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第三話 異世界エレベーターと王子様
6 絶対にもう異世界になんて連れていかせない。お前は俺が守る
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晴瀬が無断欠勤をして一週間が経った。その間晴瀬の除霊を一度も受けていない。つまり、俺が除霊を受けなければ3日で死ぬというのは晴瀬の嘘だった訳だ。しかし晴瀬を恨むどころか、俺は心配で気が気ではなかった。
しかし再会の時は突然訪れた。晴瀬が一週間ぶりに葬儀屋に現れたのだった。
「晴瀬さんっ!」
「おや久しぶりだねえ晴瀬。一週間どんな楽しいことをしてたのか、ぜひ聞かせてほしいものだね」
葛宮の皮肉も聞こえていないのか、晴瀬は一目散に俺のもとに駆け寄ってきた。今にも倒れてしまいそうなほどふらふらとした足取りだ。
俺にすがり付いたかと思うと、おもむろに手首を掴んだ。
「痛っ……晴瀬さん、一体何を?」
晴瀬はそのまま、重い金属で出来たブレスレットのようなものを俺の手首に着けた。
「何ですか……これ?」
「絶対外すなよ、どこに行くにも、何をするにも、風呂の時も、寝る時も、死んでも外すな!」
「ちょっと落ち着いてください!今までどこに行っていたんです?なんでそんなボロボロなんですか!」
晴瀬のあまりにも必死な様子に、俺は動揺を隠せないままとにかく落ち着かせようと声をかける。顔を覗くとその切れ長の目には酷いクマができていて、顔面も蒼白だった。しかし綺麗な瞳はこちらを射抜くほどじっと見つめていた。
「そのブレスレットには俺の霊力が一週間分込められてる。災害用リュックなんて要らない。絶対にもう異世界になんて連れていかせない。お前は俺が守る」
「晴瀬さっ」
そこまで言うと、俺の手首を掴む力がさっと抜けて、その場にばたりと倒れこむ。俺はとっさに晴瀬の体を支えた。
「晴瀬さんっ!大丈夫ですか!?」
「汐見くん、晴瀬を運んでくれる?」
冷静に葛宮がそう指示をすると、汐見は何の無理もなく晴瀬の体をひょいと持ち上げてソファに優しく寝かせた。
「バカも大概にしてほしいね。一週間寝ずに霊力を込め続けた?倒れるに決まってる」
「オーナー、なんで晴瀬さんはこんな無茶苦茶なことを……」
「さぁね、取られなくなかったんじゃない?」
「何を」
「君を」
なんだって?
俺がその意味を理解する前に、カランカランと来訪者の訪れを告げる扉の鈴がなった。
「京一、元気にしてる?ロシアの両親からスーシュカ送ってもらったからお裾分け………、お取り込み中だった?」
訪れたのは氷堂だった。
ソファに横たわる晴瀬、その体にすがり付く俺、立って様子を見る葛宮と汐見、その状況にただならぬものを悟ったのか、氷堂は困ったように眉を下げた。
「京一、顔色が悪いよ。外の風でも当たってきたら?」
「いや……晴瀬さんが……」
ためらう俺に葛宮はにっこり笑って言った。
「そうするといい。彼と散歩にでも行ったらどうだい?」
「いやでもっ……」
「君たちはちょっと離れた方がいい。大丈夫だ、晴瀬は僕と汐見くんが見てるから」
「……はい」
葛宮の珍しく真剣な様子に、俺は従うしかなかった。
俺たち二人が出ていった後、葛宮葬儀屋では。
「……オーナー……これ…………」
晴瀬がポケットからぼろぼろになった5cm四方ほどの古紙を取りだし、葛宮に渡した。
「これは……」
とある雑誌の切り抜きだった。
『異世界を作り出す少年!! まだ12歳だという氷堂イヴァンくんはこう語った。「超能力があるんです。僕は異世界を作り出すことができる」』
「それ、外した方がいいんじゃない?」
氷堂は俺の手首を指差した。ブレスレットの金属が皮膚に食い込んで、少し赤くなっていた。
「いや、このままで大丈夫です」
「………………そう」
絶対に外すな、という晴瀬の言葉を反芻して、俺は手首をぎゅうと握った。
「気分転換になった?」
「……はい、ありがとうございます」
二人でしばらく歩いていると、葬儀屋からはだいぶ離れてしまった。
俺はかねてから疑問に思っていることを、この際だから聞いてみることにした。
「氷堂さんはなんで俺にそんなに構うんですか?特殊な力を持ってる人なんてたくさんいるでしょ。言ってみれば晴瀬さんだって、霊能力を持っている訳だし……氷堂さん?」
