チキンピラフ

片山春樹

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意識が世界を変えてゆく

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「結婚・・私が・・春樹さんと」
と頭の中で何度もこだましている誰かの脅迫? というより、これは、私自身の意識、というものかな? が発する。
「あの・・奈菜江さんって、慎吾さんと結婚しようかなって思ってたりするんですか?」
という質問を、何も考えていない気持ちで奈菜江さんにぶつけた時。奈菜江さんはスプーンを咥えたまま目だけを私にギョロっと向けて停止した。そして。
「って・・美樹、どうしたの? 急に。ケッコン・・だなんて」
と横からつぶやいたのは優子さん。いつもの仕事が終わってからのアイスクリームの時間。いつもの3人で。口火を切ったのは私だけど。
「え・・いや・・あの・・なんとなく、奈菜江さんと慎吾さんって将来そういう事考えているのかなって思っただけで・・」まずかったかな・・この話題。というより。
「思っただけで・・」とつぶやく奈菜江さんがコワイ・・かも。
「だから、深い意味はありません」と言い訳したけど。すぐに。
「深い意味がなくて、ケッコンなんて言葉は普通口にしないでしょ」
と逆に追及する奈菜江さんは、ニヤッとしながら。
「つまり、今日、何かあったでしょ。あのおばさんとチーフが知り合いで、おばさんの隣に座って一緒にナニか食べてた美樹が、深い意味もなくケッコンだなんて単語を口にする。ということは」
とさらなる追求を早口で私にぶつけて。
「ということは、ワトソン君。どういうこと?」と優子さんも加わって。
「って、ワトソン君って誰よ?」
「ええぇ、シャーロックホームズ知らないの? 探偵とか推理とか」
「あーアレ」
「あれよ、もぉ、あぁーごめん、話が折れちゃった。ごめんなさい」
って優子さんが絡む脱線気味の会話は、やっぱり脱線して。でも。そのおかげで奈菜江さんの表情は柔らかくなったような。
「あのおばさんってさ、実はチーフの親戚とか、つまり春樹さんのおばあさんで、チーフに、あなたも孫の春樹くんにお嫁さん探してあげてよね」
って、どうしてそんな方向に飛躍するの? と思っていると。
「あーそれだそれ、で、チーフが、この娘なんてどうですか? 美樹って名前で、今、春樹くんといい仲になり始めているんですけど」
それは違う。いや、そうかもしれない。と思っているのに。
「あらまぁ、カワイイお嬢ちゃんじゃない。お隣にどうぞ。これ食べなさい。食べたら決まりね、美樹ちゃん、春樹くんと結婚しなさい」
うっ・・どうして、途中は全然違う別の話しなのに、最後の結末は、まさにその通りなの? 美樹ちゃん、春樹くんと結婚しなさい。というイントネーションが同じ。と思うと顔の皮膚が突っ張り始めた感じがして。奈菜江さんはもっと楽しそうな顔で。
「えぇ、私が、ケッコン、春樹さんと? いいんですか。するしかないのですか? だから、あの・・奈菜江さんって、慎吾さんと結婚しようかなって思ってたりするんですか? という質問となって現れた」
でしょ。と私に指さす奈菜江さんと。
「ピンポーン、それに、あのおばさんには逆らえそうにないからね、美樹も真剣なんだ」
と同じように奈菜江さんに指さす優子さん。
「あのおばさんに強制されたの、ホントにそうなの? そうなの? ホントに?」
と二人から追及されると、まったく返事ができないというか、どう言えばいいか解らない。し、黙ったまま、うつむくこともできないでいると。
「ホントに、あのおばさんって春樹さんのおばあさんなの? 私的には絶対に関わりたくないおはさんなんだけど、ねえ」と顔をしかめながらいう奈菜江さんの質問には。
「いぇ、違います、春樹さんのおばさんではありません」と即答できるのに。
「なんだ違うんだ。でも、クレーム言い出したら嵐のように次から次にモンクたれるしね、あのおばさんって。美樹が担当してくれてどれだけ助かってるか」
って、話題はそっちがメインですか? それじゃ、ケッコンの話題は置いといて。
「じゃぁ、あのおばさんって何なの? こないだも、春樹さんと美樹で見送ったでしょ。ほら、あの時、あの日よあの日。サーロインステーキ事件の日」
「あー、あの日も来てたよねあのおばさん」
と、聞いてはっと思い出した。藤江のおばさんのブログ。とりあえず、ケッコンから話題がそれればそっちでイイや・・と思って、携帯電話を操作したら。さっき春樹さんに送ってあげたあの写真が・・やっぱり、スイカを齧ったまま無茶苦茶カワイク笑っている私の、右の乳首は隠れているけど、左の乳首はチラリと見えてる。って見入ってる場合じゃなくて、この二人に見られないように慌てて画面を変えて・・藤江のおばさん・・食べ歩きブログを検索するとすぐに出てきたこのページ。
「この人です、藤江のおばさんって呼ばれてて、食べ歩きブログが人気とか」
と二人に見せてあげると。画面を覗き込む二人は。
「へぇぇぇって、このおばさん誰? 全然別人でしょ、眼鏡とか髪とか」
私もそう思いましたけど。
「変装してたみたいですよ、チーフも赤眼鏡のばぱぁとかって呼んでました。それがバレて、おっ奥様って叫んで慌てて。春樹さんの話だと、チーフの師匠の奥様だそうです」
と画面に見入ったままの二人に説明すると。
「で、このおばさんが、美樹ちゃん、春樹くんと結婚しなさい。って言ったわけだ」
「えっ・・」
どうして話が元に戻ってしまうのよ?
