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前ぶれ

カルナとルクフェネ

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 カルナからの通信だ。

「!?」

 ルクフェネは、立ち上がって一目散に逃げ出す——が。

「カルナさん、こんにちは」
「圭クン、ハイハーイ♥ さっそくで悪いんだけど、ちょっと面倒くさいことがあるもんだから、遠くに行かないうちに、ルクフェネを呼び戻しといてくれるかな~?」
「……聞こえた」


 ルクフェネはきまり悪そうに戻ってきた。
 仕方なく、デスクの向かいに座る。

「見えないじゃん⌘」

 端末の裏側にいるわけだから、当然、ルクフェネはカメラの画角に入っていない。

「別にいいでしょ?」
「んもー、照れ屋さんなんだからん♨」
「……」

 ルクフェネはカルナの軽口を完全に無視する。
 まるでそっぽを向いて、聞く気がないのだ。
 圭は取りなす。

「あ、あの、用件があったと思いますけど?」
「いや~、圭クン、悪いね~。別に喧嘩してるわけじゃないから、気にしないでねん♨」
「はあ……」
「用件は?」

 圭の返答に重ねるようにルクフェネは問いかける。
 画面の中のカルナは苦虫を噛みつぶす——が、急に表情を引き締めた。

二十日兎マルシェのことなんだけど、どうもキミのトコのらしいね」
「……」

 ルクフェネはとくだん何も答えず、黙ったまま思案した。

 さっきのような完全無視ではない。
 とはいえ、見えないわけだから、映像の向こうのカルナには何も伝わらない——はずなのに、カルナは、わかっているように返答を待つ。

「——きのうのジェレン、どう思った?」
「高度な遠隔操作だね、それも相当の」

 ルクフェネの唐突な質問にカルナは即答する。

「キミも承知しているように、きのうは、本体はもちろん、しろも現れなかった」

 ふつうアルテリウアは、ほかのアルテリウアが近くにいればわかる。
 あの仮面とローブのように、アルテリウアの憑依ひょういしている場合も、程度の差こそあれ、同じだ。
 しかし、きのう、ルクフェネは二十日兎マルシェの存在を感じなかった。
 自爆する寸前に、ヨディーレの矢を放とうとしてやめたのは、無意味だと悟ったからだ。

「にもかかわらず、ジェレンには二十日兎マルシェの声が重なっていた、ということなら、そういうことになる。——まあ、ぶっちゃけ、あたしは感じてたよ、捕捉したときから。気にしてるの、そこでしょ?」
「……」
「それはキミの落ち度じゃないし、資質不足でも努力不足でもない。あたしとキミの、アルテリウアとしてのタイプの違いだよ」

 どうやら、カルナは、きのうの侵入に二十日兎マルシェがかかわっていたことは、はじめからわかっていたらしい。
 そして、一方でわかっていなかったルクフェネは、それを気に病んでいる——もしくは、気に入らないらしい。
 いまのカルナの言葉にも、まるで納得していない。
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