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第二話 兄弟喧嘩は葛宮しか食わない
4 ってあんぱんと牛乳食ってる場合ですか!?
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毛布で汗を拭って、布団から這い出た。
階段を降りて、リビングに向かう。
「母さん、おはよう……?」
「あの時は俺も剣も小学生でしたから、別れざるを得ませんでした。だけど、やっと大人になりました。これからは本当の家族と暮らしていきたいんです」
「で、ですが私たちはもう17年も一緒に暮らしてきて……家族なんです!」
「心苦しいですが、こちらの思いもわかってください。本来俺たちは共に暮らすべき肉親なんだ。それに、失礼ながら俺には剣を不自由させない経済力もある、あなた方は剣の稼ぎで生活しているとお聞きしました。兄としては……」
「そんな……」
いつものリビングに兄、もとい元兄と言えようか、水川弓月が座っていた。
両親と向かい合ってしている話は、きっと自分を取り戻そうと脅しているのだろう。
思わず、いつもより大きな声を出していた。
「弓月さん……何をしに来たんですか……これは俺とあなたの問題だ。家族は関係ない」
「ふん…関係ないと言うのなら場所を変えよう。車に乗れ」
兄はニヤニヤと悪趣味な笑みを浮かべた。
本当は行きたくない、関わりたくない。
だけど、家族を巻き込むのは嫌だ。
心配そうな家族の顔を見ることなく、汐見は大人しく水川に着いていき、山奥には似合わない外車に乗り込んだ。
否、着いていくしかなかった。
成金趣味の高級車は、酷く居心地が悪かった。
小一時間ほど車を走らせると、栄えた駅前の裏道にたどり着いた。
地上40階建ての高層タワーマンションの駐車場にスマートに車を停めた。
「あっ車が入っていくぞ!」
俺と葛宮と晴瀬は、超高級タワーマンションに入っていく車を見届けた。
何かって、汐見とその兄とかいう変人が乗っているからだ。
「大丈夫なんですかこれ?……ってあんぱんと牛乳食ってる場合ですか!?」
「張り込みには必須だろう、ていうか君こそなに双眼鏡なんか持っているんだい」
尾行して家を特定してって……もはやストーカー行為ではなかろうか。
何て心配しつつも、かつての葛宮葬儀屋の悪事の数々は普通に法に触れてるのでもはや杞憂でしかない。
何かあってもオーナーが揉み消してくれるしな!
「しょうがねえだろ?俺たちの日常はコメディのはずなのに、汐見があんなヘビーな話するもんだから、俺たちがコメディに変えねえと」
晴瀬の言う通りだ。
昨日突然現れた汐見の兄とか言う男との関係を白状させると、汐見の口からはおよそ本当の話とは思えない暗い過去が語られた。
一家惨殺事件。
当時俺は3、4歳だったから記憶にはないが、葛宮はなんとなくニュースで聞いたことがあるらしかった。
肉じゃが事件といい、暗い過去といい、嫌に死の匂いが濃いものだ。
その話を聞いた時、葛宮は泡を吹いて倒れた。
『オーーーーナーーー!?』
『ぶくぶくぶくぶく』
死体愛好家がまさかグロが苦手なんてこともあるまいに。
とりあえずソファに放り出して、落ち着いてから話を聞くと……
「僕は面白い話が聞きたいんだけど?そんな陰鬱な話聞きたくないよ!」
などとのたまりやがった。
当事者が目の前にいるんだぞ!?と思ったが、そんなことを気にする神経でないことは最初からわかっている。
……それにだ、この図太いイカれ死体愛好家がそんなことで泡を吹くわけあるか?
俺は真の理由をなんとなく察してしまった。
『生ける屍』が屍となった原因と思われるものを知ってしまったから。
葛宮は汐見の生きながらに死体という謎の魅力に取り憑かれていた。
その謎が解明しかけたことに、キャパオーバーになった結果、蟹のように泡吹いたのではないだろうか。
これは俺の想像に過ぎないが……。
まあ、それはさておき、重苦しい汐見の雰囲気に耐えられない葛宮はまた突拍子もないことを抜かしたのだった。
『汐見くんとあの男の関係をめちゃくちゃにしてやろう!』
かくして俺たちは二人を尾行することとなった。
一旦家に帰した汐見を見張っていたらまんまと兄と名乗る男が現れたのだった。
「まぁ座れよ、ワインでも開けよう」
「弓月さん、一体何がしたいんですか。俺をどうしたいんです」
こざっぱりした、しかし高級そうな1LDKの床に座るように促されても、汐見は警戒を解かず立ったままだった。
水川は困ったように眉を下げ、悲しそうな顔を作った。
「なんでそんな敵意むき出しなんだ、唯一の肉親との感動の再会じゃないか。まずは近況報告でも語り合おう」
「人の自宅も職場も勝手に特定しておいて、何が近況報告ですか」
弟の攻撃的な物言いを聞くと、ネクタイを緩め、髪をかきあげ、ふぅーーと長い一息を吐いた。
「俺と離れた後、お前はずいぶんと好き勝手に生きてきたようだなぁ?死人みたいな気味の悪い子どもで、家族からは愛されず、親戚からも見放され、施設送りの天涯孤独になったお前が、どうしてのうのうと家族ごっこして生きているのか」
「もう別の家族であるあなたには関係ない」
「関係ない訳がない。お前に家族を見殺しにされた。お前が殺した。」
責めるような口調でもなお、不気味に笑っていた。
汐見は何も言えなくなってしまった。
