新宿アイル

一ノ宮ガユウ

文字の大きさ
上 下
55 / 116
広尾デリヴァランス

広尾デリヴァランス(11)

しおりを挟む



「ルジェはいつから円環ロンドの準備をはじめたんだ? 直径10キロメートルの環状地下空間って、そう簡単に造れるものでもじゃないじゃん。おおっぴらに堂々とやったわけでもないだろうしさ」
「この星のこよみでいえば、1923年の9月でござる。このとき、ルジェは〈ロートの追憶〉の位置を特定したと聞く」
「1923年9月……」

 モジャコもハルも繰り返す。そして思わず声を漏らした。

「あ……、関東大震災だ……」
「大地震が〈ロートの追憶〉を揺り動かした……? そして、それをルジェは感知した……?」
「もしかして円環ロンドのための地下空間は、あのとき大量に出たれきを使って、しかも、大混乱に紛れて造りはじめたんじゃないか?」
「ありえるかも……」
「で、1967年。最初の東京オリンピックが1964年、大阪万博が1970年——いろいろなものがじゃんじゃん造られた時代だ。完成させるには、ちょうどいいころだったのかもしれない」

 ポジヲのメールによれば、ゆうらくちょう駅から東池袋駅までは17分。

 ハルはコンビニで買ったスポーツドリンクに口を付けた。

 横から「ほい」とモジャコが何かを差し出す。
 1枚どう、と板ガムを勧めるような感じだが、桜の花に「都」のマークの赤い箱、都こんぶであった。


「出た……」
「出た?」

 ボンタンアメと並び、流行るでもなく廃れるでもなく、なぜか存在しつづける駄菓子。
 少なくとも子供に好評であるという話は聞いたことがない。

 でも、原材料が原材料なので、夏場のミネラル補給にぜひどうぞ。

(9つの〈追憶のカケラ〉を残された場所の意味——共通点)

 ハルは考える。

(そういえば、1つ目の〈追憶のカケラ〉があったのはコックさんの菊屋交差点で、2つ目の〈追憶のカケラ〉があったのは銀座の三原交差点の近くだった……)

 何気なく見上げた信号の標識にはそれぞれ「菊屋橋」「三原橋」と書かれていた。




 地図アプリを起動して、ハルは3つ目の〈追憶のカケラ〉があった神田に移動した。

 中央通りと、ビルとビルの隙間のような細く真っすぐな小路とが交わる場所で、すぐ南側には室町四丁目交差点、北側には今川交差点。


 これは——と、さらにはまちょうと広尾へ地図を移動すれば、4つ目が見つかったすぐ東には浜町中ノ交差点があり、5つ目が見つかったのはまさに広尾交差点である。




(〈追憶のカケラ〉は、名前が『橋』で終わる交差点に残された……!)

 ——が、地図の見える範囲を広げて、ハルは言葉を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの半龍娘

乃南羽緒
ファンタジー
龍神の父と人間の母をもついまどきの女の子、天沢水緒。 古の世に倣い、15歳を成人とする龍神の掟にしたがって、水緒は龍のはみ出しもの──野良龍にならぬよう、修行をすることに。 動物眷属のウサギ、オオカミ、サル、タヌキ、使役龍の阿龍吽龍とともに、水緒が龍として、人として成長していく青春物語。 そのなかで蠢く何者かの思惑に、水緒は翻弄されていく。 和風現代ファンタジー×ラブコメ物語。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

シモウサへようこそ!

一ノ宮ガユウ
ファンタジー
日本政府からあっさりと見捨てられた千葉県北部と茨城県南部。 しかし住民はといえば、元気にたくましく――というか、さして気にすることもなくフツーに暮らしていたりも。 そんな「セーグフレード領シモウサ」の防衛局司令に、若干16歳にして任命され、赴任してきた少女ルクフェネ・ティッセと、補佐に志願した地元の高校生・相馬圭が、抱え込んだコンプレックスに折り合いをつけながら成長し、そして想いを強めていく物語。 ❖ルクフェネ・ティッセ❖ 防衛局に司令として赴任してきた少女。アルテリウア、16歳。王族らしい。しかしその生まれをもって特別扱いされることを嫌い、自分をありのままに理解してくれることを望んでいる。おしゃれには無頓着。また、同世代との交友がなかったため、恋愛関係に疎い。 ❖相馬圭 (そうま けい)❖ 防衛局が置かれた取手市内に住む高校生。17歳。都内の大学へ進学する道が閉ざされたことを理由に、防衛局の補佐に志願した。少しでもルクフェネの役に立てるようになりたいと、もがく。姉・妹・母という家族構成からか、女子耐性が強い (無頓着ともいう)。 ❖リバ❖ モミョ族 (外見的には長毛種の猫。尻尾が3本あって、背中にはコウモリのような大きな翼が生えており、ライオン並にでかい――が) の侵入者。不遇な種族の名誉を回復するため、手柄を立てようとしている。 ❖カルナ・ウィーディルビルグ❖ セーグフレード領シモウサ総督。アルテリウア。28歳。圭から見ても相当な経歴の持ち主だが、飄々とした、とらえどころのない人物。ルクフェネとは旧知の間柄の模様。 ❖コヨ・タキッシェ❖ シモウサにやってきた冒険者。ネズミかそれ近い種族の、いわゆる獣人。ルクフェネがいうには、その目的から、逸早く新たな土地にやってくることは理解できるが、査証が発行されるのが早過ぎるらしい。 ❖木葉つぐみ (このは――)❖ 圭の幼なじみ。17歳。圭のことが好きだが、想いを告げられないでいる。 ❖二十日兎 (マルシェ)❖ 正体不明のアルテリウア。シモウサには、ローブと仮面を依り代に現れる。かなり能力の高いアルテリウアと思われる。 ❖精霊たち❖ 下総国北部と常陸国南部の精霊たち。ケヤキちゃん、ジャモちゃん、ツムギちゃん、アヤメちゃん、カスミちゃん (+マリモちゃん)。 ❖精霊たち(?)❖ シライちゃん (しらいっしー)、ウサギちゃん (兎田ぴょん)。 ❖神々❖ 下総国北部と常陸国南部の神々。香取の神、鹿島の神、筑波の神、牛島の神。 ❖魔物(?)❖ チョーシュー・リーキ、かっぱのキューちゃん、コスモ星丸、まさかどくん、なあにちゃん。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

現代に生きる勇者の少年

マナピナ
ファンタジー
幼なじみの圭介と美樹。 美樹は心臓の病のため長い長い入院状態、美樹の兄勇斗と圭介はお互いを信頼しあってる間柄だったのだが、勇斗の死によって美樹と圭介の生活があり得ない方向へと向かい進んで行く。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

処理中です...