「まぁまぁ有名なおばさんなんだね、私は知らないけど」
いや、まだ戻りきっていないよね。
「そうですよ、まぁまぁ有名です。私も詳しくは知らないですけど」
と、話をとにかくそっちに反らせたい。
「何してる人なのかな? 知らないよね、藤江のおばさんの食べ歩きブログ・・」
よしよし、話題がそっちに反れるなら。この話もOKでしょ。
「こないだは、サーロインステーキを美味しかったってブログに乗せたらあーなったって」
と文章をめくって見せてあげると。
「あーコレ、そういうことだったんだ、天使のようなウェイトレスさん、魔法使いのようなコックさん。これって、美樹と春樹さんのコトなの? もぉ、それじゃあの面倒くさいサーロインステーキ事件って美樹が絡んでいたのね」
「まぁ・・絡んでいたかもしれません。ごめんなさい」
と話がケッコンに戻らないように。そうお祈りするのに。
「で、そのおばさんが、今日、美樹ちゃん、春樹くんと結婚しなさいって言ったの?」
どうしても、ケッコンに戻ってしまうのね・・もうムリ・・諦めよう。
「それとも、春樹さんが本当にプロポーズしたとか?」と言われて思い出す。
水族館でされたプロポーズは、アレは冗談のプロポーズで。
「そう言えば、美樹って春樹さんとお揃いのウナギの指輪はどうしたの?」イルカですよ・・。
って、優子さんも変なこと思い出さないでくださいって思うのに。
「黙ってると・・ナニか・・あゃしぃ・・美樹・・全部話しなさいよ」と感情のない表情で追及されるのがもっと怖いし。
「前も言ったでしょ、そういうことって一人で思い込まずに、みんなに打ち明けてアドバイスをもらいなさいって、女の子なんだから情報は共有しなきゃ」
情報を共有っていっても・・こういう情報は恥ずかしいことかもしれないし。
「ねぇ、ほら、美樹、全部話しなさい」
二人とも・・コワイ。でも・・全部話しなさいって言っても。だから・・思いつくままの言い訳というか、思いつくままの空想というか。を組み立てるのだけど。
「それじゃ話しますけど、うまく話せるかどうか」
と話始めると、二人は固唾をのんで私に注目して、耳に集まっている全神経が見える気がした。そんな集中する二人に、話始めたこと。
「あの・・春樹さんのお料理って美味しいでしょ、藤江のおばささんが、春樹さんがお料理作って、私が運んで、そんなお店はどう? って、そう言われて。その、私の友達がお好み焼き屋さんしてる人のこと恋人で・・あの・・その」
あーもうダメ、私はこれ以上の物語を語れそうになくて。
「はぁ? ・・春樹さんがお料理作って、美樹が運ぶお店? 美樹の友達の恋人さんがお好み焼き屋さんをしてる? という意味? で、美樹は、そんなお店を持ちたくなったとか、そういう話?」
「はい・・まぁ・・」そういう話ですね。
「ふううん・・それって、美樹が夢見てる春樹さんとの将来とか、そういうこと」
「かもしれません・・そういうこと、かも」って、自分で考えるより、奈菜江さんに説明してもらった方がよくわかるかも。私が考えていること。そう思って奈菜江さんの話を聞いていると。
「つまり、美樹の心の中に、春樹さんとの将来。つまりそれって 結婚 という意識が芽生えた」
と言っていて。まぁ、そうかもしれませんと小さくうなずいた私に、優子さんが続けて。
「で、そんな意識が芽生えたときはどんな気持ちになるのか確かめたくて、奈菜江に慎吾ちゃんと結婚するのですか? という質問になった」
と、そうかもしれないですけど、と感じていると、奈菜江さんが、少し思案顔をしてすぐ。
「けどさ、私はそんな意識なんて持ってないし」うふふふと笑いながら言ってる。そこに。
「えぇ、じゃぁ、慎吾ちゃんとは将来結婚なんて全く考えていないの?」すかさず優子さんが突っ込みいれたけど。
「そう言われたら、もしかしたら、そんな可能性があるのかなとは思うけど」
「何パーセントくらい?」
「そんな数値目標はないけどさ」
よしよし、私と春樹さんの話題から、奈菜江さんの結婚観に話は変わった。けど。
「へぇぇって、可能性少ないなら私にも可能性があるってこと?」
って、優子さんの言葉って、もしかして慎吾さんのコト狙ってるの? と驚きの気持ちが。
「って、優子さんって、慎吾さんのコト狙ってるんですか?」
と無垢な感情で聞いてしまって、奈菜江さんの目から火花が飛んだ気がした。だから。慌てた優子さんが。大真面目な雰囲気で。
「狙ってるわけないでしょ、あんなオトコ」と言ったけど。
「あんなオトコって言い方って・・ちょっとあれじゃない?」と奈菜江さんも顔が真剣。
「アレ?」ってどれ?
「まぁ、一応は私のカレシだしさ、あんなオトコって・・ひどくない?」
「へぇぇ、奈菜江って、慎吾ちゃんのこと、あんなオトコって言われ方すると、イラっとするんだ」
「まぁ・・しちゃったけどさ」
しちゃうんだ・・つまり、それが、アレ・・の意味で。それって・・。
「それって、愛し合ってるからですか?」
って、言った途端、また停止してしまう二人。そんな思いつくままの質問はタブー? だった?
「って、美樹の質問ってさ、ちょっとストレートすぎ。もうちょっと柔らかくできないの? 遠回りとか」
自分でも、そう思います。だから。
「ごめんなさい」と素直に謝っておこう。でも。
「まぁ・・でも、そう言われたらね、愛し合ってるかもしれないね。誰かにそう言われて初めてわかることなのかな、こういうことって」
と言いながら私の顔をじっと見る奈菜江さんは。
「って、そういう、美樹はどうなの?」って私に質問したのですか? そういう・・って?
「どうなの?」って、ナニが? どうなの? ナニがって、やっぱり。春樹さんのコトしかないか。そういう、それって。
「春樹さんのコト、あんなオトコって言われたりしたら」あんなオトコって・・。それは。
「まだ言われたことないですね、そういう事」美里さんには一度言われたかな? あんな男のどこがいいの? って・・でも、あの時は何も感じなかったし。
「じゃぁ言ってあげようか。美樹って、あんな男のどこがいいの?」
とわざと歪んだ顔で言われても、一瞬、あんなオトコを想像したけど。
「って言われても、あまりピンとこないというか」
「来ないね、慎吾ちゃんと春樹さんは比較するものではないと」そういう意味かもしれません。なんて口にしたら危ない。と学習してる私。
「優子・・いちいち癪に障る言い方やめてよね」ほら・・危なかった。
「癪に障るんだ。ふうううん」と私も同感。
「あーもぉ、優子だって彼氏ができたらわかるわよ、そういうこと言われたらどう感じるか」それも、同感ね。優子さんってカレシいないし。という私はいるのかな?
「あーそれって、私的につらいのですけど」私はつらくなさそう。つまり、カレシがいるってことかな?
