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絆
二十日兎(マルシェ)
しおりを挟む香取神宮。
新たに送られてきたデータに、カルナは珍しく顔をしかめた。
「なるほど……」
それは、リバが話してくれた仮面の男の情報。
仮面の男——とはいっても、実体のある何者かが仮面で素顔を隠しているわけではなく、仮面と黒いローブに何者かが憑依している、というほうが正しい。
が、そんな状態にもかかわらず、強力なユーグネアを行使する。
しかも、それは〈リシア〉を経由した遥か向こうから。
感覚も鋭敏で、ルクフェネのヨディーレの矢をもってしても捕捉できない。
つまり、相手は相当能力の高いアルテリウアであるということだ。
リバのもとを訪れたのは8日前。
このタイミングはかなり微妙だ。
条約や慣習、その他諸々の事情、ようするに国際法上、新たに領土を得た場合、5日以内に他国へ通告することになっている。
国際法という、どうしようもなく曖昧な言葉を使っているように、実態はといえば、かなりいい加減だ。
しかし、セーグフレードにおける運用はいまだ厳密で、実際にこの期限を守ってシモウサの領有を発布している。
おそらく、交易の種族ゆえの、生真面目さだろう。
とはいえ、いくつかの事情により、ぎりぎりになった通告。
それが国内に伝わる速度は、もはやそれぞれの国家次第であって、セーグフレードは論評する立場にない。
(でも、8日前の時点で〈共和国〉が動くというのは、まったくあり得ないわけではないにしても、いまの政治体制からすれば、ものすごく考えづらい)
男は〝二十日兎〟と名乗ったという。
そしてリバは、男にセーグフレードのにおいを感じた。
(これは思っていたより厄介そうだ)
しばし熟考——が、難しそうな表情は不意に、にゅるん(?)と溶けた。
(ルクフェネと圭クンは、どうなったかな~ん♥ あ~、でも、ルクフェネだもんね~♨ いろいろ、ずれまくってるし、ボケボケだし、鈍感だし、無神経だし、気が利かないし)
ふただび、ひどいいわれよう。
「お友達と恋の話をしたりなんか、まさか、あるはずないよね~♨ ピンとこないだろうし、このへんで、恋のライバル、って感じの子が、とつぜん現れてくれたりとかしないかな~ん♡ ルクフェネといえども、不意に自分の気持ちに気づいちゃった——みたいな、甘酸っぱいのあるでしょ!? ねえ、あるよねっ!! 呼吸を止めて1秒♪ 星屑ロンリネス♬ や~ん、もう、お姉さんドッキドキ、どきどきキャンプだよ~♥」
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
飛び出していったつぐみを、ルクフェネは呆然と見送る。
「……?」
ルクフェネの頭上には大量のクエスチョンマークが浮かんだ。
どうやら、つぐみは核心的なことをいい放って、そのまま出ていってしまったらしいけれども、ルクフェネにはまるでピンとこない。
(『好きだから』……? 確かに、敬愛する者を心配するのは当然だけど、どうして彼女はあんなにも感情的に……?)
ルクフェネは首を傾げた。
ざんねん。
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