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弟編 弟救出大作戦
弟救出大作戦 10
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「あぶ、ばぶ。」
「あらぁ、わざわざご挨拶なんていいのに!」
「いえ、来週からお世話になりますので。」
祖母方の家は、巴家という。
ほつみの祖母の兄が現在の主人で、その奥様が出迎えてくれた。
おしとやかながら明るいご婦人だった。
その腕の中には、昨年生まれた女の子の赤ちゃんが抱かれている。
「この子の母親も仕事をしてて忙しくてね、日中は私やお手伝いさんがお世話してるのよ。」
話を聞いていると、巴家は名門の家ながら、共働きを許したり、嫁姑関係も良好で、三条家と比べると柔軟に変革しているようだ。
そんな開放的な家に、神谷は居心地の良さを抱いた。
話す神谷の二、三歩後ろで、ほつみは手持ち無沙汰な様子で家の中を見回していた。
「こんな若い人がうちに来てくれたら助かるわぁ。これからよろしくね。」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。」
「そうだ、ちょっと抱っこしてみる?」
「え?!」
婦人は胸の中の赤ん坊を、神谷の方に渡した。
震える指で受け取り、見よう見まねで女の子を抱える。
「ふぇ、ふぇええええ~!」
途端に女の子の顔がふにゃあと歪み、泣き出してしまった。
「あわ、あわわ。」
「あら、若い男の人には慣れてないから、怖かったのかしらね。ふふ。そのうち慣れるわよ。」
泣いて暴れるものだから、神谷はゆっくりと赤ん坊を床に置いた。
すると、はいはいをして神谷の横を通り過ぎる。
「ばぶう。」
女の子が向かった先は、ほつみの足元だった。
ほつみのズボンの裾をくいっくいっと引っ張って、その顔を見上げている。
「は?何……。」
「あばぁ、あぶ、ぶぅ。」
神谷と同じく、子どもと接触を取ったことのないほつみは困惑していた。
女の子は両手を上げながら、ほつみの顔を見て駄々をこねているようだった。
「あら、お兄さんのことが気に入ったのね。抱っこしてほしいみたいよ。」
ほつみが恐る恐るその体を担ぎ上げると、女の子はきゃっきゃと大騒ぎしてとても嬉しそうにした。
小さな命を腕の中にして、慌てふためくほつみを見て、神谷は幸せを感じていた。
いつか大事な人と出会い、家庭を持ったら、きっとこういう感じなのだろう。
「でも若いのに社会勉強なんて、偉いわねえ。」
ほつみが家を出るのは、「社会勉強のため」ということになっていた。
その保護者役として、神谷が付き添っている。
本当の事情を知っているのは、祖母の兄である巴家の当主だけだった。
「もしほつみくんがお嫌でなければ、神谷くんと一緒にいつでもうちに来ていいのよ。今は大学がお忙しいとは思うけど。」
「……考えておきます。」
女の子はひとしきり大暴れしたかと思うと、ほつみの腕の中でスヤスヤと寝てしまった。
その体を、婦人のもとに返す。
「けど、本当にいいの?神谷くんはうちに住み込みだけど、ほつみくんは一人暮らしするなんて。」
「……は?」
婦人の言葉に、ほつみは思わず驚きの声をあげた。
「えぇ、そのようにお願いします。」
神谷はさも当然のように答えた。
「ほつみさん、何をそんなにむくれているのですか。」
「むくれてねえ。」
後部座席に座ったほつみは、不機嫌な様子だった。
勤め先への挨拶が終わったものの、ほつみはずっとこの様子だ。
「そこの駐車場に入れ。」
「え?今から仕事なのですが……。」
「いいから入れ、俺を優先しろ。」
主人のわがままに、しょうがなく神谷は車を駐車場に入れた。
ほつみに促されるままに入ったのは、ラブホテルだった。
「ちょっと!何のつもりです!?」
「別にヤろうってことじゃねえ。誰にも聞かれないところで話したいだけだ。」
どうやって選ぶんだこれ、などと呟きながら入り口のモニターと格闘するほつみ 。
入り慣れているわけではないようでいささかホッとしたが、それどころではない。
「ほつみさん!」
腕を引っ張られ、部屋まで誘導され、ベッドに突き飛ばされる。
ほつみもベッドの端に腰掛けた。
「お前が住み込みで、俺が一人暮らしって、どういうことだよ。」
やはりそれか、その話をした途端、ほつみは不機嫌になった。
神谷は体を起こして、上着をたたんでから言った。
「事後承諾になって申し訳ありません。俺は仕事のために住み込みで働きます。食費や家賃も浮きますしね。でも、貴方は友達や恋人を部屋に呼んだり、誰の目も気にせずに暮らして欲しいんです。」
ほつみにこれまでできなかった普通の生活をしてもらいたいと願う神谷。
「ですから、貴方はあの家ではなく、一人で暮らした方が幸せだと。」
「……ふざけんなよ!」
ほつみは神谷の胸ぐらを掴み、ベッドに押し倒した。
面食らい、目を丸くする神谷。
「俺の幸せをてめえが決めるな。ずっとそばにいるって、言ったじゃねえかよぉ……。」
「すみません、でも……わかりました。ほつみさんもあの家に住めるか、確認して、」
「ちげえ。俺とお前で二人で住むに決まってんだろ。」
「はえ!?」
神谷に馬乗りになったまま、自身のシャツのボタンをぷち、ぷち、と外していく。
男らしく美しい顔で、舌なめずりをしながら、熱い吐息を吐いた。
「もう、お前と繋がらないと、満たされねえの俺。」
「ほつみ 、さ……」
「他人の家でセックスは、できないだろ?」
