4 / 34
源氏の一族
「潮騒鳴り止まず~久遠の帝~」
しおりを挟む
源氏の一族
その日から、楓の新しい日々が始まった。時繁は得難い良人となった。妻を労り、声を荒げることなどなく、よく働く。夜は楓を情熱的に幾度も求め、時には暴走しすぎて楓を泣かせることもしばしばだったが―、それも良人に愛されている裏返しだと思えるのも、楓もまた時繁に腑抜けるほど惚れているからだろう。
結ばれてひと月が経った頃、二人は連れ立って町に出かけた。楓は人眼に立ってはまずいため、滅多と町には出ない。今のところ、河越家では楓は急病にて伊豆で療養中と苦しい言い訳をしているらしい。北条との縁談はこれにより、無期延期、つまり事実上の破談となったと聞いた。
時繁は毎日、漁に出て獲った魚を町へ出て売りさばいてくる。その折々に得た情報では、河越恒正は突如として行方知れずになった娘をしばらくは手を尽くして探させていたらしい。しかし、娘の行方は杳として知れず、探索は十日余りで打ち切られたとのことだった。
「さつきは? さつきはどうなったか判りませんでしたか?」
楓は時繁に勢い込んで訊ねたけれど、彼は申し訳なさそうに首を振った。
「悪いが、乳母どのの消息は知れなかった」
魚の行商をしながら町を歩くため、比較的情報を手に入れやすい立場ではあるが、あまりに執拗に河越の娘のことばかりを訊き出していては、逆に怪しまれかねず、そこから足が付いてしまうこともある。
それを考えれば、これ以上、踏み込んで訊ね回るわけにはゆかなかった。さつきは北条時晴との婚礼前夜、楓を意図的に逃がした。仮に故意ではないと恒正が認めたとしても、乳母として姫君監督不行届の責任は大きいだろう。
何らかの処罰を受けたのは明白で、楓としては、それが知りたかった。が、時繁の立場を思えば、これ以上の無理は言えない。また、それが原因で河越の父の手の者に見つかり、無理に時繁と引き離されることになっては悔やんでも悔やみきれない。
その日は、ひと月ぶりの外出で、楓も何とはなしに浮き浮きと心が弾んでいた。河越の探索が無くなって既に半月は経過している。用心のため、楓は市女笠の周囲に紗(うすぎぬ)を垂らしたものを目深に被り、漁師の女房らしい粗末ななりをしていた。
もっとも、時繁と暮らすようになって以来、文字どおり漁師の女房だったから、暮らしに合った質素な小袖しか買えなかった。屋敷を出た時、身に纏っていた小袖は上物だったため、古着屋で売ることも考えたが、そこからまた河越の父に居場所を知られては困ると止めた。
用心には用心を重ね、時繁は目抜き通りには行かず、あまり人通りのない道を選んで歩いた。それでも、道の両脇には露店が居並び、物売りのかしましい声が聞こえている。
鎌倉こそが今は都とは、誰もが認める動かしようのない事実であった。市の賑わいや道をゆく人々の活気に満ちた表情はこれから伸びてゆくこの東の武士の都のゆく末を示し、ことほいでいるかのようである。
楓の手を引いて歩いていた時繁が突如として止まった。
「何か欲しいものはない?」
楓は眼をこらして紗の向こう側を透かし見た。見れば、正面には小さな露店があった。台の上に様々な櫛が並んでいる。
「可愛いわ」
傍らの時繁を見上げて微笑んだ。
「では、一つ買ってあげよう」
楓は慌てた。
「いえ、要りません。大丈夫です」
魚を獲って稼ぐ日銭は知れている。そんな贅沢品は買えないと言おうとしたのに、時繁は有無を言わせず手に取った櫛を買い求めていた。
「可愛い奥さんに」
差し出された大きな手のひらには不似合いな小さな櫛は、黒塗りで白く桜が描かれていた。一箇所だけだが、小粒の真珠もはめこまれている。高かったに違いなく、楓は胸が熱くなった。
「ありがとうございます。大切にしますね」
櫛を押し頂くようにして眼を潤ませる妻を、時繁は切なげに見つめる。
「済まない、俺が甲斐性なしなばかりに、楓には辛い想いばかりさせる。お前も年頃の娘だ、綺麗な着物や紅も簪も欲しかろうに」
楓は真顔で首を振った。
「時繁さま、そんなことはありません。私は時繁さまのお側にいられるだけで幸せなのです。それに、私は河越の屋敷にいた頃から、綺麗な小袖にもお化粧にも興味はありませんでした。ですから、どうか、そんなことでお悩みにならないで下さい」
「楓は優しい娘だな」
時繁は泣き笑いの表情で言った。
「だが、俺も男だ、たまには楓に頼られたい。いつも我慢ばかりせずに甘えてくれ」
「はい」
楓は元気よく頷くと、櫛屋の傍らで野菜を売っている老婆を見つけて歓声を上げた。
「時繁さま、見て。大根がたくさんあるわ。今日は時繁さまが獲ってきた鰯と大根にしまょう。大根は少し辛めに煮れば、お酒のつまみにもなりますよ?」
言い終わらない中に老婆に近づき、山盛りになった大根を間に、にこやかに話している。
「閨の中では随分と大人になったのに、昼間は最初に出逢ったときと変わらぬな、まるで子どもだ」
時繁は呟き、妻と過ごす毎夜の濃密な時間を思い出し、それから我に返った。二十歳で所帯を持つまでにむろん女性経験はあった。数度関係を持ったのはもちろん素人女ではなく、辻で春をひさぐ女であった。
だが、時繁は特に自分が好色だと思ったことはないし、適度に欲求が満たされれば無理に女を抱きたいと思ったことはない。なのに、楓が傍にいると、つい触れたくて手を伸ばし、触れれば、そのみずみずしい肢体を抱きたいと思う。しかも、ひとたび火が付けば楓が泣いて許してと泣くまで、ひたすらその身体を求めずにはいられない。
だとしたら、自分がよほどの好色漢だったのか、それとも、楓だから泣かせるまで烈しく求めるのか―。恐らくは後者なのだろうが、どちらにしても、楓にとっては迷惑な話かもしれない。
それでも、妻と過ごす今夜を想像しただけで、あられもない話だけれど、身体がすぐに反応してしまう。交渉成立したらしい。楓が腕に大きな大根を二本抱えて走ってくる。
「おい、大きな大根を抱えて往来を走ったら危ないぞ」
過保護ぶりを発揮し、時繁は妻の手から大根を造作もなく受け取った。
「時繁さま、以前から申し上げようと思っていたのですが、私はもう十六です。子どもではないのですゆえ、子ども扱いはしないで下さい」
楓が頬を膨らませるのに、時繁は笑った。
「ほれ、そういうところが子どもだというんだ、すぐに拗ねるだろう」
