【完結】呪われた双子 -犬として育てられた弟がよしよし♡され、次期当主として育てられた兄がボロボロ♡にされる話-

クズ惚れつ

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番外編 嘘つき達の夜

嘘つき達の夜 その後

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 土曜日のバー。

「本当に大丈夫なの?南さん。」
「え、えぇ。ちょっと疲れが溜まってるだけで、マスターの顔を見たら元気出ますよ。」
「そうじゃなくて、あなたの後ろにくっついてるよ。」

 カウンター席でウイスキーに口をつける南。
 その後ろから、おんぶされる子どものように、南の首に両腕を回して抱きしめているのは、緑の髪、カラフルなパーカー、黒のサルエル。
 奇抜な格好をした男、深川夜に間違いなかった。

「後ろ?何のことでしょうか?」
「ねーねー暁人さん!何で一回も電話出てくれないの?電話帳に入れといてって言ったよね。」
「背中に怨霊がくっついてるわよ。」
「オンリョーって俺のこと?ねえ暁人さんオンリョーって何?」
「…夜くん?……私の本名を連呼しないでもらえるかな?」

 眉間に皺を寄せながらも、いつもの冷静さを崩さないように諌める。

「何でえ?南だって本名だから変わんないじゃん。」

 上の名前も下の名前も無神経に暴露する夜に、南はやり場のない怒りでぷるぷると震える。

「だから言ったでしょうが~、関わるんじゃないのって。アタシが忠告したじゃないのよお。」

 嫌味を漏らすマスターに、返す言葉もなくバツの悪い南。
 
 深川夜をすぐにでも出禁にして欲しかった。
 迷惑客。
 レイプドラッグの使用。
 合意のないセックス。
 勝手に個人情報を盗み見る。
 告発すればバーを出禁にできるだけの要素は揃っているはずだ。
 しかし出来なかった。
 南は「弱みを握られている」。
 ウケにされたこと。
 ぐちゃぐちゃに乱されたこと。
 何度もメスイキさせられたこと。
 住所、生年月日、電話番号。
 夜だけが握っている秘密を暴露されれば、絶対的なタチのSとして通っている南の立場は危うくなり、夜遊びなどできなくなる。
 それどころか、自分の尻を狙ってくる輩だって出始めかねない。
 そんな気色の悪いことになれば、このバーにいられなくなるのは自分。
 夜を刺激するわけにはいかないのだ。

 それに、もっとタチが悪いのは、夜がそれを秘密だとも思っていないことだ。
 秘密を握って脅迫、ならまだ対応のしようがある。
 しかし本名の暴露からも分かる通り、本人はこれを秘密だなんて微塵も思っていない。
 何の悪気もなく、ちょっとした雑談で、あらゆる人間に、あらゆる場所で、南との一晩を1から10まで話してしまう可能性がある。
 口が軽いなんてもんじゃない。
 夜の機嫌を損ねず、かつ、監視をしなければならないのだ。

 先のことを考えて、意識が遠のきそうになる。

「んで、夜ちゃん。数多のマゾヒストが狙う紳士とのアバンチュールは楽しかったかしら?」
「あば?あばばんちゅーるはよくわかんないけど、暁人さんと遊ぶの楽しかったよ。」
「面白い子ね。アバンチュールよ、一夜限りの恋の火遊びってこと。」
「一夜限りじゃないよ!暁人さん、俺と恋人になるって言ってくれたもん。」
「あらやだ何それ、詳しく教えてちょうだい。」
「言葉の綾だ……忘れてくれ……。」

 南は額に手を当てて、ため息交じりに呟く。
 無理やり言わせた恋人宣言を、こんなところで使うんじゃない。

「そうだ、俺今日パチで当たったんだよね~。この間のお返し、暁人さんに奢ってあげる!」

 南に抱きつきながら、夜は上機嫌な様子である。

「マスター、なんか甘くて黒いカクテル作って、二つね!」
「わかったわ。」

 トモヤはカウンターで手を動かしながら言った。

「でもまあ、南さんが夜ちゃんの手綱握ってくれたら、アタシも安心だわあ。」
「何のご冗談を。嫌ですよ。」
「誰彼構わず声かけまくるの、ちょっと迷惑だったのよねえ。店の評判にも関わるし、でももう、夜ちゃんは南さんにゾッコンみたいだから。」
「俺の大事な人、見つけたからもう他の人はいらないんだー!」

 マスターは二つのグラスを机に差し出した。
 真っ黒なカクテル、そのグラスの上にはピンに刺さったチェリーが添えられている。

「『エンジェル・キッス』。カカオリキュールと生クリームのカクテルよ。」
「はい暁人さん!」

 夜が差し出すグラスを、南は渋々受け取る。
 甘い酒は好きではない。
 しかし、夜は出会いの酒を覚えているらしく、南も自分と同様に甘い酒が好きだと思い込んでいる。
 手がグラスから離れるその瞬間、夜は南の耳元で小さな声で囁いた。

「今日はお薬入ってないから、だいじょーぶだよ。」

 耳元で囁かれると先日の情事の感覚がフラッシュバックし、がくんっ、と体に力が入らなくなる。
 グラスを傾けそうになるのを、夜が素早い動きで支える。
 南の手を支えながら、夜はもぞもぞと体を動かす。
 ずっと言いたかった言葉を、意を決して口に出した、そんな雰囲気だった。

「暁人さんの黒髪によく似合うね!」
「馬鹿……日本人はほとんど黒髪だろう。」

 満面の笑みで笑う夜に、南は思わず困惑したように苦笑した。
 そんな二人をトモヤは微笑ましく見ながら、カクテルを指差して付け加えた。

「甘いお酒だけど、度数高めだから気をつけてね。天使の口づけは、甘いだけじゃないのよ。」
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