ふと横を見ると、氷堂がいない。
え?なんで、どこに行って……。
その瞬間、俺の周囲は暗闇に包まれた。
葛宮は晴瀬の言葉をまとめた。
「異世界は人為的に作られている可能性が高い。そして、それを作っているのはおそらく氷堂イヴァン。ということかな?」
「そうだ……あいつ…………ぶっ殺してやる」
「わざと久遠さんを異世界に閉じ込めて、自分で助けて、何がしたいんでしょう」
その時晴瀬の体がびくっと跳ねた。
「…………久遠が連れてかれた」
「なんだって?」
「アイツに渡したブレスレットは霊的な力の探知効果を込めていた。周囲に異常な霊力が生まれれば反応を示す。それが今、急激に反応した」
そう言うと覚束ない動きで立ち上がろうとした。
「……霊力の大本を辿らないと……、原因を突き止めて、アイツを助ける」
「せめて回復してから、って言っても聞かないだろうねえお前は」
汐見は何も言わずに、晴瀬に肩を貸した。
「俺が客としてここに来た時、晴瀬さんも久遠さんも尽力してくれました。今度は俺が、晴瀬さんが見届けるのを手伝います」
汐見の運転する車が晴瀬の言うとおりに道を進むと、異世界を生み出す霊力の根源と思われる場所にたどり着いた。
そこはとあるビルの一角だった。
「ここは、月刊ミステロの出版社だ……!」
車を駐車場に泊め、足早にビルの中に侵入。晴瀬は力強い足取りでただ一点を目指していた。その背中を葛宮と汐見も追う。
小走りで辿り着いたのはビルの奥まった場所にある会議室のような場所だった。
晴瀬が容赦なくその扉を開けた瞬間、中から黒い稲妻のような光がバッと差し込み、思わず目を伏せた。
「誰だっ!」
光が落ち着き、恐る恐る目を開くといたって普通の椅子や机の並ぶ会議室、その中には氷堂が立っていた。しかしそれだけではない、氷堂の真っ正面には2mほどの黒いブラックホールのようなものが浮かんでいたのだ。
「何だよ、これは!?氷堂っ!」
「……なんで……あなた方がこんなところに……」
動揺を見せる氷堂の頬に晴瀬が右ストレートを一発食らわせた。その場に倒れこむ氷堂に馬乗りになり胸ぐらを掴む。
「ふざけた真似しやがって、お前が久遠を傷つけた!ぶっ殺してやる!」
「晴瀬落ち着いて!」
包丁を首に突きつけられても落ち着き払っている葛宮が、珍しく声を張り上げて晴瀬を制止した。
その瞬間、ブラックホールから人影がぽぉんっと飛び出した。
しかし再会の時は突然訪れた。晴瀬が一週間ぶりに葬儀屋に現れたのだった。
「晴瀬さんっ!」
「おや久しぶりだねえ晴瀬。一週間どんな楽しいことをしてたのか、ぜひ聞かせてほしいものだね」
葛宮の皮肉も聞こえていないのか、晴瀬は一目散に俺のもとに駆け寄ってきた。今にも倒れてしまいそうなほどふらふらとした足取りだ。
俺にすがり付いたかと思うと、おもむろに手首を掴んだ。
「痛っ……晴瀬さん、一体何を?」
晴瀬はそのまま、重い金属で出来たブレスレットのようなものを俺の手首に着けた。
「何ですか……これ?」
「絶対外すなよ、どこに行くにも、何をするにも、風呂の時も、寝る時も、死んでも外すな!」
「ちょっと落ち着いてください!今までどこに行っていたんです?なんでそんなボロボロなんですか!」
晴瀬のあまりにも必死な様子に、俺は動揺を隠せないままとにかく落ち着かせようと声をかける。顔を覗くとその切れ長の目には酷いクマができていて、顔面も蒼白だった。しかし綺麗な瞳はこちらを射抜くほどじっと見つめていた。
「そのブレスレットには俺の霊力が一週間分込められてる。災害用リュックなんて要らない。絶対にもう異世界になんて連れていかせない。お前は俺が守る」
「晴瀬さっ」
そこまで言うと、俺の手首を掴む力がさっと抜けて、その場にばたりと倒れこむ。俺はとっさに晴瀬の体を支えた。
「晴瀬さんっ!大丈夫ですか!?」
「汐見くん、晴瀬を運んでくれる?」
冷静に葛宮がそう指示をすると、汐見は何の無理もなく晴瀬の体をひょいと持ち上げてソファに優しく寝かせた。
「バカも大概にしてほしいね。一週間寝ずに霊力を込め続けた?倒れるに決まってる」
「オーナー、なんで晴瀬さんはこんな無茶苦茶なことを……」
「さぁね、取られなくなかったんじゃない?」
「何を」
「君を」
なんだって?