あまりに妖艶な、その表情に、神谷は己のタガが外れる音を聞いた。
「あらぁ、わざわざご挨拶なんていいのに!」
「いえ、来週からお世話になりますので。」
祖母方の家は、巴家という。
ほつみの祖母の兄が現在の主人で、その奥様が出迎えてくれた。
おしとやかながら明るいご婦人だった。
その腕の中には、昨年生まれた女の子の赤ちゃんが抱かれている。
「この子の母親も仕事をしてて忙しくてね、日中は私やお手伝いさんがお世話してるのよ。」
話を聞いていると、巴家は名門の家ながら、共働きを許したり、嫁姑関係も良好で、三条家と比べると柔軟に変革しているようだ。
そんな開放的な家に、神谷は居心地の良さを抱いた。
話す神谷の二、三歩後ろで、ほつみは手持ち無沙汰な様子で家の中を見回していた。
「こんな若い人がうちに来てくれたら助かるわぁ。これからよろしくね。」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。」
「そうだ、ちょっと抱っこしてみる?」
「え?!」
婦人は胸の中の赤ん坊を、神谷の方に渡した。
震える指で受け取り、見よう見まねで女の子を抱える。
「ふぇ、ふぇええええ~!」
途端に女の子の顔がふにゃあと歪み、泣き出してしまった。
「あわ、あわわ。」
「あら、若い男の人には慣れてないから、怖かったのかしらね。ふふ。そのうち慣れるわよ。」
泣いて暴れるものだから、神谷はゆっくりと赤ん坊を床に置いた。
すると、はいはいをして神谷の横を通り過ぎる。
「ばぶう。」
女の子が向かった先は、ほつみの足元だった。
ほつみのズボンの裾をくいっくいっと引っ張って、その顔を見上げている。
「は?何……。」
「あばぁ、あぶ、ぶぅ。」
神谷と同じく、子どもと接触を取ったことのないほつみは困惑していた。
女の子は両手を上げながら、ほつみの顔を見て駄々をこねているようだった。
「あら、お兄さんのことが気に入ったのね。抱っこしてほしいみたいよ。」
ほつみが恐る恐るその体を担ぎ上げると、女の子はきゃっきゃと大騒ぎしてとても嬉しそうにした。
小さな命を腕の中にして、慌てふためくほつみを見て、神谷は幸せを感じていた。
いつか大事な人と出会い、家庭を持ったら、きっとこういう感じなのだろう。
「でも若いのに社会勉強なんて、偉いわねえ。」
ほつみが家を出るのは、「社会勉強のため」ということになっていた。
その保護者役として、神谷が付き添っている。
本当の事情を知っているのは、祖母の兄である巴家の当主だけだった。
「もしほつみくんがお嫌でなければ、神谷くんと一緒にいつでもうちに来ていいのよ。今は大学がお忙しいとは思うけど。」
「……考えておきます。」
女の子はひとしきり大暴れしたかと思うと、ほつみの腕の中でスヤスヤと寝てしまった。
その体を、婦人のもとに返す。
「けど、本当にいいの?神谷くんはうちに住み込みだけど、ほつみくんは一人暮らしするなんて。」
「……は?」
婦人の言葉に、ほつみは思わず驚きの声をあげた。
「えぇ、そのようにお願いします。」
神谷はさも当然のように答えた。
「ほつみさん、何をそんなにむくれているのですか。」
「むくれてねえ。」
後部座席に座ったほつみは、不機嫌な様子だった。
勤め先への挨拶が終わったものの、ほつみはずっとこの様子だ。
「そこの駐車場に入れ。」
「え?今から仕事なのですが……。」
「いいから入れ、俺を優先しろ。」
主人のわがままに、しょうがなく神谷は車を駐車場に入れた。
ほつみに促されるままに入ったのは、ラブホテルだった。
「ちょっと!何のつもりです!?」
「別にヤろうってことじゃねえ。誰にも聞かれないところで話したいだけだ。」
どうやって選ぶんだこれ、などと呟きながら入り口のモニターと格闘するほつみ 。
入り慣れているわけではないようでいささかホッとしたが、それどころではない。
「ほつみさん!」
腕を引っ張られ、部屋まで誘導され、ベッドに突き飛ばされる。
ほつみもベッドの端に腰掛けた。
「お前が住み込みで、俺が一人暮らしって、どういうことだよ。」
やはりそれか、その話をした途端、ほつみは不機嫌になった。
神谷は体を起こして、上着をたたんでから言った。
「事後承諾になって申し訳ありません。俺は仕事のために住み込みで働きます。食費や家賃も浮きますしね。でも、貴方は友達や恋人を部屋に呼んだり、誰の目も気にせずに暮らして欲しいんです。」
ほつみにこれまでできなかった普通の生活をしてもらいたいと願う神谷。
「ですから、貴方はあの家ではなく、一人で暮らした方が幸せだと。」
「……ふざけんなよ!」
ほつみは神谷の胸ぐらを掴み、ベッドに押し倒した。
面食らい、目を丸くする神谷。
「俺の幸せをてめえが決めるな。ずっとそばにいるって、言ったじゃねえかよぉ……。」
「すみません、でも……わかりました。ほつみさんもあの家に住めるか、確認して、」
「ちげえ。俺とお前で二人で住むに決まってんだろ。」
「はえ!?」
神谷に馬乗りになったまま、自身のシャツのボタンをぷち、ぷち、と外していく。
男らしく美しい顔で、舌なめずりをしながら、熱い吐息を吐いた。
「もう、お前と繋がらないと、満たされねえの俺。」
「ほつみ 、さ……」
「他人の家でセックスは、できないだろ?」
あまりに妖艶な、その表情に、神谷は己のタガが外れる音を聞いた。
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