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裸足の花嫁~日陰の王女は愛に惑う~61
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内儀が言った。
「今、都では若い人たちの間で惚れた娘に靴を贈って求婚するってえのが流行ってるからねえ」
傍らで亭主が相槌を打った。
「あんたら、身分が高そうだし、政略結婚なんだろ。結婚前でなく、結婚後の求婚っていうのがまた良いじゃねえか、泣かせるぜ」
チュソンと央明の親と同年代の夫婦は揃って涙ぐんでいた。
チュソンは狼狽えた。いつしか、自分たちを囲んで小さな人垣ができていたのだ!
大概はその日暮らしの庶民のようだ。
「何でも両班が奥方に公開プロポーズしてるらしい」
「よっ、若い旦那、格好良いぜ」
「朝鮮一の色男だ」
「別嬪の奥さんを大事にな、浮気するんじゃないよ」
この科白には座がどっと湧いた。男たちがゲラゲラと笑っている。
言いたい放題ではあるが、どれも好意的なものばかりだ。
チュソンは穴があったら、入りたい心境だった。
「済まぬが先を急いでいる。通してくれ」
チュソンは人垣をかき分け、這々の体で輪の外へ出た。
「行きましょう」
チュソンは逃げるようにその場を離れた。
「いよっ、ご両人」
「お似合いだよっ」
「そんなに急いで、二人きりで何をするんだいっ」
「決まってるじゃねえか、新婚夫婦がすることといやア、両班でも俺らでも、やることは同じだよっ」
また笑いが起こっている。
背中に野次が飛んでくるのがますます恥ずかしい。
二人とも小走りに駆けるように歩いていたので、知らない間に大通りを抜けていた。露店が並んだ一角が途切れ、ここからはちゃんとした店舗を構える店が目立つようになる。
その一角に茶房(カフェ)があった。かなり大きな建物は二階建てのようである。
走りっ放しで喉も渇いたことだし、チュソンは央明を連れて茶房に入った。
茶房は人気らしく、一階は満席だった。出迎えた女給が二階へ案内してくれる。二階も一階と似たような作りで、広い空間に適度な距離を空けて円卓と椅子が配置されている。
一つだけ違うのは、二階は空間そのものが人工庭園になっている点だ。藤棚が天井になっており、満開の紫、薄紫、白の色とりどりの藤が咲き誇っている。
かなりの広さがあるため、なかなかの圧巻だ。かすかに芳香が満ちているのは、花のせいに相違なかった。
二階もほぼ満席に近く、二人が座れたのは階段を上がりきってすぐの場所だ。できれば眺めも良く落ち着ける窓際が良かった。人通りが多いが、この際、我慢しよう。
央明が好きな藤の花の下でお茶を楽しめるなら、やはり二階の方が良かったのだ。
チュソンは央明と向かい合う形で椅子に座った。
「何にしますか?」
チュソンは献立表(メニユー)を広げ、央明に見せた。
軽い食事もできるらしいが、やはり主役は豊富な種類のお茶とお菓子のようだ。
「私は柑橘茶を」
央明が小さな声で言った。
チュソンは微笑んだ。
「私も同じものにしよう。折角だから、甘味も注文したら?」
央明は首を振った。
「私、甘いものは苦手なので」
「そうなんだ。女の子は大抵、甘いものが好きなのかと思ったけど、違うんだな」
チュソンは頷き、近くにいた女給を呼んで柑橘茶を二つ頼んだ。
随分待たされた頃、漸く柑橘茶が運ばれてきて、ホッとする。相も変わらず央明は何も喋らないので、取り付く島もないのだ。
チュソンは妻がお喋りとはゆかないまでも、よく話すことを知っている。今日に限って黙(だんま)りを決め込んでいるのは、やはり、二日前の出来事が尾を引いているからなのだろうか。
そろそろ、ここらできちんとわだかまりは取り除いた方が良いかもしれない。意を決して口を開こうとしたのと、央明が口を開いたのはほぼ時を同じくしていた。
「あの」
「ええと」
チュソンは言いかけ、フッと笑う。
「あなたからどうぞ」
央明は一旦うつむき、また顔を上げた。
「靴をー、買って頂き、ありがとうございます。それから、簪まで」
「今、都では若い人たちの間で惚れた娘に靴を贈って求婚するってえのが流行ってるからねえ」
傍らで亭主が相槌を打った。
「あんたら、身分が高そうだし、政略結婚なんだろ。結婚前でなく、結婚後の求婚っていうのがまた良いじゃねえか、泣かせるぜ」
チュソンと央明の親と同年代の夫婦は揃って涙ぐんでいた。
チュソンは狼狽えた。いつしか、自分たちを囲んで小さな人垣ができていたのだ!
大概はその日暮らしの庶民のようだ。
「何でも両班が奥方に公開プロポーズしてるらしい」
「よっ、若い旦那、格好良いぜ」
「朝鮮一の色男だ」
「別嬪の奥さんを大事にな、浮気するんじゃないよ」
この科白には座がどっと湧いた。男たちがゲラゲラと笑っている。
言いたい放題ではあるが、どれも好意的なものばかりだ。
チュソンは穴があったら、入りたい心境だった。
「済まぬが先を急いでいる。通してくれ」
チュソンは人垣をかき分け、這々の体で輪の外へ出た。
「行きましょう」
チュソンは逃げるようにその場を離れた。
「いよっ、ご両人」
「お似合いだよっ」
「そんなに急いで、二人きりで何をするんだいっ」
「決まってるじゃねえか、新婚夫婦がすることといやア、両班でも俺らでも、やることは同じだよっ」
また笑いが起こっている。
背中に野次が飛んでくるのがますます恥ずかしい。
二人とも小走りに駆けるように歩いていたので、知らない間に大通りを抜けていた。露店が並んだ一角が途切れ、ここからはちゃんとした店舗を構える店が目立つようになる。
その一角に茶房(カフェ)があった。かなり大きな建物は二階建てのようである。
走りっ放しで喉も渇いたことだし、チュソンは央明を連れて茶房に入った。
茶房は人気らしく、一階は満席だった。出迎えた女給が二階へ案内してくれる。二階も一階と似たような作りで、広い空間に適度な距離を空けて円卓と椅子が配置されている。
一つだけ違うのは、二階は空間そのものが人工庭園になっている点だ。藤棚が天井になっており、満開の紫、薄紫、白の色とりどりの藤が咲き誇っている。
かなりの広さがあるため、なかなかの圧巻だ。かすかに芳香が満ちているのは、花のせいに相違なかった。
二階もほぼ満席に近く、二人が座れたのは階段を上がりきってすぐの場所だ。できれば眺めも良く落ち着ける窓際が良かった。人通りが多いが、この際、我慢しよう。
央明が好きな藤の花の下でお茶を楽しめるなら、やはり二階の方が良かったのだ。
チュソンは央明と向かい合う形で椅子に座った。
「何にしますか?」
チュソンは献立表(メニユー)を広げ、央明に見せた。
軽い食事もできるらしいが、やはり主役は豊富な種類のお茶とお菓子のようだ。
「私は柑橘茶を」
央明が小さな声で言った。
チュソンは微笑んだ。
「私も同じものにしよう。折角だから、甘味も注文したら?」
央明は首を振った。
「私、甘いものは苦手なので」
「そうなんだ。女の子は大抵、甘いものが好きなのかと思ったけど、違うんだな」
チュソンは頷き、近くにいた女給を呼んで柑橘茶を二つ頼んだ。
随分待たされた頃、漸く柑橘茶が運ばれてきて、ホッとする。相も変わらず央明は何も喋らないので、取り付く島もないのだ。
チュソンは妻がお喋りとはゆかないまでも、よく話すことを知っている。今日に限って黙(だんま)りを決め込んでいるのは、やはり、二日前の出来事が尾を引いているからなのだろうか。
そろそろ、ここらできちんとわだかまりは取り除いた方が良いかもしれない。意を決して口を開こうとしたのと、央明が口を開いたのはほぼ時を同じくしていた。
「あの」
「ええと」
チュソンは言いかけ、フッと笑う。
「あなたからどうぞ」
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「靴をー、買って頂き、ありがとうございます。それから、簪まで」
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