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第三話 異世界エレベーターと王子様
4 誰か俺を助けて。誰でもいいから……晴瀬さん
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祈った結果、既に一週間が経過しようとしていた。どうしたらいい、さすがに焦る。いや、焦るというかもう俺は憔悴していた。
途中から温存し始めた災害ボックスも、底を尽きようとしている。
なんで誰も来ないんだ、なんで誰も助けてくれない?一週間もいなくなっても、誰も俺のことなんか気にかけないのか?
食料と簡易トイレはあっても、風呂には入れない。のびのびと身体を動かすこともできない。じめじめとした陰鬱な密閉空間に閉じ込められて、太陽も浴びれずただ立ったり座ったりするしかない。
頭がおかしくなりそうだ。気が狂いそうだ。
外では俺の異変に気づいて、なんとか助ける術を探してくれているのか?あるいは、俺の存在は無かったものになっていて、誰も彼もが今までと変わらない生活を送っている?
ああ、一生ここに閉じ込められるのか。このまま糞尿を垂れ流したまま、餓死するんだろうか、嫌だ。
誰か、誰か俺を助けて。誰でもいいから。
………………晴瀬さん。
「……助けて……」
思わずそう呟いた瞬間、エレベーターの扉がガコンッと大きな音を立てた。
久々に自分じゃない音を聞いて、肩がびくっと跳ねる。
音は次第に激しさを増して、最後に扉が開いた。
眩いほどの日の光が差し込み、目を細めるも逆光になった人影を確かに見た。
「助けに来たよ!」
え?
優しげで明るく温かい男性の声。
一週間ぶりの太陽光にようやく目が慣れると、その人影の顔を視認することができた。
柔らかく光る銀髪、青みがかった瞳、日本人離れした顔をしたその男は声と同様に優しい笑みを浮かべていた。
あんた誰?とか、どうしてここがわかった?とか、聞きたいことは山盛りだったが、もう指先ひとつ動かせないほど疲弊していた俺は一言。
「……なん……で?」
男は俺の手を取って引っ張りあげる。そのままなんの苦もなく、俺の身体をお姫様抱っこしやがった。
わずか30センチの距離で、キラキラした青の瞳を俺を向けながら。
「君が助けてって言ったから、ね」
王子様のように優しく、穏やかに微笑んだ。
エレベーターから降りると、そこはなぜかビルの屋上だった。3階の途中で止まったはずなのに……やはりあれは怪奇現象の1つだったわけだ。そのまま王子様に「家は?」と聞かれたものの、ここからなら葛宮葬儀屋の方が近かったので、場所を教えて運んで貰うことにした。
成人男性をお姫様抱っこで運ぶ成人男性(仮)という図は心底恥ずかしかったが、身体はもう限界でこの王子様のなすままに身を任せる俺であった。
葛宮葬儀屋に辿り着くなり、くたばった俺を見つけた晴瀬は驚いて駆け寄ってくる。
しかし、俺に触れようとした手を王子様がぱしんっと振り払った。
「は?」
「晴瀬唯人さん、だっけ?除霊師だか何だか知らないけど、今まで何やってたの?」
「何……て、なんのことだ……」
「京一が一週間も孤独な異世界に閉じ込められていた時、君は一体何をしていた?」
「だから一週間って何のことだよ、久遠が休んだのは一日で……それくらいなら……」
そこまで言って晴瀬は目を見開いた。
ーー相対性異世界、数日前にたまたま読んだオカルト雑誌にそんなようなことが書かれていた気がする。
時間の流れが異なる異世界を作り出すという男の特集が組まれていた。もちろんガセネタだろうと本気にはしていなかった。
「ちょっと霊能力のある人間なら、探そうと思えば簡単に異変に気付いたはずさ。だけど君はそうしなかった」
この王子様は嫌に晴瀬に攻撃的な態度だった。向けられた敵意に気がつかないはずもなく、晴瀬はドスの効いた声で威嚇した。
「……久遠から離れろよ、そいつは俺のだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。ますは京一を休ませてあげて」
とりあえず俺の体は王子様の腕の中から汐見へと移され、そのままソファにそっと寝かされた。
王子様の言葉に晴瀬は返す言葉を失い立ち尽くしていた。
「君は彼と仕事の相棒だって聞いたけど、相棒失格じゃないのかな。……僕だったら、もっといい相棒になれるのに。京一のことを傷つけたりしないのに」
「ちょっと待ってくれ、いったい何があったのか説明してくれないかい?」
何も言えなくなってしまった晴瀬に代わって、葛宮が王子様に尋ねた。
「京一はこの一週間、異世界とつながったエレベーターの中に閉じ込められていたんだ。それを僕が救い出した、僕は超能力者なんだ」
「超能力者……?」
「異世界を行き来する能力……死後の世界や数多ある異世界、パラレルワールドに自由に行くことができる。京一が異世界から助けを呼ぶ声が聞こえてきて、助けに行ったんだ」
「……面白い能力だねえ」
半信半疑なのか、しかし葛宮はにっこりと笑ってそう褒めた。
「氷堂イヴァン、僕の名前。ロシアと日本のハーフなんだ。氷堂でいいよ。普段はとある雑誌の記者をやってる」
「……それで瞳が青いんだね、その銀色の髪は?」
「ふふ、これは人工」
照れ臭そうに美しく光る銀色の髪に触れた。
とある雑誌…晴瀬はつぶやいた。
「月刊ミステロ……」
「当たりだよ!僕は月刊ミステロの記者をやってるんだ、自分自身が超能力者なのもあってね」
月刊ミステロは晴瀬が「相対性異世界」の記事を読んだオカルト雑誌だった。
「僕は京一に月刊ミステロの記者になってほしい」
「はい?」
「はっ?」
途中から温存し始めた災害ボックスも、底を尽きようとしている。
なんで誰も来ないんだ、なんで誰も助けてくれない?一週間もいなくなっても、誰も俺のことなんか気にかけないのか?
食料と簡易トイレはあっても、風呂には入れない。のびのびと身体を動かすこともできない。じめじめとした陰鬱な密閉空間に閉じ込められて、太陽も浴びれずただ立ったり座ったりするしかない。
頭がおかしくなりそうだ。気が狂いそうだ。
外では俺の異変に気づいて、なんとか助ける術を探してくれているのか?あるいは、俺の存在は無かったものになっていて、誰も彼もが今までと変わらない生活を送っている?
ああ、一生ここに閉じ込められるのか。このまま糞尿を垂れ流したまま、餓死するんだろうか、嫌だ。
誰か、誰か俺を助けて。誰でもいいから。
………………晴瀬さん。
「……助けて……」
思わずそう呟いた瞬間、エレベーターの扉がガコンッと大きな音を立てた。
久々に自分じゃない音を聞いて、肩がびくっと跳ねる。
音は次第に激しさを増して、最後に扉が開いた。
眩いほどの日の光が差し込み、目を細めるも逆光になった人影を確かに見た。
「助けに来たよ!」
え?
優しげで明るく温かい男性の声。
一週間ぶりの太陽光にようやく目が慣れると、その人影の顔を視認することができた。
柔らかく光る銀髪、青みがかった瞳、日本人離れした顔をしたその男は声と同様に優しい笑みを浮かべていた。
あんた誰?とか、どうしてここがわかった?とか、聞きたいことは山盛りだったが、もう指先ひとつ動かせないほど疲弊していた俺は一言。
「……なん……で?」
男は俺の手を取って引っ張りあげる。そのままなんの苦もなく、俺の身体をお姫様抱っこしやがった。
わずか30センチの距離で、キラキラした青の瞳を俺を向けながら。
「君が助けてって言ったから、ね」
王子様のように優しく、穏やかに微笑んだ。
エレベーターから降りると、そこはなぜかビルの屋上だった。3階の途中で止まったはずなのに……やはりあれは怪奇現象の1つだったわけだ。そのまま王子様に「家は?」と聞かれたものの、ここからなら葛宮葬儀屋の方が近かったので、場所を教えて運んで貰うことにした。
成人男性をお姫様抱っこで運ぶ成人男性(仮)という図は心底恥ずかしかったが、身体はもう限界でこの王子様のなすままに身を任せる俺であった。
葛宮葬儀屋に辿り着くなり、くたばった俺を見つけた晴瀬は驚いて駆け寄ってくる。
しかし、俺に触れようとした手を王子様がぱしんっと振り払った。
「は?」
「晴瀬唯人さん、だっけ?除霊師だか何だか知らないけど、今まで何やってたの?」
「何……て、なんのことだ……」
「京一が一週間も孤独な異世界に閉じ込められていた時、君は一体何をしていた?」
「だから一週間って何のことだよ、久遠が休んだのは一日で……それくらいなら……」
そこまで言って晴瀬は目を見開いた。
ーー相対性異世界、数日前にたまたま読んだオカルト雑誌にそんなようなことが書かれていた気がする。
時間の流れが異なる異世界を作り出すという男の特集が組まれていた。もちろんガセネタだろうと本気にはしていなかった。
「ちょっと霊能力のある人間なら、探そうと思えば簡単に異変に気付いたはずさ。だけど君はそうしなかった」
この王子様は嫌に晴瀬に攻撃的な態度だった。向けられた敵意に気がつかないはずもなく、晴瀬はドスの効いた声で威嚇した。
「……久遠から離れろよ、そいつは俺のだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。ますは京一を休ませてあげて」
とりあえず俺の体は王子様の腕の中から汐見へと移され、そのままソファにそっと寝かされた。
王子様の言葉に晴瀬は返す言葉を失い立ち尽くしていた。
「君は彼と仕事の相棒だって聞いたけど、相棒失格じゃないのかな。……僕だったら、もっといい相棒になれるのに。京一のことを傷つけたりしないのに」
「ちょっと待ってくれ、いったい何があったのか説明してくれないかい?」
何も言えなくなってしまった晴瀬に代わって、葛宮が王子様に尋ねた。
「京一はこの一週間、異世界とつながったエレベーターの中に閉じ込められていたんだ。それを僕が救い出した、僕は超能力者なんだ」
「超能力者……?」
「異世界を行き来する能力……死後の世界や数多ある異世界、パラレルワールドに自由に行くことができる。京一が異世界から助けを呼ぶ声が聞こえてきて、助けに行ったんだ」
「……面白い能力だねえ」
半信半疑なのか、しかし葛宮はにっこりと笑ってそう褒めた。
「氷堂イヴァン、僕の名前。ロシアと日本のハーフなんだ。氷堂でいいよ。普段はとある雑誌の記者をやってる」
「……それで瞳が青いんだね、その銀色の髪は?」
「ふふ、これは人工」
照れ臭そうに美しく光る銀色の髪に触れた。
とある雑誌…晴瀬はつぶやいた。
「月刊ミステロ……」
「当たりだよ!僕は月刊ミステロの記者をやってるんだ、自分自身が超能力者なのもあってね」
月刊ミステロは晴瀬が「相対性異世界」の記事を読んだオカルト雑誌だった。
「僕は京一に月刊ミステロの記者になってほしい」
「はい?」
「はっ?」
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