『お前が家族を殺した』
兄のその言葉は呪いとなって汐見を縛り付けた。
「いいさ、じゃあ俺の身の上話でもしよう。今日までの16年間、どうやって暮らしたのか」
階段を降りて、リビングに向かう。
「母さん、おはよう……?」
「あの時は俺も剣も小学生でしたから、別れざるを得ませんでした。だけど、やっと大人になりました。これからは本当の家族と暮らしていきたいんです」
「で、ですが私たちはもう17年も一緒に暮らしてきて……家族なんです!」
「心苦しいですが、こちらの思いもわかってください。本来俺たちは共に暮らすべき肉親なんだ。それに、失礼ながら俺には剣を不自由させない経済力もある、あなた方は剣の稼ぎで生活しているとお聞きしました。兄としては……」
「そんな……」
いつものリビングに兄、もとい元兄と言えようか、水川弓月が座っていた。
両親と向かい合ってしている話は、きっと自分を取り戻そうと脅しているのだろう。
思わず、いつもより大きな声を出していた。
「弓月さん……何をしに来たんですか……これは俺とあなたの問題だ。家族は関係ない」
「ふん…関係ないと言うのなら場所を変えよう。車に乗れ」
兄はニヤニヤと悪趣味な笑みを浮かべた。
本当は行きたくない、関わりたくない。
だけど、家族を巻き込むのは嫌だ。
心配そうな家族の顔を見ることなく、汐見は大人しく水川に着いていき、山奥には似合わない外車に乗り込んだ。
否、着いていくしかなかった。
成金趣味の高級車は、酷く居心地が悪かった。
小一時間ほど車を走らせると、栄えた駅前の裏道にたどり着いた。
地上40階建ての高層タワーマンションの駐車場にスマートに車を停めた。
「あっ車が入っていくぞ!」
俺と葛宮と晴瀬は、超高級タワーマンションに入っていく車を見届けた。
何かって、汐見とその兄とかいう変人が乗っているからだ。
「大丈夫なんですかこれ?……ってあんぱんと牛乳食ってる場合ですか!?」
「張り込みには必須だろう、ていうか君こそなに双眼鏡なんか持っているんだい」
尾行して家を特定してって……もはやストーカー行為ではなかろうか。
何て心配しつつも、かつての葛宮葬儀屋の悪事の数々は普通に法に触れてるのでもはや杞憂でしかない。
何かあってもオーナーが揉み消してくれるしな!
「しょうがねえだろ?俺たちの日常はコメディのはずなのに、汐見があんなヘビーな話するもんだから、俺たちがコメディに変えねえと」
晴瀬の言う通りだ。
昨日突然現れた汐見の兄とか言う男との関係を白状させると、汐見の口からはおよそ本当の話とは思えない暗い過去が語られた。
一家惨殺事件。
当時俺は3、4歳だったから記憶にはないが、葛宮はなんとなくニュースで聞いたことがあるらしかった。
肉じゃが事件といい、暗い過去といい、嫌に死の匂いが濃いものだ。
その話を聞いた時、葛宮は泡を吹いて倒れた。
『オーーーーナーーー!?』
『ぶくぶくぶくぶく』
死体愛好家がまさかグロが苦手なんてこともあるまいに。
とりあえずソファに放り出して、落ち着いてから話を聞くと……
「僕は面白い話が聞きたいんだけど?そんな陰鬱な話聞きたくないよ!」
などとのたまりやがった。
当事者が目の前にいるんだぞ!?と思ったが、そんなことを気にする神経でないことは最初からわかっている。
……それにだ、この図太いイカれ死体愛好家がそんなことで泡を吹くわけあるか?
俺は真の理由をなんとなく察してしまった。
『生ける屍』が屍となった原因と思われるものを知ってしまったから。
葛宮は汐見の生きながらに死体という謎の魅力に取り憑かれていた。
その謎が解明しかけたことに、キャパオーバーになった結果、蟹のように泡吹いたのではないだろうか。
これは俺の想像に過ぎないが……。
まあ、それはさておき、重苦しい汐見の雰囲気に耐えられない葛宮はまた突拍子もないことを抜かしたのだった。
『汐見くんとあの男の関係をめちゃくちゃにしてやろう!』
かくして俺たちは二人を尾行することとなった。
一旦家に帰した汐見を見張っていたらまんまと兄と名乗る男が現れたのだった。
「まぁ座れよ、ワインでも開けよう」
「弓月さん、一体何がしたいんですか。俺をどうしたいんです」
こざっぱりした、しかし高級そうな1LDKの床に座るように促されても、汐見は警戒を解かず立ったままだった。
水川は困ったように眉を下げ、悲しそうな顔を作った。
「なんでそんな敵意むき出しなんだ、唯一の肉親との感動の再会じゃないか。まずは近況報告でも語り合おう」
「人の自宅も職場も勝手に特定しておいて、何が近況報告ですか」
弟の攻撃的な物言いを聞くと、ネクタイを緩め、髪をかきあげ、ふぅーーと長い一息を吐いた。
「俺と離れた後、お前はずいぶんと好き勝手に生きてきたようだなぁ?死人みたいな気味の悪い子どもで、家族からは愛されず、親戚からも見放され、施設送りの天涯孤独になったお前が、どうしてのうのうと家族ごっこして生きているのか」
「もう別の家族であるあなたには関係ない」
「関係ない訳がない。お前に家族を見殺しにされた。お前が殺した。」
責めるような口調でもなお、不気味に笑っていた。
汐見は何も言えなくなってしまった。
『お前が家族を殺した』
兄のその言葉は呪いとなって汐見を縛り付けた。
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