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とあるインテリヤクザの受難

第2話 とある三兄弟の場合 1

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「おーい、竜崎。いるかー?」

「ああ、馬谷さん。お久しぶりです。」

 この日若葉会の事務所を訪れたのは馬谷という組の幹部の一人。組長の補佐を勤めている男だ。

 竜崎が3歳のとき組長の愛人だった母親が蒸発した。残された子どもを引き取ったのが、当時20歳という若さにして下っぱを抜け出しつつあった馬谷だった。このご時世、学力が必要だと考え、竜崎を有名私立大入学へと導くなど、組員として全面的に竜崎を指導し、支えてきた。
その理由も、

 「相変わらずお前は由美さんにそっくりだな。」

 「それ会うたび言ってません?」

 竜崎の母親である竜崎由美。馬谷は由美を敬愛していた。女性らしい美しさとしなやかさを持ちながらも、やくざ相手に物怖じしない強さとしたたかさをあわせ持つ、俗に言う「イイ女」だったと、ことあるごとに馬谷は語る。

 よくも悪くも多くの人間をその不思議な魅力で惹き付けていた、その一人が馬谷だったということだ。そんな由美の一人息子をほうって置けなかったらしい。

 「それでいきなりなんの用ですか?」

 「今度本家で幹部数人と、組長の親族が参加する食事会があるそうだ。組長がお前も呼んでこいと言っている。」

 「うわー、行きたくねえ。」

 「そういうな、お前の顔が見たいそうだ。」

 「顔見せるのは別にいいけどあいつらに会いたくないんすよ。」

 「息子さんたちだな。」

 「そりゃ、本妻の息子と愛人の息子なんて気まずいでしょう。」

 「でも昔から一緒に遊んでたじゃないか。」

 「遊んでた?喧嘩してたの間違いでしょう。」

 組長と本妻には3人の息子がいた。
竜崎より2つ年上の長男、海。
竜崎と同い年の次男、悠。
そして竜崎より2つ下の三男、蓮。

 幼い頃から一緒にいた。愛人の息子だからと言って、3人は竜崎を目の敵にしていたが、会うたびに喧嘩をふっかけては全員竜崎にボコボコにされていたのだった。

 そんな男たちに会うのはかなり気が進まなかったが、父親が来いというならしょうがないとして出席することにした。

 「竜崎じゃないか、久しぶりだな。たまには顔を見せてくれればいいのに。ねえ、父さん。」

 適当なこと言いやがって……
 笑いながら組長に酒を注ぐのは海だ。体格も良く、普段はきりりとした男らしい顔も今日は柔らかくゆがめている。竜崎に言わせれば頭の硬い馬鹿であり、いずれ暴君になるであろう奴。
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