新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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広尾デリヴァランス

広尾デリヴァランス(7)

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 南北両端にある改札口のうち、北側の改札口だ。

 南側とは違って、がいえん西にし通りのどちら側からも下りてこられるし、中目黒方面の1番線へも、きたせんじゅ方面の2番線へも行くことができる。

「どうする?」
「……」

 ハルは消耗は激しく、息が上がって答えられない。
 黙ってスマホの画面を見せた。

 画面の地図にはたいとう区と荒川区のほぼ全域が表示され、その中央付近に目印のピンが立っていた。


 たいとう区と荒川区は、東京23区のうち、北東のすみ川に接して位置する区。

 たいとう区は、名前を聞いてもぴんとこない可能性大だが(特に関東在住でない場合。いまさら? という話ではありますが……)、上野や浅草があるところ、といえばわかりやすいかもしれない。

 荒川区はその北にあって、にっや町屋、みなみせんじゅといった、町工場や商店街、住宅地がひしめき合い、いまなお昭和の下町を色濃く残すところ。

 目印のピンはその境界付近、荒川区のみなみせんじゅたいとう区のが隣り合うあたりに立っていた。
 直線距離なら北北東へ11キロほど、線の駅が近く、広尾駅からであれば、乗り換えなしで行ける。

 ところで、それはいままでのアプリではなく、スマホに標準で付いている普通の地図アプリだった。

 よくわからないけれども、とりあえず2番線ホームへ。
 ちょうど電車は出ていったばかりだったので、モジャコはハルをベンチに座らせた。

「むう、だいじょうぶでござるか?」

 モジャコの頭の上からジシェは心配する。

「ふほしはすめはへいひ……」

 ハルは答える。たぶん『少し休めば平気』。
 ほぼ聞こえない。

(駄目だな)

 モジャコは諦めて、ベンチの横にある路線図に視線を向けた。

(このまま地下鉄で移動するかどうか)

 東京には13の地下鉄路線がある。

 東京メトロの銀座線、丸ノ内線、線、東西線、千代田線、ゆうらくちょう線、はんぞうもん線、南北線、副都心線。
 都営地下鉄の浅草線、線、新宿線、大江戸線。


 ときに、わけのわからない方向へ進むこともある。
 同じ名前なのは、詐欺じゃないかと思えるほど、乗り換えの不便な駅もある。
 けれども、縦横無尽に走る地下鉄に乗れば、どこへも行けるし、コルヴェナとデッサから察知されないで移動するには好都合だ。

 しかしこのまま地下鉄でまっすぐ向かうべきか——?

 リグナは、ハルの様子をあおい瞳でじぃーっと見つめていた。

 だいじょうぶかなー、だいじょうぶかなー。

 左に首を傾げ、ちょっとしてから、右に首を傾げ——以下、繰り返し。
 たぶん心配そう。


 そのリグナがモジャコのほうへ向き直って口を開いた。

「早過ぎた」
「?」

 モジャコは怪訝に首を傾げる。
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