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異変
大切な言葉
しおりを挟む圭は画面から視線を離さず、キーボードを打ちつづける。
キーボードはアエレ型と呼ばれる独特なキー配置で、その名のとおりに、翼を広げるようにキーが並んでいる。
(このキーボードにもだいぶ慣れてきたかな)
いや……完璧なブラインドタッチであって、慣れたとか、慣れてないとかの段階ではないんですけれども……。
あと、それ初日から。
(ルクフェネ、だいじょうぶかなあ)
圭は朝からいたって普通である。
しいていえば、女子がとつぜん挙動不審になったり、あるいはその延長でポエミーでラヴリーでファンシーなことを口走ったりすることは、姉・凛で経験済みなので、女子耐性(?)最強の圭は、本能的に「今日のルクフェネはそっとしておこう」ということになったのだった。
まあ、その耐性(無頓着ともいう)も、挙動不審の原因が自分にあることに気づけない——という致命的な副作用をもっているのだけれども。
(それにしても、ルクフェネ、あの柄がお気に入りなんだな……)
「あの柄」とは、ルクフェネの制服の裏地に指定された柄。
なぜ、圭がその柄に引っかかりを覚えたのかといえば、以前どこかで見た記憶があったからだ。
それも、ルクフェネの身につけているほかのものに。
ただ、それ以上は思い出せずに鬱々としていたところ、きょうになってようやくわかったのだ。
考えごとをしている間に、多少、ルクフェネのいうことを聞き逃した気もしなくはないが、胸の支えが取れたようで気分は上々。
——で、どこで見たのかといえば、パンツ(@古利根沼の森で)。
ちなみに、最高級の生地を使用した、王宮の土産品(利益は寄付されます)。
まるでこだわりのないルクフェネは何も考えずに愛用していたのだった……。
圭くんよい、スッキリ納得するのはちょっと違うと思うぞよ。
そして、年ごろの男子の、女子が身につけている下着に関する論考、以上……。
(それはそれとして、結局、聞きそびれちゃったな……)
圭は、職員任用についての規定を記した文書を画面に開いた。
セーグフレード領シモウサ総督府防衛局司令補佐——これが現在の圭の肩書きだ。
試験に続いて行われたその任用決定の通知で、規定に従うのならひとつ抜けていたことがあるのだ。
ルクフェネの言葉はこうだった——。
セーグフレード領シモウサ総督府防衛局司令、ルクフェネ・ティッセの名において、貴君、すなわち相馬圭を本防衛局補佐として任用する。職務開始は即日。ただし、3か月間は試用期間となることに留意されたい。貴君が本防衛局において、いかんなくその能力を発揮することを期待する。以上だ。
——しかし、規定によれば、あと一言必要だ。
緊急出動のために忘れられてしまったのかしまったのか、なんらの理由で省略されたのか。
もちろん、多分に形式的なことであり、その一言が抜けていたところで、いまの状況に何か変わりがあるわけではない。
ただ、圭にとっては大切な言葉なのだ。
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