52 / 66
闇に咲く花~王を愛した少年~52
しおりを挟む
痛みと同時に甘い痺れのようなものが全身を駆けめぐり、誠恵は声を上げた。それは自分の声とは思えないような、まるで見知らぬ誰かの嬌声だった。
こんな声を聞いたことがある。そう、月華楼の男娼たちが客と褥を共にする夜、こんな声を上げていた。先輩たちが客の相手をしているところを実際に見たことはないけれど、廊下越しに洩れる艶めかしい声を耳にしたことは何度もあった。
「ホホウ、これは、なかなか可愛らしい反応を示してくれる」
尚善は上機嫌で言い、何度も誠恵の胸の先端を弄んだ。その度に、誠恵は甘い喘ぎ声をを上げる。
「良いか、情けは無用、かえって生命取りになることを忘れるでない。もう一度だけ機会をやろう。だが、二度めはあると思うな。今度、裏切れば、そなたはむろん家族の生命はないものと承知しておろな。肝に銘じておけ」
酷薄な声が耳許で囁いた。
弄られてすぎて真っ赤に腫れた先端を甘噛みされたときは、羞恥と快感の狭間で身を捩らせてもんどり打った。
―殿下、私はこの場で死にとうございます。
誠恵は大粒の涙を流しながら、酷い責め苦を受け続けた―。
その日、夜の帳が降りようとする時刻に、誠恵は宮殿に戻った。
孫尚善の仕打ちは、あまりにも残酷すぎた。誠恵はおよそ半日、二階の一室で尚善に犯されて続けた。それは、まさしく折檻と呼べる性交だった。
あまりに烈しい情交を重ねた挙げ句、誠恵は意識を手放し、それでもまだ尚善は憑かれたように彼の身体を蹂躙し尽くした。
尚善が部屋を出ていったのが何時なのかを、誠恵は知らない。あちこちが痛む身体を引きずるようにして階下に降りていったときには、既に冷酷な男は帰っていたのだ。
階段を降りる途中で、月華楼の稼ぎ頭名月とすれ違った。
二十歳を幾つか過ぎた名月は娼妓としては既に年増といえるが、その美貌と才知で多くの上客を持っている。名月はいつもは気軽に声をかけ、誠恵の頭をまるで弟にするようにくしゃくしゃと撫でてくれる。その名月が常になく沈痛な表情だった。
―姐さんも所詮は妓楼の主人だったってことだね。あんなに可愛がってたあんたを見るからに助平そうな、いけ好かない両班に抱かせるなんてさ。
孫尚善の素姓を名月が知っているかどうかは判らなかったけれど、名月は誰に対しても好印象を与える尚善に対して例外的に嫌悪感を抱いているようだ。
名月は売れっ妓だけあって、頭の回転も良く、人の本性を見抜く力を備えている。彼女には尚善の怖ろしいまでの冷酷な素顔がちゃんと見えているに相違ない。
誠恵は名月に縋って泣きたかった。だが、そんなことをしても、余計に優しい名月を心配させ、哀しませてしまうだけだと判っている。黙って頭を下げた誠恵の頭を名月はいつものように撫で、励ますように肩を軽く叩いた。
下で待っていた香月は、誠恵を抱きしめて泣いた。
―ごめんよ、ごめんよ。あたしを許しておくれ。
香月が尚善から多額の融資を受けていることは知っている。月華楼は揚げ代も高いから、それなりの身分のある裕福な客しか登楼しないが、その分、大見世としての体面を保つにには金が要る。部屋の調度一つ取っても、両班のお屋敷にあるものに勝るとも劣らぬ瀟洒なものだ。
それに、香月は金遣いが荒かった。良くいえば気前が良いともいえるのだが、男たちが貢いでくる金はぱっぱっと使うし、贈られた装飾品は惜しまず見世の妓たちに与えてしまう。入ってくる金も桁外れなら、出てゆく金も桁外れという案配で、実のところ、ろくに銭など月華楼にありはしない。
香月が異母兄の援助に飛びついたのも、何も肉親への情だけではなく、多額の援助によるところが多かったろう。現実として、月華楼は尚善の援助で何とか営業しているようなものだ。
香月が異母兄の意向に逆らえないことは、誠恵も知っている。だから、泣いて詫びる女将を責めるなどできなかった。
―実の娘のように可愛がったお前を好き者の旦那の餌食にしちまった―。
泣き崩れる香月に、誠恵は哀しげな微笑みを向けただけだった。
宮殿に戻った誠恵は趙尚宮に挨拶をすると、逃げるように自室に引き取った。
今夜はもう、一歩も動けそうにない。あちこち愛撫された跡―身体中が悲鳴を上げ、痛みを訴えている。薄い胸の先端は腫れ上がって充血し、詰め物がほんの少し掠っただけでも痛むし、臀部の奥は何度も深々と刺し貫かれたせいで出血していた。
こんな声を聞いたことがある。そう、月華楼の男娼たちが客と褥を共にする夜、こんな声を上げていた。先輩たちが客の相手をしているところを実際に見たことはないけれど、廊下越しに洩れる艶めかしい声を耳にしたことは何度もあった。
「ホホウ、これは、なかなか可愛らしい反応を示してくれる」
尚善は上機嫌で言い、何度も誠恵の胸の先端を弄んだ。その度に、誠恵は甘い喘ぎ声をを上げる。