「はぁーあ、まったく、美樹と話してると、哲学者になりそう」確かに、この二人と話していると学校のあゆみや弥生とは違う意見を聞けるような気がするね。と哲学的に思っていたら。優子さんが。
「で、本題だけど。奈菜江って慎吾ちゃんと結婚するの? しないの?」と急にまたそっちに話を振って。
「って、どうしてそれが本題なのよもぉ、でもさ、そう言われると、するとしたら、あんなのでいいのかな、もっと他にいそうだけど。って思うけど。しないとしたら、他にもっといい男と巡り合える可能性ってどのくらいあるのだろう、もしかしたら、慎吾と別れちゃったら、二度と恋なんてできないかも、って思いもあるね。だったら、あんなので我慢するしかないのかな、とか」
おぉ、それって哲学的な意見。するとしたらあんなのでいいのかな、もっと他にいそうだけど。しないとしたら、他のもっといい人と巡り合える可能性がないかも。だとしたら、あんなので我慢するべき。この話を、春樹さんを当てはめると、するとしたら、あんなのでいいよね。しないとしたら、他にもっとイイ人と巡り合えるチャンスなんてなさそう。つまり、それって、何一つ我慢なんてする必要がない。つまり、・・私は・・春樹さんと・・。選択肢のない、一択の答えじゃないの。と思った瞬間、優子さんがつぶやいた。
「二度と恋なんてできないって。奈菜江って慎吾ちゃんと、そんなに熱い恋したの」
熱い恋・・にビクンとしてしまった。それって・・どんな感じなのかな? と。でも。
「熱い恋だなんて、そんなの違うわよ、恋なんて、あんな面倒くさいこと、二度とごめんだわって意味」なんて言うから。反射的に。
「恋って、面倒くさいのですか?」と感じたまま聞いてしまった。すると。またじっと私の顔を見つめる奈菜江さんが、ニヤッとしながら。
「美樹はどう思う? 春樹さんと別れてさ、もう一度、別の男の子と出会うところから始めるとしたら、もう一度、心ときめくあの気持を、今以上に、他の男の子とリピートできると思う? それ以上に春樹さんよりイイ男の子と巡り合える気がする? つまり、もう一度最初から、今春樹さんとしてる恋を、誰かほかの男の子とやり直せるかな? って想像してみてよ。それって超面倒くさそうにおもえない?」
うっ・・まさに、今私が考えていることを文章にしてくれる奈菜江さん。確かに、そんなこと、無理やりでも空想なんてできないことに気付いてる私。それに、そんなことを言われたら、自動的に頭の中で繰り返されること。春樹さんと別れて? と空想しても、別れるなんて思いつきもしない。それに、別れても、もう一度、出会う人は、やっぱり春樹さんで、もう一度、初恋から始まる私の空想は、出会ったあの日のトキメキ、届かない想いにヤキモキして、届いた想いにウキウキしちゃって、なのに失恋、だけどすぐ「俺、お前のコト好きだよ」って後ろからハグされてドギマギしたあの日、私は拒否して、だけど、今は受け入れて・・春樹さんと共有する思い出が頭の中のスクリーンに映し出されると。また鮮明に再生されるのは、このシーン。私をそっと押さえつけて、バスローブをそっと剥ぐった春樹さんの声。
「美樹、許して、気持ちを抑えきれない」ハァハァ、チュッチュ、あぁ・・何ですか? 何してますか? そんなところ・・あぁ。
「ちょっと、美樹。みーき」
と奈菜江さんに揺すられて。はっと・・目が覚めたというか。
「は・・はい」とまばたきしたら。
「大丈夫?」と奈菜江さんが本当に心配している。
「は・・はい」ともう一度返事して。どうなってたの私?
「美樹って、今ナニか思い出して、いっちゃったでしょ・・」
「えっ? いっちゃった? って」いっちゃってました・・かもしれない。
「体からタマシイが抜け出るのが見えた気がした」
確かに、アレを思い出すと、魂が体から抜け出ていくね、私。だから。
「え・・あ・・はい・・」と返事すると。にやぁーっと私を見つめる二人は。
「やっぱり、美樹って春樹さんとそういう仲になっているのね。すでに」すでに?
「あの日の朝、送ってもらった時がそうだったんでしょ。で、週一くらいでお泊りしてるの?」お泊り? 週一? してませんよ・・と首を振れないのはなぜ?
「で、空想してよ、春樹さんとのそんな仲を解消して、別の男の子と知り合うところから始めたとして、もう一度今以上の恋をリピートできるのかなって」
あ・・はい・・話はそこに戻るのね。だったら、空想します。つまり、別な男の子と・・なんて、空想すらできないのは確かだけど。別の男の子と知り合うところを空想しても・・できないし。今以上の恋をリピート、しても春樹さんとなら、これから先、もっと今以上の恋が待ち構えていそうだし。だから・・また・・エンドレス。あの日以上の・・、あの日できなかったこと・・つまり、あの続き、もうすぐできるのかな・・アレ。「いい・・入れ・・」
「みーき・・美樹ってば」と奈菜江さんに揺すられて、空想の中でも、ぬるっとした感触を思い出そうとしたところで、未遂に終わるアノ行為。
「は・・はい」と返事すると、今までナニを話していたのかも忘れていそうで。
「あーあ、もぉ、美樹とこういう話はムリかもね。春樹さんのコトで頭の中いっぱいいっぱい。他に何も考えることできなさそう」まぁ、そうですけど。
「で、何の話してた?」と優子さんのまじめな顔。
「ケッコンでしょ。ケッコン。しなきゃならないのかな、いつか?」
しなきゃならないのかな? という話でしたか? と思ったけど。まぁいいか。と黙って耳だけかたむけて聞いておこう。そしたら、今度は優子さんが話し始めて。
「私はその前にカレシ・・できるのかな? 出会いとか、あるのかな?」
「まぁ、アレって、待ってても、向こうから来てくれるものじゃないしね」
「だからと言って、待ってくれてる人の所に行くとしても、誰が私を待っているのかな」
「近くにはいなさそうね。ったく、ホント、美樹と話すると哲学者になりそう、あーいやよイヤイヤ、頭硬くて難しいのムリムリ」
と二人の会話をキョロキョロしながら聞きに徹していると。
「そう言えば、春樹さんって、頭硬くて難しい所ありそうだったけどさ」
と、ここで優子さんが春樹さんを話題にし始めたから、もっと耳をそばだてる私。
「だったけどさ・・って、頭硬くて難しい所というか、存在が遠いというか、今でもそうでしょ。と考え直したら、そう言えば、ちょっと変わったかな? 最近、変わったね」
「変わった。なんとなく美樹と仲良くしてる春樹さんって、本当は優しくていい感じの男の子って気がしてる。私たちの意識も変わったのかな」
「そう言われたら、そうなのかなって気もするね、前は気安く話しかけるのもアレだったし」
「でしょ、今は気安く話せるし。なんかヘンな意識で見直しちゃうかも」
「ホント、ヘンな意識が芽生えちゃったかもね、ヘンな意識が世界の見方を変えてゆく」
「世界の見方を変えてゆく、って、」
