葛宮葬儀屋の怪事件

クズ惚れつ

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第一話 生ける屍からの依頼

4 ヤッベェなんか色情霊取り憑いたわ

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 次の日の朝、俺たちは欠けることなく(晴瀬は五分遅刻したが)、葛宮葬儀屋に集まることとなった。
 「霊の声を便りに死体を探す」そして、見つからなければ「霊の火葬」をするなんて、そんな不思議な現状に、俺は何故だか胸の高鳴りさえ感じているのだった。
 なんだかミッションみたいで面白いじゃないか、とオーナーみたいなことを考える。
 四人がそれぞれ覚悟を決めたのを感じ取って、一週間ぶりの仕事が始まった。

 まず手始めに、早速その火葬したがっているとかいう霊の声を聞くことにした。
 俺たちが部屋の奥に進むと、そこは除霊室だった。
 禍々しい呪物?のようなものや、勾玉、水晶玉など、ほんとに使うのかよこれと言いたくなるようなアイテムが敷き詰められた薄暗い部屋。

「1割は本物だ」
「9割は?」
「インテリア」

 部屋の中心にあるソファに俺たちは腰かけた。
 晴瀬の話では、すでに汐見には霊が取り憑いているということだった。

「汐見さんの体に取り憑いてると不安定すぎて介入しづらいから、まずは霊を久遠に移す」
「また俺ですか!?」

 信じらんねえこの男、もはや俺に嫌がらせをするために嘘ついてるんじゃなかろうか。

「久遠の身体を借りて、その火葬されたがってるとかいう霊から話を聞き、遺体の場所の手がかりを掴むんだ」

 ギリギリと下唇を噛む俺の右肩に、わざとらしくオーナーは手を置く。

「依頼人の体に負担かけるつもりか久遠くん?」

 左肩には悪趣味な笑みを浮かべた晴瀬が手を置く。

「いくらバイトとはいえ、プロ意識がたりないんじゃねえの?」

 クソこいつら!こんな時だけ相手が客であることを笠に着やがって。
 そんなことを言われてこれ以上抵抗できる奴がどこにいようか。
 いくら嫌々バイトさせられているとは言え、賃金をもらっている以上客を危険に晒す真似はできない。
 覚悟を決めた俺は肩に置かれた二人の手を振り払って、投げやりに叫んだ。

「だぁああ!分かりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」

 晴瀬は満足そうにニヤリと笑うと、葛宮を少し後ろに下がらせた。

「では汐見さん、今から貴方に憑いている霊を一旦外に引きずり出して、久遠に移します」

 汐見は恐怖も動揺も興味も示さず、静かに「はい」と答える。
 そんな汐見を見ながら、葛宮は興味深そうにニマニマと笑って、顎を擦っている。
 汐見の現在の状況を見るに、霊は暴れる様子はないため、ハロウィンの日の除霊と違って俺は拘束されることはなかった。
 行くぞ、と晴瀬が声をかけ何やらお経のようなものを唱えると、汐見の身体がガクンッと大きく揺れる。
 汐見の身体から抜け出たモノが俺の身体に吸い込まれるのを感じた。

ーーあぁ、来る。
 
 その時、俺は自分の身体を何者かにジャックされたような感覚を覚えた。
 怒涛のように異変が襲ってくる。
 熱い、熱い、熱いぃ!

「はぁっ…はぁ、は…はぁっ…」

 バクバクと脈打つ胸をグッと掴んで耐える俺の異変に気付いたのか、晴瀬が駆け寄ってくる。

「久遠っどうした!」
「あっ♡ちんっ…んぐぅっ!?」

 なっななっ!?
 俺は今、何を言おうとした…?
 なんかあらぬことが口から飛び出そうになったの、慌てて俺は口を手で塞いだ。

「…久遠?」
「はるっ…せ、さんっ…の、ち、ちん……ぽ…欲し…♡違っ、何……は!?」

 晴瀬が怪訝そうな顔で俺を見る。
 俺だって怪訝な顔をしたい。
 しかしできないのだ、身体や表情や口のコントロールが効かなくて、まるで俺の身体を他人が操ってるみたいに……。

 俺は膝から崩れ落ち、うなだれた。

「久遠?何言ってんだおまえ」

 四つん這いのまま、唖然としている晴瀬の脚に絡み付いた、俺が。
 なんで……!?

「晴瀬さんのちんぽ♡、俺ん中にくだひゃい♡」

 晴瀬のくたびれたスウェットの股間の辺りに顔を寄せてとろんとした瞳で晴瀬の顔を見る。
 って何冷静に説明してんだ!?
 これはおおおっ俺じゃない!
 俺の意思じゃない!
 こんな変態悪趣味除霊師に媚びるような真似…。
 なのに何故か、この人のちっ…ちんぽ、欲しくて堪らない。
 晴瀬は俺の後ろ髪を掴んで引き剥がしながら、葛宮と汐見の方を見て苦笑した。

「ヤッベェなんか色情霊取り憑いたわ」

 ヤッベェじゃねえええええ!!!!

ーー色情霊、それは性や恋に対して未練を残して死んだ者の霊。

「あぁう♡晴瀬、さ、もう我慢れきない♡♡」
「おっとまずいな、色情霊は宿主を取り殺すことはないが、まぁ……色狂いの廃人にはなるかもな」

 晴瀬は自身の身体に纏わりつく俺の手脚を冷静に引き剥がす。
 のんきなこと言ってないではよ除霊しろ!
 意識はあるのに、体や口が勝手に霊に動かされる、と言った感じだ。
 その意識も、ちょっと油断すると取り込まれそうだ。

「晴瀬しゃん♡俺のこと気持ちよくひてぇ♡」

 自分でも気色悪くなるような媚びっ媚びの声をあげて、布越しに晴瀬の股間にキスをする。
 そのまま、匂いを堪能するようにすぅ♡はぁ♡と呼吸する。
 いつもは余裕綽々で俺をからかっておもちゃにしている晴瀬も、俺の大胆な恥態にタジタジだった。
 見かねた葛宮が呆れた顔をして、冷めた目で俺たちを見てきた。

「早く除霊してあげなよ」
「わ、わかってる。」

 そう言いながらも、晴瀬はドギマギとした態度でいつものペースが崩されているようだ。
 女性客を数々手玉に取ってきた色男だが、グイグイ来られるのはどうやら慣れていないらしい。
 今度除霊と銘打って俺に変態セクハラしてきたら、俺の方から積極的になって、困らせてやろう。
 俺はと言うと早く除霊として欲しいのだが、当の俺が晴瀬の身体に絡み付いて阻止している始末だ。
 晴瀬のことを誘ってしまう。
 それでも、晴瀬は懸命に除霊に集中しようとしている。

 だめだ、こいつじゃ、俺の渇きを満たしてくれない。

「じゃあさぁ、汐見さんがいいなぁ俺♡ちんぽおっきそうだし♡」

 晴瀬がその気じゃないなら、他の男を探すしかない。
 だって、体が熱くて、疼いて、仕方がないのだから。
 俺は汐見の足元に縋りついて、必死に媚びる。
 汐見は俺を冷たい瞳で見下ろしていた。
 先程までと変わらない無表情のはずだが、何故かその視線が気持ちよくて、俺の身体は震える。
 どうしよう、服を脱げばその気になってくれるかな。
 ここでオナニーしたら興奮して俺のこと犯してくれるかな。
 俺が自身のズボンのファスナーを下ろした瞬間、俺の前髪を引っ掴んだのは晴瀬だった。
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