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第一話 生ける屍からの依頼
14 俺、料理得意なんです。せっかくなんで、食べていってください
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俺たち3人がリビングに通されると、いたって普通の庶民的な部屋だった。
広々としているが昭和感が漂う部屋の真ん中には大きなテーブルに6つの椅子が置いてあった。
きっとここで家族みんなで団欒をしているのだろう。
その椅子に、向き合うように俺たちは座った。
玄関、階段、リビング、そのほかの部屋にも人の気配はせず、おそらく家族全員が不在にしていた。
さて、何が起こっているかと言うと、俺たち3人を椅子に座らせると、汐見はキッチンで料理をし始めたのだ。
なんだそれ、「突撃!隣の晩御飯」じゃねんだから、意味がわからなすぎる。
不気味なほど部屋を照らす白い蛍光灯。
地獄のような緊張感で俺はもはや吐きそうだったが、葛宮は目を伏せながら足を組んで平然と座っていた。
キッチンからは、包丁かおたまか、金属がかちゃかちゃ言う音が聞こえた。
「俺、料理得意なんです。せっかくなんで、食べていってください。特に肉じゃがが得意で」
汐見はキッチンで料理をしながら、俺たちに話しかける。
俺は汐見に聞こえないように二人に小声で囁いた。
「オーナー、おかしいですよアイツ……この状況で料理振る舞いますか普通?」
「普通?まぁ、普通ではないだろうね」
元から普通じゃないやつに同意を求めても無駄だったことに気がつく。
どうしてここにいるのか、俺は何をしたらいいのか。
何もかもわからずただ大人しく椅子に座っているしかない。
「……汐見くん。是非庭のフランケンシュタインの仮装の話をして欲しいのだけど、君は何を知っているのかな?」
トン…トン…トン…トン…。
規則的な包丁の音が響く。
顔はわからないが、抑揚のない声は聞こえてきた。
血まみれのフランケンシュタインの衣装。
「……あれは、名前も知らない男がハロウィンの時に着ていた仮装です」
「血は本物だったよね、あれは血糊なんかじゃない、本物の色と匂いだった」
「…………」
「君は何を隠してるの?」
「……あの日のことを、聞いてくれますか?」
トン…トン…トン…トン…。
ついに汐見は、語り始めた。
10月31日、ハロウィン。
今から一週間ほど前。
葛宮葬儀屋三人衆が、悪霊に取り憑かれた少女の死体と格闘していたのと時を同じくして、この山奥の6人家族には異常事態が起きていた。
薄給の仕事から珍しく早く帰宅した父親は、家族が集まるリビングに入るなり、ふらっ…ふらっ……と体を不気味なまでに揺らして歩き、その顔は青ざめていた。
「おとーさんおかえりー!……どうしたの?」
少し離れた街中の女子校に通う妹は明るく父親を迎え入れたが、その異常な様子に顔をしかめ尋ねた。
「お父さん……人を…轢いちまった……」
スマホをいじる妹の隣に座って、かぼちゃを切っていた汐見は顔をあげた。
キッチンで鍋に火をかけていた母親と祖母も、不安げにリビングに集まってきた。
「行くぞ」
威厳ある祖父のその言葉で、6人は駆け足で外に出た。
肌寒く真っ暗な街灯ひとつ無い山道。
仕事に使う軽トラックは道の真ん中で無人で止まっており、そのすぐそばに真っ赤に染まったフランケンシュタインが倒れていた。
1mほど離れた場所からでもわかる、男はあまりにも酒臭く、ただ泥酔して倒れているだけのようにも見えた。
「こいつが……道の真ん中で寝てて……道が暗いもんで…ギリギリまで見えなくて……そのまま……」
震える声で父親はなんとか事情を説明した。
汐見がフランケンシュタインの仮装をした男に近づくと、その目はぎょろりと見開いたまま閉じず、既に死んでいるのだと確信する。
その場に立ちすくむ6人。
「救急車呼んで……警察に行ってくる……!」
父親は取り憑かれたように小汚いつなぎのポケットからスマホを取り出そうとした。
その手を母親が死に物狂いで掴んで、動きを止めさせる。
「ヤメてお父さん!……一旦考えましょ、それからでも遅くないわ、…ね?」
その手とヒステリックなほどに悲痛な声は父親よりもさらに震えていた。
再びの静寂、妹は混乱して泣きだしそうだった。
汐見はどうしたら良いかわからず、思考が停止していた。
その静寂を切り裂くように、祖父は声をひねり出し提案した。
その提案に、馬鹿みたいに6人で賛同した。
「路上で寝ていたこいつが悪い」
「そうだ、こいつのせいでお父さんが前科をつけられる必要はない」
「隠してしまおう」
「山ならバレない」
幸い家は山奥、誰にも見られない。
人っ子一人通らない上に、もう夜も遅い。
死体は山の中腹に埋め、血にまみれたフランケンシュタインの衣服は庭に埋めた。
ほとぼりが冷めたら、ゴミに捨てる手はずだった。
家族の平穏のため。
家族の幸せのため。
田舎の6人家族は共犯者となった。
しかし、程なくして汐見を幻聴が襲うようになった。
いや、幻聴ではない、確かに霊の悲痛な金切り声が聞こえるのだ。
『カソウ……カソウシテ…シテ…カソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウ』
広々としているが昭和感が漂う部屋の真ん中には大きなテーブルに6つの椅子が置いてあった。
きっとここで家族みんなで団欒をしているのだろう。
その椅子に、向き合うように俺たちは座った。
玄関、階段、リビング、そのほかの部屋にも人の気配はせず、おそらく家族全員が不在にしていた。
さて、何が起こっているかと言うと、俺たち3人を椅子に座らせると、汐見はキッチンで料理をし始めたのだ。
なんだそれ、「突撃!隣の晩御飯」じゃねんだから、意味がわからなすぎる。
不気味なほど部屋を照らす白い蛍光灯。
地獄のような緊張感で俺はもはや吐きそうだったが、葛宮は目を伏せながら足を組んで平然と座っていた。
キッチンからは、包丁かおたまか、金属がかちゃかちゃ言う音が聞こえた。
「俺、料理得意なんです。せっかくなんで、食べていってください。特に肉じゃがが得意で」
汐見はキッチンで料理をしながら、俺たちに話しかける。
俺は汐見に聞こえないように二人に小声で囁いた。
「オーナー、おかしいですよアイツ……この状況で料理振る舞いますか普通?」
「普通?まぁ、普通ではないだろうね」
元から普通じゃないやつに同意を求めても無駄だったことに気がつく。
どうしてここにいるのか、俺は何をしたらいいのか。
何もかもわからずただ大人しく椅子に座っているしかない。
「……汐見くん。是非庭のフランケンシュタインの仮装の話をして欲しいのだけど、君は何を知っているのかな?」
トン…トン…トン…トン…。
規則的な包丁の音が響く。
顔はわからないが、抑揚のない声は聞こえてきた。
血まみれのフランケンシュタインの衣装。
「……あれは、名前も知らない男がハロウィンの時に着ていた仮装です」
「血は本物だったよね、あれは血糊なんかじゃない、本物の色と匂いだった」
「…………」
「君は何を隠してるの?」
「……あの日のことを、聞いてくれますか?」
トン…トン…トン…トン…。
ついに汐見は、語り始めた。
10月31日、ハロウィン。
今から一週間ほど前。
葛宮葬儀屋三人衆が、悪霊に取り憑かれた少女の死体と格闘していたのと時を同じくして、この山奥の6人家族には異常事態が起きていた。
薄給の仕事から珍しく早く帰宅した父親は、家族が集まるリビングに入るなり、ふらっ…ふらっ……と体を不気味なまでに揺らして歩き、その顔は青ざめていた。
「おとーさんおかえりー!……どうしたの?」
少し離れた街中の女子校に通う妹は明るく父親を迎え入れたが、その異常な様子に顔をしかめ尋ねた。
「お父さん……人を…轢いちまった……」
スマホをいじる妹の隣に座って、かぼちゃを切っていた汐見は顔をあげた。
キッチンで鍋に火をかけていた母親と祖母も、不安げにリビングに集まってきた。
「行くぞ」
威厳ある祖父のその言葉で、6人は駆け足で外に出た。
肌寒く真っ暗な街灯ひとつ無い山道。
仕事に使う軽トラックは道の真ん中で無人で止まっており、そのすぐそばに真っ赤に染まったフランケンシュタインが倒れていた。
1mほど離れた場所からでもわかる、男はあまりにも酒臭く、ただ泥酔して倒れているだけのようにも見えた。
「こいつが……道の真ん中で寝てて……道が暗いもんで…ギリギリまで見えなくて……そのまま……」
震える声で父親はなんとか事情を説明した。
汐見がフランケンシュタインの仮装をした男に近づくと、その目はぎょろりと見開いたまま閉じず、既に死んでいるのだと確信する。
その場に立ちすくむ6人。
「救急車呼んで……警察に行ってくる……!」
父親は取り憑かれたように小汚いつなぎのポケットからスマホを取り出そうとした。
その手を母親が死に物狂いで掴んで、動きを止めさせる。
「ヤメてお父さん!……一旦考えましょ、それからでも遅くないわ、…ね?」
その手とヒステリックなほどに悲痛な声は父親よりもさらに震えていた。
再びの静寂、妹は混乱して泣きだしそうだった。
汐見はどうしたら良いかわからず、思考が停止していた。
その静寂を切り裂くように、祖父は声をひねり出し提案した。
その提案に、馬鹿みたいに6人で賛同した。
「路上で寝ていたこいつが悪い」
「そうだ、こいつのせいでお父さんが前科をつけられる必要はない」
「隠してしまおう」
「山ならバレない」
幸い家は山奥、誰にも見られない。
人っ子一人通らない上に、もう夜も遅い。
死体は山の中腹に埋め、血にまみれたフランケンシュタインの衣服は庭に埋めた。
ほとぼりが冷めたら、ゴミに捨てる手はずだった。
家族の平穏のため。
家族の幸せのため。
田舎の6人家族は共犯者となった。
しかし、程なくして汐見を幻聴が襲うようになった。
いや、幻聴ではない、確かに霊の悲痛な金切り声が聞こえるのだ。
『カソウ……カソウシテ…シテ…カソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウ』
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