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第三話 異世界エレベーターと王子様
7 気分はどうだ?お姫様
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暗い……ここは?
また、異世界なのか?
だけど、なんだかいつもと違う。
どうしよう、どうしよう、助けて。
「助けて……晴瀬、さんっ」
呟いた瞬間、俺の体はものすごい勢いでとある一点に吸い込まれた。
そう、それは掃除機のごとき勢い。でかい掃除機に吸われる虫になったような気持ちだ。
んなこと言ってる場合じゃない!
悲鳴を上げる間もなく俺の体は吸収され、そしてどこかからぽぉんっと弾け出た。
ふと見上げると、晴瀬がお姫様抱っこで俺の体を受け止めていた。
「へ?え?」
「気分はどうだ?お姫様」
晴瀬が俺の体をすっと降ろした。
辺りを見回すといつもの葬儀屋ではなく、なんか会議室みたいなところで、そこには葛宮、晴瀬、汐見、そして片頬を赤く腫らした氷堂が揃っていた。
「何!?どういうこと?俺は一体どこに……」
「さぞ混乱しているお前に種明かしをしてやる、そこにいるイカれたオカルト記者がやったことをなぁ?」
晴瀬は笑みをこぼしながらも、こめかみにはシワを寄せていて完全にぶちギレてる。
「久遠の異世界遭難事件は全て仕組まれていたんだよ。こいつは、いや月刊ミステロの連中は久遠の憑かれ体質を商売道具として利用するため、わざわざ異世界を久遠の周りに作り出して、氷堂に助け出させてお前をミステロの一味にするつもりだったわけだ」
な!?そもそも俺の憑かれ体質の利用価値なんて除霊のイタコくらいしかないのはさておき。これが氷堂が仕組んだことだって?
「この記事が証拠だ、月刊ミステロ14年前の記事。氷堂の能力は異世界を行き来するだけではなく、異世界を作り出すものだったんだよ」
「それはっ……なぜそんな昔のものを……」
動揺する氷堂。
晴瀬がこちらに投げてきたその記事を見て、俺は仕組まれていたことを確信した。
全ては出版社の陰謀だったって訳か?
「京一、違う。ちょっと待って。僕は君を」
「近づかないでください」
氷堂が俺にふらりと近寄ってくるも、俺は晴瀬の横に立って氷堂にぴしゃりと言いはなった。
氷堂のいつもの優しい笑みは、不自然にひきつっていた。
晴瀬は氷堂を心底見下しながら、真剣な眼差しで睨み付けて言った。
「久遠という人間そのものを大事にしている俺と、商売道具にするため危険な目に合わせた冷酷なオカルト記者、どっちがコイツへの気持ちが強いか。決まっている、俺の方が久遠を愛してる」
は…と吐息を漏らしたが、氷堂は何も言い返せなかった。なんだかちょっと可哀想になった。俺を陥れたのは本当だったとしても、この人は確かに優しかったから。
氷堂の顔色をうかがおうと、その青の瞳を見つめると俺の心臓は跳ね上がった。
いつもの優しく穏やかな笑みが嘘のように、その眼光は鋭く、表情は苛立ちを隠してすらいなかった。
一瞬、え誰?と思ってしまうほど穏やかとは真反対の冷たい表情。
「ひょ、氷堂さ」
「はぁあ~~~……黙ってついてこればよかったのになぁああ?」
「は……?」
「ひとつ言っとくけど、僕は君を愛してる。君の体質を商売道具だと思っているのはミステロだけだよ」
口調は変わらずともその声色は刺々しく、こちらを攻撃しようという意図を感じ取れた。
ダンッ!!
威嚇するように壁に拳を叩きつける音。俺は肩をビクッと跳ねさせてしまった。
「商売道具なんてとんでもない。僕らの力はそんな陳腐なものに利用されていいものじゃない。もっと高尚だ、もっと強大だ、僕と君でこの世の理を覆そう、その力があるんだよ僕らには。だから大人しく僕のものになればいいのにさああ!?」
俺の知ってる言葉で表すならそう、『二重人格』。そうとしか思えないほどの変貌だった。
氷堂の感情が読めず怖い。俺を見つめる瞳は冷たくも温かく、尊重しているようで見下していて、愛しげでありながら憎悪しているかのようで、俺はどうしたらいいかわからずただその状況を見ているしかできない。
「君の力は素晴らしい!だけど君単体ではそこら辺の蟻くらい弱い存在だ!踏みつぶされそうになっても、抵抗する力も持っていない。実際そうだっただろう!?霊との繋がりが深い癖に、異世界に閉じ込められても自分じゃどうしようもできない!!……だから僕が君を助けてあげるんだ…僕の力は君を救う…」
自身にそう言い聞かせるように、今度はぶつぶつと呟く。情緒不安定とはこういうことを言うのだと、俺は身を持って知った。
立ちすくむ俺を庇うように、晴瀬は氷堂の前まで歩いていった。
「なるほどな、てめえ自身もミステロの商売道具って訳だ。自分の力に恐怖と孤独を感じたお前は居場所を探してオカルト雑誌の記者になるも、その能力を商売道具としてしか見ていない同僚。……欲しいのは理解者か?それとも新しい生け贄か?」
「あぁあ"ぁ"~~うるさいなぁあ!何をわかったように……商売道具だけじゃない。僕の力を気味悪がったり、嘘つき呼ばわりして否定する奴らなんて山のようにいるんだよ」
「可哀想だって言ってほしいのか?……憑かれ体質でありながら自分では抵抗力を持たない久遠のことを知って、久遠を守ることで自分の能力を肯定したかっただけだろうが。自己満足のオナニーで孤独を癒そうとしただけのわがままイカれ野郎だてめえは」
ちょ、晴瀬さん言い過ぎ!!
