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恋の季節にぬくもりを
目的
しおりを挟む〈宇宙の扉〉の真下には防衛局がある。
だから、たいていの侵入者は、地上に降りたのなら、すぐにでもそこから離れようとする。
どう行動するにしても防衛局——侵入者にとって脅威である存在——から離れるに越したことはないからだ。
しかし、ルレンのどの個体の予想進路も、まっすぐ防衛局に向かってきていた。
目的があるとすれば、その脅威、あるいは邪魔者を排除することだけだ。
「……」
圭は思案する。
といっても、相手の目的や戦略についてではなかった。
「カルナさんは二十日兎の正体に当たりがついているようですが、その人物は、裏から手を回して、査証を発行させることはできますか?」
「そのこころは?」
「お昼まえ、藤代駅の近くで、例のコヨさんに会ってるんです。そのとき、世間話のなかで、ルクフェネが不在であることを伝えています」
「なるほど——」
香取神宮の境内で、カルナはうなずいた。
まだ安定していない辺境の〈宇宙の扉〉。
ふつう、一般市民に通過の許可が下りることはないし、まして、その先の領域へ降りる査証も発行されない。
しかし、コヨ・タキッシェは〈宇宙の扉〉を正規の手続きで通過し、なおかつ、その査証も正式のものだった。
一方、防衛局司令とはいえ、ルクフェネの日単位の勤務状況は、総督府という組織内で管理される情報であって、外には出ない。
(殿下なら、査証を発行させることくらい、たいした手間じゃない。そういうことか——)
ただ、二十日兎とコヨ・タキッシェの関係がわかったとして、目的がはっきりしない。
「——ルクフェネが防衛局を不在にしたのは、たまたまのことだし、ルクフェネの動向を探ることにそこまで価値があるとは思えないから、ついでだと思うんだよね。本来の目的があるはず——でも、それがわからない」
「リバの話を踏まえると、コヨさんは、シモウサを周遊していると偽って、実際には、ずっと取手市内に滞在しています。何か役に立ちますか?」
「立つ、立つ♥ でも、となると、標的は〈宇宙の扉〉そのものか——」
「まさか!?」
「普通に考えるとね。でもねえ、悪知恵だけは長けた人なんだよねえ。コヨ・タキッシェ氏を使って、何かを企んでるね、間違いなく。ただ——」
カルナは思案する。
(いまこの瞬間、ここシモウサにいるアルテリウアは、あたしとルクフェネだけ。ほかにはいない)
ふつうアルテリウアは、ほかのアルテリウアが近くにいればわかる。
二十日兎のように仮面とローブに憑依しても同じで、さらに、カルナの場合、相手がユーグネアで何かを遠隔操作していたとしてもわかる。
——が、にもかかわらず、セーグフレード領シモウサに、いまこの瞬間、存在するアルテリウアはカルナ自身とルクフェネだけなのだ。
(いや——)
カルナは自分で否定する。
そして、珍しく口許だけで笑った。
(ああ、そう。殿下、そこは手を出しちゃダメだよ)
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