「だから、見方を変えればさ、美樹って、春樹さんとならいいんじゃない? 結婚を考えても」
と急に私に振り向いて、また話を戻した奈菜江さん。
「ど、どうしてですか?」と、慌てて聞き返したら。
「どうしてって、春樹さんの見方を変えればさ、頭硬い遠い人、というより、頭良くて、お料理上手だし、将来は博士で学者でしょ。それに比べたらさ、慎吾なんて、お料理まぁまぁのレベルしかないし。頭そんなにいいわけでもなくて、専門学校生、将来はそこらの会社員かなんかで、それもあやしいかも。もぉ、美樹が変なこと聞くから、私も見方が変わって、あんなオトコでいいのかなって気持ちがムクムク湧き上がってくるし」
「でも奈菜江って、慎吾ちゃんのどこがいいの? まじめな話」
「どこがいいのかな? まぁ、お互い気心が知れていて、言いたい放題言えるところかな」
「言いたい放題?」
「ストレス発散したいときに当たり散らせるのはあいつだけで。気分いいときに一緒に喜べるのもあいつだけだしね」
「一緒に喜べる?」
「美樹ってそういうことない? あーもぉイライラするってときにちょっと聞いてよって言いたい放題言うとすっきりして。気分いいときにきゃぁぁうれしいーって一緒に喜べたらすっきりするってこと」
「あーそういうことか、それって、そういうものなの? 私は彼氏いないし解らないような、羨ましいような」
「美樹はどうなのって聞いてるの? 黙ってないで、どう? そういうことない?」
と急に振られると、まぁ、確かに・・。
「イライラしてる時に当たり散らすことはよくあります」
最近は・・という条件を付けるなら。
「へぇぇ、美樹が春樹さんに当たり散らすの? どんな言葉で?」
「えっ・・まぁ・勝手にすればイイじゃないですか、とか、しつこく言わないで、とか」と無意識に話始めると、うわ・・また何かを喋らされそうな雰囲気に逆らえなくなり始めた。
「へぇぇ、それで、春樹さんは? なんて返事するの?」
ほら、追及がが次から次に出てきそう、だけど。
「えっ・・まぁ・・ごめんなさいって・・」これ以上は言葉が組立てられない。
「ふううん、反論せずに謝るんだ春樹さんって。それって、まさに相思相愛なんだね美樹と春樹さんって」
「相思相愛ですか?」どこが? と思いながら奈菜江さんの言葉に耳を澄ませると。
「好き合っていないと言い合いなんてできるもんじゃないでしょ」そうかな? 
「お互い何でも許せる、つまり、相思相愛だから、当たり散らせるわけで。美樹に言いたい放題いわれて春樹さんも喜んでたりしないかな?」あっ、そう言えば私が当たり散らすと春樹さん嬉しそうだったことがあるかも。
「彼氏ってそう言ことができるとか、するための存在だと思わない?」
そう言うことができるとか、するための存在。
「そう言うことができる、するための存在・・ですか。確かに、他の人にはそんなことできませんよね」
「でしょ、それって、美樹のコトが好きな男だからできることでもあるでしょ。美樹も好きだから、ナニを言っても許してくれる存在だという安心感があるから、言いたい放題。つまり、どちらも好き合ってる相思相愛」
「まぁ、確かに、言われてみるとそうかもしれませんね」
「へぇぇ、言われてみるとそうなんだ。春樹さんに言いたい放題なんだ、許してくれる安心感があるから。春樹さんが美樹のコト好きだからってことを美樹は知ってるから。へぇぇぇ、理屈はそうだよね、ふぅぅぅん」
「・・まぁ・・」確かに、イライラしてるというより、イライラさせられて言いたい放題に当たっているかな? 目移りすればイイでしょ・・とか。でも、それは、当たり散らしても平気だと思っているからで、つまり、私は春樹さんに何をしても嫌われることがありえないと思っている安心感。春樹さんには、どんなことをしても、私だから許される。私だから・・春樹さんは私のコトが好きだから・・許される。ということ? を私は知っている・・のか。と考え込んだら。優子さんに。
「で、嬉しいときは春樹さんと一緒に喜ぶの?」
と言われて、嬉しいとき、という経験がまだないのかな? と気付いたかも。嬉しいとき、水族館に行ったときは嬉しかったかな? 一緒に喜んでいた? ともいえるけど。あれ以来、嬉しかったことと言えば・・。俺たち付き合ってみないかって後ろからハグされた時は、知美さんのコト言い訳にして、だから、嬉しくはなかったけど。本当は嬉しかった・・よね、私。
「あーあ、またタマシイが抜け出してる。ったくもぉ。美樹を見てるといろいろうらやましすぎて妬けてきちゃうね」と奈菜江さんがうんざりしていそうな顔してるのに気づいて・
「妬けてきちゃうね、ホント」と優子さんもムスッと私を見ている。だから。
「どうしてですか?」と聞き返したのは。妬けちゃう・・のは、春樹さんコト・・という気持ちのセイですか? と最後まで聞けないケド。
「美樹って、こんなに可愛いし、春樹さんがあんなに優しい男の子だったと後悔させてくれたけど、憎めなくて、ほっとけない。私もそんな女の子に生まれたかった」
「ねぇ、ホント、それ、憎たらしいのに、憎めないの」
それって、私が思っていることとちょっと違うことかな。と思うけど。
「そんなことないと思います・・けど」そんなこと、急に言われたら恥ずかしいというか・・。
「ないことない。あーる。きっと春樹さんも、美樹がこんなにカワイイからあんな性格を表に出すのよ。私たちにはあんなに優しくしてくれたことないし」
「ねぇ・・私たちには至って普通のビジネスライク」
「そうですか?」
「そうよ・・だから、誰も春樹さんのコト狙ったりしなかったのに。今、美樹のコトあんなに気を遣ってる春樹さんを見てたらさ。どうして声かけなかったんだろって後悔な気持ちがする」
「するする。優子ちゃん、って呼ばれて初めて気づいた」
「それそれ、奈菜江ちゃんって呼ばれてさ、どうしてもっと早くそう呼んでくれないのって思ったよね」
「思った思った」
「そうですか」
「美樹って、春樹さんと出会った時から、美樹ちゃん美樹ちゃんって優しく呼ばれているでしょ。気遣いも私たちの何百倍だし」
「まぁ・・」何百倍もないと思いますけど・
「それって、運命だと思うよ。このまま、春樹さんと美樹って結婚まで一直線かもしれないね」運命・・って、ジャジャジャジャーン? それより。
「結婚・・一直線」
「それともさ、何度も恋したい? これからの将来、春樹さん以外の男の子と巡り合えると思う? 以外というより、春樹さん 以上 の男の子と巡り合えると思う? そうやって高望みしちゃったりすると・・」
と話を区切った奈菜江さん。に思わず聞きただした私は。
「高望みすると・・・」とつぶやくと。
「絶対言わないでよ」と奈菜江さんは顔を私の近くに寄せて。
「ナニを?」と聞く優子さんにも、顔を寄せて小さな声で言った。
「美里さんみたいになるかも」ものすごく真剣に。
「美里さん」高望みしてるの? あの人?
