秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ

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秘花⑤

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

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 元の皇帝はこの遠くにいる孫の身については特に神経質になっている。高麗の王太子は愛娘の忘れ形見であった。幼い孫の身に高麗国内で何かあれば、娘婿たる高麗王をも許さないはずだ。直ちに軍勢を寄越して高麗を攻めるに相違ない。
 それでなくとも、守り役や尚宮の眼を盗んで、勝手に子どもだけで遠出してしまったのだから。二人はよくこうして、大人の監視をかいくぐっては王宮を抜け出して遊びに出かけた。
 今頃、お付きの宦官や女官たちはまた大慌てしているに違いない。別に彼らを心配させて悦んでいるわけではなく、乾は純粋にこの大好きな従兄と二人だけの時間を愉しみたいだけだ。
「だから俺が言っただろ? 調子に乗りすぎるからだ」
 安心しすぎて、かえって口調がぶっきらぼうになった。賢が殊勝な口ぶりで言った。
「ごめん」
「いや、俺もきつく言いすぎた」
 乾は川原に脱ぎ散らかした上衣を拾い、従兄の裸身を包んだ。ここは人眼がないが、万が一、王太子の裸身を誰かに目撃されてはまずい。
「本当に済まなかった。僕が軽率だった」
 乾の口数が少なくなったことを、賢は誤解したらしい。まさか、賢の裸身に見とれていたとは言えるはずもなく、乾は無言で頷くだけにとどめた。
 従兄が脱いだのがまだ上衣だけで良かった。両性具有、男でもない女でもない、言い換えれば男でも女でもある。言葉では何となく想像がついても、具体的に、どのような身体であるのか。男として生まれ育った乾には考えも及ばないことだ。
 だが、今の賢の身体を見る限り、その理解しがたいことが少しは理解できたような気がする。男であれば、年頃になっても胸は発育しない。逆に体軀も逞しくなり、声変わりすするだろう。十歳の乾は早くも少し声が掠れたりすることがある。
 従兄の身体は、これからどうなってゆくのだろうか―。王から従兄の抱える秘密を打ち明けられてからというもの、乾は彼なりに書物で調べてみた。難しい表現は判らないままだったけれど、結局、知り得たのは、両性具有は一生そのままである場合と、成長に従って男性化女性化が進み、成人とともに完全な男性体か女性体になることもあるということだ。
 個人の意思とは関係なく、それは自然の理で決められ、性別は選べないとも。従兄が己れの秘密を知れば、間違いなく男性になることを選ぼうとするだろう。
 今日、乾にならば王位を譲っても構わないと言ったが、元々、賢は責任感の強い王子だ。己れが背負う過酷な宿命を知れば、尚更、愛する祖国高麗を守るべく王になりたいと願うに違いなかった。賢とは、そういう人間であり、そんな従兄だからこそ、乾は従兄が好きになった。
 だが、俺は―。
 そこまで考えて、乾は愕然とした。俺は一体、賢に何を望んでいるのだろう? このままずっと女性化していって、最後には完全に女性になることを望んでいる!?
 乾は慌てて、そんな邪心を打ち消した。いや、俺の望みはいつだって大好きな従兄が望むようにしてやりたいということではないか。賢が王になって高麗のために尽くしたいというのなら、俺はその傍らで王の参謀として、できることは何でも協力する。たとえ、この生命に代えても、従兄のために働くのだ。それが、俺の願いではなかったのか?
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