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弟編 弟救出大作戦
弟救出大作戦 3
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友人たちと普通に会話をして、普通に講義を受ける。
家に帰り、引き戸を開けると、玄関で拘束具を持った世話係が待ち受けている。
先ほどまでの普通の生活がまるで夢であったかのように
丁寧な手つきで衣服を全て脱がされる。
少し汗ばんだ四肢が露わになる。
もはや力による抵抗は無意味だと教え込まされている。
ガチャリ、ガチャリと音を立ててゴツい拘束具を嵌められていく。
ぎゅっと締め付けられ、小さな呻きを何度も漏らす。
そんなほつみの姿を見て、神谷の心臓は高鳴る。
可愛くて、美しくて、可哀想で。
このまま抱きかかえて、どこかに逃げてしまいたい。
しかし、そんなことをすればこの家の主人はどんな手を使っても探し出すだろう。
そうなれば、ほつみの家での立場はますます危うくなる。
自分は即解雇、この家を出禁にされ、二度とほつみを救うことはできなくなるだろう。
今は主人に従わなければならない時だ。
神谷は心を無にし、ただ自身の業務を淡々とこなした。
風呂を済ませ、ほつみが自身の部屋に戻ると、神谷は優しい手つきで拘束具を外していった。
ぐったりと布団に沈み込むほつみの身体中の擦り傷に指を沿わせ、軟膏を塗り込んでいく。
「何…それ……。」
「傷の治りがいいと評判の軟膏です。跡も残りにくくなるみたいですよ。」
「……そんなものに何の意味がある。どうせ修復も追いつかないほど、毎日毎日刻みつけられるんだ。」
「いえ、貴方がこの家を出た時、傷が少しでも目立たない方がいいと思って。」
家を出る……?
ほつみには、すぐにはその言葉の意味がわからなかった。
ハッと気がつく。
神谷が以前言っていた、それは、「二人でこの家を逃げ出す」こと。
まさか、本気で、三条家から自分を解放しようと言うのだろうか。
「従者ごときが、何を言って。そんなことできるわけない、だろ。」
「きっとできます。」
「だって、俺は……生まれたときからずっと。」
「俺を執事にしてください、家族にしてください。」
ほつみの手を取って、そっと撫でた。
「共に、何気ない幸せをやり直しませんか。」
神谷はほつみの瞳を見つめる。悩ましげに揺れる瞳を絡め取るように見つめ続ける。
優しく微笑む。その神谷の顔を見た途端、ほつみは目を伏せた。
「だめ……だ…。俺はもう…物心ついた時から、人間の生活なんて一度もしたことがない………!」
「そんなことありません。真っ当に大学生活をしているではありませんか。」
「外に出るたび、自分は変じゃないだろうか、とか、人間として普通の行動をしているだろうか、とか、そんなことばかり気になって、頭がおかしくなりそうになる。」
「では俺が守ります。貴方が慣れるまで、何も考えずに外に出られるまで、ずっとそばにいます。」
まっすぐ、言い返すことさえできない言葉を伝えられ、ほつみはたじろぐ。
神谷はほつみの全身に軟膏を塗り終え、小瓶の蓋を閉めて言った。
「実はもう、動いているんです。転職活動を……始めてまして……。」
「……は?」
神谷が考えているほつみの救出作戦はこうだ。
まずは自身が転職し、三条家の外で自分とほつみを養えるだけの収入源を得ること。
その後、二人で家を出る事を三条家の親族たちに交渉。
前者はいつかなんとかなるとして、問題は後者だ。
幼児期からの虐待という秘密を抱えたほつみを解放してもらえるか。
虐待だけでなく、三条家のことを知り尽くした、三条の血を引く者であることも懸念点だ。
課題は山積みだが、まずは次の仕事先を探さなければ始まらない。
二十歳の時から世話係としてしか仕事をしてこなかった神谷が転職するとしても、同業種の方が現実的であろう。
「名門三条家のご子息の世話係をしていた」という決して嘘ではない経歴で、同じく名家などの家の執事や世話係として働こうと、秘密裏に転職活動を始めていたのだ。
いずれは「三条家で働いていた」、という証明が必要になるだろう。
このほつみ解放作戦に同調してくれる三条家の協力者が不可欠だ。
ーー三条の本家には祖母がいた。
19年前、祖母は最後までほつみを犬として育てることに反対していた。
元々三条家の血を引く者でもないし、母親とは違って現役を退いたに等しい祖母は、可愛い孫を可哀想な目に合わせたくはなかった。
しかし、その分発言権は薄く、結局は当主の決定に従うしかなかった。
神谷の一族の女中や執事たちとも、長いこと関わりがあり、神谷のことも息子のように可愛がっていた。
「お祖母様のことはお分かりですか?」
ほつみは静かにコクンとうなづいた。
ほつみが犬となってからは、祖母は彼と会おうとしなかった。