「あの人、あんなに綺麗だから、男の子をしょっちゅうチェンジするけど、もしかすると」
「もしかすると」というより、男の子をチェンジするんだあの人。
「生涯、結婚できないかも。望み過ぎて」
「確かにそう言われたら、なんとなく・・そんな気がするね」
「ね、だから、まぁ、こんなのでもいいかなぐらいで満足するべきなのかもしれない、私たちレベルの女は、そこそこの彼氏ができちゃったらラッキーくらいに思ってた方がイイかもね」
「そこそこの彼氏ができたら・・か。私たちレベルの女か・・言われたらそうかもね」
「その点、春樹さんは、そこそこ以上の彼氏でしょ。美樹も、あまり高望みしすぎないで、春樹さんにしたら? おばさんに言われたんじゃないの? 美樹ちゃん、春樹くんと結婚しなさい。って」
「えっ・・」って、どうしても、そこに話が戻るのね・・と強制的に意識させられて。
「なんだか深いね、この話」とぼやく優子さんに。
「私も、慎吾くらいのそこそこで満足するべきなのかもね・・」
と言いながら、優子さんに視線を移した奈菜江さんに。
「なによ・・その目つき、べつに慎吾ちゃんを狙ってるわけないし」
「ううん、一人の方がイイのかなって今一瞬思ったけど。私は、いつまでも一人でいることはできないかもしれないなって。あんなオトコでもいないよりましかも」
と奈菜江さんのつぶやきが妙に重く感じて。
「って・・私だって」と言い返す優子さんは言葉を詰まらせた。
「私だって?」
「まぁ・・彼氏いない歴・・一生・・はイヤかも」
とつぶやいて私を見つめた優子さんは。
「美樹っていいよね」しみじみとそうぼやいて・
「いいよね」と奈菜江さんもそうぼやいて。
今日のアイスクリームの時間は終了した。けど、やっぱり、いつもそうだけど・・ナニかこう、奈菜江さんに。
「お疲れ様でした」と言って。
「美樹もお疲れ、またね」と別れてから角を過ぎるとすぐに家の前。ため息吐きながら振り向いたら、モヤモヤした気持ちがもっとモヤモヤし始める。これって、毎回こんな風に結論が出ないからかな? 

そして、しつこいようだけど。
「結婚・・私が・・春樹さんと」
と頭の中で何度もこだましている声というより、これは、意識、というものかな? が。
「ねぇ、弥生って、今の彼氏さんと結婚するかもって考えたりするの?」
という質問をピュアな気持ちのまま弥生にぶつけた時。弥生は目だけを私にギョロっと向けて停止した。奈菜江さんと全く同じ反応だな、と思った私。そして。
「って・・美樹どうしたの? 急に。ケッコン・・だなんて」
と横からつぶやいたのはあゆみで。いつもの学校で授業が始まる前のお喋りの時間。いつもの3人で。
「え・・いや・・あの・・なんとなく、弥生ってあの彼氏さんと将来そういう事考えているのかなって思っただけで・・」
「思っただけで・・」
「だから、深い意味はないのだけど」
という私のセリフも、まさにデジャブ・・だよね。それに。
「深い意味がなくて、ケッコンなんて言葉は普通口にしないでしょ」
って、弥生の言葉まで、昨日の奈菜江さんと全く同じで。
「もしかして、春樹さんに結婚しようとか言われたの?」
ここからは、昨日と少し違うかな、と思ったけど。
「あーそう言えば、あのユーチューブ。もしかしてマジだった?」
「あーそんなことあったねって、アレってやっぱり美樹と春樹さんだったんでしょ」
って、この二人も、余計なことは思い出さなくていいのに。
「へぇぇぇそうなんだ、春樹さんが本当にお嫁さんになってくださいって言ったんだ」
どうして、そうも空想が飛躍するのよ。ただ、私は、そんな意識を持っているのかなって聞いただけでしょ。と口にすることができないから、何か反論したいけど、どう言っていいかなんて全然わからなくて、黙ったままだから・・。
「美樹、おめでと、でもさ、ケッコンは焦らず学校卒業してからにした方がイイと思うよ」
まぁ。それは、ごもっともなご意見で・・。
「ってゆうか・・もしかして・・できちゃったとか」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇうそー。まじ」
って、できちゃったって・・ナニが?
「うそ・・そうなの。美樹って・・ホントにしちゃったんだ。で・・で・・本当に春樹さんの子なの、まさか、別の男とか」
えぇ~、春樹さんの子? って・・しちゃったとか、できちゃったって・・。意味が分かった瞬間、何かとんでもない空想がうわーっと膨らんだ気がして。
「勝手に想像、ふ・・ふ・・膨らまさないでよ。違うしそんなじゃないし」
思わず叫びながら立ち上がってしまったら。周りのみんなが注目して・・。きょろ・・きょろ。
「まぁ、まぁ、まぁ、ちょっと冷静になろう。美樹が黙ったままいるからでしょ、違うなら空想が膨らむ前に違うって言ってよ」
「だから、言おうとしたのに、勝手に想像するから」と座りながら。膨らまさないでよ、と思うのは。どうして私、膨らんでることを空想できるのだろう? でも。
「って、急に結婚だなんて話題振るからでしょ。どうしたのよいったい」
と問いただされても私はうまく説明できないというか。どう話し始めていいかがもっと解らなくて。また・・・うつむくと。
「美樹、黙ってないでよ。ケッコンだなんて、じゃぁ私から喋るけど、私は今のアノ彼氏とは、将来もしかしたらッて、可能性の話しだけど、確率高いかもしれないとは思っているけど。どうしてもあの人と結婚したいとは思っていないよ。まだ17歳だし」そうよね、弥生の意見は奈菜江さんとは違って、冷静でわかりやすいかも。だから。
「そうよね・・その、そういう話をしたくて」とつぶやいたら。
「そういう話・・じゃぁ、同じ質問だけど。美樹って、春樹さんと結婚するかもって考えたことある・・というか。今、そんなこと考えてるの?」
と弥生はニヤニヤと私にそう聞いて。
「えっ・・?」と、また、止まってしまう私に。
「私にした質問でしょ。つまり、美樹が自分自身にした質問ともいえるんじゃないの? で、どうしてそんな質問を急にするのか? 春樹さんと何かあったの」
べ、べ、別に春樹さんと何かあったわけではなくて。だから、この話はどう説明したらいいのか。
「もぉ。いつもの美樹になっちゃう。勝手に質問しといて、答える番になると黙っちゃうの」
「まぁ・・そうかもしれない・・」どう答えたらいいのか想像できなくて。思考停止状態になってしまうと。弥生やあゆみがわかりやすく聞いてくれないかなと期待している私がいることもなんとなく解り始めて。
