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第一話 生ける屍からの依頼
13 君、殺したの?
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俺たちが顔を上げると、そこにあったのは一つの民家だった。
周りには何もなく、ポツンと一つ立っている古い家屋だったが田舎特有の、そこそこ広い家と庭だった。
周りは石の塀で囲まれている。
『カソウシテ…シテ……カソウ…カソウカソウカソウ』
「この家の中から霊の声がする」
「じゃあ、火葬したがってる霊はこの家の中に……」
俺がドラマチックにそう言う。
汐見は悪霊除去ブレスレットをつけていてもなお、不快な声が聞こえるのか怪訝そうな顔をしていた。
そして葛宮は民家の塀を飛び越えようと手と足をかけていた。
「ちょちょちょっっちょ何やってんですか!?」
「ちょっとお邪魔しようと…」
「お邪魔とかじゃないんすよ!不法侵入でしょうが!?」
よじ登る葛宮のベストの裾をグイグイ引っ張っておろすもこんな時だけ馬鹿力。
見た目だけは優雅で紳士な優男なのに、死体のことに関わると行動が無茶苦茶になる。
「待て待て、玄関鍵かかってないぞ」
そう言うと晴瀬はいとも簡単に外扉を開けた。
山奥の田舎だからだろうか、防犯の警戒心が薄く扉は鍵がかかっていないようだ。
俺たちは玄関から堂々と家屋に侵入した。
泥棒よろしく恐る恐る歩みを進める俺。
「家主が出てきたらどうするんですか!?」
「死体がここにあるかもしれないので見にきましたと正直に答えればいいだろう」
「この馬鹿オーナー!」
ちょっとどころか180度常識とずれているこのオーナーについて行ったら借金どころか、犯罪者に片足突っ込むんじゃなかろうか。
ついてきたことを若干後悔しながら、後には引けない俺はただついて行くしかなかった。
晴瀬は庭まで歩いて行って、ある一点を指差した。
「ここだ、ここにいる。だけど、会話ができる状態じゃない。ただ鳴き声みたいに、カソウカソウと呟いているだけだ。」
「よし、掘ろう!」
清々しい声でそう宣言した葛宮の目は爛々と輝いていた。
「掘る!?」
「いるかもしれないだろう!ここに!」
あぁダメだ、完全に興奮してしまっている。
こうなった葛宮を止められる奴などいない。
「死体が出てきたらどうするんすか!?」
「死体を探しているんじゃないか!」
ああああ話通じねえええ。
少し遠くで物置を勝手に漁っていた晴瀬は片手にスコップを持ち上げた。
「あったぞスコップ」
「探さんでいい!!!」
まともな奴がいねえ。
仕方がなく俺たちは他人ん家の庭をほじくり返す。
まるで、俺たち自身が殺人犯にでもなったかのように。
しかし、いくら掘り返せど死体は出てこなかった。
代わりに出てきたのは。
「なんだこれ、フランケンシュタイン?」
「の、コスプレ!?」
血にまみれたフランケンシュタインのコスプレ衣装が土の中から出てきたのだ。
そこから、途轍もない邪気がにじみ出ている。
そして、例の声も。
『カソウ…カソウ…』
「かそうって」
『カソウ…カソウ…』
「もしかして」
「「「仮装…!?」」」
ダジャレ……だと!?
「火葬」じゃなくて、「仮装」だって!?!?
「なぁんだ。1週間前のハロウィンに浮かれていた人の霊だったのかー!」
「理解理解」
「で、なんでこれが君の家の庭にあるのかな?」
葛宮がとんでもないことを言った。
「…………は?」
今まで丁寧な口調を崩さなかった汐見が、初めて完全に面食らった声を発した。
「君が依頼書に書いた住所、ここだったよね」
なんだと……?
依頼を受ける前に、顧客情報を紙に書いてもらった、あれのことを言っているのか。
まず葛宮がそんな一瞬見たくらいの情報を今の今まで覚えていたことにドン引きだが、今はそれはいい。
ここが汐見さんの家だって?