やわらかな頬を指でつつくと、更に楓は膨れる。
「知りません」
怒った楓は一人で先に歩いていった。時繁は慌てて追いかけてゆく。
「お前が子どもでないことはよく判ってる」
「本当ですか?」
期待に込めた眼で見上げる無垢な瞳に、時繁は耳許で囁いた。
「閨で見る楓の身体はどう見ても子どもじゃない、立派な大人だ」
楓は瞬時に真っ赤になり、拳を振り上げた。
「酷い、それでは私が身体だけ大人で、頭の弱い娘のようではありませんか!」
可愛い妻は本気で怒っている。大きな黒い瞳には涙さえ浮かべていた。
時繁は狼狽える。楓に泣かれるのはいちばん弱いのである。
「す、済まん。別にそういう意味で言ったのではないんだ」
楓の振り回した拳が時繁の腕に当たった。
「痛ぇ。この暴力女め、今夜はお仕置きだ。覚悟しておけよ?」
わざと蠱惑的な声音で囁くと、楓は熟した林檎のように紅くなる。楓が今夜の夫婦の営みを想像しているのは明らかだ。
泣かせて嗜虐的な歓びを感じるのは閨の中だけで良い。しかも、楓は彼のために慣れない料理も頑張って拵えている。少しでも彼を歓ばせようと奮闘しているのはいじらしいほどだ。何しろ河越家の姫として大切に育てられた楓には料理をしたことがあまりない。
今でも、砂糖と塩を間違えたりすることは日常茶飯事で、彼はひと口食べただけで吹いてしまいそうな代物を食べさせられている。それをさも美味しそうに食べるのは、いかに楓を愛している時繁にも至難の業だ。
今夜も彼のために腕を振るおうと期待に眼を輝かせている楓に、実は夕餉よりはその後の夫婦の密事の方が愉しみなのだとは口が裂けても言えなかった。そんなことを口にでもすれば、楓は本当に怒って出ていってしまうかもしれない。どこまでも楓に弱い時繁である。
二人はいつしか喧嘩していたことも忘れ、楓は時繁の腕に自分の腕を絡めて、老婆が大根の他に青菜もおまけしてくれたのだと得意げに良人に報告した。寄り添って歩くその姿は、どこから見ても仲睦まじい若夫婦そのものだった。
楓は毎日、幸せだった。愛する男の傍にいられるのがこんなにも幸せだったなんて、考えたこともなかった。父の命じるままに北条時晴に嫁がなくて良かったとつくづく思う。
町に出かけた数日後の昼下がり、楓は時繁の着物を繕っていた。こう見えても、料理は苦手だけれど、裁縫は得意なのだ。小袖も縫おうと思えば縫える。時繁のためにも新しい小袖と袴を用意してあげたい。それも漁師が着るような簡素のものではなく、武士が着るような、それなりのものを。
元々、彼の両親は武家だと言っていた。そんな彼に一度だけでも武士としての晴れ着、狩衣を着せてあげたい。でも、今は彼は漁師なのだ。余計なことをするとかえって怒るだろうか。それでも、楓は狩衣を着て盛装した彼を見てみたいと思った。
だが、そのためには布を買う必要がある。時繁は楓に町で魚を売ってきた金はすべて渡してくれている。その金はたいしたものではないが、時繁は楓の好きに使って良いと言ってくれていた。かといって慎ましい暮らしを維持しなければならないと判ってるのに、無駄遣いはできない。なので、日々の糧を得る以外に使うことはなかった。
時繁は元々、着る物に気を遣う質ではないようで、持っているのは粗末な小袖と袴が数組だけ、それをすべて繕うのに時間はかからなかった。まだ繕うものがないかと楓は部屋の片隅の柳行李に近づいた。
既に繕い終えた着物は今朝、時繁が漁に出る前に自分で出していったものばかりだ。まだ行李の中に何か残っていないかと蓋を開き、覗き込む。と、衣類ではなく、使ってはいない薄い夜具が二枚重ねて入れてあった。
夜具をのけると、その下からは立派な黒塗りの箱が突如として現れ、楓は眼を瞠った。
「これは何―?」
思わず声に出して言ってしまい、慌てて周囲を見回す。誰がいるはずもなかった。
黒塗りの箱はかなりの大きで、縦長だった。表には蒔絵細工で咲き誇る牡丹とつがいの蝶が描かれていた。いずれ有名な職人の手になるものに違いないことは判った。
興味を惹かれて蓋を開ければ、中からは更に古びて色褪せた布に幾重にもくるまれた品が現れる。武家の娘として生まれ育った楓には、そも何なのか、おおよその見当はついた。
恐る恐る手を伸ばしたのと、小屋の扉が勢いよく開いたのはほぼ時を同じくしていた。
「何をしているんだ!」
血相を変えた彼が駆け寄り、楓の眼前で蓋の開いたままの行李や蒔絵の箱と楓を鋭い眼で交互に見やった。
「何故、勝手に開けた」
時繁は楓の両肩を掴み、揺さぶった。
「よもや中身を見たのではないだろうな」
あたかも楓が大罪を犯した罪人のように剣呑なまなざしで見つめてくる。その酷薄とさえいえるほどの表情はどこまでも冷め切っていて、楓がよく知る良人とはまったくの別人だ。
「私は―中身は見ておりません。そんなに大切な品だとは知らず」
楓は別の男のようにしか見えない時繁が怖くて、怯えた。小刻みに身体を震わせて涙ぐむ妻をしばし時繁は惚けたように見つめた。
短い静寂が流れた後、時繁がポツリと呟いた。
「悪かった」
時繁は低い声で言い、楓を引き寄せた。
「済まん、大きな声を出したりして、怖かったろう。別に楓を怒ったわけじゃない。ただ、もう今後は、あの行李は開けないでくれ」
「何か大切なものなのですね? 私には刀のようにお見受けしましたけれど」
つい訊かずにはいられなかった。普段は穏やかな海のような男を瞬時にあれほど惑乱させるものとは何なのだろうか、知りたいという欲求には勝てなかった。
言った後で、また機嫌を悪くするかと思いきや、彼は小首を傾げて意外にも教えてくれた。
「流石は河越恒正どのの娘、武家の姫だけはある。やはり、バレてしまったか」
それから彼は一瞬だけ遠い眼になった。
「これは祖先から受け継いだ大切な刀だ」
「家宝のようなものですか?」
恐る恐る問えば、これにも時繁は笑顔で頷いた。
「まあ、そのようなものだ。それゆえ、今後は何があっても、あの行李を開けてはならない、約束してくれるか?」
楓は時繁の深い瞳を真っすぐに見つめた。
「判りました。お約束致します。旦那さま、私は良人が見るなと言ったものを無理に見ようとは思いませぬ、どうか楓を信じて下さいませ」
時繁が破顔し、楓の髪をくしゃっと撫でた。もう、いつもの優しい彼に戻っている。楓は心の底から安堵して、時繁の広い胸に身体を預けた。
