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第一話 生ける屍からの依頼
11 セックス一回1万でツケにしてやってもいいぜ
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外はすでに日が暮れかけて、夕日が橙に照らして街を染めていた。
それはいいとして信じらんねえ、万年文化部の俺にどんな苦行を強いるつもりだ。
山の麓までは晴瀬の運転する葛宮所有の車でたどり着けたが、霊がいると言う地点は車が入れない細道だった。
車が入れないなら足で歩くしかない。
足元の悪い斜面を歩き続けるのは堪えた。
それだのに。
「……火葬されたがっている霊の声なんて聞こえない」
晴瀬は真剣な様子でそう呟いた。
「霊自体はいるのかい?」
「まぁ、聞かない方が身のためなくらいエグい霊の声はいくつも聞こえてくる。おそらく山に埋められたとか、遭難したとか、事故にあったとか、自殺したとか、その辺の類だろう。だけど『カソウ』なんて声は一つも聞こえてこない」
「ってことはガセネタ掴まされたってことですか?」
「数人の霊が揃って同じことを言ったんだ、嘘をついているとは考えにくいが……」
俺はすでにゼーゼーと、とんでもなく息を切らして、汗だくである。
その挙句、霊がいないなんて言う絶望を聞かされてどっと疲れが出る。
疲れているだけではない、もう辺りは薄暗く男4人とはいえ、こんな山奥まで来てしまって大丈夫かと不安になってくる。
「オーナー、とりあえず帰ろう。夜になってきたし、今から探し直すのは無理だ。明日出直そう」
「…………そうしようか」
葛宮は顎に指を置いて少しの間考え込んでいたが答えが出なかったのか、諦めたように同意した。
ふう、と一息つく俺。
昼間は霊も出づらいかもしれないが、こんなクソ恐ろしい状態よりはましだ。
その時だった。
「………ッ……!」
突如自身の頭を押さえた汐見が葛宮の方にふらりと倒れた。
葛宮が目を見開いた、汐見の体を支えようとするも体格が違いすぎる。
汐見を支えたまま、二人は揃って地面に重なった枯葉の上にドサリと崩れ落ちた。
「汐見さん!」
「オーナー大丈夫か!?」
尻餅をついた葛宮は腰をわずかにさするも、心配するなと笑みを浮かべた。
「僕は大丈夫、それより汐見くんが」
「ぐっ……っぅ……ッ……」
頭を抱えて体を丸め悶え苦しんでいる。
俺は汐見に駆け寄り、その体をさする。
「汐見さんどうしたんですか!?頭痛いんですか?」
「……ぅ”、大丈、夫……ですから……」
途切れ途切れにそう呟くも、明らかに異常を来たす汐見の姿に俺はオロオロとするのみだ。
葛宮は倒れこむ汐見を見下げながら淡々と呟いた。
「もしかして……霊の声が聞こえるのかい?」
「ち……がいます……なんでも…あり…ま…ぅぐぁ……あ」
よく見ると、汐見は頭ではなく耳を押さえていた。
そんな汐見の横で晴瀬が眉間に皺を寄せた。
「しっ!」と一本指を口元に当て、晴瀬は耳を澄ます。
『カソウ…シテ‼︎…カソウ……シ……リン…キ、リナ…イ…カソウ……カソウウウウウウ!!!!』
晴瀬の耳にも金切り声のようなその声がかすかに届いていた。
数百メートルほど遠くから聞こえるような小さな声だったが、それでも苦痛と不快をグチャ混ぜにしたような悲鳴だった。
汐見にはこの声が鮮明に聞こえているのかもしれない。
五月蝿いを通り越して、耳が裂けて壊れてしまうほどの痛みを感じるだろう。
「火葬されたがっている霊の声が聞こえる」
「え!?まじすか?」
「汐見さんにも聞こえているんだろう。こりゃうちに相談に来る理由もわかる」
こんな状態でよく一週間も耐えられたな。
