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シモウサへようこそ
言葉に記憶を残すところ
しおりを挟むルクフェネたちは、利根川も間近な水辺に下り立った。
結城からまっすぐ南へ、その背に乗せて運んできてくれたオーデは、黄金色の粒子になって大気に溶けていく。
ルクフェネは周囲を見渡した——が、月のない夜、その光が消えてしまえば、もう何も見えない。
そこは、カルナが地図に指定された場所だった。
手首の通信機の画面上では、確かにそこにいる。
アルテリウアの力の根源は言葉だ。
理屈からいえば、言葉など音の組み合わせに過ぎないし、それをあらわした文字もまた、ただ形を重ね合わせただけのものだ。
けれども、遥かな時を超えてきた言葉には、人々の想いと、人々を抱き守ってきた天地の温もりがこもっている。
だから、アルテリウアは、力を得たければ言葉に記憶を残す場所に赴くのだ。
その水辺は「兎谷津沼」という名前を持っていた。
雪うさぎを神聖なものとして大切にするセーグフレードのアルテリウアなら、その力を高めるのに絶好の場所ということだ。
天地の力を強めれば、〈境〉を弱めることにもなる。
#
地図で見る限りは人工の池のようだ。
道路をはさんで、西側に縦長の小さな池、東側に横長の大きな池が並んでいる。
「……」
ふと、ルクフェネは、自分の顔を見上げているアヤメちゃんと視線があって、それからはじめて、自分がため息をついたことに気がついた。
少し体が気だるかった。
「なにか来る——」
ツムギちゃんがつぶやいた。
ルクフェネはゴーグルを装着する。
画面に表示されているのは侵入者の接近情報だ。
「ローゲイル(無生物)——8体」
精度はひどく、これだけしかわからない。
ジャミングの影響で索敵能力が低下している上、全体の処理性能に影響を及んでいるのだ。
とはいえ、もはやその情報が不要だと思えたのは、その相手4体が地響きを立てて降り立ち、それに残りの4体も続いたからだった。
「ふたりは離れてて!」
「はい……」
視線で8体を追いながら、アヤメちゃんとツムギちゃんを下がらせる。
ローゲイルは重装備のロボットだ。
両手に、極端に柄の短いランスのような、巨大な円錐形の矛を握り、その持った手許や肩口にはいくつもの銃口と鋭利な突起を見せ、全身を甲羅のような鎧で覆っていた。
重そうな脚も同じで、膝には角のような突起、足の指には鋭い鉤爪がついている。
それぞれ、無機質な赤い目でルクフェネを視覚にとらえる。
(強き熱き力よ、我が身に宿れ)
ルクフェネはこころの中で唱え、同時に指先を素早く走らせた。
加速する。
適度に相手をしながら、引きつけるように南へ。
1体へ接近する。
相手は赤い目でその動きを見定め、素早く身構える。
その鈍重な印象に反してローゲイルの動きは速い。
ほかの7体がいっせいにマシンガンを連射してくる。
ルクフェネは体を返して翻った。
とんぼ返りで背後に回る。
光弾は当然のごとくその1体に集中する——が、そのすべては弾かれ、空へ飛んでいく。
仲間に集中砲火を喰らったのに、まるで何ともない。
(やっぱり頑丈ね——)
ローゲイルはすぐにルクフェネを見つけて、巨大な矛を振り降ろした。
ルクフェネはそれを蹴り上げ、相手のバランスを崩した。
全力の回し蹴りをたたき込む。
吹っ飛んだローゲイルは別の1体に激突して動きを止めた。
どうしようもなく堅いものは、同じように強度を誇るものにぶつけてしまえば脆い——というわけだ。
ルクフェネは、銃弾が飛び交うなか、休まず次のターゲットへ接近する。
そして、すべての動きを止めたところで、上空高く跳び上がった。
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