俺と晴瀬は揃ってぽかんと口を開けることしかできない。
「6人家族で山奥で暮らしているって言う君の家は、ここだよね?」
「…………」
「なんで黙ってるの?」
伏せ目がちな汐見の顔は先ほどと変わっていないが、なぜだか暗い影を落としているように感じた。
元から不気味な人間ではあったが、この数日間で信頼に値する人物だと感じていた。
特にイかれた死体愛好家と、変態の除霊師に囲まれていた俺にとっては唯一まともな人間だと思っていた。
しかし、その感情がわずかに揺らぎ始めた。
「君、殺したの?」
「…………まさか?殺してなんかいませんよ。上がってください。」
上がってください……?
言葉の真意がつかめない。
しかし、汐見が家の入り口に歩き出すのを見てわかった。
家に入れと??
正直俺は、悪霊云々より汐見の方が怖くなってきた。
そりゃそうだ。
フランケンシュタインのコスプレが霊となんの関係があるのかは未だ分からない。
誰かがなすりつけようとしているのか、あるいは汐見家に恨みがある人物が勝手に埋めたと言う可能性もある。
何もわかっていない状況でただ一つ事実なのは、「汐見が自分の家に辿り着いたのに一度もそれを明かさなかったこと」だ。
山に行くとなったら、自分の家の近くだと、一言言うものではないだろうか。
汐見は口数の少ない男だが、別に引っ込み思案ではない。
必要なことは言うはずだ、なのにそんなことは誰にも一度も言わなかった。
汐見が何か隠していることは確定。
それが酷く怖かった。
汐見が当然のように家の鍵をガチャリと開ける音で、本当にこの家は汐見の家なのだと痛感。
平然と顔色一つ変えずに汐見についていく葛宮は、微笑すら浮かべている。
「晴瀬さん……」
情けなくも晴瀬の服の裾を掴む俺。
こんな時に頼れる人間がこの変態除霊師しかいないのか。
いや、そうじゃない。
今まで拒絶してきた人間にこんな時だけすがる自分に嫌気がさすだけだ。
だと言うのに、この男は今までに見たことないような優しい笑顔を浮かべて俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「お前のことは俺が絶対守るから、お前はお前らしくいろ」
「……なんでそんな優しいこと言うんすか。いつもみたいにふざければいいのに」
「悪霊に勝つ一番大事なことは自分を見失わないことだ。無事に事件が解決したらご褒美エッチしてやる」
「遠慮します」
俺は俺らしく、何度も言い聞かせる。
覚悟を決めて、汐見の家の入った。
周りには何もなく、ポツンと一つ立っている古い家屋だったが田舎特有の、そこそこ広い家と庭だった。
周りは石の塀で囲まれている。
『カソウシテ…シテ……カソウ…カソウカソウカソウ』
「この家の中から霊の声がする」
「じゃあ、火葬したがってる霊はこの家の中に……」
俺がドラマチックにそう言う。
汐見は悪霊除去ブレスレットをつけていてもなお、不快な声が聞こえるのか怪訝そうな顔をしていた。
そして葛宮は民家の塀を飛び越えようと手と足をかけていた。
「ちょちょちょっっちょ何やってんですか!?」
「ちょっとお邪魔しようと…」
「お邪魔とかじゃないんすよ!不法侵入でしょうが!?」
よじ登る葛宮のベストの裾をグイグイ引っ張っておろすもこんな時だけ馬鹿力。
見た目だけは優雅で紳士な優男なのに、死体のことに関わると行動が無茶苦茶になる。
「待て待て、玄関鍵かかってないぞ」
そう言うと晴瀬はいとも簡単に外扉を開けた。
山奥の田舎だからだろうか、防犯の警戒心が薄く扉は鍵がかかっていないようだ。
俺たちは玄関から堂々と家屋に侵入した。
泥棒よろしく恐る恐る歩みを進める俺。
「家主が出てきたらどうするんですか!?」
「死体がここにあるかもしれないので見にきましたと正直に答えればいいだろう」
「この馬鹿オーナー!」
ちょっとどころか180度常識とずれているこのオーナーについて行ったら借金どころか、犯罪者に片足突っ込むんじゃなかろうか。
ついてきたことを若干後悔しながら、後には引けない俺はただついて行くしかなかった。
晴瀬は庭まで歩いて行って、ある一点を指差した。
「ここだ、ここにいる。だけど、会話ができる状態じゃない。ただ鳴き声みたいに、カソウカソウと呟いているだけだ。」
「よし、掘ろう!」
清々しい声でそう宣言した葛宮の目は爛々と輝いていた。
「掘る!?」
「いるかもしれないだろう!ここに!」
あぁダメだ、完全に興奮してしまっている。
こうなった葛宮を止められる奴などいない。
「死体が出てきたらどうするんすか!?」
「死体を探しているんじゃないか!」
ああああ話通じねえええ。
少し遠くで物置を勝手に漁っていた晴瀬は片手にスコップを持ち上げた。
「あったぞスコップ」
「探さんでいい!!!」
まともな奴がいねえ。
仕方がなく俺たちは他人ん家の庭をほじくり返す。
まるで、俺たち自身が殺人犯にでもなったかのように。
しかし、いくら掘り返せど死体は出てこなかった。
代わりに出てきたのは。
「なんだこれ、フランケンシュタイン?」
「の、コスプレ!?」
血にまみれたフランケンシュタインのコスプレ衣装が土の中から出てきたのだ。
そこから、途轍もない邪気がにじみ出ている。
そして、例の声も。
『カソウ…カソウ…』
「かそうって」
『カソウ…カソウ…』
「もしかして」
「「「仮装…!?」」」
ダジャレ……だと!?