その日、楓は町に一人で出かけた。もちろん、時繁には内緒である。心配性の彼に一人で出かけるなどと言えば、反対されるのは判っている。
楓が時繁と暮らすようになってはや、ふた月を数えていた。海辺の家で初めて結ばれたのはまだ桜が咲く時分だったのに、今はもう水無月に入っている。
ひと月前、時繁に連れられてきた時、櫛屋の斜向かいに古着屋があったのを記憶している。あの店では布も多少は商っていたようだから、あそこで時繁の狩衣を仕立てる布を求めてはどうかと思案したのである。
古着屋の主人は五十前後の痩せた男だった。丁度、昼時なのか、竹包みを開いて大きな握り飯を頬張っているところだ。
「おじさん、こんにちは」
愛想よく声をかけると、座っていた主人は細い眼をちらりと動かして楓を見上げた。その前には十数着はある古着がかかった棒が立てられている。傍らの台に無造作に単布が積まれていた。
「お昼時にごめんなさい。少し良いかしら」
主人は肩を竦めた。
「客に来てくれる時間を指図できるほど、うちは儲かっちゃいないからな」
ニッと笑った口の中、前歯が欠けていた。
「今日は古着ではなくて、布を見せて頂きたいんだけど」
「判った、あるのはこれだけだが、良かったら、見ていってくれ」
見かけは無愛想で取っつきにくいが、話してみると人の好さそうな男である。丁度、河越の父と同じ年頃なので、楓はつい父のことを思い出してしまった。
そのときだった。斜向かいから、腰の曲がった老婆がこちらに近づいてきた。
「徳八さん、気張って商いしとるかね」
楓も見憶えのある老婆だ。あの大根を買った野菜売りである。
二人は親しい様子で、近況を賑やかに喋っている。その中、楓の耳に飛び込んできた科白に、愕然とした。
「そういえば、頼朝さまの第一のご家来衆といわれる河越さまが病に倒れなさったというがね」
思わず老婆に取り縋り、詳しい話を聞きたいと思ったが、ここで不必要に自分の存在を印象づけない方が良い。楓は布を選ぶふりをしながら、細心の注意を払って二人の会話に集中した。
どうやら老婆は時折、河越家に立ち寄り、台盤所の賄い方が彼女から野菜を買い上げているらしい。それで多少は河越家の内情に通じているのだ。幸いなことに、主君の娘である楓は厨房に近づくことは殆どなかった。
だからこそ、老婆が楓の顔を知らないのだ。
「それは大変ではないか。河越さまといえば、北条さまと並んで頼朝さまの懐刀と呼ばれているだろうが」
主人が言うのに、老婆はしたり顔で頷いた。
「頼朝さまに取り入ろうとする輩は多いが、河越さまがおいでじゃから、なかなか悪い虫は寄りつけんと専らの噂だからのう。何せ、河越さまは謹厳実直を絵に描いたようなお方、己が栄達しか頭にない連中とは違い、頼朝さまのおんために動かれる。頼朝さまもそのことをよおくご存じなのじゃろうて」
市井の老婆には不似合いな鋭い見解を披露し、老婆は声を落とした。
「何でも河越さまの姫さまがふた月ほど前にゆく方知れずになったとか。お屋敷では病気で伊豆にお行きだとごまかしとるらしいが、賄い方のお喋り女がわしにそっと教えてくれた極秘情報じゃ」
古着屋は細い眼を見開いた。
「おお、そういえば、あの北条の馬鹿殿に河越の姫さまが嫁ぐという話があったがや」
老婆は面白い芝居を見たかのように愉快そうに笑った。
「マ、あの女狂いの若さまにもちっとばかり良い薬になれば良いがの」
「ならば、姫さまは馬鹿殿がいやで、逃げ出したと?」
老婆は鼻を鳴らした。
「あのような女の尻を追いかけ回すしか能のない阿呆男は、わしでもご免じゃ」
と、古着屋が吹き出した。
「しかし、言わせて貰えば、あの若さまも婆さんには流石に手は出すまいて」
老婆は真顔で首を振る。
「いやいや、あの阿呆は女であれば、皺だらけの婆ァであろうが襁褓の取れぬ赤児であれば、何でもござれよ」
「そいつは厄介だ」
古着屋はおどけたようにピシャリと我が手で広い額を叩いた。随分と芝居がかった仕種だ。
「マア、あの倅にはとかくの悪評があるし、姫さまとの縁談が持ち上がる前から既に側妾との間に子が三人もおるというぞ。そのようなうつけに嫁がずに済んで、姫さまは幸いじゃった。河越の殿さまも気の毒に、ゆく方知れずの姫さまを案ずるあまり、気鬱の病に倒れたというからの」
それから少し、別の話をして、老婆は漸く自分の持ち場に帰っていった。
古着屋の主人が楓に声をかけてきた。
「待たせたな、で、決まったかい?」
楓は選んでおいた単布と引き替えに銭を払い店を後にした。
浜辺の小屋までの道のりをどうやって帰ったのかも判らなかった。それから数日というもの、楓は沈み切っていた。そのことに敏感な時繁が気付かぬはずがない。
五日目の夜、夕餉がいつもより早くに終わった後、楓は仕立物の続きをしていた。むろん、時繁の狩衣を縫っているのである。
「―えで、楓」
焦れたような声に、楓は弾かれたように顔を上げた。
「あ、どうかしましたか?」
眼前に時繁の整った面が迫っていて、楓は慌てる。時繁は苦笑していた。
「お前、俺に何か隠し事をしているな。先刻から幾度呼んでも、返事をしない」
「そんなことはありません」
時繁の深い瞳には何もかも暴かれてしまいそうで、楓はさっと顔をうつむけた。
「嘘をつけ。楓がここ数日、ずっと沈んでいたのは知っているぞ」
楓が黙り込んだのを見て、時繁はあからさまな溜息を吐いた。
「楓が強情なのは知っている。だが、俺はこれでも、いつもそなたの傍にいて誰よりもお前を見ている。お前がいつもと違うのくらいは判る」
楓は胸をかすかに喘がせ、顔を上げた。その眼に見る間に大粒の涙が溢れたので、時繁は動転した。
「どうしたんだ! 俺の言い方はそんなにきつかったか? 何も別に怒ったわけではなく―」
楓の涙には弱い時繁は慌てふためいている。楓は首を振った。
「違うのです、そうではないのです」
時繁がポカンとして楓を見つめる。
「なに? 俺のせいで、泣いたのではないのか?」
「実は数日前、町に出かけました」
怒られることは覚悟で、楓は外出のことから、古着屋と老婆の話までを時繁に打ち明けた。
時繁はじっと楓の話に耳を傾けていたが、すべてを聞き終えて難しい表情で腕組みをした。
「それで、楓はどうしたい?」
え、と、楓は時繁を見返した。時繁が薄く笑った。