「良いか、情けは無用、かえって生命取りになることを忘れるでない。もう一度だけ機会をやろう。だが、二度めはあると思うな。今度、裏切れば、そなたはむろん家族の生命はないものと承知しておろな。肝に銘じておけ」
酷薄な声が耳許で囁いた。
弄られてすぎて真っ赤に腫れた先端を甘噛みされたときは、羞恥と快感の狭間で身を捩らせてもんどり打った。
―殿下、私はこの場で死にとうございます。
誠恵は大粒の涙を流しながら、酷い責め苦を受け続けた―。
その日、夜の帳が降りようとする時刻に、誠恵は宮殿に戻った。
孫尚善の仕打ちは、あまりにも残酷すぎた。誠恵はおよそ半日、二階の一室で尚善に犯されて続けた。それは、まさしく折檻と呼べる性交だった。
あまりに烈しい情交を重ねた挙げ句、誠恵は意識を手放し、それでもまだ尚善は憑かれたように彼の身体を蹂躙し尽くした。
尚善が部屋を出ていったのが何時なのかを、誠恵は知らない。あちこちが痛む身体を引きずるようにして階下に降りていったときには、既に冷酷な男は帰っていたのだ。
階段を降りる途中で、月華楼の稼ぎ頭名月とすれ違った。
二十歳を幾つか過ぎた名月は娼妓としては既に年増といえるが、その美貌と才知で多くの上客を持っている。名月はいつもは気軽に声をかけ、誠恵の頭をまるで弟にするようにくしゃくしゃと撫でてくれる。その名月が常になく沈痛な表情だった。
―姐さんも所詮は妓楼の主人だったってことだね。あんなに可愛がってたあんたを見るからに助平そうな、いけ好かない両班に抱かせるなんてさ。
孫尚善の素姓を名月が知っているかどうかは判らなかったけれど、名月は誰に対しても好印象を与える尚善に対して例外的に嫌悪感を抱いているようだ。
名月は売れっ妓だけあって、頭の回転も良く、人の本性を見抜く力を備えている。彼女には尚善の怖ろしいまでの冷酷な素顔がちゃんと見えているに相違ない。
誠恵は名月に縋って泣きたかった。だが、そんなことをしても、余計に優しい名月を心配させ、哀しませてしまうだけだと判っている。黙って頭を下げた誠恵の頭を名月はいつものように撫で、励ますように肩を軽く叩いた。
下で待っていた香月は、誠恵を抱きしめて泣いた。
―ごめんよ、ごめんよ。あたしを許しておくれ。
香月が尚善から多額の融資を受けていることは知っている。月華楼は揚げ代も高いから、それなりの身分のある裕福な客しか登楼しないが、その分、大見世としての体面を保つにには金が要る。部屋の調度一つ取っても、両班のお屋敷にあるものに勝るとも劣らぬ瀟洒なものだ。
それに、香月は金遣いが荒かった。良くいえば気前が良いともいえるのだが、男たちが貢いでくる金はぱっぱっと使うし、贈られた装飾品は惜しまず見世の妓たちに与えてしまう。入ってくる金も桁外れなら、出てゆく金も桁外れという案配で、実のところ、ろくに銭など月華楼にありはしない。
香月が異母兄の援助に飛びついたのも、何も肉親への情だけではなく、多額の援助によるところが多かったろう。現実として、月華楼は尚善の援助で何とか営業しているようなものだ。
香月が異母兄の意向に逆らえないことは、誠恵も知っている。だから、泣いて詫びる女将を責めるなどできなかった。
―実の娘のように可愛がったお前を好き者の旦那の餌食にしちまった―。
泣き崩れる香月に、誠恵は哀しげな微笑みを向けただけだった。
宮殿に戻った誠恵は趙尚宮に挨拶をすると、逃げるように自室に引き取った。
今夜はもう、一歩も動けそうにない。あちこち愛撫された跡―身体中が悲鳴を上げ、痛みを訴えている。薄い胸の先端は腫れ上がって充血し、詰め物がほんの少し掠っただけでも痛むし、臀部の奥は何度も深々と刺し貫かれたせいで出血していた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
Pop Step ☆毎日投稿中☆
慰弦
BL
「私のために争うのは止めて!」
と声高々に教室へと登場し、人見知りのシャイボーイ(自称)と自己紹介をかました、そんな転校生から始まるBL学園ヒューマンドラマ。
彼から動き出す数多の想い。
得るものと、失うものとは?
突然やってきた転校生。
恋人を亡くした生徒会長。
インテリ眼鏡君に片想い中の健康男児。
お花と妹大好き無自覚インテリ眼鏡君。
引っ掻き回し要因の俺様わがまま君。
学校に出没する謎に包まれた撫子の君。
子供達の守護神レンタルショップ店員さん。
イケメンハーフのカフェ店員さん。
様々な人々が絡み合い、暗い過去や性への葛藤、家族との確執や各々の想いは何処へと向かうのか?
静創学園に通う学生達とOBが織り成す青春成長ストーリー。
よろしければご一読下さい!
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる