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広尾デリヴァランス
広尾デリヴァランス(5)
しおりを挟む古代の文字が不思議に生まれ連なり、そして文字の列は円を結ぶ。
もう誰にも読まれない、紡がれることも伝えられることもない言の葉。
けれども、重ね合わせることで意味は生まれ、閉じ込められた想いが解き放たれる。
円は、緩慢に回りはじめた。
同時に、新たな文字がその外側に現れ、同心円を成し、さらにそれが繰り返されていく。
異なる文字が異なる順に並び、幾重にも幾重にも、回り巡りながら。
やがて、何百、何千、何万も連ねられた古の文字は、激しく輝くのだった!!
——とすれば、それは〝魔法陣〟だねー。
〝魔方陣〟は、数学界(楽園ともいふ)に存在する、定理と論理によって創り上げられたパズルなので、指先から古代の文字が生まれ、連なることはなく、数ヲタの脳内には、凄まじい勢いで大量の数字が駆け巡るのだった!!
(十六夜の月を重ねる魔方陣——きっと16×16の魔方陣のことだ! だとしたら魔法の数——特別な数は——)
16 ( 16² + 1 ) / 2 = 2⁴ ( ( 2⁴ )² + 1 ) / 2 = 2³ ( ( 2⁸ + 1 ) = 2¹¹ + 2³ = 2048 + 8= 2056
【解説】
魔方陣とは𝒏×𝒏のマス目の中に1から𝒏の2乗までの数字を並べて、縦・横・斜め、どの方向に足しても等しくなるようにしたもの。
たとえば3×3の魔方陣なら「4 9 2
3 5 7
8 1 6」で、〈魔法の数〉は15となる。
この数は魔方陣を完成させなくても求めることができる。
1から𝒏までの自然数の総和は「𝒏 ( 𝒏 + 1 ) / 2」なのだから、𝒏×𝒏の魔方陣に含まれる数の合計——1から𝒏の2乗までの自然数の総和——は「𝒏² ( 𝒏² + 1 ) / 2」である。
ここで、𝒏×𝒏の魔方陣なら〈魔法の数〉が𝒏行(または列)分あるわけだから、逆に合計を𝒏で割ってやれば、〈魔法の数〉が求められる。
つまり、𝒏×𝒏の魔方陣の〈魔法の数〉は「𝒏 ( 𝒏² + 1 ) / 2」となる。
——が、以上ひっくるめて、叫び出したくなる衝動に駆られた場合は、深く突き詰めないように。
(答えは2056だ……!)
渓流を挟んで光弾を撃ち合いながら、リグナとデッサは斜面を駆け上がった。
もっとも、リグナは防戦に回る一方で、被弾する数もどんどん増えていく。
間合いが開く。
デッサは光弾を集中させる。
リグナは、手のひらを広げた両手を、ただ体の前に構えた。
デッサは口の端で笑った。
「はっ! それが貴様の限界かっ!!」
スマホの画面の中でようやく接続が確立する。
「つながった!!」
ハルはすばやく数字を入力した。
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