俺がその意味を理解する前に、カランカランと来訪者の訪れを告げる扉の鈴がなった。
「京一、元気にしてる?ロシアの両親からスーシュカ送ってもらったからお裾分け………、お取り込み中だった?」
訪れたのは氷堂だった。
ソファに横たわる晴瀬、その体にすがり付く俺、立って様子を見る葛宮と汐見、その状況にただならぬものを悟ったのか、氷堂は困ったように眉を下げた。
「京一、顔色が悪いよ。外の風でも当たってきたら?」
「いや……晴瀬さんが……」
ためらう俺に葛宮はにっこり笑って言った。
「そうするといい。彼と散歩にでも行ったらどうだい?」
「いやでもっ……」
「君たちはちょっと離れた方がいい。大丈夫だ、晴瀬は僕と汐見くんが見てるから」
「……はい」
葛宮の珍しく真剣な様子に、俺は従うしかなかった。
俺たち二人が出ていった後、葛宮葬儀屋では。
「……オーナー……これ…………」
晴瀬がポケットからぼろぼろになった5cm四方ほどの古紙を取りだし、葛宮に渡した。
「これは……」
とある雑誌の切り抜きだった。
『異世界を作り出す少年!! まだ12歳だという氷堂イヴァンくんはこう語った。「超能力があるんです。僕は異世界を作り出すことができる」』
「それ、外した方がいいんじゃない?」
氷堂は俺の手首を指差した。ブレスレットの金属が皮膚に食い込んで、少し赤くなっていた。
「いや、このままで大丈夫です」
「………………そう」
絶対に外すな、という晴瀬の言葉を反芻して、俺は手首をぎゅうと握った。
「気分転換になった?」
「……はい、ありがとうございます」
二人でしばらく歩いていると、葬儀屋からはだいぶ離れてしまった。
俺はかねてから疑問に思っていることを、この際だから聞いてみることにした。
「氷堂さんはなんで俺にそんなに構うんですか?特殊な力を持ってる人なんてたくさんいるでしょ。言ってみれば晴瀬さんだって、霊能力を持っている訳だし……氷堂さん?」
ふと横を見ると、氷堂がいない。
え?なんで、どこに行って……。
その瞬間、俺の周囲は暗闇に包まれた。
葛宮は晴瀬の言葉をまとめた。
「異世界は人為的に作られている可能性が高い。そして、それを作っているのはおそらく氷堂イヴァン。ということかな?」
「そうだ……あいつ…………ぶっ殺してやる」
「わざと久遠さんを異世界に閉じ込めて、自分で助けて、何がしたいんでしょう」
その時晴瀬の体がびくっと跳ねた。
「…………久遠が連れてかれた」
「なんだって?」
「アイツに渡したブレスレットは霊的な力の探知効果を込めていた。周囲に異常な霊力が生まれれば反応を示す。それが今、急激に反応した」
そう言うと覚束ない動きで立ち上がろうとした。
「……霊力の大本を辿らないと……、原因を突き止めて、アイツを助ける」
「せめて回復してから、って言っても聞かないだろうねえお前は」
汐見は何も言わずに、晴瀬に肩を貸した。
「俺が客としてここに来た時、晴瀬さんも久遠さんも尽力してくれました。今度は俺が、晴瀬さんが見届けるのを手伝います」
汐見の運転する車が晴瀬の言うとおりに道を進むと、異世界を生み出す霊力の根源と思われる場所にたどり着いた。
そこはとあるビルの一角だった。
「ここは、月刊ミステロの出版社だ……!」
車を駐車場に泊め、足早にビルの中に侵入。晴瀬は力強い足取りでただ一点を目指していた。その背中を葛宮と汐見も追う。
小走りで辿り着いたのはビルの奥まった場所にある会議室のような場所だった。
晴瀬が容赦なくその扉を開けた瞬間、中から黒い稲妻のような光がバッと差し込み、思わず目を伏せた。
「誰だっ!」
光が落ち着き、恐る恐る目を開くといたって普通の椅子や机の並ぶ会議室、その中には氷堂が立っていた。しかしそれだけではない、氷堂の真っ正面には2mほどの黒いブラックホールのようなものが浮かんでいたのだ。
「何だよ、これは!?氷堂っ!」
「……なんで……あなた方がこんなところに……」
動揺を見せる氷堂の頬に晴瀬が右ストレートを一発食らわせた。その場に倒れこむ氷堂に馬乗りになり胸ぐらを掴む。
「ふざけた真似しやがって、お前が久遠を傷つけた!ぶっ殺してやる!」
「晴瀬落ち着いて!」
包丁を首に突きつけられても落ち着き払っている葛宮が、珍しく声を張り上げて晴瀬を制止した。
その瞬間、ブラックホールから人影がぽぉんっと飛び出した。
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