晴瀬は何やら自身が肩からかけていたウェストポーチをまさぐった。
「下手すりゃ廃人になる。……よいしょっと、悪霊除去ブレスレット!」
ドラ○もんのひみつ道具かのごとく取り出したのは、黒い球が連なったパワーストーンのブレスレットのようなものだった。
俺はそれを見たことがある。
晴瀬がかつてフリーの除霊師として女性客を集めていた時に高額で売りさばいていたと言うアクセサリーだった。
苦しむ汐見の手首を掴んで、そのブレスレットをはめた。
「それ、詐欺商品じゃなかったんですか」
「失礼だな。ちゃんと効果あるぞ。簡易的だが悪霊の邪気を払うことができる。これは客に売ってたものの50倍の力がある」
ブレスレットをはめた汐見は、汗だくで呼吸を乱しながらも徐々に落ち着きを取り戻していった。
「はーっ……はーっ……」
「そんな静電気除去みたいな感覚で悪霊を避けられるんですか?」
「さすが、僕が見込んだ除霊師なだけはある」
胡散臭い霊能力者だと思っていたがちゃんとしたものも作れるのか、と俺はのんきにも感心する。
いやまてよ。
「そんなものがあるなら憑かれ体質である俺にくださいよ!!」
「一個10万、お前は憑かれやすいから10個は必要だ。合計100万、現金しか受け付けない」
「だあああ結局金だどいつもこいつも!」
「ついでに言うと上級悪霊相手だと壊れる可能性があるから、ランニングコストもかかるぞ」
脅しのようにそう言ってニヤつく晴瀬の顔にムカつく。
「知り合い料金で1万に負けてください」
「セックス一回1万でツケにしてやってもいいぜ」
「絶対にお断りします」
「『試作品だから万が一を考えて大事な久遠くんには試せない』って素直に言えばいいのに」
葛宮の言葉に慌てふためく晴瀬。
さっきからなんなんだこのオーナーは、俺と晴瀬をからかって遊んでいるのか。
「何言ってんですかオーナー。晴瀬さんの感情がそんな清いもんな訳ないじゃないですか。この人は俺をおもちゃにすることしか考えてませんよ」
「どうだろうねえ?」
それはいいとして信じらんねえ、万年文化部の俺にどんな苦行を強いるつもりだ。
山の麓までは晴瀬の運転する葛宮所有の車でたどり着けたが、霊がいると言う地点は車が入れない細道だった。
車が入れないなら足で歩くしかない。
足元の悪い斜面を歩き続けるのは堪えた。
それだのに。
「……火葬されたがっている霊の声なんて聞こえない」
晴瀬は真剣な様子でそう呟いた。
「霊自体はいるのかい?」
「まぁ、聞かない方が身のためなくらいエグい霊の声はいくつも聞こえてくる。おそらく山に埋められたとか、遭難したとか、事故にあったとか、自殺したとか、その辺の類だろう。だけど『カソウ』なんて声は一つも聞こえてこない」
「ってことはガセネタ掴まされたってことですか?」
「数人の霊が揃って同じことを言ったんだ、嘘をついているとは考えにくいが……」
俺はすでにゼーゼーと、とんでもなく息を切らして、汗だくである。
その挙句、霊がいないなんて言う絶望を聞かされてどっと疲れが出る。
疲れているだけではない、もう辺りは薄暗く男4人とはいえ、こんな山奥まで来てしまって大丈夫かと不安になってくる。
「オーナー、とりあえず帰ろう。夜になってきたし、今から探し直すのは無理だ。明日出直そう」
「…………そうしようか」
葛宮は顎に指を置いて少しの間考え込んでいたが答えが出なかったのか、諦めたように同意した。
ふう、と一息つく俺。
昼間は霊も出づらいかもしれないが、こんなクソ恐ろしい状態よりはましだ。
その時だった。
「………ッ……!」
突如自身の頭を押さえた汐見が葛宮の方にふらりと倒れた。
葛宮が目を見開いた、汐見の体を支えようとするも体格が違いすぎる。
