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シモウサへようこそ

神さま

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8. シウモサへようこそ

 ふと気がつけば、カスミちゃんが心配そうに顔をのぞき込んでいた。
「元気ありませんね……」
「えっ!? ケ、ケイ、だいじょうふ!?」

 リバは速度を緩めて立ち止まった。

「少しゆっくり行くよ。それでもルクより早く帰れるはずだし……」
「ありがと」

 圭は素直に礼をいった。
 だいぶ疲れているのは事実だ。
 リバの背に身をゆだねた長距離の移動——まして高速になれば揺れも激しく体にこたえる。
 くわえて月読宮二十三夜尊つきよみのみやにじゅうさんやそんでの戦闘も、いまになって響いてきている。
 圭は、セグレンデのふたみみによって、アルテリウアであるルクフェネの力を借りることができる。
 けれども、ユクルユフェーアをつむぎ、そのきっかけを与えるのは圭自身であって、ましてそれが〝強き熱き力よ、我が身に宿れリース・ルッス・ルケア オル・ロロ・ティシェーア〟であれば、確実に体力は削られるのだ。

 ちょうど、桜川沿いの田園地帯からかいがわ沿いの田園地帯へ抜けるところ。
 山深いところにあれば峠ともいえる場所だけれども、まわりよりはちょっと高いだけであって、緩い勾配を、カーブを描きながら県道は登っていく。
 とはいえ、両側は山林で、月のない深夜、明かりもなく真っ暗だ。


 マリモちゃんが横に並ぶ。

「すこしよくなりましたね」
「きゅっきゅっきゅっ!」

 ケヤキちゃんはまた顔をのぞき込んで、それから安心したように笑みを見せた。
 マリモちゃんは喜んで、くるくると踊る。

「ありがと。——そういえば、ふたりはいつも月読宮二十三夜尊つきよみのみやにじゅうさんやそんにいるの?」

「いえ、いつもはいませんよ。わたしはあの場所でまつられているわけではありませんから。ひとと触れ合うときだけ、そっと。みなさんのいい方で言えば、わたしは精霊。精霊は、ひとの想いを受けて姿を得た存在です。ひとの想いを映しているからこそ、ひとのかたちとなり、ひとと出会うために現れるのです」

 なるほど——と、圭は納得する。
 取手のこうげんに現れたケヤキちゃんも、やはりけやきの古木〝地蔵ケヤキ〟の精霊であって、ずっと大切にされてきたとしても、そこにまつられているわけではない。

「でも神さまは違います。神さまは、つまり神さまなのです」

 禅問答のようだが、神さまは神さまであって、それ以上でもそれ以下でもない——あるいは、こんな表現さえははかられるほど、神さまは神さまなのだ。

「神さまの見えている姿はかりそめのうつせみ。たとえば、鹿島さまであれば、いつでも神宮に姿をお示しになるわけでありませが、しかし確かにそこにいらっしゃるのです。その鹿島さまの力を乱し、そして奪うのが〈さかい〉」

「でもカスミちゃんたちはそれを打ち砕くことができる……?」

「より正しくは、弱めることができる——といえましょうか。精霊はあめつちの力を強めることができます——なぜなら精霊ですから。あめつちが力を取り戻したならば、神さまによってゆがめられた結果である〈さかい〉は自然と弱まるでしょう」

「あとは僕たちしだい——ということだね」

 カスミちゃんはうなずく。
 ただ、優しく微笑み、否定した。

「わたしたちも、ただあるがままに行く末を見守るわけではありません。ここは、ひとがそうであるように、わたしたちにとっても大切な場所なのですから」
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