と口に出そうだったがもう俺の介入できる状態じゃなかった。俺が入ると氷堂はさらにヒートアップしてしまいそうだ。おとなしく、晴瀬の口撃を聞くしかないらしい。
晴瀬は一層凄んで、これでもかと畳み掛ける。
「いいか、除霊ができるってことは呪うことも簡単にできるんだぞ?今度久遠に危害を加えたらお前を呪い殺すからな」
「くっ…………この化け物が!」
そのとき俺ははっとした。
今、自分の力を異端扱いされる苦しみを知っているはずの氷堂が、晴瀬の力を非難したのだ。
氷堂の今まで語った痛みが嘘だったのか、あるいは自分自身のことさえ「化け物」だと思っている映し鏡だったのかはわからない。
晴瀬は、氷堂の酷い言葉など少しも気にする様子もなく言いはなった。
「自分の体質を受け入れて生きる久遠はお前より、強い。お前の助けなんてなくたって、コイツは誰よりも強い。もちろん、俺の助けだって……」
晴瀬さん、アンタはどうなんだよ。強い霊能力を持って、これまで生きてきたアンタは。
何にもないっていつも余裕の顔して、本当は怖さとか孤独を抱えて生きてきたんじゃないのか?
また今度、晴瀬のことを聞きたくなった。
もっと、晴瀬のことを知りたくなった。
今まで、ほとんど語ろうとはしなかったから。俺や氷堂が抱えてきた痛みと動揺のものを晴瀬だって持ってるに違いないのに。
晴瀬の言葉になすすべなくうなだれた氷堂。
その時だった。
また、異世界なのか?
だけど、なんだかいつもと違う。
どうしよう、どうしよう、助けて。
「助けて……晴瀬、さんっ」
呟いた瞬間、俺の体はものすごい勢いでとある一点に吸い込まれた。
そう、それは掃除機のごとき勢い。でかい掃除機に吸われる虫になったような気持ちだ。
んなこと言ってる場合じゃない!
悲鳴を上げる間もなく俺の体は吸収され、そしてどこかからぽぉんっと弾け出た。
ふと見上げると、晴瀬がお姫様抱っこで俺の体を受け止めていた。
「へ?え?」
「気分はどうだ?お姫様」
晴瀬が俺の体をすっと降ろした。
辺りを見回すといつもの葬儀屋ではなく、なんか会議室みたいなところで、そこには葛宮、晴瀬、汐見、そして片頬を赤く腫らした氷堂が揃っていた。
「何!?どういうこと?俺は一体どこに……」
「さぞ混乱しているお前に種明かしをしてやる、そこにいるイカれたオカルト記者がやったことをなぁ?」
晴瀬は笑みをこぼしながらも、こめかみにはシワを寄せていて完全にぶちギレてる。
「久遠の異世界遭難事件は全て仕組まれていたんだよ。こいつは、いや月刊ミステロの連中は久遠の憑かれ体質を商売道具として利用するため、わざわざ異世界を久遠の周りに作り出して、氷堂に助け出させてお前をミステロの一味にするつもりだったわけだ」
な!?そもそも俺の憑かれ体質の利用価値なんて除霊のイタコくらいしかないのはさておき。これが氷堂が仕組んだことだって?
「この記事が証拠だ、月刊ミステロ14年前の記事。氷堂の能力は異世界を行き来するだけではなく、異世界を作り出すものだったんだよ」
「それはっ……なぜそんな昔のものを……」
動揺する氷堂。
晴瀬がこちらに投げてきたその記事を見て、俺は仕組まれていたことを確信した。
全ては出版社の陰謀だったって訳か?
