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ただ共に歩みたかっただけ。(ダリフside)
しおりを挟むただ、ただただ
愛する人と一緒にいたかった
私が望んでいたのは
それだけなのに。
私の最初の人生は
フォンルックという国で始まった。
隣の家に住む男の子とは、同い年というのもあってすぐに意気投合した。
その子が、シュリだ。
一目見た瞬間から彼は私のお気に入りだったしきっと彼も同じ想いだっただろう。
子供ながら、啄むような軽いキスもした。
しかし私たちの死は
あまりにも突然で、そして呆気なかった。
キキーーッッ
学校からの帰り道、
前触れもなく大きな影が私たちを覆った。
なにが起こったかも分からずに手を繋いだまま2人一緒に道路へと投げ出された。
私たちは馬車に轢かれたのだ。
今でも鮮明に思い出せる。
繋いでいたシュリの手が段々冷たくなっていき、自分の手の感覚も無くなっていく。
血の生温かさや痛さより
シュリとの繋がりの感覚に全ての意識がいったまま、ゆっくりと目の前が暗くなった。
小学一年生だった。
2度目の人生。
フォンルック王国ではなく日本という国に生まれた。
15歳になったが、
シュリにはまだ出会っていない。
しかしいつかは絶対に出会えると、
そう信じて疑わなかった。
「お兄ちゃん!これやってみてよ。
お兄ちゃんと名前が一緒なんだよ」
妹に勧められたゲームは、なんとあのフォンルック王国が舞台になっていた。
「レオ...ってあのレオか?」
前世で学校が同じだった子供たちの名前が出てくるのを不思議に思いゲームは最後まで終わらせた。
25歳。
シュリを養えるように有名な大学を出てホワイトな大企業に就職した。
まだシュリには出会わない。
世界は広いけどシュリは絶対日本で産まれると、そう思うんだ。
34歳。
独身であることを不思議がられている。
まだシュリには出会っていない。
40歳。
親に結婚させられた。
親不孝者になるのも気が引けて静かに受け止めたが、妻にはずっと探している愛する人が見つかったら離婚することを伝えた。
妻はこの年に妊娠した。
まだシュリには出会わない。
72歳。
孫が産まれた。
可愛い可愛い男の子。
大きな産声が聞こえ、暫くしてから
看護師が赤子を抱いてこちらへきた。
「抱いてみますか?」
差し出された子供をゆっくりと抱く。
なんて温かいのだろう。
泣き止んだ赤子が大きな瞳の半分を開けて、私は気付いてしまった。
あぁ、シュリ。遅いよ
でも、出会えてよかった。
生まれた子は私が朱欐と命名した。
出会った頃から変わらない、屈託のない笑顔に綺麗な声そして優しさに触れて、ますます想いが膨らんでいく。
あぁ、
どうしてこのような形で
再会したのだろうか。
神は無慈悲だ。
私の汚い感情には蓋をした。
朱欐は覚醒していないようだ。
今世では思い出したら混乱を招くのでホッとしていた。
朱欐の成長をまだまだ見守りたい気持ちに反して身体は段々と衰えていく。
そして朱欐が見舞いに来た時、
私は複雑な感情を抱えたまま
死を迎えたのだった。
そして目が覚めた。
3度目の人生だ。
日本ではなく、フォンルック王国の第一王子となり、私の側近候補として挙げられていた侯爵家の息子、シュリと7歳の時再会した。
前世でのこともあり
早期の再会に興奮してしまった。
「彼と結婚する!」
そう宣言すると、親に呆れられた。
貴方には婚約者がいるでしょ?と。
変えられない運命。
そう思っていたのにいつのまにか私を私ではない誰かが支配して、気が付いたら追放されて平民になっていた。
のちに、前世でやったあのゲームと全く同じだと気づいた。
信じがたいが、
強制力が働いていたのかもしれない。
アリアルディ・ユキルという子と浮気をして婚約者であるレオと公爵家を怒らせたのだ。
畑を耕しながら考え事をする。
「冒険者になりたいんだ!」
キラキラした目でそうシュリが語っていたのを思い出した。
堅苦しいのが嫌で、いつか平民になってやると意気込んでいた彼は、私が追放された時
「すぐに僕も平民になりますから!
そして一緒に旅に出ましょう!」
と笑っていた。
私は待った。
73年間も待てたのだから、
このくらいどうってことない。
1年経った。
なけなしのお金で探偵を雇い調べてもらうと、シュリは幽閉されているらしかった。
そして50年間、
それだけが私の知っている彼の情報となった。
脱出に失敗したのだろう。
それか、私のように何かやらかしたら平民になれると思っていたが実際は幽閉されてしまったとかかもしれない。
ゴホゴホッッ
酷い世の中だ。
病が流行り、私も罹ってしまった。
平民の受けられる治療なんて分かりきっている。
そんな寝たきりの状態が続いていたある時、家に一通の手紙が滑り込んできた。
水色の厚い紙で作られた手紙に家紋。
送り主は一目で分かった。
“エバルシャレ元当主、
エバルシャレ・シュリが亡くなられたことをご報告します。”
“遺書 ダリフへ。
愛してた。そして愛しているよ。
運命的な繋がりだけじゃなくて、身体も心も繋がりたかった。
一緒に旅に出たかったのに、約束を守れなくてごめん。
今度会う時は天国かもな。
それとも日本かまたまたフォンルック王国かもしれない。
私はもうじき死ぬ。
だが、死を乗り越えた先に君と歩む人生が待っていると思うとなんだか幸せな気持ちで最期を迎えられそうだ。
愛しているよ。 シュリ”
愛する人の死の知らせ。
それなのに何故か心は静かだった。
そして遺書を読み終わった時の達成感と温かさ。
「私も今いくよ」
青い空に向かって呟き
彼の遺書を胸元で抱いてそっと目を閉じると自然と意識が薄くなる。
あぁ、神よ。
愛する人と引き裂かれるのはもう十分。
一緒になれない人生を3回も繰り返し
私ももう限界だ。
でも、ようやくあの世で
シュリとゆっくり過ごせる
それを疑わず
すっきりとした気持ちで
私は3回目の死を迎えた。
「ここで今、ダリフお兄様の王位継承権剥奪を言い渡します。」
淡々とホールに響く弟の声。
全て終わったのだと思っていた私は
4度目の人生を迎えていた。
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