神谷に会うたびに、可哀想で見ていられないと漏らしていた。
「お祖母様を味方につけます。貴方がこの家を出られるように秘密裏に動いていただく協力者として。」
家に帰り、引き戸を開けると、玄関で拘束具を持った世話係が待ち受けている。
先ほどまでの普通の生活がまるで夢であったかのように
丁寧な手つきで衣服を全て脱がされる。
少し汗ばんだ四肢が露わになる。
もはや力による抵抗は無意味だと教え込まされている。
ガチャリ、ガチャリと音を立ててゴツい拘束具を嵌められていく。
ぎゅっと締め付けられ、小さな呻きを何度も漏らす。
そんなほつみの姿を見て、神谷の心臓は高鳴る。
可愛くて、美しくて、可哀想で。
このまま抱きかかえて、どこかに逃げてしまいたい。
しかし、そんなことをすればこの家の主人はどんな手を使っても探し出すだろう。
そうなれば、ほつみの家での立場はますます危うくなる。
自分は即解雇、この家を出禁にされ、二度とほつみを救うことはできなくなるだろう。
今は主人に従わなければならない時だ。
神谷は心を無にし、ただ自身の業務を淡々とこなした。
風呂を済ませ、ほつみが自身の部屋に戻ると、神谷は優しい手つきで拘束具を外していった。
ぐったりと布団に沈み込むほつみの身体中の擦り傷に指を沿わせ、軟膏を塗り込んでいく。
「何…それ……。」
「傷の治りがいいと評判の軟膏です。跡も残りにくくなるみたいですよ。」
「……そんなものに何の意味がある。どうせ修復も追いつかないほど、毎日毎日刻みつけられるんだ。」
「いえ、貴方がこの家を出た時、傷が少しでも目立たない方がいいと思って。」
家を出る……?
ほつみには、すぐにはその言葉の意味がわからなかった。
ハッと気がつく。
神谷が以前言っていた、それは、「二人でこの家を逃げ出す」こと。
まさか、本気で、三条家から自分を解放しようと言うのだろうか。
「従者ごときが、何を言って。そんなことできるわけない、だろ。」
「きっとできます。」
「だって、俺は……生まれたときからずっと。」
「俺を執事にしてください、家族にしてください。」
ほつみの手を取って、そっと撫でた。
「共に、何気ない幸せをやり直しませんか。」
神谷はほつみの瞳を見つめる。悩ましげに揺れる瞳を絡め取るように見つめ続ける。
優しく微笑む。その神谷の顔を見た途端、ほつみは目を伏せた。
「だめ……だ…。俺はもう…物心ついた時から、人間の生活なんて一度もしたことがない………!」
「そんなことありません。真っ当に大学生活をしているではありませんか。」
「外に出るたび、自分は変じゃないだろうか、とか、人間として普通の行動をしているだろうか、とか、そんなことばかり気になって、頭がおかしくなりそうになる。」
「では俺が守ります。貴方が慣れるまで、何も考えずに外に出られるまで、ずっとそばにいます。」
まっすぐ、言い返すことさえできない言葉を伝えられ、ほつみはたじろぐ。
神谷はほつみの全身に軟膏を塗り終え、小瓶の蓋を閉めて言った。
「実はもう、動いているんです。転職活動を……始めてまして……。」
「……は?」
神谷が考えているほつみの救出作戦はこうだ。
まずは自身が転職し、三条家の外で自分とほつみを養えるだけの収入源を得ること。
その後、二人で家を出る事を三条家の親族たちに交渉。
前者はいつかなんとかなるとして、問題は後者だ。
幼児期からの虐待という秘密を抱えたほつみを解放してもらえるか。
虐待だけでなく、三条家のことを知り尽くした、三条の血を引く者であることも懸念点だ。
課題は山積みだが、まずは次の仕事先を探さなければ始まらない。
二十歳の時から世話係としてしか仕事をしてこなかった神谷が転職するとしても、同業種の方が現実的であろう。
「名門三条家のご子息の世話係をしていた」という決して嘘ではない経歴で、同じく名家などの家の執事や世話係として働こうと、秘密裏に転職活動を始めていたのだ。
いずれは「三条家で働いていた」、という証明が必要になるだろう。
このほつみ解放作戦に同調してくれる三条家の協力者が不可欠だ。
ーー三条の本家には祖母がいた。
19年前、祖母は最後までほつみを犬として育てることに反対していた。
元々三条家の血を引く者でもないし、母親とは違って現役を退いたに等しい祖母は、可愛い孫を可哀想な目に合わせたくはなかった。
しかし、その分発言権は薄く、結局は当主の決定に従うしかなかった。
神谷の一族の女中や執事たちとも、長いこと関わりがあり、神谷のことも息子のように可愛がっていた。
「お祖母様のことはお分かりですか?」
ほつみは静かにコクンとうなづいた。
ほつみが犬となってからは、祖母は彼と会おうとしなかった。
神谷に会うたびに、可哀想で見ていられないと漏らしていた。
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