「京一、違う。ちょっと待って。僕は君を」
「近づかないでください」
氷堂が俺にふらりと近寄ってくるも、俺は晴瀬の横に立って氷堂にぴしゃりと言いはなった。
氷堂のいつもの優しい笑みは、不自然にひきつっていた。
晴瀬は氷堂を心底見下しながら、真剣な眼差しで睨み付けて言った。
「久遠という人間そのものを大事にしている俺と、商売道具にするため危険な目に合わせた冷酷なオカルト記者、どっちがコイツへの気持ちが強いか。決まっている、俺の方が久遠を愛してる」
は…と吐息を漏らしたが、氷堂は何も言い返せなかった。なんだかちょっと可哀想になった。俺を陥れたのは本当だったとしても、この人は確かに優しかったから。
氷堂の顔色をうかがおうと、その青の瞳を見つめると俺の心臓は跳ね上がった。
いつもの優しく穏やかな笑みが嘘のように、その眼光は鋭く、表情は苛立ちを隠してすらいなかった。
一瞬、え誰?と思ってしまうほど穏やかとは真反対の冷たい表情。
「ひょ、氷堂さ」
「はぁあ~~~……黙ってついてこればよかったのになぁああ?」
「は……?」
「ひとつ言っとくけど、僕は君を愛してる。君の体質を商売道具だと思っているのはミステロだけだよ」
口調は変わらずともその声色は刺々しく、こちらを攻撃しようという意図を感じ取れた。
ダンッ!!
威嚇するように壁に拳を叩きつける音。俺は肩をビクッと跳ねさせてしまった。
「商売道具なんてとんでもない。僕らの力はそんな陳腐なものに利用されていいものじゃない。もっと高尚だ、もっと強大だ、僕と君でこの世の理を覆そう、その力があるんだよ僕らには。だから大人しく僕のものになればいいのにさああ!?」
俺の知ってる言葉で表すならそう、『二重人格』。そうとしか思えないほどの変貌だった。
氷堂の感情が読めず怖い。俺を見つめる瞳は冷たくも温かく、尊重しているようで見下していて、愛しげでありながら憎悪しているかのようで、俺はどうしたらいいかわからずただその状況を見ているしかできない。
「君の力は素晴らしい!だけど君単体ではそこら辺の蟻くらい弱い存在だ!踏みつぶされそうになっても、抵抗する力も持っていない。実際そうだっただろう!?霊との繋がりが深い癖に、異世界に閉じ込められても自分じゃどうしようもできない!!……だから僕が君を助けてあげるんだ…僕の力は君を救う…」
自身にそう言い聞かせるように、今度はぶつぶつと呟く。情緒不安定とはこういうことを言うのだと、俺は身を持って知った。
立ちすくむ俺を庇うように、晴瀬は氷堂の前まで歩いていった。
「なるほどな、てめえ自身もミステロの商売道具って訳だ。自分の力に恐怖と孤独を感じたお前は居場所を探してオカルト雑誌の記者になるも、その能力を商売道具としてしか見ていない同僚。……欲しいのは理解者か?それとも新しい生け贄か?」
「あぁあ"ぁ"~~うるさいなぁあ!何をわかったように……商売道具だけじゃない。僕の力を気味悪がったり、嘘つき呼ばわりして否定する奴らなんて山のようにいるんだよ」
「可哀想だって言ってほしいのか?……憑かれ体質でありながら自分では抵抗力を持たない久遠のことを知って、久遠を守ることで自分の能力を肯定したかっただけだろうが。自己満足のオナニーで孤独を癒そうとしただけのわがままイカれ野郎だてめえは」
ちょ、晴瀬さん言い過ぎ!!
と口に出そうだったがもう俺の介入できる状態じゃなかった。俺が入ると氷堂はさらにヒートアップしてしまいそうだ。おとなしく、晴瀬の口撃を聞くしかないらしい。
晴瀬は一層凄んで、これでもかと畳み掛ける。
「いいか、除霊ができるってことは呪うことも簡単にできるんだぞ?今度久遠に危害を加えたらお前を呪い殺すからな」
「くっ…………この化け物が!」
そのとき俺ははっとした。
今、自分の力を異端扱いされる苦しみを知っているはずの氷堂が、晴瀬の力を非難したのだ。
氷堂の今まで語った痛みが嘘だったのか、あるいは自分自身のことさえ「化け物」だと思っている映し鏡だったのかはわからない。
晴瀬は、氷堂の酷い言葉など少しも気にする様子もなく言いはなった。
「自分の体質を受け入れて生きる久遠はお前より、強い。お前の助けなんてなくたって、コイツは誰よりも強い。もちろん、俺の助けだって……」
晴瀬さん、アンタはどうなんだよ。強い霊能力を持って、これまで生きてきたアンタは。
何にもないっていつも余裕の顔して、本当は怖さとか孤独を抱えて生きてきたんじゃないのか?
また今度、晴瀬のことを聞きたくなった。
もっと、晴瀬のことを知りたくなった。
今まで、ほとんど語ろうとはしなかったから。俺や氷堂が抱えてきた痛みと動揺のものを晴瀬だって持ってるに違いないのに。
晴瀬の言葉になすすべなくうなだれた氷堂。
その時だった。
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