「火葬」じゃなくて、「仮装」だって!?!?
「なぁんだ。1週間前のハロウィンに浮かれていた人の霊だったのかー!」
「理解理解」
「で、なんでこれが君の家の庭にあるのかな?」
葛宮がとんでもないことを言った。
「…………は?」
今まで丁寧な口調を崩さなかった汐見が、初めて完全に面食らった声を発した。
「君が依頼書に書いた住所、ここだったよね」
なんだと……?
依頼を受ける前に、顧客情報を紙に書いてもらった、あれのことを言っているのか。
まず葛宮がそんな一瞬見たくらいの情報を今の今まで覚えていたことにドン引きだが、今はそれはいい。
ここが汐見さんの家だって?
俺と晴瀬は揃ってぽかんと口を開けることしかできない。
「6人家族で山奥で暮らしているって言う君の家は、ここだよね?」
「…………」
「なんで黙ってるの?」
伏せ目がちな汐見の顔は先ほどと変わっていないが、なぜだか暗い影を落としているように感じた。
元から不気味な人間ではあったが、この数日間で信頼に値する人物だと感じていた。
特にイかれた死体愛好家と、変態の除霊師に囲まれていた俺にとっては唯一まともな人間だと思っていた。
しかし、その感情がわずかに揺らぎ始めた。
「君、殺したの?」
「…………まさか?殺してなんかいませんよ。上がってください。」
上がってください……?
言葉の真意がつかめない。
しかし、汐見が家の入り口に歩き出すのを見てわかった。
家に入れと??
正直俺は、悪霊云々より汐見の方が怖くなってきた。
そりゃそうだ。
フランケンシュタインのコスプレが霊となんの関係があるのかは未だ分からない。
誰かがなすりつけようとしているのか、あるいは汐見家に恨みがある人物が勝手に埋めたと言う可能性もある。
何もわかっていない状況でただ一つ事実なのは、「汐見が自分の家に辿り着いたのに一度もそれを明かさなかったこと」だ。
山に行くとなったら、自分の家の近くだと、一言言うものではないだろうか。
汐見は口数の少ない男だが、別に引っ込み思案ではない。
必要なことは言うはずだ、なのにそんなことは誰にも一度も言わなかった。
汐見が何か隠していることは確定。
それが酷く怖かった。
汐見が当然のように家の鍵をガチャリと開ける音で、本当にこの家は汐見の家なのだと痛感。
平然と顔色一つ変えずに汐見についていく葛宮は、微笑すら浮かべている。
「晴瀬さん……」
情けなくも晴瀬の服の裾を掴む俺。
こんな時に頼れる人間がこの変態除霊師しかいないのか。
いや、そうじゃない。
今まで拒絶してきた人間にこんな時だけすがる自分に嫌気がさすだけだ。
だと言うのに、この男は今までに見たことないような優しい笑顔を浮かべて俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「お前のことは俺が絶対守るから、お前はお前らしくいろ」
「……なんでそんな優しいこと言うんすか。いつもみたいにふざければいいのに」
「悪霊に勝つ一番大事なことは自分を見失わないことだ。無事に事件が解決したらご褒美エッチしてやる」
「遠慮します」
俺は俺らしく、何度も言い聞かせる。
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