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シモウサへようこそ
攻防①
しおりを挟む二十日兎によって生み出された〈境〉は、防衛局とその真上にある〈宇宙の扉〉を取り囲み、外側からのいっさいを遮断している。
カルナの推測——おそらく事実——によれば、二十日兎は、〈宇宙の扉〉の実権を掌握したことを理由に、シモウサの主権を主張する行動に出ているはずだ。
二十日兎は、都合のいい情報を出したいだけ出せる一方、カルナとルクフェネ、圭の総督府側は、〈宇宙の扉〉を押さえられた結果、外への通信を完全に遮断されている。
対抗するには、日の出の時刻までに〈境〉を突破し、〈宇宙の扉〉を取り戻さなければならない。
5つの〈礎〉によって構成された〈境〉は特異な形状をしている。
普通に考えれば、防衛局が中心になるように正五角形で囲めばいい。
けれども、その五角形は歪で、特に北西・西・南西の〈礎〉は直線に近い形で並んでいるから、ほとんど四角形に近い形になっているし、防衛局の位置は西にかなり偏っている。
一見すれば、間延びした北と南の辺が脆く、その脆い2つの間にある東の辺も弱い。
ところが、ここを突破した場合、防衛局は遠く、二十日兎の力の支配下にある空間を長距離に渡って移動するはめになる。
一方で、防衛局にもっとも近い地点には西の〈礎〉があるから強固で、突破は難しい。
したがって、攻めるとすれば、その両側の二辺、北西と西の間と西と南西の間のどちらかの辺ということになる。
ただし、ここは、中途半端な力を加えたところで、その力は、北・南・東の三辺に逃げ、蓄積しないから、一点にすべての力を集中させ、一気に突き抜けなければならないのだ。
はじめ、ルクフェネは、兎谷津沼でアルテリウアとしての力を強めたあと、全速力で向かい、ひとりの力で〈境〉を突き破ろうと思っていた。
「——でも、考え直したの」
ルクフェネは通信機の向こう、圭と話していた。
「ツムギちゃんがここ兎谷津沼の記憶を戻してくれたから、シモウサそのものの力が豊かになってる。牛島さまも協力してくれるし、みんなの力を借りれば、もっといい方法があるんじゃないかって」
「うん、僕もそう思うよ。もとの方法だと、ルクフェネの負担が大き過ぎるし」
「それは気にしなくていいけど……でも、ありがと」
「じゃあ、いま話したとおりに」
「うん。——あ、さっきは気持ちを教えてくれてありがと……まだちゃんと答えてなかったから」
「僕のほうこそ。またルクフェネの笑顔が見えるように、どうか無事で」
「圭も、気をつけてね」
通話を終え、少し頬を赤らめて、それからルクフェネはキリリと表情を引き締めた。
指先でユクルユフェーアを紡ぐ。
「セテュード、風とともにどこまでも」
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