「どうして急にそんなことを意識するようになったの? と聞いた方が答えやすいかな?」
「え・・?」と顔を上げながら、それだね、私の心が私に聞いてることってそれかも、と思った。すると弥生が続けてくれて。
「確かにさ、カレシができると、この人と将来、結婚するのかなって、カレシとか恋人とかその延長線上にパートナーとか伴侶とか、ケッコンとかがあるのは確かだけど。そういうことって、いろいろな段階を踏まえてからの話しでしょ。付き合い始めたばかりで、いきなり結婚とか。考えすぎじゃないの。と美樹がモヤモヤと思っていそうなことを翻訳してみました。どぉ、当たってる?」
「うん・・まぁ・・当たってるといえば」当たっているかもしれないね。確かに段階・・この前も、ステップを飛ばしてたことがあったなと思い出して。
「美樹も、そんなに慌てて話を飛躍させずに、春樹さんっていい人じゃない、彼と彼女の関係を、もう少し楽しめば、そういう事楽しみもせずに結婚なんてしたら後悔するかもしれないでしょ」
って、弥生って、ずいぶん大人の意見なのはなぜ? と気が付いたとき、あゆみが横から。
「彼と彼女の関係を楽しむってさ、例えば?」
と弥生に振って。
「例えばって・・言われたら・・なんかこう、そう言うのがあるでしょ」
「なんかこう、そう言うの? ってナニ」
「なんかこう、そう言うのって、彼氏ができたらわかることよ」
「あーずるい、逃げたでしょ今」
「逃げてないわよ、こういうの説明なんてできないし。美樹ならわかるでしょ、なんかこう、そういうことって。春樹さんと一緒にいて、なんかこう、そういうこと。ほっとするとか、嬉しいとか、楽しいとか、別れると会いたいし、そばにいると安心だしって、なんて言うか、強いて言うなら・・その、例えば、心を開きたくなるような感情」
心を開きたくなる感情・・という言葉が心に沁み込んでくるというか、その。それって、確かに、その表現だね、なんかこうそういうことって。心を開きたくなること。と一人で納得していると。
「じゃぁ、弥生は、あの彼氏さんにそんな気持ちを持つわけ? 心を開いてるんだ」
「持ってると思うよ、一緒にお店を切り盛りしているときとか、結構、なんかこう、そういう気持ちになってる。つまり、心が開いているかも」
「へぇぇぇ、そうなんだ。心が開いてるんだ」
「まぁ、仕事ばかりなのは不満と言えば不満だけど、あいつとデートとかしても、あまり楽しくないし」
「あまり楽しくない・・」楽しくない・・って?
あゆみと弥生の二人で進んでいる会話に耳を澄ませていると。
「まぁね、私はあいつにチヤホヤ優しくされるより、あいつをこき使っている方がなんとなく幸せだったりするね・・って。美樹黙って聞いてないで何か言ってよ」
こき使ってる方? 私もそう言えば、春樹さんのことツンツンしてる時の方がイイのかな? と思い返していると、
「えっ・・って。私も、どちらかと言えばそうかもしれない」
と自然と言葉が出てしまった瞬間、あゆみが目を丸くした。そして。
「5つも年上の男の子をこき使ったりしてるの? 美樹が? うそでしょそんなの」
なんて言ったけど。
「嘘じゃなさそう。私はわかるよ。美樹もそうなんだって。彼氏がいる女だけが知っている現実よそれ」
と弥生の言葉には説得力がありそう。
「その言い方はちょっと・・つらい」と私を睨むあゆみの横から弥生が言う。
「で、美樹って、いつもステップ飛ばして飛躍するから、春樹さんがカレシになってくれたのなら、もっと、その関係を楽しんで、イチャイチャしたりすればって、カレシと付き合うって・・・あー思い出した」
「え・・思い出した?って、ナニを?」突然、思い出したの?
「こないだの本に書いてたでしょ。彼氏と付き合うって、子育ての予行演習だって」
えっ? 彼氏と付き合うって、子育ての予行演習? それこそ話が飛躍しすぎていませんか? 
「ナニソレ?」とあゆみも口を開けて。どうして、急に話が大きく変わったの?
「彼氏のトリセツみたいな本に書いていたの。オトコと付き合うって、オンナにとっては将来の子供育てるための予行演習だって」
「予行演習?」
「子育ての面倒くささに慣れるために、カレシで予行演習しましょうって。オトコと赤ちゃんにはさ、共通することっていっぱいあって、両方とも、意味不明で分け解らない、言うこと聞かないし面倒くささマックス。言っても通じないからイライラする。予想できないし、思い通りにならない。わかってくれないし、わかろうともしない。でも、それって全部、好きだから、可愛いから乗り越えられるコトだって。それが現実だって」
「可愛いから、好きだから、乗り越えられる」それって心に響く言葉だけど。
「女の子の使命ってさ、恋より子育て、本当はカレシの面倒なんかどうでもよくて、子供の方が何より大事でしょ。つまり、そういう事、カレシで予行演習しておきましょう。恋ってそういうものだって、そんな意識を持つと楽になるって」
と熱く語る弥生に説明がなんとなくよくわかる気がして。
「言われてみれば、そうなのかなって気もするけどさ。弥生って・・冷めてるのね」
と私もそう思うことを言ってるあゆみと。
「冷めてるって言うか、私は現実主義で理想とかあまり求めない方だから」
「理想・・を求めない」奈菜江さんも言ってた ”哲学的” な弥生、と言う意味かな。
「現実主義って、わかりやすく言えば、このくらいで満足するべきだよね、って自分に言い聞かせることが多い。それ以上を求めるとロクなことがないと思っているの」
「それ以上を求めると・・」って・・春樹さんの他に、春樹さんよりいい人を求めると。
「ロクなことがない・・」確かに、想像できないし、なんとなく解りそう。
つまり、それは、奈菜江さんが言っていた、美里さんの事かな。と思い出したりしてる私は、弥生のお話に何かを学習しているようで。今日は帰ったら、そのページを探してみてみようと決意していたら、チャイムが鳴って授業が始まって。でも、授業中もリピートしてる、予行演習・・子育て・・なんかこうそういうの。なんかこうそういうの・・確かに、春樹さんと一緒にいると、なんかこうそういういい気持ちがしてたりするのは実感として・・ある。なんかこうそういうの、心を開きたくなる感情、それって、母性本能に目覚める話の事かな? とも思うけど。つまり、春樹さんと一緒にいて、嬉しい楽しい心地いい、のは、赤ちゃんを抱いて、嬉しい楽しい心地いい、と思うことと同じって意味なの? と思いついて。無理やり、赤ちゃんを抱いている私を空想すると、ホンワリとした感情を感じて。そう言えば、なんかこうそういう気持ちになっているような気かするね。心が開ききっているのかなコレ、夢の中、そんな気持ちで抱いている赤ちゃんの顔は春樹さんにそっくりで。パブパブと笑っている赤ちゃんを眺めていると本当に心の扉が全開に開ききってゆく実感がする。そんな幸せな気分でぼんやりと黒板を眺めていると、いつの間にか時間が過ぎていったようだ。

そして、学校が終わって、家に帰る前にお店に寄って2時間ほど夕方のシフトに入ると、今日は、由佳さんと美里さんが二組のお客さんの対応をしていて、平日は2時間で3組くらいのお客さんの対応するくらいで、余った時間はお店の中のお掃除とか、在庫の確認とか。月曜日はデザートカウンター周りのチェックとか。だから、カウンターの少なくなっていそうな食材をチェックし始めると。由佳さんも手伝ってくれて。チュックリストと在庫を比較しながら入力していると。
「美樹って、春樹とどのくらい仲良くなったの?」
と、手が止まって。どうして由佳さんもその話題なの? と言い返す前に。
「チューくらいしたの? それとも・・もっとチュッチュしちゃったの?」
といつ現れたのか、美里さんも興味津々な目つきで聞いてくるし。だから、ありのまま。
「ま・・まだ、チューとか、そこまでは」
と首を小さく振って否定したけど。じぃーっと私を見透かそうとしている美里さんは。
「うーん、本当にマダっぼいね、でも、美樹が春樹と本当に付き合い始めたって、みんな言ってるけど、付き合い始めたってのはホントなの?」
と追い打つように聞いてくるから。そこのところは、正直に。
「はい・・まぁ・・付き合いましょう・・って」
「お互いが宣言した?」宣言? したかな・・。したよね。
「まぁ・・」
「へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」長くないですか? そのへぇぇ。と思ったら。由佳さんも。
「春樹が美樹に言ったの? それとも、美樹から春樹に言ったの?」と聞いてくるのは・・。
「って、ナニがですか?」ちょっと、どう答えていいかわからないコト。
「ナニがですかって、つまり、春樹が好きだ付き合ってくれって言ったのか。美樹が好きです付き合ってくださいって言ったのか?」
とそう言われたら、どっちから言ったんだっけ? という気持ちになるというか。どちらから言ったんだっけと思い出そうとしてもはっきり思い出せないというか。告白は私からしたと思うけど、あの時は振られたよね。その後、春樹さんから好きだって言われて、肘で拒否したのに、すぐに、俺たち付き合ってみないかって提案されて、私も付き合いましょう、って宣言した・・メールだったかなアレ。と思い出をたどるけど、はっきりと思い出せない? 思い出せるけど、曖昧。と考えていたら美里さんが。
「そんなに真剣に思い出さなきゃならないことじゃないでしょ。覚えてないとか、宣言してないとか? だめでしょ、そういう事、主導権がどっちなのかはっきりさせないと」
と言う。だから、主導権?
「主導権って何ですか?」と無意識に聞いてしまったら。
「たいていは男が膝まづいて好きです付き合ってくださいって。バラの花束とか、指輪とか、それって、あなたがご主人様で僕は生涯あなたの召し使いです。ってチカイの言葉にアカシの品をそえて宣誓してもらうものでしょ。たいてい最初だけだけど」
なんて答えが返ってきた。チカイの言葉にアカシの品、たいてい最初だけ・・。
「ねぇ・・オンナが言うべきことではないし、オトコだって誓ったなら生涯貫いて欲しいよねソレ」
「ねぇ・・春樹はどう言ったの? 最初だけだった?」
ってこの二人の意見は、奈菜江さんや優子さんとはまた違って。弥生やあゆみの意見とも違いそう。
「えっ・・まぁ・・そう言われたら、春樹さんの方からだったと思いますけど」最初だけかどうかはまだ解りませんけど。としか言えないような、確かに、春樹さんから「オレ、お前のコト好きだよ」って言われて、後ろからハグされたのは間違いなくて。あの時拒否したのは、今から思えば、アカシの品がなかったから?
「へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、春樹が言ったんだ。ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」
って、その、へぇぇとふぅぅんが長いのにナニか意味があるのですか? と思ったりして。
「で、春樹は美樹に、なんて言ったの?」と聞いた由佳さんに。
「えっ・・」としか返事できなくて。
「えっ、じゃなくて、まぁ、美樹はまだそういう年頃ではないということかな」
と意味ありげに笑う由佳さんと。
「くっくっくっ、17歳だもんね、まだまだこれから揉まれて、図太くならなきゃ。17歳か、私が17の時ってこんなに可愛かったかな? 5年前・・」
と笑ってる美里さん。そう言えば美里さんも由佳さんも22歳だったかな? それと。
「年頃・・ですか? 図太く・・ですか」とどんな意味があるのか考えようとしたけど。
「でもさ、美樹って、春樹のどこがいいの? あんなオトコ」
と美里さんが言った瞬間。奈菜江さんに言われた時とは違う言われ方に、ビクンっとした何かを間違いなく感じた。
「あんなオトコ・・」と繰り返すと、ビクン・・が。ムキっ・・という感情だと気づけて。
「あんなオトコ」と笑ってる美里さんに、ピュアな気持ちが言い放った言葉。
「美里さんは、春樹さんのような男の子、好みではありませんか?」
そう言った後、一瞬、美里さんが止まって。由佳さんが笑いじめた。
「ぷぷっ。春樹さんのような男の子だって」って。そして。美里さんが。
「へぇぇ、イラっとしたね今。ふううん、私の考えというか、美樹とは違うかもしれないけど、オンナはさ、オトコを好きになっちゃダメヨ」
「えっ・・」どういうことですか? 好きになっちゃダメって。
「春樹の事が好きで、あんなオトコって言われてイラっとしたでしょ。それって、美樹が好きになっちゃってるってこと。私はね、あんなオトコのどこがいいのって言われたら、シモベをはべらせてるだけよって言い返す。私の事が好きだっていうなら、とことん尽くしなさいよ。行動で示してよって言えるように主導権は絶対に渡さない」
シモベをはべらせるってナニ? 尽くしなさいよ、行動で示して、ですか。まぁ、想像できませんけど、そういうとらえ方もあるのですね、という意見と言うべきかな。と納得したりしてる私に気付いているけど。