汐見を支えたまま、二人は揃って地面に重なった枯葉の上にドサリと崩れ落ちた。
「汐見さん!」
「オーナー大丈夫か!?」
尻餅をついた葛宮は腰をわずかにさするも、心配するなと笑みを浮かべた。
「僕は大丈夫、それより汐見くんが」
「ぐっ……っぅ……ッ……」
頭を抱えて体を丸め悶え苦しんでいる。
俺は汐見に駆け寄り、その体をさする。
「汐見さんどうしたんですか!?頭痛いんですか?」
「……ぅ”、大丈、夫……ですから……」
途切れ途切れにそう呟くも、明らかに異常を来たす汐見の姿に俺はオロオロとするのみだ。
葛宮は倒れこむ汐見を見下げながら淡々と呟いた。
「もしかして……霊の声が聞こえるのかい?」
「ち……がいます……なんでも…あり…ま…ぅぐぁ……あ」
よく見ると、汐見は頭ではなく耳を押さえていた。
そんな汐見の横で晴瀬が眉間に皺を寄せた。
「しっ!」と一本指を口元に当て、晴瀬は耳を澄ます。
『カソウ…シテ‼︎…カソウ……シ……リン…キ、リナ…イ…カソウ……カソウウウウウウ!!!!』
晴瀬の耳にも金切り声のようなその声がかすかに届いていた。
数百メートルほど遠くから聞こえるような小さな声だったが、それでも苦痛と不快をグチャ混ぜにしたような悲鳴だった。
汐見にはこの声が鮮明に聞こえているのかもしれない。
五月蝿いを通り越して、耳が裂けて壊れてしまうほどの痛みを感じるだろう。
「火葬されたがっている霊の声が聞こえる」
「え!?まじすか?」
「汐見さんにも聞こえているんだろう。こりゃうちに相談に来る理由もわかる」
こんな状態でよく一週間も耐えられたな。
晴瀬は何やら自身が肩からかけていたウェストポーチをまさぐった。
「下手すりゃ廃人になる。……よいしょっと、悪霊除去ブレスレット!」
ドラ○もんのひみつ道具かのごとく取り出したのは、黒い球が連なったパワーストーンのブレスレットのようなものだった。
俺はそれを見たことがある。
晴瀬がかつてフリーの除霊師として女性客を集めていた時に高額で売りさばいていたと言うアクセサリーだった。
苦しむ汐見の手首を掴んで、そのブレスレットをはめた。
「それ、詐欺商品じゃなかったんですか」
「失礼だな。ちゃんと効果あるぞ。簡易的だが悪霊の邪気を払うことができる。これは客に売ってたものの50倍の力がある」
ブレスレットをはめた汐見は、汗だくで呼吸を乱しながらも徐々に落ち着きを取り戻していった。
「はーっ……はーっ……」
「そんな静電気除去みたいな感覚で悪霊を避けられるんですか?」
「さすが、僕が見込んだ除霊師なだけはある」
胡散臭い霊能力者だと思っていたがちゃんとしたものも作れるのか、と俺はのんきにも感心する。
いやまてよ。
「そんなものがあるなら憑かれ体質である俺にくださいよ!!」
「一個10万、お前は憑かれやすいから10個は必要だ。合計100万、現金しか受け付けない」
「だあああ結局金だどいつもこいつも!」
「ついでに言うと上級悪霊相手だと壊れる可能性があるから、ランニングコストもかかるぞ」
脅しのようにそう言ってニヤつく晴瀬の顔にムカつく。
「知り合い料金で1万に負けてください」
「セックス一回1万でツケにしてやってもいいぜ」
「絶対にお断りします」
「『試作品だから万が一を考えて大事な久遠くんには試せない』って素直に言えばいいのに」
葛宮の言葉に慌てふためく晴瀬。
さっきからなんなんだこのオーナーは、俺と晴瀬をからかって遊んでいるのか。
「何言ってんですかオーナー。晴瀬さんの感情がそんな清いもんな訳ないじゃないですか。この人は俺をおもちゃにすることしか考えてませんよ」
「どうだろうねえ?」
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