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第一話 生ける屍からの依頼
18 借金地獄になる前にいっそ殺してくれ!
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「というわけで、今日からこの葬儀屋で働くことになった、汐見くんだ」
「よろしくお願いします」
「ばっかじゃねえの!?頭おかしいの!?」
大学終わり、いつも通り葛宮葬儀屋に出勤した俺は、店の中で飛んでもない人物と再会した。
汐見、死体遺棄どころか、肉じゃがにして食べた男。
その男が、うちで働くなんて出勤一番に言われて叫びたくもなる。
「うちで住み込みで働くことを条件に、雇うことにしたんだ。住み込みとは言っても、給料は前職の宅配業者より多いし、実働時間は短い。ただ僕に生ける屍の姿を見せるだけでいいんだ。実にホワイトだろう」
「労働環境の心配なんか誰もしてないですよ!!」
ピントの外れた回答に俺は全力で突っ込みながらも身の毛がよだつ。
話が通じないってこんな怖いんだなぁ、などとのんきなことを考えつつ。
「こいつは殺人鬼!カニバリスト!晴瀬さんもなんか言ってください!?」
「まぁ、オーナーの指示は絶対だし、まあ俺は給料がもらえて除霊ができればなんでもいいからな」
信じらんねえ……!
俺もあんたも、この男に殺されかけたんだぞ!?
それに交通事故で一人やっちまってるのこいつは!!
「殺したのは俺じゃありません。父です」
「だああああ!もう俺やめます!!」
「辞めたらその日からトイチだ。今の借金が300万だから…」
「ああああ!!世の中金が全てかよ!!ヤミ金の方がまだマシだったわ!」
「辞めたら俺への除霊代も払ってもらわねえとな。ちなみに、俺の除霊受けなかったらお前三日で死ぬぞ」
「借金地獄になる前にいっそ殺してくれ!」
このままでは俺も犯罪者になってしまいかねない。
しかしオーナーは雇い主、そして借金をしている身でもある。
逆らえるわけがなかろうが……!
俺は考えるのをやめて、書類整理に入った。
すると閑古鳥の鳴くこの店に、早速来店者が現れた。
「お兄ちゃん!」
近所の女子高の制服を身にまとった、活発で可愛らしい女子高生。
その子は汐見のことをそう呼んだ。
「凛、どうしたんだこんなところで」
「お兄ちゃんが、このお店にいるのが見えたから、ここが新しい仕事先?」
「おやおや、汐見くんの妹さんかな?」
快活で笑顔の素敵な女の子だった。
無表情で死人のような兄と対照的で、感情豊かだ。
あの殺人一家の隠蔽工作に付き合わされたのは胸糞悪いが、この無垢な少女一人の人生を救ったと考えれば悪くないか、俺はそう思った。
「初めまして!汐見凛です!お兄ちゃんがお世話になっています!」
あ。
「しおみ、りん……?」
晴瀬がそう呟いた。
沸き立つ湯気、コトコトコトコトと煮込み続ける音。
肉じゃが、金切り声、悲痛な男の叫び。
カソウ……シテ…タスケテ……
スキ…シオ…ミリン……タリナイ…ホシイ…
好き、塩、みりん、足りない、欲しい
スキ、シオ、ミリン、タリナイ、ホシイ
ーー好き……汐見、凛……足りない、欲しい
晴瀬はゾワァと全身の毛が逆立つような感覚を覚える。
気のせいだ、そう言い聞かせる。
ゾクゾクと震える体を、押さえつけて、晴瀬は汐見に声をかけた。
「あの男、本当に面識はないんだよな?」
「……えぇ、恐らく」
汐見は微笑を浮かべていた。出会った時と比べて、表情は柔らかいものとなった気がする。
しかしなお、彼が死人のように見えてならないのだ。
第一話 生ける屍からの依頼 完
「よろしくお願いします」
「ばっかじゃねえの!?頭おかしいの!?」
大学終わり、いつも通り葛宮葬儀屋に出勤した俺は、店の中で飛んでもない人物と再会した。
汐見、死体遺棄どころか、肉じゃがにして食べた男。
その男が、うちで働くなんて出勤一番に言われて叫びたくもなる。
「うちで住み込みで働くことを条件に、雇うことにしたんだ。住み込みとは言っても、給料は前職の宅配業者より多いし、実働時間は短い。ただ僕に生ける屍の姿を見せるだけでいいんだ。実にホワイトだろう」
「労働環境の心配なんか誰もしてないですよ!!」
ピントの外れた回答に俺は全力で突っ込みながらも身の毛がよだつ。
話が通じないってこんな怖いんだなぁ、などとのんきなことを考えつつ。
「こいつは殺人鬼!カニバリスト!晴瀬さんもなんか言ってください!?」
「まぁ、オーナーの指示は絶対だし、まあ俺は給料がもらえて除霊ができればなんでもいいからな」
信じらんねえ……!
俺もあんたも、この男に殺されかけたんだぞ!?
それに交通事故で一人やっちまってるのこいつは!!
「殺したのは俺じゃありません。父です」
「だああああ!もう俺やめます!!」
「辞めたらその日からトイチだ。今の借金が300万だから…」
「ああああ!!世の中金が全てかよ!!ヤミ金の方がまだマシだったわ!」
「辞めたら俺への除霊代も払ってもらわねえとな。ちなみに、俺の除霊受けなかったらお前三日で死ぬぞ」
「借金地獄になる前にいっそ殺してくれ!」
このままでは俺も犯罪者になってしまいかねない。
しかしオーナーは雇い主、そして借金をしている身でもある。
逆らえるわけがなかろうが……!
俺は考えるのをやめて、書類整理に入った。
すると閑古鳥の鳴くこの店に、早速来店者が現れた。
「お兄ちゃん!」
近所の女子高の制服を身にまとった、活発で可愛らしい女子高生。
その子は汐見のことをそう呼んだ。
「凛、どうしたんだこんなところで」
「お兄ちゃんが、このお店にいるのが見えたから、ここが新しい仕事先?」
「おやおや、汐見くんの妹さんかな?」
快活で笑顔の素敵な女の子だった。
無表情で死人のような兄と対照的で、感情豊かだ。
あの殺人一家の隠蔽工作に付き合わされたのは胸糞悪いが、この無垢な少女一人の人生を救ったと考えれば悪くないか、俺はそう思った。
「初めまして!汐見凛です!お兄ちゃんがお世話になっています!」
あ。
「しおみ、りん……?」
晴瀬がそう呟いた。
沸き立つ湯気、コトコトコトコトと煮込み続ける音。
肉じゃが、金切り声、悲痛な男の叫び。
カソウ……シテ…タスケテ……
スキ…シオ…ミリン……タリナイ…ホシイ…
好き、塩、みりん、足りない、欲しい
スキ、シオ、ミリン、タリナイ、ホシイ
ーー好き……汐見、凛……足りない、欲しい
晴瀬はゾワァと全身の毛が逆立つような感覚を覚える。
気のせいだ、そう言い聞かせる。
ゾクゾクと震える体を、押さえつけて、晴瀬は汐見に声をかけた。
「あの男、本当に面識はないんだよな?」
「……えぇ、恐らく」
汐見は微笑を浮かべていた。出会った時と比べて、表情は柔らかいものとなった気がする。
しかしなお、彼が死人のように見えてならないのだ。
第一話 生ける屍からの依頼 完
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