「あれほど一人で外出してはならないと言ったのに、楓が町に出かけたことも愕いたが、今はそんなことを話している場合じゃない。親父どのが病に倒れているというのなら、楓は帰りたいとそう思っているのではないか?」
楓は大粒の涙を零しながら、烈しく首を振った。
「時繁さまは何故、そのような残酷なことを平然とおっしゃるのです? 私は河越の父も心配です。さりながら、時繁さまのお側を離れたくもない。時繁さまも今は父と同じくらい大切な方だから」
時繁が淋しげに微笑む。時折、彼の美麗な顔にちらつく翳りがいっそう濃くなった。
「だが、親父どのが病に倒れたと知った今、俺はお前をここに縛り付けておくことはできない。楓、俺も辛いんだぞ」
彼は小さく息を吸い込んだ。
「思えば、俺はいつかこんな日が来るとどこかで覚悟していたような気がする。大切な人、愛する者たちはいつも俺だけを置き去りにして去ってゆく。だからこそ、俺は長い間、誰も愛さず求めず、ひっそりと一人で生きてきた。だけど、お前に出逢って、楓を愛してしまった」
楓は泣きながら時繁に縋り付いた。
「私はいや、時繁さまのお側を離れたくない。屋敷を出る時、父とはこれが今生の別れになると私も覚悟して出て参りました。ですから、屋敷にはもう戻りません。戻ったら、父の顔を見るだけでは済まないもの、父は必ず激怒して時繁さまと私の仲を裂こうとするでしょう。私はそんなのは耐えられません。時繁さまと離れるくらいなら、海に飛び込んで死にます」
泣きじゃくる楓の背を撫でながら、時繁が低い声で言った。
「間違っても海に入ろうなどと言うな。楓は入水するのがどれだけ苦しいか、知らないだろう? 水に飛び込んだ途端、呼吸もできなくなって、生きながらの地獄を見て本物の地獄に行くことになる。俺の大切な人たちも―祖母や伯父たちは入水して亡くなったんだ」
楓は怖ろしい予感に顔を上げ、時繁を見つめた。
「もしや、時繁さまもその時、ご一緒に?」
時繁がかすかに頷いた。
「何の因果だろうな、俺だけが一人、陸に打ち上げられて助かった。俺を助けてくれたのは流れ着いた先の漁師だった。最初は溺死した幼い子どもだと思い込んだそうだが、虫の息があったので、蘇生処置を施したのだと聞いた。俺は大量の水を吐いて、息を吹き返した。俺を助けてくれた漁師は本当に奇蹟のようなものだとその後、何度も言っていた」
その漁師の養子となり、時繁はそこで成長したのだという。故あって十五の時、育ててくれた両親に暇乞いをし、ここ鎌倉の地に来たのだと語った。
「お前が行李の底で見つけた品は、俺が暇乞いを告げた時、両親が渡してくれたものだ。俺が流れ着いた傍に、これも同様に流れ着いていたそうだ」
時繁が眼をしばたたいた。
「養父も養母も優しい人たちだった。あのまま漁師の倅として一生を終えれば、平穏な生涯が送れただろう。養父がよく言っていたよ。家宝の宝刀は持ち重りのするものなのに、海の底に沈まず俺と一緒にほぼ同時に見つかった。俺が助かったのと同じように、宝刀が俺とともにあったのも奇蹟のようなものだと笑っていたな。人倫にもとる行為を天はけして認めない、だからこそ、正当な宝剣の継承者である俺と共に宝刀が現れたのだと」
楓は涙をぬぐった。
「時繁さまはきっと由緒ある武家のご子息なのですね。下級武士の子だというのは嘘。鎌倉には、何ゆえ来られたのですか?」
時繁が楓を見つめた。
「宿願を果たすために」
楓は何故か、時繁のその瞳を怖いと思った。何かを一途に思いつめたような光が閃くその瞳の底に燃えるのは間違いなく復讐の焔だった。
時繁はそれからしばらく寝転んで眼を瞑っていた。眠っているのではないことは判っていた。思案の邪魔をしてはならないと楓は傍らで狩衣を縫い続けた。
唐突に時繁が眼を開いた。彼は身を起こし、〝楓〟と妻の名を呼んだ。
「お前はどうしても俺と離れたくないと?」
楓はコクリと頷いた。
「あなたさまにいつか申し上げました。たとえ、あなたが私に飽きて出ていけと仰せになっても、私は出ていきません」
時繁が小さな声で笑った。
「俺がお前に飽きる日が来るはずがないだろう。俺はもう楓なしで夜は過ごせない」
楓の白い頬に朱が散った。
「もう! こんなときにご冗談は止めて下さい」
頬を膨らませた楓に手を伸ばし、彼はいつものように人差し指でつついた。
「ならば、俺も共に参ろう」
「え―」
楓は針を持つ手を止めた。
「俺は楓の良人だ、違うか?」
茫然としている楓の顎先を掬い、時繁は軽く唇を触れ合わせ啄んだ。
「そなたが河越の者に戻るというのであれば、俺もついてゆく」
楓は唇を戦慄かせた。愛する時繁がここまで言ってくれたのは嬉しい。けれど、河越の屋敷に脚を踏み入れて、時繁が無事でいられるとは思えない。楓は北条時晴との祝言前夜に屋敷を抜け出し、時繁の許に走った。
時繁は楓の氏素性、北条との縁組みを知った上で楓を抱いた。父がそれを知り、時繁を許すはずもない。まず彼の生命はないだろう。
「さりながら、時繁さま」
何か言おうとする楓を時繁は眼で制した。
「もう、何も言うな。仮に親父どのが俺を殺せば、所詮は俺の命運もそこまで、早々に尽きる宿命だったということになる。天の導きが真にあるなら、俺はまだ死なない」
「本当によろしいのですか?」
楓のまなざしに、時繁もまた、まなざしで応えた。それに、楓は判っていた。時繁は優しいけれど、その意思は誰よりも強固だ。最早、楓が何をどう言って説得したところで、時繁の意思を変えることは不可能だ。
「時繁さま」
楓は濡れた瞳で良人を見上げた。
せめて今夜だけは、何もかも忘れてこの男の腕の中にいたい。その想いが楓から恥じらいも何もかも消していた。
「抱いて下さい」
その夜、二人はこれまで以上に烈しく求め合った。潮騒がかすかに鳴り響く浜辺の小屋で、二人は夜明けまで幾度も共に昇りつめ、互いを満たし合った。
その日から、楓の新しい日々が始まった。時繁は得難い良人となった。妻を労り、声を荒げることなどなく、よく働く。夜は楓を情熱的に幾度も求め、時には暴走しすぎて楓を泣かせることもしばしばだったが―、それも良人に愛されている裏返しだと思えるのも、楓もまた時繁に腑抜けるほど惚れているからだろう。
