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秘花81

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

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「僕―」
 知らず眼に涙が溢れていた。
 王は手を伸ばして賢の艶やかな髪を撫でた。
「その様子では、自分がどれだけ色っぽい格好をしているか気付いてないだろう」
 王の長い指がツと動き、賢の胸の膨らみに触れた。それだけで燃え盛る身体の熱は更に上昇する。なのに、彼の指は更になだらかな乳房を這い上り、円い膨らみの先端、慎ましい薄紅色の乳首を引っ掻くように触れた。
 触れられた突起からむず痒いような感覚が身体全体にひろがる。
「ぁあっ」
 自分でも恥ずかしいほど艶めいた声が洩れ、賢は小さな顔を絶望の色に染めた。
「良い声で啼いたな。この世のどんな男でも血迷わずにはおれない声だ」
 王が賢の耳許で濡れた声で囁く。
「薄絹に包まれているとはいえ、そなたの身体は丸見えだ。裸同然の格好だが、かえって薄い生地を通して見れば、男の情欲を煽り立てる」
 大人ならばゆうに数人は眠れそうな広い寝台の上には、純白の絹の夜具、その上には緋薔薇(そうび)の花びらが無数に撒かれている。極薄の夜着に包まれた賢の豊かな肢体は、真上の王からでは乳房はむろん下腹部までよく見下ろせる。当然といえ当然だが、薄物に着替えさせられた時、下穿きまで脱がされていて、夜着の下は何も身に付けていない状態だ。
 王は寝台に撒かれた花びらをひとひら摘み上げた。
「この薔薇の花びらは、そなたの花のような唇に乗った紅の色と同じだ」
 濡れた声を落としながら、長い指先が波打つ乳房を包み込み、ゆっくりと揉みしだく。その合間には突起を弾かれ、乳暈をなぞるように円く撫でられ、その度に賢の唇からは艶めかしい喘ぎ声が洩れた。
「あうっ、ぁ、あぁっ」
 殊に辛かったのは、敏感になりすぎた乳首に触れられるときだった。胸に触れられる度に感じた熱は全身に拡散し、ずっと下の方、秘められた狭間へと溜まってゆく。それが何を意味するのか、賢には判らないけれど、その次第に溜まってゆく熱は賢の身体の芯を疼かせ、どうしようもないほどの飢餓感をもたらすのだ。 
 その切ないようなもどかしさは次第に烈しくなり、賢は無意識の中に閉じた両脚をすり合わせ、小さく腰を揺らした。
 王は小さく含み笑い、賢の髪を愛おしくてならないように撫でた。
「いっそこのまま、そなたを抱こうか、王妃? 丞相どもの思惑にまんまと填ったふりをして、そなたのこの極上の身体を味わうのも良いかもしれぬ」
 賢の眼が見開かれた。透明な雫が溢れ、白い頬を流れ落ちる。
「殿下、お願いだ。止めて。僕はいやだ。こんなこと、いやだ」
 王がいっそう賢に顔を近づけた。殆ど唇が触れ合いそうなほどまで近づき、囁く。
「さりながら、王妃。そなたの身体は今や媚薬のせいで熱く燃え盛り、その熱はそなたの心さえ凌駕しようとしている。あと一刻も経てば、そなたは悦(よ)がり狂い出し、男なら誰でも見境なく抱いてくれとせがむようになる。そなたがどうでも厭だと申すなら、俺は手出しはせぬ。俺は優しい男だから、この寝所の扉を開け、今宵、寝ずの番をしている近衛兵をここに呼んでやろう。屈強な護衛官は武芸で鍛え抜かれた身体をしておるゆえ、貫かれたときもさぞかし心地良いであろうな」
 優しい口調とは裏腹に、残酷な科白だ。賢は涙眼で王を見上げた。
「それとも」
 王は賢の髪を優しげな手つきで梳く。身体を弄り回すだけでなく、言葉でも賢を辱めようとでもいうように。
「そなたは普通の男よりは宦官が好きなようゆえ、若い内官を呼ぶとしようか? それも一人ではない、そなたが望むだけの内官を呼び、彼らに慰めて貰うが良い。さて、どうする?」
「止めて。お願いだから、もう、止めて」
 賢は聞いておられず、涙ながらに王に哀願した。
「殿下、このまま僕を殺してくれ。本当なら父上がみまかられた時、僕はその後を追うべきだったんだ。なのに、僕だけがおめおめと一人生き存えた」
 それが間違いの元だったのだと今なら判る。父王が崩御した際、自分も潔く後を追うべきだった。そうすれば、ジュチが都から離れた鄙の村で非業の死を遂げることもなく、自分もこのような辱めを受けることはなかったのに。
 王の双眸から憑かれたような切迫した光が消えた。
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