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むふふん♥

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 それは前日のこと。
 リバの背に揺られ、防衛局オフィスに帰着したころには、ルクフェネはすっかり熟睡していた。

 防衛局の建物は、とりえき西口ほど近く、駅ビル沿いの坂道の途中にある。

 正確には、7階建ての建物のうち、借り上げた3階から上がセーグフレード領シモウサ総督府防衛局で、3階がオフィス、5階がルクフェネの住居になっていた(ほかは予備)。

 住居はプライベートな空間なので、ルクフェネ以外は立ち入れないし、そもそもエレベーターが止まらない。
 圭から連絡を受けたカルナは、遠隔操作でそのロックを解除してあげたのだ。

「女の子の部屋だからって期待しないでないでね~♥」

 ルクフェネのことだから、どうせ飾り気のない部屋だろう、ということは想像できているが。

(でも、青少年くんは、女の子の部屋に入るだけでもドキドキかな~ん♥)

 むふふん。

「?」

 圭は首をかしげつつ、ともかく部屋に入り、ルクフェネをベッドに寝かしつけた。

 なお、圭の家族は母、姉、妹という構成。
 女の子の部屋に入るのは日常であって、これといった感情もない——というより、もはや意識さえしないのであった……。

 一方、カルナはといえば——。

(ドキドキ~♪ いいねえ、甘酸っぱいねえ♥)

 ぬふふん、と笑みが零れる。

(でも、圭クン真面目そうだし、逆にドキドキ体験させちゃって、申し訳ないかなあ……。でも青春♥ 意外と、あんなコトやこんなコトまでしちゃったりして……!? キャー♡ もうお姉さん、心臓ばっくばくだよん♥)

 妄想と期待は膨らむばかりではあるけども、圭の感想は、よく整理整頓されているなあ——ということくらい。
 散らかった姉の部屋を思えば。

 ざんねん……。

 ❖ ❖ ❖ ❖ ❖

 戻ってふる公園の森。


 ルクフェネは帽子をかぶり直した。

 夜の色の帽子には、両側に雪色の大きな羽飾りが付いている。
 ひとつはもとからあったもの、もうひとつは圭と交換したもの。

「セグレンデのふたみみ——こころが通じ合うユーグネア。いろいろな文献に当たってみたけど、ほとんど記録がなくて、あっても伝承のようなものばかり」

「試行錯誤してみるしかないわけだね」

 うん——と、ルクフェネはうなずく。

 2人はふるぬまを望む森の中にいた。
 結局、リバは直接降りることを拒絶し、徒歩移動。

「でも、こころを通わせることでユーグネアを強めることができるのは、確かなの。きのうは急ごしらえだったから1.2倍くらい。でも、もっと訓練して、ユクルユフェーアの描きはじめから終わりまで、形も、息遣いも、想いも、すべてを重ねることができれば——」
「2倍にだってできる——?」
「よっぽどうまくいったときにだけだとは思うし、繰り返し繰り返し、訓練するしかないけれど」
「でも、繰り返し繰り返し、訓練すれば、できるってことでしょ? きっとできるよ」
「うん」

 静かな森の中で、2人は修業めいた訓練をはじめた。
 同じユクルユフェーアをつむげるように、ひたすら同じことを繰り返す。

 蚊帳の外のリバは、ふぁーあ、と欠伸あくびをして丸くなった。
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