結ばれてひと月が経った頃、二人は連れ立って町に出かけた。楓は人眼に立ってはまずいため、滅多と町には出ない。今のところ、河越家では楓は急病にて伊豆で療養中と苦しい言い訳をしているらしい。北条との縁談はこれにより、無期延期、つまり事実上の破談となったと聞いた。
時繁は毎日、漁に出て獲った魚を町へ出て売りさばいてくる。その折々に得た情報では、河越恒正は突如として行方知れずになった娘をしばらくは手を尽くして探させていたらしい。しかし、娘の行方は杳として知れず、探索は十日余りで打ち切られたとのことだった。
「さつきは? さつきはどうなったか判りませんでしたか?」
楓は時繁に勢い込んで訊ねたけれど、彼は申し訳なさそうに首を振った。
「悪いが、乳母どのの消息は知れなかった」
魚の行商をしながら町を歩くため、比較的情報を手に入れやすい立場ではあるが、あまりに執拗に河越の娘のことばかりを訊き出していては、逆に怪しまれかねず、そこから足が付いてしまうこともある。
それを考えれば、これ以上、踏み込んで訊ね回るわけにはゆかなかった。さつきは北条時晴との婚礼前夜、楓を意図的に逃がした。仮に故意ではないと恒正が認めたとしても、乳母として姫君監督不行届の責任は大きいだろう。
何らかの処罰を受けたのは明白で、楓としては、それが知りたかった。が、時繁の立場を思えば、これ以上の無理は言えない。また、それが原因で河越の父の手の者に見つかり、無理に時繁と引き離されることになっては悔やんでも悔やみきれない。
その日は、ひと月ぶりの外出で、楓も何とはなしに浮き浮きと心が弾んでいた。河越の探索が無くなって既に半月は経過している。用心のため、楓は市女笠の周囲に紗(うすぎぬ)を垂らしたものを目深に被り、漁師の女房らしい粗末ななりをしていた。
もっとも、時繁と暮らすようになって以来、文字どおり漁師の女房だったから、暮らしに合った質素な小袖しか買えなかった。屋敷を出た時、身に纏っていた小袖は上物だったため、古着屋で売ることも考えたが、そこからまた河越の父に居場所を知られては困ると止めた。
用心には用心を重ね、時繁は目抜き通りには行かず、あまり人通りのない道を選んで歩いた。それでも、道の両脇には露店が居並び、物売りのかしましい声が聞こえている。
鎌倉こそが今は都とは、誰もが認める動かしようのない事実であった。市の賑わいや道をゆく人々の活気に満ちた表情はこれから伸びてゆくこの東の武士の都のゆく末を示し、ことほいでいるかのようである。
楓の手を引いて歩いていた時繁が突如として止まった。
「何か欲しいものはない?」
楓は眼をこらして紗の向こう側を透かし見た。見れば、正面には小さな露店があった。台の上に様々な櫛が並んでいる。
「可愛いわ」
傍らの時繁を見上げて微笑んだ。
「では、一つ買ってあげよう」
楓は慌てた。
「いえ、要りません。大丈夫です」
魚を獲って稼ぐ日銭は知れている。そんな贅沢品は買えないと言おうとしたのに、時繁は有無を言わせず手に取った櫛を買い求めていた。
「可愛い奥さんに」
差し出された大きな手のひらには不似合いな小さな櫛は、黒塗りで白く桜が描かれていた。一箇所だけだが、小粒の真珠もはめこまれている。高かったに違いなく、楓は胸が熱くなった。
「ありがとうございます。大切にしますね」
櫛を押し頂くようにして眼を潤ませる妻を、時繁は切なげに見つめる。
「済まない、俺が甲斐性なしなばかりに、楓には辛い想いばかりさせる。お前も年頃の娘だ、綺麗な着物や紅も簪も欲しかろうに」
楓は真顔で首を振った。
「時繁さま、そんなことはありません。私は時繁さまのお側にいられるだけで幸せなのです。それに、私は河越の屋敷にいた頃から、綺麗な小袖にもお化粧にも興味はありませんでした。ですから、どうか、そんなことでお悩みにならないで下さい」
「楓は優しい娘だな」
時繁は泣き笑いの表情で言った。
「だが、俺も男だ、たまには楓に頼られたい。いつも我慢ばかりせずに甘えてくれ」
「はい」
楓は元気よく頷くと、櫛屋の傍らで野菜を売っている老婆を見つけて歓声を上げた。
「時繁さま、見て。大根がたくさんあるわ。今日は時繁さまが獲ってきた鰯と大根にしまょう。大根は少し辛めに煮れば、お酒のつまみにもなりますよ?」
言い終わらない中に老婆に近づき、山盛りになった大根を間に、にこやかに話している。
「閨の中では随分と大人になったのに、昼間は最初に出逢ったときと変わらぬな、まるで子どもだ」
時繁は呟き、妻と過ごす毎夜の濃密な時間を思い出し、それから我に返った。二十歳で所帯を持つまでにむろん女性経験はあった。数度関係を持ったのはもちろん素人女ではなく、辻で春をひさぐ女であった。
だが、時繁は特に自分が好色だと思ったことはないし、適度に欲求が満たされれば無理に女を抱きたいと思ったことはない。なのに、楓が傍にいると、つい触れたくて手を伸ばし、触れれば、そのみずみずしい肢体を抱きたいと思う。しかも、ひとたび火が付けば楓が泣いて許してと泣くまで、ひたすらその身体を求めずにはいられない。
だとしたら、自分がよほどの好色漢だったのか、それとも、楓だから泣かせるまで烈しく求めるのか―。恐らくは後者なのだろうが、どちらにしても、楓にとっては迷惑な話かもしれない。
それでも、妻と過ごす今夜を想像しただけで、あられもない話だけれど、身体がすぐに反応してしまう。交渉成立したらしい。楓が腕に大きな大根を二本抱えて走ってくる。
「おい、大きな大根を抱えて往来を走ったら危ないぞ」
過保護ぶりを発揮し、時繁は妻の手から大根を造作もなく受け取った。
「時繁さま、以前から申し上げようと思っていたのですが、私はもう十六です。子どもではないのですゆえ、子ども扱いはしないで下さい」
楓が頬を膨らませるのに、時繁は笑った。
「ほれ、そういうところが子どもだというんだ、すぐに拗ねるだろう」
やわらかな頬を指でつつくと、更に楓は膨れる。
「知りません」
怒った楓は一人で先に歩いていった。時繁は慌てて追いかけてゆく。
「お前が子どもでないことはよく判ってる」
「本当ですか?」
期待に込めた眼で見上げる無垢な瞳に、時繁は耳許で囁いた。
「閨で見る楓の身体はどう見ても子どもじゃない、立派な大人だ」
楓は瞬時に真っ赤になり、拳を振り上げた。
「酷い、それでは私が身体だけ大人で、頭の弱い娘のようではありませんか!」