「それって、オトコに逃げられ続けてる、ひねくれ女の意見だからね」と笑ってる由佳さんに。
「由佳・・その言い方ってちょっとアレじゃない」と少しまじめに怒っていそうな美里さん。
「事実でしょ」
「まぁ・・事実だけどさ」
とうなずきあっているけど、私にはこの言葉が印象深くて。
「ひねくれ女・・」とつぶやくと。
「美樹って、そこんとこ、リピートしないの。私はね、オトコに尽くす女にはなりたくないのよ、なんかこう、家庭とか子育てとか主婦になりたくないって意識が強くてね、育ち方のせいかな」しみじみな感じがスゴイ。
「だってさ」と由佳さんはあきれていそうだけど。
「美樹って可愛いから、オトコに泣かされる前に、そういう考え方もあるって教えてあげたいのよ。図太くズーズーしい女になってほしいの」
と言いながら。私をじっと見つめる美里さんは。
「ホントにカワイイ。美樹を見てるとハグしたい。ハグしちゃお。将来こんな子がほしい、オトコはどうでもいいけど、子供はほしいなぁ、カワイイ女の子がイイ」
と、私をぎゅっとハグした美里さんの綺麗な横顔につられて目を閉じたら。美里さんは私の背中をポンポンとして。
「優しい男もいいかもしれないけどね。強い男を従えてこそ一流の女よ」と耳元にささやいてからそっと解放してくれた。
強い男を従える。という一言に、なぜかお母さんを思い浮かべた私。お母さんはお父さんを間違いなく従えていて。お父さんは強い男ではなさそうだけど、と、そう言えば、こないだの藤江のおばさんも、チーフに「おっ奥様」って言わせていたのは、アレは従えている証拠かな。だから、「男にいけすかねぇババぁと言われて誇らしく思えるわ、人生間違っていなかった」そう言ったのは、藤江のおばさん。このお話に通じるコトかな? と思っていると。美里さんは。
「オトコってオンナが操縦する乗り物よ。行きたいところに自分で運転して行くの。力強くてどんなところも走れる、どこまでも走れる。誰より早く走れる。私の目指すゴールに向かって運転するの。当然使えなくなったら乗り換えればいいし。使い捨てるものでしょ。消耗品だけど、品定めくらいはしなきゃね」私の目指すゴールって何だろう。それに、この例え、奈菜江さんもこの前言ってた? そう言われると、確かに、解るかも。と思っているのはなぜ? と感じてる傍らで。
「だそうです、美里は、どこに行きたいのでしょうかね。ゴールって何だろう」
と由佳さんが笑っていて。
「由佳はどうなのよ」と聞き質す美里さんに、由佳さんは。
「まぁ、そうとも言えるし、私は、優しい男でもいいし。強くて優しい、逞しくて柔らかい。賢くて面白い、背が高くてイケメンで・・春樹もいいかなって・・」とつぶやいたところで。やっぱり由佳さんも・・という思いも一緒に。
「何メルヘンに浸ってるのよ、そんなのありえないでしょ」
と美里さんは全否定した。けど。
「ありえないから憧れるのよ。と私は思う」おぉ、そういう答えか。と思っている私と。
「あぁ・・それは同感ね、ありえるなら憧れるまえにゲットしてるかな」
とつぶやく美里さん。ありえるなら憧れる前にゲットしてる・・のか。
「そして、やっぱり最後は収入かな」と苦笑いしながら言った由佳さんに。
「収入ね・・はぁぁぁぁぁあ。でも、オトコの収入に頼りたくもないし。頼れるほどの男もいないし、ありえないから憧れるのよね、そういうのに」
「そういう事・・春樹はどうなのかな」と二人して、ため息吐いて私を見つめるから。
「どうなんでしょうね・・」
とつぶやこうとしたら。
「いらっしゃいませようこそ」
と来店したお客さんに駆け寄って。また、モヤモヤしたまま話が途中で終わったような。
「収入ですか・・」とつぶやいても。私には、あまりピンとこないかも。つまり、お金か・・奈菜江さんもそれっぽいことを言ってたかな、「大きな大きなダイヤの指輪」とか。つまり、20歳とか、22歳とかになると価値観がそうなるのかな、ということに気付いたというか。
「美樹、美里の意見にそんな真剣な顔しないで、春樹ってイイ男の子じゃない、もっとキャピキャピした恋愛を楽しみなさいよ」と由佳さんがカウンターに帰ってきてつぶやいてから、ニコニコとオーダーをチェックしてる。
「キャピキャピした恋愛?」 ってナニ? と思っていると。
「そうよね、私も17歳に戻りたい、あの頃は現実なんて何も気にせず、キャピキャピと男の子と付き合えていたよね」と美里さんはそんなことを言う。そして由佳さんが。
「それそれ、17歳の頃は恋愛って大きな大きな飛行船くらいあったのにね」
「飛行船ですか・・」ってどんな例え? と想像するけど。
「年取ると現実に空気抜かれて、今じゃ、オトコに期待することなんて、お祭りで買った風船くらいよね」
「あーその例えわかるかも。アレってさ、シゴニチしたら縮んじゃって、オトコに対する幻滅を表現してるよね」
「シゴニチしたら縮んで、オトコに対する幻滅を表現・・ですか」と縮んだ風船を想像したけど・・お祭りで買った風船ってそう言えばどこに行っちゃたのだろう。と思ったら。
「おい、お前ら、人の夢と希望をそぐ話はやめろよ、それはお前たちダケの例えだろ、美樹ちゃんにはよ、夢と希望に満ちたスンゲェ将来があるんだよ」
とチーフがカウンター越しに割り込んできて。
「また、チーフが黙って聞いてるし」と由佳さんが噛みつく。
「聞いちゃ悪いか、お前らの声がでかすぎるんだろ、美樹ちゃんも、夢も希望も諦めちまった、縮み切った風船女の話しなんざ真に受けんじゃねぇぞ」
「縮み切った風船女ってなによ」と美里さんが怒ってる。
「自分で言っといてなんだよ」と料理を上げながらぼやくチーフに。
「美樹も、チーフの言うことなんか聞いちゃだめよ」
って二人は言い残してお客さんに料理を運ぶ。そして、チーフと二人っきりになった時。
「美樹ちゃんは春樹とくっついてバラ色の膨らみ過ぎた飛行船に乗って順風満帆の人生を歩めばいいんだよ。なっ」
とウィンクするチーフ。に・・ぞわっと。また、なにかヘンなモノを感じた。
ヘンなモノ。それは、「結婚・・私が・・春樹さんと」という、藤江のおばさんにかけられた魔法と言うべきか、いや、これは・・ノロイ・・タタリかも。 そう空想すると、何かヘンなモノが・・ナニかヘンな意識が、私の住んでいる世界をどんどん変えてしまって、ここから先は、もう戻れない、見たことがない異世界? なんて思いがし始めたようだ。
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