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闇に咲く花~王を愛した少年~51

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 そこで、尚善は言葉を切った。
「だが(ホナ)、お前は私を裏切った。しかも、二度だ」
 二度裏切った―?
 その意味を計りかね、誠恵が眼を見開くと、尚善は口の端を引き上げた。やや肉厚の唇が笑みの形を象る。
「判らぬか? 一度めは国王殿下に心奪われてしまったこと、そして、二度目は世子邸下を殺そうとしたことだ」
 弁解のしようもなかった。どちらも真実だったからである。
 しかし、尚善は更に思いがけぬことを口にした。
「殿下に心奪われたのは良しとしよう。私のような年寄りではなく、殿下は血気盛んなお年頃、しかも男ぶりも良く、度量の広い方だ。若い娘だけでなく、同じ男でも惹かれずにはいられない。翠玉よ、私が最も怒りを憶えたのは、お前が殿下に最後まで身を任せようとしなかったにも拘わらず、殿下を心からお慕いしてしまったことだ」
「―」
 誠恵は顔を上げて、尚善を見た。
 漸く、彼にも尚善の言わんとすることが理解できたのだ。
 刹那、尚善の双眸に危険な光が閃いた。
「判るか? 私はお前が私に要らぬ情を抱くのを怖れ、お前を抱かなかったのに、お前は抱かれもしなかった男に心を明け渡した。それが私への何よりの裏切りだ」
 尚善が手を伸ばし、誠恵の頬に触れた。
「何とやわらかな膚だ。抱き心地もさぞ良かろう。殿下がお前を抱いていないのは、私にとってはむしろ幸いだ。旬の初物の味は、どれほど美味であろうか。任務の成功のために、水揚げの夜はご馳走を食べるのを我慢したというのに、お前は肝心の任務に失敗した。もう、お前を抱くのを躊躇う必要はどこにもない」
 思わずゾワリと膚が粟立ち、誠恵は身を震わせた。
「―怖いのか? 香月は、お前は何も知らぬと言った。翠玉よ、これは私を裏切ったお前への見せしめではあるが、安堵するが良い。何も知らぬお前の身体をゆっくりと味わってやろう。何度も抱いて、今度こそ私のことしか考えられぬように―私のためなら、その生命すら投げ出すほど惚れさせてやろうではないか?」
 ふいに、尚善の声が危険な艶を帯びる。
「あ―」
 誠恵はあまりの怖ろしさに、身を竦ませた。
 まさか、こんなことになるとは思ってもみなかった。
 香月は、このことを知っていたのだろうか? 尚善が自分を抱くつもりであることを―。
 立ち上がり、身を翻そうとしたときには遅かった。後ろから羽交い締めにされた彼は、のしかかってきた尚善の身体に勢いつけて押し倒された。
「姐さんッ、光月姐さんッ、助けて」
 誠恵は救いを求めるように手を差しのべる。だが、香月が来る気配はなかった。
 両手をその場に縫い止められ、噛みつくように口付けられる。口を固く閉じて拒むと、懲らしめのように唇を強く噛まれた。
「痛―い」
 下唇に走る鋭い痛みに、涙が溢れそうになった。
 尚善は執拗に唇を重ねてこようとする。首を振って避けながら、誠恵は涙を流した。
 首筋に生温かい息がかかり、総毛立つ。
「殿下、国王殿下」
 私は、ここにいます。どうか助けて下さい。
 心の中の声がつい出てしまったらしい。
 耳ざとく聞き取った尚善が唇を歪めた。
「フン、情にほだされて、手を下せぬか? 王に惚れたのか? 所詮、薄汚れた淫売は淫売、使い物にはならぬな」
 酷い蔑みの言葉を投げつけられ、あまりの屈辱に涙が止まらなかった。
 眼裏に光宗の優しい笑顔が浮かぶ。
 こんなことなら、たとえ男だと知られても構わないから、あのひとに抱いて貰えば良かった。永遠に逢えなくなったとしても、ちゃんと抱いて貰っていれば良かった。
「そうだ、それで良い。恋い慕う男の貌を思い浮かべながら、私に抱かれるが良い。それが、そなたへの何よりの仕置きとなろうぞ」
 誠恵の心など端からお見通しだと言わんばかりに、尚善が会心の笑みを刻む。
 チョゴリの紐が解かれ、上着が剥ぎ取られた。胸に巻いた布まで外され、詰め物が現れる。それを見た尚善は嘲笑うように笑い、手に取って脇へ放り投げた。
 平たい胸の先にひそやかに息づく淡い蕾ををそっと摘んで指先で捏ねる。
「ああっ」
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