可愛い妻は本気で怒っている。大きな黒い瞳には涙さえ浮かべていた。
時繁は狼狽える。楓に泣かれるのはいちばん弱いのである。
「す、済まん。別にそういう意味で言ったのではないんだ」
楓の振り回した拳が時繁の腕に当たった。
「痛ぇ。この暴力女め、今夜はお仕置きだ。覚悟しておけよ?」
わざと蠱惑的な声音で囁くと、楓は熟した林檎のように紅くなる。楓が今夜の夫婦の営みを想像しているのは明らかだ。
泣かせて嗜虐的な歓びを感じるのは閨の中だけで良い。しかも、楓は彼のために慣れない料理も頑張って拵えている。少しでも彼を歓ばせようと奮闘しているのはいじらしいほどだ。何しろ河越家の姫として大切に育てられた楓には料理をしたことがあまりない。
今でも、砂糖と塩を間違えたりすることは日常茶飯事で、彼はひと口食べただけで吹いてしまいそうな代物を食べさせられている。それをさも美味しそうに食べるのは、いかに楓を愛している時繁にも至難の業だ。
今夜も彼のために腕を振るおうと期待に眼を輝かせている楓に、実は夕餉よりはその後の夫婦の密事の方が愉しみなのだとは口が裂けても言えなかった。そんなことを口にでもすれば、楓は本当に怒って出ていってしまうかもしれない。どこまでも楓に弱い時繁である。
二人はいつしか喧嘩していたことも忘れ、楓は時繁の腕に自分の腕を絡めて、老婆が大根の他に青菜もおまけしてくれたのだと得意げに良人に報告した。寄り添って歩くその姿は、どこから見ても仲睦まじい若夫婦そのものだった。
楓は毎日、幸せだった。愛する男の傍にいられるのがこんなにも幸せだったなんて、考えたこともなかった。父の命じるままに北条時晴に嫁がなくて良かったとつくづく思う。
町に出かけた数日後の昼下がり、楓は時繁の着物を繕っていた。こう見えても、料理は苦手だけれど、裁縫は得意なのだ。小袖も縫おうと思えば縫える。時繁のためにも新しい小袖と袴を用意してあげたい。それも漁師が着るような簡素のものではなく、武士が着るような、それなりのものを。
元々、彼の両親は武家だと言っていた。そんな彼に一度だけでも武士としての晴れ着、狩衣を着せてあげたい。でも、今は彼は漁師なのだ。余計なことをするとかえって怒るだろうか。それでも、楓は狩衣を着て盛装した彼を見てみたいと思った。
だが、そのためには布を買う必要がある。時繁は楓に町で魚を売ってきた金はすべて渡してくれている。その金はたいしたものではないが、時繁は楓の好きに使って良いと言ってくれていた。かといって慎ましい暮らしを維持しなければならないと判ってるのに、無駄遣いはできない。なので、日々の糧を得る以外に使うことはなかった。
時繁は元々、着る物に気を遣う質ではないようで、持っているのは粗末な小袖と袴が数組だけ、それをすべて繕うのに時間はかからなかった。まだ繕うものがないかと楓は部屋の片隅の柳行李に近づいた。
既に繕い終えた着物は今朝、時繁が漁に出る前に自分で出していったものばかりだ。まだ行李の中に何か残っていないかと蓋を開き、覗き込む。と、衣類ではなく、使ってはいない薄い夜具が二枚重ねて入れてあった。
夜具をのけると、その下からは立派な黒塗りの箱が突如として現れ、楓は眼を瞠った。
「これは何―?」
思わず声に出して言ってしまい、慌てて周囲を見回す。誰がいるはずもなかった。
黒塗りの箱はかなりの大きで、縦長だった。表には蒔絵細工で咲き誇る牡丹とつがいの蝶が描かれていた。いずれ有名な職人の手になるものに違いないことは判った。
興味を惹かれて蓋を開ければ、中からは更に古びて色褪せた布に幾重にもくるまれた品が現れる。武家の娘として生まれ育った楓には、そも何なのか、おおよその見当はついた。
恐る恐る手を伸ばしたのと、小屋の扉が勢いよく開いたのはほぼ時を同じくしていた。
「何をしているんだ!」
血相を変えた彼が駆け寄り、楓の眼前で蓋の開いたままの行李や蒔絵の箱と楓を鋭い眼で交互に見やった。
「何故、勝手に開けた」
時繁は楓の両肩を掴み、揺さぶった。
「よもや中身を見たのではないだろうな」
あたかも楓が大罪を犯した罪人のように剣呑なまなざしで見つめてくる。その酷薄とさえいえるほどの表情はどこまでも冷め切っていて、楓がよく知る良人とはまったくの別人だ。
「私は―中身は見ておりません。そんなに大切な品だとは知らず」
楓は別の男のようにしか見えない時繁が怖くて、怯えた。小刻みに身体を震わせて涙ぐむ妻をしばし時繁は惚けたように見つめた。
短い静寂が流れた後、時繁がポツリと呟いた。
「悪かった」
時繁は低い声で言い、楓を引き寄せた。
「済まん、大きな声を出したりして、怖かったろう。別に楓を怒ったわけじゃない。ただ、もう今後は、あの行李は開けないでくれ」
「何か大切なものなのですね? 私には刀のようにお見受けしましたけれど」
つい訊かずにはいられなかった。普段は穏やかな海のような男を瞬時にあれほど惑乱させるものとは何なのだろうか、知りたいという欲求には勝てなかった。
言った後で、また機嫌を悪くするかと思いきや、彼は小首を傾げて意外にも教えてくれた。
「流石は河越恒正どのの娘、武家の姫だけはある。やはり、バレてしまったか」
それから彼は一瞬だけ遠い眼になった。
「これは祖先から受け継いだ大切な刀だ」
「家宝のようなものですか?」
恐る恐る問えば、これにも時繁は笑顔で頷いた。
「まあ、そのようなものだ。それゆえ、今後は何があっても、あの行李を開けてはならない、約束してくれるか?」
楓は時繁の深い瞳を真っすぐに見つめた。
「判りました。お約束致します。旦那さま、私は良人が見るなと言ったものを無理に見ようとは思いませぬ、どうか楓を信じて下さいませ」
時繁が破顔し、楓の髪をくしゃっと撫でた。もう、いつもの優しい彼に戻っている。楓は心の底から安堵して、時繁の広い胸に身体を預けた。
その日、楓は町に一人で出かけた。もちろん、時繁には内緒である。心配性の彼に一人で出かけるなどと言えば、反対されるのは判っている。
楓が時繁と暮らすようになってはや、ふた月を数えていた。海辺の家で初めて結ばれたのはまだ桜が咲く時分だったのに、今はもう水無月に入っている。
ひと月前、時繁に連れられてきた時、櫛屋の斜向かいに古着屋があったのを記憶している。あの店では布も多少は商っていたようだから、あそこで時繁の狩衣を仕立てる布を求めてはどうかと思案したのである。
古着屋の主人は五十前後の痩せた男だった。丁度、昼時なのか、竹包みを開いて大きな握り飯を頬張っているところだ。
「おじさん、こんにちは」
愛想よく声をかけると、座っていた主人は細い眼をちらりと動かして楓を見上げた。その前には十数着はある古着がかかった棒が立てられている。傍らの台に無造作に単布が積まれていた。
「お昼時にごめんなさい。少し良いかしら」
主人は肩を竦めた。
「客に来てくれる時間を指図できるほど、うちは儲かっちゃいないからな」
ニッと笑った口の中、前歯が欠けていた。
「今日は古着ではなくて、布を見せて頂きたいんだけど」
「判った、あるのはこれだけだが、良かったら、見ていってくれ」
見かけは無愛想で取っつきにくいが、話してみると人の好さそうな男である。丁度、河越の父と同じ年頃なので、楓はつい父のことを思い出してしまった。
そのときだった。斜向かいから、腰の曲がった老婆がこちらに近づいてきた。
「徳八さん、気張って商いしとるかね」
楓も見憶えのある老婆だ。あの大根を買った野菜売りである。
二人は親しい様子で、近況を賑やかに喋っている。その中、楓の耳に飛び込んできた科白に、愕然とした。
「そういえば、頼朝さまの第一のご家来衆といわれる河越さまが病に倒れなさったというがね」
思わず老婆に取り縋り、詳しい話を聞きたいと思ったが、ここで不必要に自分の存在を印象づけない方が良い。楓は布を選ぶふりをしながら、細心の注意を払って二人の会話に集中した。
どうやら老婆は時折、河越家に立ち寄り、台盤所の賄い方が彼女から野菜を買い上げているらしい。それで多少は河越家の内情に通じているのだ。幸いなことに、主君の娘である楓は厨房に近づくことは殆どなかった。
だからこそ、老婆が楓の顔を知らないのだ。
「それは大変ではないか。河越さまといえば、北条さまと並んで頼朝さまの懐刀と呼ばれているだろうが」
主人が言うのに、老婆はしたり顔で頷いた。
「頼朝さまに取り入ろうとする輩は多いが、河越さまがおいでじゃから、なかなか悪い虫は寄りつけんと専らの噂だからのう。何せ、河越さまは謹厳実直を絵に描いたようなお方、己が栄達しか頭にない連中とは違い、頼朝さまのおんために動かれる。頼朝さまもそのことをよおくご存じなのじゃろうて」
市井の老婆には不似合いな鋭い見解を披露し、老婆は声を落とした。
「何でも河越さまの姫さまがふた月ほど前にゆく方知れずになったとか。お屋敷では病気で伊豆にお行きだとごまかしとるらしいが、賄い方のお喋り女がわしにそっと教えてくれた極秘情報じゃ」
古着屋は細い眼を見開いた。
「おお、そういえば、あの北条の馬鹿殿に河越の姫さまが嫁ぐという話があったがや」
老婆は面白い芝居を見たかのように愉快そうに笑った。
「マ、あの女狂いの若さまにもちっとばかり良い薬になれば良いがの」
「ならば、姫さまは馬鹿殿がいやで、逃げ出したと?」
老婆は鼻を鳴らした。
「あのような女の尻を追いかけ回すしか能のない阿呆男は、わしでもご免じゃ」
と、古着屋が吹き出した。
「しかし、言わせて貰えば、あの若さまも婆さんには流石に手は出すまいて」
老婆は真顔で首を振る。
「いやいや、あの阿呆は女であれば、皺だらけの婆ァであろうが襁褓の取れぬ赤児であれば、何でもござれよ」
「そいつは厄介だ」
古着屋はおどけたようにピシャリと我が手で広い額を叩いた。随分と芝居がかった仕種だ。
「マア、あの倅にはとかくの悪評があるし、姫さまとの縁談が持ち上がる前から既に側妾との間に子が三人もおるというぞ。そのようなうつけに嫁がずに済んで、姫さまは幸いじゃった。河越の殿さまも気の毒に、ゆく方知れずの姫さまを案ずるあまり、気鬱の病に倒れたというからの」
それから少し、別の話をして、老婆は漸く自分の持ち場に帰っていった。
古着屋の主人が楓に声をかけてきた。
「待たせたな、で、決まったかい?」
楓は選んでおいた単布と引き替えに銭を払い店を後にした。
浜辺の小屋までの道のりをどうやって帰ったのかも判らなかった。それから数日というもの、楓は沈み切っていた。そのことに敏感な時繁が気付かぬはずがない。
五日目の夜、夕餉がいつもより早くに終わった後、楓は仕立物の続きをしていた。むろん、時繁の狩衣を縫っているのである。
「―えで、楓」
焦れたような声に、楓は弾かれたように顔を上げた。
「あ、どうかしましたか?」
眼前に時繁の整った面が迫っていて、楓は慌てる。時繁は苦笑していた。
「お前、俺に何か隠し事をしているな。先刻から幾度呼んでも、返事をしない」
「そんなことはありません」
時繁の深い瞳には何もかも暴かれてしまいそうで、楓はさっと顔をうつむけた。
「嘘をつけ。楓がここ数日、ずっと沈んでいたのは知っているぞ」
楓が黙り込んだのを見て、時繁はあからさまな溜息を吐いた。
「楓が強情なのは知っている。だが、俺はこれでも、いつもそなたの傍にいて誰よりもお前を見ている。お前がいつもと違うのくらいは判る」
楓は胸をかすかに喘がせ、顔を上げた。その眼に見る間に大粒の涙が溢れたので、時繁は動転した。
「どうしたんだ! 俺の言い方はそんなにきつかったか? 何も別に怒ったわけではなく―」
楓の涙には弱い時繁は慌てふためいている。楓は首を振った。
「違うのです、そうではないのです」
時繁がポカンとして楓を見つめる。
「なに? 俺のせいで、泣いたのではないのか?」
「実は数日前、町に出かけました」
怒られることは覚悟で、楓は外出のことから、古着屋と老婆の話までを時繁に打ち明けた。
時繁はじっと楓の話に耳を傾けていたが、すべてを聞き終えて難しい表情で腕組みをした。
「それで、楓はどうしたい?」
え、と、楓は時繁を見返した。時繁が薄く笑った。
「あれほど一人で外出してはならないと言ったのに、楓が町に出かけたことも愕いたが、今はそんなことを話している場合じゃない。親父どのが病に倒れているというのなら、楓は帰りたいとそう思っているのではないか?」
楓は大粒の涙を零しながら、烈しく首を振った。
「時繁さまは何故、そのような残酷なことを平然とおっしゃるのです? 私は河越の父も心配です。さりながら、時繁さまのお側を離れたくもない。時繁さまも今は父と同じくらい大切な方だから」
時繁が淋しげに微笑む。時折、彼の美麗な顔にちらつく翳りがいっそう濃くなった。
「だが、親父どのが病に倒れたと知った今、俺はお前をここに縛り付けておくことはできない。楓、俺も辛いんだぞ」
彼は小さく息を吸い込んだ。
「思えば、俺はいつかこんな日が来るとどこかで覚悟していたような気がする。大切な人、愛する者たちはいつも俺だけを置き去りにして去ってゆく。だからこそ、俺は長い間、誰も愛さず求めず、ひっそりと一人で生きてきた。だけど、お前に出逢って、楓を愛してしまった」
楓は泣きながら時繁に縋り付いた。
「私はいや、時繁さまのお側を離れたくない。屋敷を出る時、父とはこれが今生の別れになると私も覚悟して出て参りました。ですから、屋敷にはもう戻りません。戻ったら、父の顔を見るだけでは済まないもの、父は必ず激怒して時繁さまと私の仲を裂こうとするでしょう。私はそんなのは耐えられません。時繁さまと離れるくらいなら、海に飛び込んで死にます」
泣きじゃくる楓の背を撫でながら、時繁が低い声で言った。
「間違っても海に入ろうなどと言うな。楓は入水するのがどれだけ苦しいか、知らないだろう? 水に飛び込んだ途端、呼吸もできなくなって、生きながらの地獄を見て本物の地獄に行くことになる。俺の大切な人たちも―祖母や伯父たちは入水して亡くなったんだ」
楓は怖ろしい予感に顔を上げ、時繁を見つめた。
「もしや、時繁さまもその時、ご一緒に?」
時繁がかすかに頷いた。
「何の因果だろうな、俺だけが一人、陸に打ち上げられて助かった。俺を助けてくれたのは流れ着いた先の漁師だった。最初は溺死した幼い子どもだと思い込んだそうだが、虫の息があったので、蘇生処置を施したのだと聞いた。俺は大量の水を吐いて、息を吹き返した。俺を助けてくれた漁師は本当に奇蹟のようなものだとその後、何度も言っていた」
その漁師の養子となり、時繁はそこで成長したのだという。故あって十五の時、育ててくれた両親に暇乞いをし、ここ鎌倉の地に来たのだと語った。
「お前が行李の底で見つけた品は、俺が暇乞いを告げた時、両親が渡してくれたものだ。俺が流れ着いた傍に、これも同様に流れ着いていたそうだ」
時繁が眼をしばたたいた。
「養父も養母も優しい人たちだった。あのまま漁師の倅として一生を終えれば、平穏な生涯が送れただろう。養父がよく言っていたよ。家宝の宝刀は持ち重りのするものなのに、海の底に沈まず俺と一緒にほぼ同時に見つかった。俺が助かったのと同じように、宝刀が俺とともにあったのも奇蹟のようなものだと笑っていたな。人倫にもとる行為を天はけして認めない、だからこそ、正当な宝剣の継承者である俺と共に宝刀が現れたのだと」
楓は涙をぬぐった。
「時繁さまはきっと由緒ある武家のご子息なのですね。下級武士の子だというのは嘘。鎌倉には、何ゆえ来られたのですか?」
時繁が楓を見つめた。
「宿願を果たすために」
楓は何故か、時繁のその瞳を怖いと思った。何かを一途に思いつめたような光が閃くその瞳の底に燃えるのは間違いなく復讐の焔だった。
時繁はそれからしばらく寝転んで眼を瞑っていた。眠っているのではないことは判っていた。思案の邪魔をしてはならないと楓は傍らで狩衣を縫い続けた。
唐突に時繁が眼を開いた。彼は身を起こし、〝楓〟と妻の名を呼んだ。
「お前はどうしても俺と離れたくないと?」
楓はコクリと頷いた。
「あなたさまにいつか申し上げました。たとえ、あなたが私に飽きて出ていけと仰せになっても、私は出ていきません」
時繁が小さな声で笑った。
「俺がお前に飽きる日が来るはずがないだろう。俺はもう楓なしで夜は過ごせない」
楓の白い頬に朱が散った。
「もう! こんなときにご冗談は止めて下さい」
頬を膨らませた楓に手を伸ばし、彼はいつものように人差し指でつついた。
「ならば、俺も共に参ろう」
「え―」
楓は針を持つ手を止めた。
「俺は楓の良人だ、違うか?」
茫然としている楓の顎先を掬い、時繁は軽く唇を触れ合わせ啄んだ。
「そなたが河越の者に戻るというのであれば、俺もついてゆく」
楓は唇を戦慄かせた。愛する時繁がここまで言ってくれたのは嬉しい。けれど、河越の屋敷に脚を踏み入れて、時繁が無事でいられるとは思えない。楓は北条時晴との祝言前夜に屋敷を抜け出し、時繁の許に走った。
時繁は楓の氏素性、北条との縁組みを知った上で楓を抱いた。父がそれを知り、時繁を許すはずもない。まず彼の生命はないだろう。
「さりながら、時繁さま」
何か言おうとする楓を時繁は眼で制した。
「もう、何も言うな。仮に親父どのが俺を殺せば、所詮は俺の命運もそこまで、早々に尽きる宿命だったということになる。天の導きが真にあるなら、俺はまだ死なない」
「本当によろしいのですか?」
楓のまなざしに、時繁もまた、まなざしで応えた。それに、楓は判っていた。時繁は優しいけれど、その意思は誰よりも強固だ。最早、楓が何をどう言って説得したところで、時繁の意思を変えることは不可能だ。
「時繁さま」
楓は濡れた瞳で良人を見上げた。
せめて今夜だけは、何もかも忘れてこの男の腕の中にいたい。その想いが楓から恥じらいも何もかも消していた。
「抱いて下さい」
その夜、二人はこれまで以上に烈しく求め合った。潮騒がかすかに鳴り響く浜辺の小屋で、二人は夜明けまで幾度も共に昇りつめ、互いを満たし合った。
0
初めまして。まだサイト初心者なので、使い方に慣れていません。ページが飛んだりする更新ミスがあるかもしれません。お気づきの点があれば、お知らせ頂けると幸いです。よろしくお願いします。
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
真田幸村の女たち
沙羅双樹
歴史・時代
六文銭、十勇士、日本一のつわもの……そうした言葉で有名な真田幸村ですが、幸村には正室の竹林院を始め、側室や娘など、何人もの女性がいて、いつも幸村を陰ながら支えていました。この話では、そうした女性たちにスポットを当てて、語っていきたいと思います。
なお、このお話はカクヨムで連載している「大坂燃ゆ~幸村を支えし女たち~」を大幅に加筆訂正して、読みやすくしたものです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる