・キラーとしてちょっと有名な暗殺者である僕のところに、ステラ帝国の第一王子であるファイン・ユーリスを暗殺する依頼がきた。
第一王子は剣術も勉強も“そこそこ”な人物であることは誰でも知っていることだ。だから王位継承権一位の彼が即位したら“そこそこ”良い王になるだろうと言われている。
世の中には“可もなく不可もなく”の方が落ち着くという状況も少なくない。だから誰も第一王子の継承順位に異を唱えていないのだと思っていたがどうやらそうでなかったらしい。
フードを深く被っている依頼者は勿論匿名だが、まあ第二王子側の誰かだろう。
王族の暗殺か、、、
特に優れているところもない彼を殺すのは簡単だろう。しかし”王族“は面倒だなと一瞬迷ったのに気が付いたのか、依頼者が目の前にドスっと鈍い音が鳴るほどのたっぷりの金貨が入った袋を出した事により、僕は依頼を受けることになった。
第一王子はまだ14歳で子供だ。
年下の暗殺はやはり心が痛むがこちらの事情だってある。
僕は16歳だが、不幸な事故で亡くなった親の代わりにまだ幼い弟たちを養わなければならない。
学校にも最後まで通わせてやりたいし食事も満足に与えたい
だから、お金はどれだけあってもいい
________________________
なのに、なんだこの状況は。
ストロベリームーンが淡く輝く真夜中に、僕は警備を軽々潜り抜け第一王子の寝室に入り込むことに成功した。
平均より身体が一回り小さい僕はどれだけ厳重な警備であっても潜り込むことなんて簡単さ
“安らかに、”そう心の中で呟いて眠っている王子の首元にスッとナイフを入れようとした、その時だった。
「やぁ、ご苦労」
「...!?!?」
彼の目がパッと開き、理解する間もないまま視点がひっくり返る。
いつの間にかターゲットは僕の上に跨って、僕をフカフカなベッドの上に押さえつけていた。
気が緩んだ?
否、サイレント・キラーの名は伊達ではないのだ。ただただ相手が規格外のバケモノであることは本能で悟った。
「ウソ、だろ」
“そこそこ”な王族じゃなかったのか!?
目をサッと動かしてナイフを探すと王子の左足で器用に押さえられていた。
これは素人の動きではない
いくら護身術を学んでいたとしても出来る動きと出来ない動きがあるし、何より目の前の相手は“そこそこ”しか運動ができないはずなのだ
「うん、可愛い顔してるね
テオは私の好みを分かって依頼したのかな」
空気が浄化されるような澄んだ声が静かに部屋に響き渡った。
...その言い方だと男娼と勘違いしているのか?
なんてことないようにそう呟いて目をうっとりと細めた彼に心臓がバクバクと激しく打ち始める。
何を考えているのか読めない奴ほど怖いものはない
テオ、とは第二王子のファイン・テオールのことだろう。
第二王子が第一王子に男娼の手配をした、と?
戸惑っていると、スルッと手が伸びてきてあっという間にシャツのボタンが外された。
「んん!?僕は別にお前とセックスしにきたわけじゃない!!」
慌てて思いっきり叫ぶと、第一王子の整った口がニヤッと歪んだ。
「知ってるよ。
あ、これは没収ね。後で返してあげるから」
そして僕の腰に隠されていたナイフ2本を抜くとポイっと床に捨ててしまった。
この男、やっぱり慣れてる
暗殺者が訪れていることに慣れているというより、センスと実力が高い、まさに“ホンモノ”
自分より強い彼に抵抗しても無駄だと悟った僕は、“殺されるんだろうな”とぼんやり思いながら第一王子のされるがままになることにしたのだった。
13
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話
ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
些細なお気持ちでも嬉しいので、感想沢山お待ちしてます。
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日


ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる