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魔法が解けたシンデレラ
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手をつないだまま、出口のゲートに向かいはじめると、一歩一歩進むたびに、まだこんなに日差しも強くて暑いのに、心の中に木枯らし一号がビュービューと向かい風になって吹き始めたような気持が実感に代わって、じわりじわりと大きくなって。絶対に帰りたくない気持ちがざわざわと湧き立ち始めて。さっきは、おとなしく素直でいようと今親指でむにゅむにゅいじくっている指輪に誓っていたのに。今は、そっちの方向に行きたくない。そっちに行きたくない。行きたくない。とわがままな気持ちを指輪にお願いしている。この心の叫び声を。
「帰りたくないです・・」
と念力にして春樹さんの顔を見上げながら送ってみる。だけど、まったく届かない感じ・・。「帰りたくないです」と言ってしまえば、春樹さん「じゃ、どこかに泊まっていこうか、一晩一緒に過ごしましょ、ね」なんて期待通りの言葉を言い返してくれるかな、と思いながら。
「帰るんですか?」
ともう一度、別の念力を送っている私。一晩ずっと、とまではいかなくても・・。もっと、ずっと、二人っきりで・・。一緒にいようって、言ってくれない普通の足取りの春樹さんに手を引かれて、足首に鎖でつながれた鉄の球を引きずっている気持ちでついてゆく私、バス停まで来たところでようやく。
「どうしたの? 疲れた?」
と私の顔をじーっと見つめながら声をかけてくれた。だから。
「疲れました」
と言えば、「それじゃどこかで休んでいく? マッサージでもしてあげようか?」と返してくれるかなと期待しながら、「疲れました」って言おうとするけど。声を出せないでいると。
「また、帰りの電車の中でぐっすり眠ってください。朝みたいに」
だなんて、にこにこしながら言い放つから。幻滅・・なのかな。私がちゃんと言わないから思い通りの展開にならないのかな、そんな思いがぐるぐるしている。
シャトルバスが来て、私と同じようにどことなく疲れていそうな女の子と、もっと疲れていそうな男の子のカップルが乗り込んでゆくから。比べるように春樹さんの顔を観察すると、すぐに目が合って、ニコニコしてくれる。だから私も愛想笑いするしかないし。窓際の座席に座って窓の外を見るとシャチのモニュメントが見える。朝あそこで写真を撮って、手をつないでぶらぶら歩いて、いろいろなショーを見て、シャチのショーではずぶ濡れになって、指輪を薬指にはめながら「僕のお嫁さんになってください・・」ってそんな確かに記憶している出来事を回想すると、それが私の人生のすべて だったか のような気がして、まるでこのまま人生が終わってしまうかのような錯覚もしてる。人生が終わるかのようなこの気分は、デートがこのまま終わってしまうから、そう感じるのかな、とも思い始めて。無意識に始めてしまう、親指で薬指の指輪をむにゅむにゅ。こういう時、どんな会話をすればいいのだろうとも思うし、春樹さんも無口だし。そういえば、知美さんも言ってたな、「気持ちを詮索してくれたことなんて一度もない、言えば何でもしてくれる子だけどね、あの子って無口だし」気持ちを詮索・・されたいのかな私。言えば何でもしてくれるって言っても何をどういえばいいのかわからないし。ぶつぶつ考えながら、私、どうしたいんだろ、春樹さんの横顔をチラチラ見ながら、あなたと結ばれたいって、あなたと結ばれる運命を無条件に受け入れてみようって、確かにそう思っていた私が何時間か前にいた。そんなことをぐるぐる考えていることはわかっているけど、どういえばそんな展開になるのか。どうすればそんな展開になるのか、春樹さんにちょこんともたれて、チラッと上目遣い・・くらいしかできない自分の不甲斐なさにため息をつくと。
「大丈夫? 疲れたの? すぐ、駅に着くから」
なんてことを言うから。また、どうすれば今の気持ちがこの人に伝わるのだろう。とぐるぐるしてしまう。試しに、腕を抱くように手を這わせて、手をつなぐことだけはこんなに慣れたのに、そんなことを思いながら、春樹さんの左手に指を絡ませてみたら、春樹さんの親指が私の親指を優しく撫で始めて。また、親指はこんなにいちゃいちゃ絡み合っているのに・・。このまま手がいちゃいちゃし始めて、腕がいちゃいちゃし始めて、だんだんといちゃいちゃするところが体全体に広がれば。なんて想像がどんどん膨らみ始めるのに。
「さ、到着、降りますよ」
と、つないだ手をほどいて、立ち上がる春樹さん。もやもやした妄想が大きく膨らみ過ぎてバンって破裂してしまったかのような幻滅。すぐに着いてしまった駅の前。バスを降りると、これからバスに乗り込むカップルとすれ違って、まるで、朝 バスに乗り込もうとした私とすれ違ったかのような錯覚までしている。こんなに日差しが眩しくて、まだ4時前なのに、本当に帰るんですか・・。と思っていると。私がそんなこと考えているなんて思いもしていなさそうな春樹さんはいそいそと切符を買って私に渡してくれた。
「はい、向こうに到着するのは6時過ぎかな、お弁当どうする?」って聞く春樹さんに。
「いりません・・おなかすいてないし」と返事して、もっと違うこと気遣ってほしいのにと思っている。けど。
「じゃ、飲み物は」だって。
だから、そんなことじゃなくて・・。もっとこう、もっと・・その。私自身も何を要求したいのか、言葉で説明できないことにイライラしているけど。
「サンドイッチでも買っておこうか」
つぶやきながら駅前のコンビニに入ってゆく春樹さんの後について、とりあえず選んだ、紅茶とスルメとチョコポッキーをかごに入れて、お金を払っている春樹さんを後ろから見ていると。春樹さんの左手の指輪の宝石がキラッと光って。だから、私もまた むにゅむにゅ と指輪をいじくり始めてしまう。
「さっ、帰りましょ・・楽しめた?」
と聞く春樹さんに、とりあえず。
「うん」とうなずいて。改札を通り抜けて、私から、そっと手を伸ばして、手をつないだままホームで電車を待つ。恋人同士になれば、こうして毎日どこかで買い物してから「帰りましょ」って同じ部屋に帰るのかな。そんな想像をしている。でも、今から私が帰るのは私の家で、春樹さんは知美さんのところ。そんなことを考え始めたら。
「いいのよ、春樹の事、好きだったら、私から力ずくで奪っても」って
そんな知美さんの言葉が頭の中に響き始めて。だから、そぉっと春樹さんとの距離を詰めて、「帰りたくない」と念じてみるけど。全然何も伝わらないな。念じる言葉が違うのかな、そう思いながら、念じる気持ちをもう少し強くしてみた時「知美さんと別れてください」という思いが芽生えた。その瞬間。
「どうかした?」
って優しい声でうつむいた私を覗き込む春樹さん。何かが伝わった気がして急に怖くなって、つないだ手を解いてしまう。息が少し乱れたけど、その時ホームに入ってきた電車。
「さ・・この電車ですよ、よかった、結構すいてるね」
大丈夫、今の気持ち、春樹さんに伝わった訳じゃなさそう、そんな気がしてほっとした、と思っている私と、どうして伝わらないのよ、こんなに強く念じているのに、と思っているもう一人の私が、気分をふらふらさせている実感がしている。
電車に乗って、また窓際に座る。春樹さんが座るのを待って、ちょこんともたれてみる。なのに。
「はい、お菓子と飲み物」
って、そうじゃないのに。朝、こうして座ったとき。「はい、あーんして」ってご飯を食べさせてあげて、お腹を捩らせて くくくくって笑っていた私。「美樹ちゃんってこんなにかわいい顔してたっけ」って春樹さんが指で私のほっぺを撫でながら呟いたこと。「綺麗な髪、いい匂いがするし」って、この人に初めてあんなこと言われて、ドキドキした瞬間の事、何もかもをものすごく鮮明に覚えている。なのに、今は、どうしたら、どういえば、あの瞬間のようにドキドキできるのかがわからない。もっと優しい言葉を聞きたい。もっとあなたの言葉にドキドキしたい。私は今そう思っているんだな、という自覚かする。優しい言葉にドキドキして、そのまま目を閉じたら。その先は・・。と、空想をどんどん膨らませているのに。
「するめ、食べていい?」と聞く春樹さんに。
「どうぞ・・」ってふてくされた返事をしている私。に、少しでも気付いてくれないかなと春樹さんの表情をチラチラ見てみるけど、いつもと変わらない顔。そんな春樹さんがスルメをくわえて。ニヤッと笑いながら。
「半分食べる」と私に唇ごと差し出して目を閉じた。その時、私は何かをぶつぶつ考え込んでいたせいか、そうなりたいとずっと思い続けていたせいか、無意識が体を制御していたせいか。何もかもが自動的でオートマチックなまま。これが、空想なのか現実なのか曖昧なまま。
「うん」
とうなずいて、春樹さんがくわえている するめ をパクっとくわえると。ちょぴ っと唇が触れて、凍り付いたように息まで止まった。えっ? という思いがして。春樹さんの目が「ぱちっ」と開く音まで聞こえた気がした。
その向こうに、きゃいきゃいと女の子が通りかかって、「きゃっ・・」って立ち止まるから。
「いやっ・・」って慌てて離れたんだ。春樹さんも、「びっくりした」って感じの顔で止まっているし。スルメをくわえたまま。どうしていいかわからない顔している。その向こうを通り過ぎる女の子の団体さんが。
「今、あの二人キスしてたでしょ」「してたしてた・・うらやましぃー」「えーあたし見てなかったよ」「いいなぁ~あの娘いくつなの?」「カレシのほうも まぁまぁ じゃん」ってじろじろ見ながら、ひそひそした話声も聞こえて。今頃になって、耳から湯気をぽーって吹き出しながら、息と脈がばらばらのリズムで暴走している。
「なんですか・・急に」と言ってはみたものの。ナニしちゃったの私、とも思えるし。
「びっくりした・・ごめんね・・急に」
と春樹さんは言うけど、別に ごめんね なことではない気もするし。確かに唇がちょこんって触れた感触をしっかりした意識で回想できるから。生まれて初めてのキスがこんなだなんて。というか。生まれて初めてのキスってほとんど無意識のまま神様に導かれていたような気もするし。というか。生まれて初めてのキスが するめ の味だなんて。というか。そんな思いがぐるぐるし始めて。つい口にしてしまったセリフが。
「責任取ってくださいよ」だなんて・・。どういう意味なの、と自分で思っている。
「せ・・セキニン?・・・って」と春樹さんもあたふたしてるし。
一生の思い出になってしまいそうな瞬間だったのに、今まで何度も空想した一生に一度の瞬間だったのに、何度も練習した生涯ただ一度の瞬間だったのに、それが、するめ・・だなんて。と思いながら。初めてのキスがあんなに ちょこん だなんて可愛すぎるような気もするし。私らしいといえば私らしいかな、そう思うと。
「くくくくくく」ってまたお腹がよじれるような変な感じ。
「今度は何?」と聞く春樹さんにしがみついて。
「キスしちゃった・・私、春樹さんと」
と湿っぽさを意識した目つきで春樹さんを見上げて。
「知美さんには黙っていてあげるね」
と脅迫していることを意識しながらつぶやくと。
「今のは、キスじゃないでしょ・・ちょっと触れただけ・・」
だなんて、またそんなことを言うから。「キスです」という念力で、ぎゅうっとしがみつく腕に力を込めてじろっとにらんでみると。春樹さんも。
「くくくくく」って笑い始めて。
「くくくくく」って私もつられて笑ってしまうと。
「じゃ・・もう一回やり直しますか、はい」と春樹さんは するめ をくわえた唇を差し出すけど。
「するめ味のキスはイヤです」これは本音。
「じゃ、チョコレート味で」とチョコポッキーをくわえ直すけど。
「それもイヤです」ふざけないでください。と思う。
「じゃ、何味がいいの?」味じゃないでしょ・・。
「知らない・・」もういいです・・願いがほんの少しだけど叶った気分と。唇を舐めて、目を閉じて回想すると、あの瞬間の春樹さんの顔、目が開く音なんて初めて聞いた気がするし、唇が触れあっていたこと、春樹さんも確かに意識していた。何が起きたの? どうしたらいいの? そんなことを表現してた、あの顔、思い出すとまた。
「くくくく」ってお腹がよじれてしまいそう。そして。しがみついたまま春樹さんの肩に顔を擦り付けると。
「疲れたでしょ・・着いたら起こしてあげるから、眠れば」と優しい響き。
「うん」
と返事して、なんだか本当に、一日はしゃいだ気分もするし、一日ぶらぶらし続けたせいか、朝も早かったし、それ以上に、春樹さんが隣にいて、しがみついて、優しく握ってくれる手、親指がいちゃいちゃしてるこの感じ。眼を閉じると肩の力が抜けて、体中の力も抜けて、ふにゃんとなってしまうようなこの感覚、これが安心感なのかな、そんな気分なるから、また、回想してしまうこと。
「僕の好きな美樹、今は、約束できることなんて何もないけど、僕のお嫁さんになってくれませんか」
約束できることが何もないって、今思えば無責任なセリフだね。どうしてそんなこと言ったの春樹さん? どんな意味なんだろ。今は約束できることがない・・って。そのうち約束できることが一つ二つとできてくるのかな? それに。
「はい、春樹さんを私のお婿さんにしてあげます、私を幸せにしてください、それだけは約束してください」
それだけは、約束しましたからね。私を幸せにしてくださいって。
「少しは本当の事だけど、ほとんどは嘘で冗談だからな」
少しだけでも、本当の気持ちがあるんですよね。私の事「好き」って今まで何回も言ってくれましたよね。あれって、少しだけでも、本当の気持ちなんですよね。
「半分食べますか」
「うん」
意識なんて全くなかった初めてのキス、ちゅっ ではなくて ちょぴ って。知美さんのお話だと、キスってなんだかものすごくベトベトぬるぬるした生々しいもののように思えたけど。ちょぴ と触れただけの私の初めてのキスは、私らしさマックスだったかな。大きく息を吸って、恥ずかしさをフフフって笑い声でごまかしてから、気持ちが静まると、ほーっとした気分に包まれてゆく感じがする。そんなふわふわした気分が連れてくる睡魔には無抵抗で従おう。そうしよう。
「するめ の味がします、春樹さんのキスって」
「するめ?」
ちょぴっと春樹さんとキスし終わった私は、ムスッとした顔を意識したまま春樹さんの首に腕を巻き付けてぶら下がっている。そのまま。
「本当のキスってこうするんでしょ」
とゴールデンレトリバーがソフトクリームをベロベロ舐めるように、べろべろ舐めて、上唇を吸って、下唇を吸って。
「んぐっ・・・んぐ」
と喘ぐ春樹さんの唇を吸い続けている私、いつの間に・・どうして春樹さんの膝の上?
「指輪をありがとう、約束してね、私の事幸せにしてください。私もわがままなんて言わないから」
「うん・・約束するよ、わがままは、言っていいんだよ、美樹ちゃんは可愛い女の子だから」
その優しい声、やっぱり、この人が私の運命の人なんだ。そんな気がする。だから。
「うん、じゃ、ご褒美をもっとあげるね」
もっと、もっと、私を吸って、私の唇をもっと。無条件で無抵抗で何もかもをあなたに委ねています。春樹さん、このまま私、あなたと結ばれたい。結ばれたいの、もっと吸って、もっと触って、もっともっと一つになりたい。そう思っているのに、
「お腹すいてない?」
だなんて。
「疲れていませんか?」
って、どうしてやめちゃうの、もっと優しい言葉があるでしょ。私の事好きって。私の事愛してるって。そう言ってよ、私の気持ちをもっとわかってよ、どうしてわかってくれないの? どうしていつも期待外れの気遣いばかりなの?
「どうしたの? 怖い顔」
「あなたがそうさせているんでしょ」
「そう・・ごめんね・・何でも言うこと聞いてあげるから、許して」
って、どこ触っているんですか、そこは、お尻でしょ・・。そんな所しつこく触らないでよ、と思っているのに、もっと触ってほしいって気持ちのせいで抵抗できないし。
「春樹さん。・・・ってなりましたか?」
「うん、・・・ってなりました、いい、しようか」
「しようか・・って。それって、いいですよ・・知美さんともそうして結ばれたんでしょ」
「知美さんの話はしないでって言ったの美樹ちゃんでしょ」
「はい・・もう話しません」
「それじゃ、いい?」
「うん」
そんなに詳しいわけではないですけど、少しは勉強もしました。結ばれるって、こういうことでしょ、私の鍵穴に、世界でたった一つだけぴったりはまりこむ鍵が、優しく ぬるっと 入ってきたら、愛の扉がパンパカパーンって開くって、本にもそう書いてたし、ねぇ、弥生。
「うん・・オトコをその気にさせるなんて簡単よ、裸になって、ハイどうぞって言えばいいの」
「弥生はそうしたの?」
「美樹だって、今そうしてるじゃない」
「あっ・・私、ハダカ・・春樹さん、結ばれていいんですよね私たち」
「じゃ結ばれましょう、合体」
「ちょ‥ちょっと待って・・合体って・・なんですか」
合体って、あの本のあのページだ・・。いよいよ合体の時。って、どうすればいいの。あのページって何が書いてたの? ベットの下、探すのに見つからない、どうしよう、思い出せない。
「無条件で無抵抗でカレシに委ねていればいいのよ」って私が言ってるけど。
「あの子ってそういうことに 鈍いのよ、とことん」って知美さん? 鈍いって?
「エッチってこうするのよ」っていわれても、私、そんなことわかりませんよ。
「はい、残念、今日はここまでよ」って弥生が言ってるけど。
でも、
「ここってどこ?」 弥生、どこにいるの? ここって、私の部屋?
「ホテル行こうって美樹ちゃんが言ったんでしょ」
「ホテルですか」
「ホテルですよ」
あれ・・さっきまで、裸だったのに・・。どうして私、上着だけなの? あの時の水着って上着だけだった? お尻丸出しなのは同じだけど、なんかこれじゃないような。
「美樹ちゃんって、こんなにかわいいお尻してたっけ」
「え・・?」
ちょっとそれは、セリフが違わなくないですか?
「美樹ちゃんってこんなかわいい顔してたっけ・・」じゃなかったですか?
「ううん、美樹ちゃんってこんなに可愛いお尻なんですね、でしょ」
春樹さん、お尻の谷間に指を差し入れるのって、くすぐったいからやめてくださいって。そこはお尻の穴です・・・それ以上差し入れないで、くすぐったいって言ってるでしょ・・・それ以上は入れないで、やめてって・・・その先は・・・何してるの私、ホテルって。
「春樹さん、何してるんですか?」
「ぷにぷにって・・美樹ちゃんのお尻ってこんなに可愛いから・・ってなってますよ」
「・・・って、なんですか?」
「結ばれるための儀式でしょ・・ほら・・ベットに行きましょ」
って、ひょいって。
「春樹さん」
それってお姫様抱っこじゃないでしょ、ベットに行くときは、もっとこう、ひょいって、こんな丸太を担ぐように私を肩に担がないでください。もっと優しく。
「春樹さん、お姫様抱っこしてください」
って、私が言ってるんじゃない。だれ、誰がそう言ってるの? きょろきょろ探しても誰もいない?
「もう、仕方ないなぁ。ほら、お姫様抱っこってこれでいいの?」
って、どうしてあゆみが抱っこされてるの?
「春樹さん、メール見ましたか? 私のおっぱいに心奪われてくださいよ」
って言ってるあゆみのおっぱいってあんなに大きかった? あゆみじゃなくて、優子さんですか? あゆみだよね、それに・・。
「グラマーな女の子って、俺、好きなんだ」
って、春樹さん、どうしてあゆみを抱っこしたまま歩いていくんですか? どうして、あゆみにも好きだなんて言うんですか?
「春樹さん、どこに行くの?」
「私、フタマタする男って許せないし」って美里さん?
「いやらしい」って優子さん?
「ポイって するに決まってるでしょ。ポイよポイ」って奈菜江さん。
「つけずにしようとしたら、蹴っ飛ばしなさいよ」
ってみんなで春樹さんを蹴るのはやめてください。
「おほほほほほほほほ」って…知美さんまで。何してるんですかみんな。春樹さんをそんなに蹴ったらかわいそうじゃないですか。いじめないで。でも、助けに行くと私までみんなに蹴られそうだし。
「美樹ちゃん、助けて・・美樹ちゃん、助けて、ちゃんと付けるから」
って。何をつけるの? と思うのに。春樹さんが口から血を流しながら、大きな波に引きずり込まれてゆく、
「まって、今助けてあげるからね」
助けるって・・するめ・・これで助けるの?
「春樹さん、半分どうぞ」
「うん」
って、唇が触れたまま、私も大きな波にさらわれて、ずぶ濡れになって。春樹さんが溺れちゃう・・だめ、唇を離しちゃダメ、溺れちゃうでしょ・・。シャチが・・。
「春樹さん」
「美樹・・約束するよ・・幸せにしてあげる」
って。助かったの? どうしたの私、これってこの前のドラマみたいに、両方の肩をしっかりつかんで、がっちりと私の上半身を固定して。なにするの? キス?
「美樹・・愛して・・」
「春樹さん」
どこに行くんですか? だれですか一緒にいる人、知美さん? 違うの、あゆみ?
「お姫様抱っこしてください・・」
って優子さん? 春樹さん、やっぱり大きなおっぱいが好きなんですか? 春樹さん。
「行かないで、春樹さん、行かないで」
「って・・どこにも行きませんよ、ここにいますよ、大丈夫?」
って声に。
「えっ?」
っと思いながら。眼を開けると。
「まったくもぉ、どんな夢見てるの?」
とゆっくりとピントが合った春樹さんの顔が苦そうに笑っている。
「えっ?・・夢?」って・・・冷静になると、ゴトンゴトンと電車に揺られている感じと、春樹さんの優しそうな顔。整わない息が、はーはーしている。そして、ナニ今の?、と春樹さんの顔を見た瞬間に全部忘れたような、説明できないような、なにか恥ずかしい夢だったような。
「ほら、みんな笑ってるし、寝言って、もう少し小さな声でお願いします」
とキョロキョロすると、さっきの女の子の団体さんが、口を手で押さえて笑っている。
「春樹さん 行かないで・・」
「くくくくく」
って、隣の席の女の人たちが。口を押えて・・。ちらちら私たちを見ているし。
「春樹さん・・だって・・行かないでって・・かわいい・・悪い男なんだね・・春樹さんって」
だなんて、声も聞こえて。長い髪の綺麗な人がくすくす笑っているし。だから。
「知合いですか?」と聞くけど。
「美樹ちゃんが大きな声で寝言を言うから・・周りの人たちが心配してくれたんですよ。春樹さん春樹さん行かないでって、あんな大きな声で、恥ずかしいでしょ、もぉ」
だなんて言ってるけど。なんとなく記憶が全くないような・・そんな夢見てたような気がするというか。思い出そうとすればするほど思い出せないのに。
「どんな夢見たの、悪い夢? 怖い夢? 行かないで、だなんて」
そう言われると、本当に、なにも思い出せないし。
「どこにも行きませんよ。ほら、撮った写真メールで送ったから」
と言われて、携帯電話をポーチから出して、ふと思い出したこと・・。
「あっ・・そういえば、春樹さん」
「ナニ?」
「あゆみから、メール来てますか?」
とは、急に思い出した弥生の一言。あゆみって春樹さんに本当にメール送ってるよ。って。
「あゆみ・・・って・・あー、プールで会った美樹ちゃんの友達・・あーあの娘からだ、誰かわからないメールが最近ね・・」
なんて言い始めて。急に何かを思い出して、携帯電話をモジモジし始める春樹さんは。
「よくわからないから、こういうのって・・これが、あゆみちゃんだね、みんみんあゆみんって・・17歳とは思えない・・」とぶつぶつ言いながら画面を見てニヤッとし始めた。だから。
「なんですか?」と追及してしまうこと。
「えっ・・」
「17歳とは思えない・・なんですか?」なによその汗ってる顔。
「いや・・ほら・・写真・・」
って見せてくれたのは、胸の谷間のズーム写真、服の上からだけど・・。ニヤニヤしながらそれを見ている春樹さんが、まるでさっきの夢に出てきた、あゆみをお姫様抱っこして連れていくかのような・・。
「だれだかわからなくて、これ、同じような写真ばかりって、3枚だけだけど、送ってくる娘・・・あゆみちゃんって、思い出したよ、あの娘だね・・プールで会った・・しかし・・すごいね」
って、あゆみのバカ、何してるのよって思うような写真をめくる春樹さんを睨みながら、あゆみにも気があるのかなとも思ってしまう、春樹さんのにやにやした顔。だから。
「春樹さん・・」って、またほかの女の子を話題にしてるから、気持ちがむしゃくしゃしてしまう自覚がある。
「はい・・なに、どうしたの、また怖い顔して」っていつも私の顔が怖いという春樹さんに。
「あゆみの事も好きなんですか?」って、こんなことはストレートに口にできる私。だけど。
「またまたまたまた・・・一方的に写真が送られてきただけでしょ、ホントにだれかわからなくて、あーあゆみちゃんって美樹ちゃんの友達にいたあの娘だねって話です」
って言ってるけど、こないだ優子さんのバストをじろーって見てたのもそうだし。優子さんにも好きだって言ってたし。そういえば、夢の中で、私を置いて、春樹さんが連れて行ったのは・・。あゆみと優子さんだったような。だから。
「春樹さんって、おっぱい大きな女の子が好きなんでしょ」って、むしゃくしゃするとどんなことも言い放ってしまう私。
「えー・・どんな話ですか・・急に」って、春樹さんも、なによその顔、って思ってしまう困り切ってる顔は。
「ほら・・図星」やっぱりそうなんだ、どうせ、私のは・・って感情がもやもやしてしまうから。
「美樹ちゃん、まだ寝ぼけているでしょ・・もぉ・・どうかしてるよ」といわれて、
「どうもしてません・・」としか言い返せない。
何だろう、このむしゃくしゃしてる気分。隣の席のさっきの髪の長い女の人とも目が合って。にこっとされて、春樹さんも微笑み返ししてるし。よく見ると、この人もかなり大きめだし。そんな目で見ていたら。
「美樹ちゃん・・俺はね、どちらかというと、おっぱいよりお尻の方が好きな男なんです」
って・・急になんの話を始めるんですか?
「こないだもほら、プールで美樹ちゃん、お尻見せてくれたでしょ」
って言いながら、私の顔を見てニヤニヤする春樹さんは。
「どちらかというと、俺は・・お尻に・・」
「そんな話、しないでください」こんなところで、恥ずかしいでしょ。と春樹さんに背を向けて、無理やり窓の外を見ているふりをすると。
「また・・見せてほしいな・・触らせてくれないかな・・って思っていますよ。シタゴコロをむずむずさせながら」
って、耳元でささやく小さな声に、また、もやもやと膨らみ始めた、「それだったら、今夜はどこかで、二人きりになれば・・・」という気持ち。だけど、そんなこと口にできるわけないし。でも、もしかして、春樹さん、私のこの気持ちを解ってふざけているの? と思って、もしそうだったらと思うと、振り返るのが怖いし。と、また変にドキドキし始めているし。どうしようと思っていたら。
「まったく・・」
って、つぶやいて、私の耳に息を吹きかけるようなため息、に鳥肌が立つぞわぞわした感じがした、そのすぐ後に。
「写真届いているか見てよ、なんかこう、顔のアップばかりだったけど」
って、また、急に話題が元に戻ってしまったような。
「はい」
と返事して、携帯電話を操作しながら静かに深呼吸してる。仕方なしに画面を開いて、もじもじと呼び出すと。私と春樹さんの顔がピッタリくっついてる写真が現れて。春樹さんにちゅーしてる写真。シャチと空中に水の塊が静止している写真。
「自撮り棒、買っていけばよかったかな・・」
一枚一枚めくっていくと。その一瞬一瞬が思い起こされて。間違いなく確かに私の記憶にある春樹さんと二人で過ごした時間が写真の中で止まっている。それは、まるで魔法をかけられたシンデレラが王子様と過ごした一瞬のような。魔法が解けてしまうと、二度と同じことを経験できない出来事のような。写真の中で幸せそうに笑っている私は、間違いなく数時間前の私。その私が写真の中から「本当に好きだったら奪っていいのよ」と私に話しかけている錯覚までしている。どうして、私自身の写真にこんな嫉妬してる気持ちが沸いてくるのだろう、そんな気分を感じ始めたその時。
「今度、また、どこかに行ってみようか、遊園地とか。俺、乗り物とか乗ったことないから、絶叫マシーンっていうの、本当に経験なくて、乗ってみたいなーって思っているんだけどね」
と耳元につぶやいた春樹さんに視線を向けると。にこにこと嬉しそうな表情。でも、私は条件反射のように。
「そんなこと・・知美さんが怒りませんか?」
とつぶやいてしまう。そんな小さな囁き声を聞き取った春樹さんは。
「ときどき、あいつにもそんなこと言うんだけどね、遊園地とか行かない?って、でも、興味ないし、一人で行けばって返されるから」
ってどういう意味?
「ほかの娘は、ダメだと思うけど、美樹ちゃんならあいつも許してくれそうな気がして」
って、たしかに、8月中なら許してくれるかもしれないけど。これって、キターって思うことなのか、エーどうしようって思うことなのか。春樹さんの期待が膨らんでいるような優しい笑顔を見てしまうと。ディズニーランド? ユニバーサルスタジオ? どっちも泊りだよね。って気持ちが溢れるような。
「気が向いたらね、また、デートに誘ってみたいです。可愛い可愛い美樹ちゃんを」
って言いながら私にちょこんともたれる春樹さんに。えへへ、と照れ笑いするべきなのか。どうしよう、と息を乱すべきなのか。そんなこと考えていると。もたれるのをやめた春樹さんが背伸びして。
「んーっと、さてと、もうすぐ到着するから、忘れ物しないように」
と言い始める。そして、車内のアナウンス。何度も何度も夢から覚めて、何度も何度も魔法が解けていくような気持ち。電車が到着すると、ホームにいる人が、ものすごく多くて。
「ほら、はぐれないように」
と私の手を取ってくれる春樹さんに引かれて、帰りたくないとまた思い始めている。家に帰りたくない。だけじゃない。私は今、現実の世界に帰ることも拒んでいる。本当に自分の意志で歩いている気がしない。春樹さんに手を引かれて、どこかにタマシイを置き忘れた体だけが、無理やりどこかにつれていかれているような。
「朝よりはマシかな」
という春樹さんに引かれるまま、朝と大して変わらない満員の電車に押し込まれて、無理やり現実の世界に押し戻されている私。ギューギューと押しつぶされて、へとへとになりながら、どんどん魔法が解けていくかのような気持ちの私。すべての魔法が解けて、何もかもが現実に戻ってしまった実感がするのは、あっという間に到着した、朝、春樹さんのマンションから少し歩いた、始まりの駅に到着したから? 改札に切符を入れると、本当に夢の世界から現実の世界に戻されたような気持に後ろ髪を引かれているような。改札を通り過ぎると。本当に恋人のようにふるまってくれていた春樹さんが。ただの知り合いになってしまったような。わたしの後から改札を通る春樹さんに振り向くと、改札口の扉が、もう二度と戻れない夢の世界への扉のように見えて、それがぱたんと閉まって。元いた現実の場所に戻ってきてしまったような。二度とあの扉の向こうには行けないような。
「お疲れ様、どお、楽しかった?」
だなんて、初めて男の人とデートした今日の出来事が、宇宙の彼方よりも遠くに過ぎ去ってしまったかのような過去形で聞くから。もう二度と楽しいことなんて私の人生には訪れないかもしれない、そんな悲しい気持ちが溢れて。くすん・・って、涙が出そうになった、けど、そんな顔はみせたくないのに。
「どうしたの?」って聞く春樹さん。こんな顔見せたくないからうつむいて。
「どうもしません」って言ったら。
「つかれたでしょ、どこかで休んでから帰ろうか」
って、その言葉は、ずっと待ち焦がれていた言葉のような響きだから、えっと思って顔をあげたけど。
「マクドナルドにでも入ろうか、エビフィレオが好きなんだけど、美樹ちゃんは? 好きなハンバーガーとかある?」
やっぱり、ちょっと違う意味。ますますもっと、やっぱりここは現実の世界なんだという実感にまた、なにかを幻滅してしまった。
駅を出ると、最初に目につくのは、なぜかキラキラと輝いて見える、「ホテル」の文字。ここにもあればあそこにもあって、駅の周りはホテルだらけ。なのに。
「マクドナルド、あそこにあるでしょ」
と春樹さんの嬉しそうな顔。とその向こうのマクドナルドの看板の背景にも「ホテル」がある。でも、冷静な気持ちに戻ろうと意識すると。私、やっぱりどうかしているような気分もするし。何だか二重人格になっている気もするし。
「このまま二人でどこか遠い国とかに行きたいです」
と言えば、それは現実になるのかな? と思っている私ではない私が。
「そんなこと、言えるものなら言ってみなさいよ、ほら、言えないくせに」
とけしかけている気がするから。つい、自分自身の振る舞いにムカッとして。
「春樹さん」
と本当に声が出たけど。
「なぁーに?」
と優しい笑顔で返されると、このまま二人で、とか、帰りたくない、なんて言い出せないから。
「・・・お腹すいた」だなんて、そんなことしか口にできない私の不甲斐なさ、と思うべきか、そんなことなら、ようやく口にできるようになった、少しは成長した私、と思うべきか。そう言って見上げた春樹さんの笑顔。
「ケンタッキーの方がいいかな、お腹すいてるなら」
「ううん・・エビフィレオ食べたいんでしょ」
「うん・・まぁ・・じゃ、マクドナルドでいい?」
「はい・・ケンタッキーはまた今度でいいです」
「はい、じゃ、また今度はケンタッキー」
また今度・・まぁ、それでもいいか、今日ですべてが終わってしまうわけではないし、と自分に言い聞かせて。
「また今度って、いつですか?」
一か月前の私なら、そんなことすら聞くことなんてできなかったかな、と思ってみると。急に立ち止まった春樹さん、きょとんと私を見つめて。
「美樹ちゃん、知美の霊が乗り移ってない?」
と聞いた。知美さんの霊? と思うこと。
「また今度って、あいまいな日付で約束すると、あいつも必ず、それは何月何日なの? って聞き返すんだけど、そんな顔で」
と説明してくれたけど。そんな話題に考えてしまうことはやっぱり。
「知美さんの事は言わないって、朝も言ったでしょ」
「はいはい」
その後、私もエビフィレオを食べて、フィレオフィッシュ、てりたまバーガー、ポテト、こんなに食べたらまた体重が増えるかな、そんなこと考えながら、春樹さんとの一日を振り返って。指輪をむにゅむにゅと弄びながら。ふと思いついたこと。
「知美さんの前では、指輪外すのですか?」
むすっと聞いたら。凍り付いたような顔の春樹さん。
「・・・どうしよう、美樹ちゃんの命令で外せないんですって言い訳しようか」
ってどういう意味ですか? 私の命令なら、知美さん許してくれるの? そう思って。
「知美さんが外せって命令したら?」と聞くと。春樹さんはくすっと笑いながら。
「あいつは、そんな命令はしないよ」と言った。
「しないんですか?」本当かなと思う。私だったら、春樹さんが別の指輪をつけてたりしたら、どうなるだろうと考えていると。
「たぶん・・しない・・」と春樹さんは普通の顔でそう言う。でも。
「したら・・」
「しないと思う・・」
「もし、したら・・」どうしても聞き出したいことだと思うから、また、怖い顔してるかなと思いながらしつこくなっていることを自覚している私。を見て春樹さんは言う。
「美樹ちゃんに電話するよ、外していいですかって」
でも、それはずるい・・ずるくないですか? という気持ちがして。
「私、ダメって言ったら」と聞き返すと。
「美樹ちゃんは、ダメとは言わないと思うけど」
「言ったら・・」
「言わないでしょ・・」
「ダメって、言ったら・・」荒っぽくなってる声。
しつこいかな、という気持ちもする。でも、この問題の答えはどうしても聞きたいような気がすごくしているから。
「私、絶対、ダメって言います。外してほしくないから」
なんて、本当に私が言っている言葉なのかな? という思いもする。それに、どうしても聞いておきたこともある。だから、春樹さんをじろっとにらんだままでいると。
「そうか・・美樹ちゃんがダメって言うなら、外せないな」
と、ため息交じりにつぶやいた春樹さん。本当にそう思っていますか? と思ったら。
「知美と破局するようなことになったら、セキニン取ってくださいよ」
と言った。セキニン・・って? そうだね・・と気付いたこと。知美さんはあんなこと言ってたけど、知美さんか言っていたあんなことが現実になったら、知美さん悲しむのかな、春樹さんはどう思うのだろう。それに、私は・・。また思いがぐるぐるし始めた時。
「何度も言うけど、知美さんの存在も認めてください」
と困った顔でつぶやく春樹さんに。
「私の存在も認めてください」
と言い放つ私って、私なの? そして。くすっと笑いながら。
「認めている証でしょ」
と指輪をキラキラさせる春樹さんは。
「知美の話はしないって言ったの美樹ちゃんでしょ」と言い逃れ初めて。これ以上知美さんの事で言い合うことが怖くなった私も。
「そうですけど・・」としか言えなくなって。
「じゃ、食べたら帰りましょ」とニコニコし始める春樹さん。後味悪い感じかな、という気持ちがしてる。それに、指輪なんてしたまま帰ったら、知美さん本当になんて思うだろう、また、変な思いがぐるぐるし始める。駅前から、春樹さんの住むマンションまでは10分ほど。朝はあんなにウキウキしながら歩いたのに。今は魔法が解けたシンデレラが継接ぎの古着と片方だけの靴で泣きながら歩いている気分。あっという間にマンションの駐輪場。朝に乗ったオートバイに乗って、春樹さんにしがみついて、暗くなり始めた道路、対向車のライト、前の車の真っ赤なテールランプ。朝とは違う生ぬるい風。あんなこと言い合ったからかな、気持ちがなくとなくどんよりして。ぶつぶつ考えてしまうのは、知美さん、どうしてあんなこと私に提案したんだろう。
「好きだったら、力ずくで奪っていいのよ」だなんて。
「私と血みどろになって男を取り合うんだから」とも言ってたかな。
指輪、置いて来ればよかったのに、春樹さんも。
「一生の思い出になりそうだから、置いていくと後悔する」だなんて言ってたし。あんなに高価だったのに・・。そんなことぶつぶつ考えてたらあっという間に到着した家の前。
オートバイを降りて、ヘルメットを脱いでいると、玄関からお母さんが飛び出てきて。
「あらー、早かったのね、もっと遅くなるかと思っていたのに」
だなんて言って、春樹さんに駆け寄る。春樹さんも。
「遅くなりました、心配させてしまいました・・」
だなんて言って。
「全くもう、迷惑ばかりかけたんでしょ」と私に言うお母さんは。
「春樹さん、どう、ちょっとお茶でも飲んでいきなさい」と続けるけど、春樹さんはヘルメットもとらずに。
「いいえ・・今日は・・ちょっと」って。
「あ‥早く帰らないといけないのね・・はいはい」
って、やっぱり、知美さんのところに帰るんだね、という意味かな。
「それじゃ、またな、美樹」
「・・うん」と返事して、あんなことで言い合ったこと、まだ後悔してる気がする。私が脱いだヘルメットをオートバイに取り付けて。手袋を渡すと、指輪がきらり。
「楽しかった?」と聞く春樹さんに。
「うん、すごく楽しかった」と返事して。
力はこもらないけど、笑顔を見せよう。と無理やり微笑んでる私。
「じゃ、また今度、ケンタッキーと」
「遊園地」
「うん、じゃ、よく休んで、またお店で」
「うん・・帰り道気を付けてください、暗いし」
「うん、じゃ、帰ったら電話するから」
「はい・・」
でも、外していいかって電話はしないでください。と言わずに思っているだけの私に、本当に魔法が解けて、いつもの私に戻ったかなという自覚。ヘルメットの中から私にウィンクしてくれた春樹さん。ほほ笑む私に安心した顔。そして、オートバイのエンジンの音、ゆっくり走り始めるオートバイはすぐに遠くなって。角を曲がる赤いテールランプに手を振って。私は、はーっと長いため息を吐いた。
「どぉ、生まれて初めて男とデートした気分は」
と私を冷かしているお母さんに。
「どぉって・・普通でしょ」と言い返して。
「普通でしょ、だって」と、もっと冷かすお母さんをチラチラと気にしながら、左手の指輪をムニュムニュしている私。
「まぁ、とりあえず、無事で何より、で、なにか進展とかあったの? ご飯は?」
「うん・・食べてきたから」
「そぉ、でも、帰っちゃったね春樹さん」って、嫌味っぽいことに。
「言わなくても、わかってるわよ」と言い返してみるけど。
「帰ってこないかなとも思ったけど。ちゃんと帰ってきた。よしよし」
とにこにこするお母さんに。
「って、どういう意味、よしよしってナニよ?」
と聞き返したら。
「春樹さん、今日、美樹を帰さなかったら、付き合うのやめなさいって言うつもりだったけど、ちゃんと帰してくれたから、とりあえずは合格ね」
と私を見つめてそんなことを言うお母さんは、続けて。
「帰りたくない、帰りたくないってわがまま言ったでしょ」
「言わないわよ」
「言えなかったんでしょ、じゃ、帰りたくない帰りたくないって、一日中思っていたでしょ」
「まぁ・・」って、どんな話?
「美樹って、春樹さんとエッチしたいって、帰りたくないって、一日中思っていたでしょ」
「・・・・・」なにを言い出すのよ。
「朝、約束したでしょ、暗くなるまでには帰りますって。春樹さん、ちゃんと守った。遅くなりました、心配させてしまいました。ってちゃんと言った。美樹の事大切に思ってくれている気持ちは本物ってこと。フタマタしてる男だから、ちょっと心配したけどね、ってあんたそれナニ?」
えっ? って突然慌てふためいて私の左手を掴んだお母さんは。
「ちょっと、ナニコレ」ってものすごい剣幕。
「って、ただの指輪でしょ」と言いながらお母さんが掴む手を振りほどく。
「って、どうしてこの指についてるの」って怖い顔。だから、正直につぶやいたことは。
「春樹さん、お嫁さんになってくださいって」
「あの人が、あんたにそんなこと、言うわけないでしょ」
「言って、つけてくれたんでしょ」
「言って、つけてくれたって・・」
「お嫁さんになってくださいって、だから、お婿さんにしてあげますって、春樹さんもしてるし」
「って、知美さんとはどうするのよ、そんなことして」
「しらないわよ・・そんなこと」
「知らないって、美樹、そういうこと、冗談でしていいことじゃないんだから」
「冗談なんかじゃないし」ほんの少しは、だけど。
「冗談以外で、こんなこと、ありえないでしょ」
「もぅ・・うるさい・・」
なんでこんな言い合いばかりなのよ最近のお母さんと私。私が、反抗期なんだろうけどね。と気安い言い訳で納得してるけど。
「もういいでしょ」
と打ち切って。部屋に帰ってベットに寝転がると、朝から今までの出来事が鮮明な映画のように再生され始めて。楽しい一日だったと思う。あんなこと言い合わなければ。指輪をかざして、春樹さん、知美さんにどんな言い訳してるのかなと思う。あんなこと言い合わなければ。こんなこと考えもしなかったかな。とも思うし。また、ため息吐いて、写真を見直そうと携帯電話を手にすると。メール? 弥生から?
「これって美樹じゃないの?」という本文と、ユーチューブのURL。を押してみると。
「僕の好きな ピー 今は約束できることなんて何もないけど、僕のお嫁さんになってくれませんか」と膝まづぃて指輪を差し出しているのは顔がぼかされているけど、紛れもなく春樹さんで。少しの躊躇の後。
「はい、ピー さんを私のお婿さんにしてあげます。私を幸せにしてください、それだけは約束してください」
って、こんなにズームで指輪に指を差し入れてるところ、そして、もう一つの指輪を春樹さんの指に差し込む後姿は紛れもなく私で、それが、無茶苦茶鮮明な映像と音声と。まるで本物の映画のワンシーンのような感動してしまいそうなアングルで、どうして、こんなに近くから撮影されているの、と思ってしまうような。
「こんぐらっちれぃしょん・・ぱちぱちぱちぱち」
ってあの時の外人さんたちが写していたんだ、と、再生回数が・・・・。いいね・・が・・・。もう一度見てみるけど。それは、紛れもなく、私の記憶と一致する映像で・・。まぁ、私だということは私しかわからないわけだし・・。もう一度見てみると、私じゃないような、他人事の感動シーンのようだけど。紛れもなく私だけど。いや、でも、実感がないから、よく似た人じゃない? と弥生に返事しようと思っていたら。ぴろぴろぴろと春樹さんからの電話。
「無事に帰りました」と聞こえて。
「お疲れ様でした」と返事する。すると。くすっとした笑い声が聞こえて。
「あっそ・・って言われて、まだ外してないから」
と、普段の春樹さんの声に。
「あっそ・・って何ですか」と聞き返す私。
「いや、だから、知美さんの反応、指輪見て、美樹ちゃんとって話したら、あっそ・・それだけ」
だから。私も、こう言ってやったんだ。
「あっそ・・・」って。そして。
「じゃ、金曜日に会えるのかな?」
「え・・」
「アルバイト、次会えるの、金曜日だっけ」
「う・・うん・・私は明日も明後日も、日曜日までずっと入ってます」
「そぅ、じゃ、金曜日に」
「うん」
といって電話を切ったけど。何だろう、嬉しそうな声だったような、「次会えるの金曜日だっけ」って。春樹さんも私に会うこと待ち遠しく思っているのかな、という期待と。なんだろう、変な胸騒ぎが始まったような。「じゃ、金曜日に」って。それに。
「指輪見て、美樹ちゃんとって話して、あっそ・・」って。知美さんに何を話ししたんだろう。
それと・・弥生からメールがあったような・・。まぁ、それはいいか。とりあえず、お風呂入って、眠って。
「次会えるの、金曜日だね」
と薬指のイルカの指輪を天井にかざしながらつぶやいてみた。
「帰りたくないです・・」
と念力にして春樹さんの顔を見上げながら送ってみる。だけど、まったく届かない感じ・・。「帰りたくないです」と言ってしまえば、春樹さん「じゃ、どこかに泊まっていこうか、一晩一緒に過ごしましょ、ね」なんて期待通りの言葉を言い返してくれるかな、と思いながら。
「帰るんですか?」
ともう一度、別の念力を送っている私。一晩ずっと、とまではいかなくても・・。もっと、ずっと、二人っきりで・・。一緒にいようって、言ってくれない普通の足取りの春樹さんに手を引かれて、足首に鎖でつながれた鉄の球を引きずっている気持ちでついてゆく私、バス停まで来たところでようやく。
「どうしたの? 疲れた?」
と私の顔をじーっと見つめながら声をかけてくれた。だから。
「疲れました」
と言えば、「それじゃどこかで休んでいく? マッサージでもしてあげようか?」と返してくれるかなと期待しながら、「疲れました」って言おうとするけど。声を出せないでいると。
「また、帰りの電車の中でぐっすり眠ってください。朝みたいに」
だなんて、にこにこしながら言い放つから。幻滅・・なのかな。私がちゃんと言わないから思い通りの展開にならないのかな、そんな思いがぐるぐるしている。
シャトルバスが来て、私と同じようにどことなく疲れていそうな女の子と、もっと疲れていそうな男の子のカップルが乗り込んでゆくから。比べるように春樹さんの顔を観察すると、すぐに目が合って、ニコニコしてくれる。だから私も愛想笑いするしかないし。窓際の座席に座って窓の外を見るとシャチのモニュメントが見える。朝あそこで写真を撮って、手をつないでぶらぶら歩いて、いろいろなショーを見て、シャチのショーではずぶ濡れになって、指輪を薬指にはめながら「僕のお嫁さんになってください・・」ってそんな確かに記憶している出来事を回想すると、それが私の人生のすべて だったか のような気がして、まるでこのまま人生が終わってしまうかのような錯覚もしてる。人生が終わるかのようなこの気分は、デートがこのまま終わってしまうから、そう感じるのかな、とも思い始めて。無意識に始めてしまう、親指で薬指の指輪をむにゅむにゅ。こういう時、どんな会話をすればいいのだろうとも思うし、春樹さんも無口だし。そういえば、知美さんも言ってたな、「気持ちを詮索してくれたことなんて一度もない、言えば何でもしてくれる子だけどね、あの子って無口だし」気持ちを詮索・・されたいのかな私。言えば何でもしてくれるって言っても何をどういえばいいのかわからないし。ぶつぶつ考えながら、私、どうしたいんだろ、春樹さんの横顔をチラチラ見ながら、あなたと結ばれたいって、あなたと結ばれる運命を無条件に受け入れてみようって、確かにそう思っていた私が何時間か前にいた。そんなことをぐるぐる考えていることはわかっているけど、どういえばそんな展開になるのか。どうすればそんな展開になるのか、春樹さんにちょこんともたれて、チラッと上目遣い・・くらいしかできない自分の不甲斐なさにため息をつくと。
「大丈夫? 疲れたの? すぐ、駅に着くから」
なんてことを言うから。また、どうすれば今の気持ちがこの人に伝わるのだろう。とぐるぐるしてしまう。試しに、腕を抱くように手を這わせて、手をつなぐことだけはこんなに慣れたのに、そんなことを思いながら、春樹さんの左手に指を絡ませてみたら、春樹さんの親指が私の親指を優しく撫で始めて。また、親指はこんなにいちゃいちゃ絡み合っているのに・・。このまま手がいちゃいちゃし始めて、腕がいちゃいちゃし始めて、だんだんといちゃいちゃするところが体全体に広がれば。なんて想像がどんどん膨らみ始めるのに。
「さ、到着、降りますよ」
と、つないだ手をほどいて、立ち上がる春樹さん。もやもやした妄想が大きく膨らみ過ぎてバンって破裂してしまったかのような幻滅。すぐに着いてしまった駅の前。バスを降りると、これからバスに乗り込むカップルとすれ違って、まるで、朝 バスに乗り込もうとした私とすれ違ったかのような錯覚までしている。こんなに日差しが眩しくて、まだ4時前なのに、本当に帰るんですか・・。と思っていると。私がそんなこと考えているなんて思いもしていなさそうな春樹さんはいそいそと切符を買って私に渡してくれた。
「はい、向こうに到着するのは6時過ぎかな、お弁当どうする?」って聞く春樹さんに。
「いりません・・おなかすいてないし」と返事して、もっと違うこと気遣ってほしいのにと思っている。けど。
「じゃ、飲み物は」だって。
だから、そんなことじゃなくて・・。もっとこう、もっと・・その。私自身も何を要求したいのか、言葉で説明できないことにイライラしているけど。
「サンドイッチでも買っておこうか」
つぶやきながら駅前のコンビニに入ってゆく春樹さんの後について、とりあえず選んだ、紅茶とスルメとチョコポッキーをかごに入れて、お金を払っている春樹さんを後ろから見ていると。春樹さんの左手の指輪の宝石がキラッと光って。だから、私もまた むにゅむにゅ と指輪をいじくり始めてしまう。
「さっ、帰りましょ・・楽しめた?」
と聞く春樹さんに、とりあえず。
「うん」とうなずいて。改札を通り抜けて、私から、そっと手を伸ばして、手をつないだままホームで電車を待つ。恋人同士になれば、こうして毎日どこかで買い物してから「帰りましょ」って同じ部屋に帰るのかな。そんな想像をしている。でも、今から私が帰るのは私の家で、春樹さんは知美さんのところ。そんなことを考え始めたら。
「いいのよ、春樹の事、好きだったら、私から力ずくで奪っても」って
そんな知美さんの言葉が頭の中に響き始めて。だから、そぉっと春樹さんとの距離を詰めて、「帰りたくない」と念じてみるけど。全然何も伝わらないな。念じる言葉が違うのかな、そう思いながら、念じる気持ちをもう少し強くしてみた時「知美さんと別れてください」という思いが芽生えた。その瞬間。
「どうかした?」
って優しい声でうつむいた私を覗き込む春樹さん。何かが伝わった気がして急に怖くなって、つないだ手を解いてしまう。息が少し乱れたけど、その時ホームに入ってきた電車。
「さ・・この電車ですよ、よかった、結構すいてるね」
大丈夫、今の気持ち、春樹さんに伝わった訳じゃなさそう、そんな気がしてほっとした、と思っている私と、どうして伝わらないのよ、こんなに強く念じているのに、と思っているもう一人の私が、気分をふらふらさせている実感がしている。
電車に乗って、また窓際に座る。春樹さんが座るのを待って、ちょこんともたれてみる。なのに。
「はい、お菓子と飲み物」
って、そうじゃないのに。朝、こうして座ったとき。「はい、あーんして」ってご飯を食べさせてあげて、お腹を捩らせて くくくくって笑っていた私。「美樹ちゃんってこんなにかわいい顔してたっけ」って春樹さんが指で私のほっぺを撫でながら呟いたこと。「綺麗な髪、いい匂いがするし」って、この人に初めてあんなこと言われて、ドキドキした瞬間の事、何もかもをものすごく鮮明に覚えている。なのに、今は、どうしたら、どういえば、あの瞬間のようにドキドキできるのかがわからない。もっと優しい言葉を聞きたい。もっとあなたの言葉にドキドキしたい。私は今そう思っているんだな、という自覚かする。優しい言葉にドキドキして、そのまま目を閉じたら。その先は・・。と、空想をどんどん膨らませているのに。
「するめ、食べていい?」と聞く春樹さんに。
「どうぞ・・」ってふてくされた返事をしている私。に、少しでも気付いてくれないかなと春樹さんの表情をチラチラ見てみるけど、いつもと変わらない顔。そんな春樹さんがスルメをくわえて。ニヤッと笑いながら。
「半分食べる」と私に唇ごと差し出して目を閉じた。その時、私は何かをぶつぶつ考え込んでいたせいか、そうなりたいとずっと思い続けていたせいか、無意識が体を制御していたせいか。何もかもが自動的でオートマチックなまま。これが、空想なのか現実なのか曖昧なまま。
「うん」
とうなずいて、春樹さんがくわえている するめ をパクっとくわえると。ちょぴ っと唇が触れて、凍り付いたように息まで止まった。えっ? という思いがして。春樹さんの目が「ぱちっ」と開く音まで聞こえた気がした。
その向こうに、きゃいきゃいと女の子が通りかかって、「きゃっ・・」って立ち止まるから。
「いやっ・・」って慌てて離れたんだ。春樹さんも、「びっくりした」って感じの顔で止まっているし。スルメをくわえたまま。どうしていいかわからない顔している。その向こうを通り過ぎる女の子の団体さんが。
「今、あの二人キスしてたでしょ」「してたしてた・・うらやましぃー」「えーあたし見てなかったよ」「いいなぁ~あの娘いくつなの?」「カレシのほうも まぁまぁ じゃん」ってじろじろ見ながら、ひそひそした話声も聞こえて。今頃になって、耳から湯気をぽーって吹き出しながら、息と脈がばらばらのリズムで暴走している。
「なんですか・・急に」と言ってはみたものの。ナニしちゃったの私、とも思えるし。
「びっくりした・・ごめんね・・急に」
と春樹さんは言うけど、別に ごめんね なことではない気もするし。確かに唇がちょこんって触れた感触をしっかりした意識で回想できるから。生まれて初めてのキスがこんなだなんて。というか。生まれて初めてのキスってほとんど無意識のまま神様に導かれていたような気もするし。というか。生まれて初めてのキスが するめ の味だなんて。というか。そんな思いがぐるぐるし始めて。つい口にしてしまったセリフが。
「責任取ってくださいよ」だなんて・・。どういう意味なの、と自分で思っている。
「せ・・セキニン?・・・って」と春樹さんもあたふたしてるし。
一生の思い出になってしまいそうな瞬間だったのに、今まで何度も空想した一生に一度の瞬間だったのに、何度も練習した生涯ただ一度の瞬間だったのに、それが、するめ・・だなんて。と思いながら。初めてのキスがあんなに ちょこん だなんて可愛すぎるような気もするし。私らしいといえば私らしいかな、そう思うと。
「くくくくくく」ってまたお腹がよじれるような変な感じ。
「今度は何?」と聞く春樹さんにしがみついて。
「キスしちゃった・・私、春樹さんと」
と湿っぽさを意識した目つきで春樹さんを見上げて。
「知美さんには黙っていてあげるね」
と脅迫していることを意識しながらつぶやくと。
「今のは、キスじゃないでしょ・・ちょっと触れただけ・・」
だなんて、またそんなことを言うから。「キスです」という念力で、ぎゅうっとしがみつく腕に力を込めてじろっとにらんでみると。春樹さんも。
「くくくくく」って笑い始めて。
「くくくくく」って私もつられて笑ってしまうと。
「じゃ・・もう一回やり直しますか、はい」と春樹さんは するめ をくわえた唇を差し出すけど。
「するめ味のキスはイヤです」これは本音。
「じゃ、チョコレート味で」とチョコポッキーをくわえ直すけど。
「それもイヤです」ふざけないでください。と思う。
「じゃ、何味がいいの?」味じゃないでしょ・・。
「知らない・・」もういいです・・願いがほんの少しだけど叶った気分と。唇を舐めて、目を閉じて回想すると、あの瞬間の春樹さんの顔、目が開く音なんて初めて聞いた気がするし、唇が触れあっていたこと、春樹さんも確かに意識していた。何が起きたの? どうしたらいいの? そんなことを表現してた、あの顔、思い出すとまた。
「くくくく」ってお腹がよじれてしまいそう。そして。しがみついたまま春樹さんの肩に顔を擦り付けると。
「疲れたでしょ・・着いたら起こしてあげるから、眠れば」と優しい響き。
「うん」
と返事して、なんだか本当に、一日はしゃいだ気分もするし、一日ぶらぶらし続けたせいか、朝も早かったし、それ以上に、春樹さんが隣にいて、しがみついて、優しく握ってくれる手、親指がいちゃいちゃしてるこの感じ。眼を閉じると肩の力が抜けて、体中の力も抜けて、ふにゃんとなってしまうようなこの感覚、これが安心感なのかな、そんな気分なるから、また、回想してしまうこと。
「僕の好きな美樹、今は、約束できることなんて何もないけど、僕のお嫁さんになってくれませんか」
約束できることが何もないって、今思えば無責任なセリフだね。どうしてそんなこと言ったの春樹さん? どんな意味なんだろ。今は約束できることがない・・って。そのうち約束できることが一つ二つとできてくるのかな? それに。
「はい、春樹さんを私のお婿さんにしてあげます、私を幸せにしてください、それだけは約束してください」
それだけは、約束しましたからね。私を幸せにしてくださいって。
「少しは本当の事だけど、ほとんどは嘘で冗談だからな」
少しだけでも、本当の気持ちがあるんですよね。私の事「好き」って今まで何回も言ってくれましたよね。あれって、少しだけでも、本当の気持ちなんですよね。
「半分食べますか」
「うん」
意識なんて全くなかった初めてのキス、ちゅっ ではなくて ちょぴ って。知美さんのお話だと、キスってなんだかものすごくベトベトぬるぬるした生々しいもののように思えたけど。ちょぴ と触れただけの私の初めてのキスは、私らしさマックスだったかな。大きく息を吸って、恥ずかしさをフフフって笑い声でごまかしてから、気持ちが静まると、ほーっとした気分に包まれてゆく感じがする。そんなふわふわした気分が連れてくる睡魔には無抵抗で従おう。そうしよう。
「するめ の味がします、春樹さんのキスって」
「するめ?」
ちょぴっと春樹さんとキスし終わった私は、ムスッとした顔を意識したまま春樹さんの首に腕を巻き付けてぶら下がっている。そのまま。
「本当のキスってこうするんでしょ」
とゴールデンレトリバーがソフトクリームをベロベロ舐めるように、べろべろ舐めて、上唇を吸って、下唇を吸って。
「んぐっ・・・んぐ」
と喘ぐ春樹さんの唇を吸い続けている私、いつの間に・・どうして春樹さんの膝の上?
「指輪をありがとう、約束してね、私の事幸せにしてください。私もわがままなんて言わないから」
「うん・・約束するよ、わがままは、言っていいんだよ、美樹ちゃんは可愛い女の子だから」
その優しい声、やっぱり、この人が私の運命の人なんだ。そんな気がする。だから。
「うん、じゃ、ご褒美をもっとあげるね」
もっと、もっと、私を吸って、私の唇をもっと。無条件で無抵抗で何もかもをあなたに委ねています。春樹さん、このまま私、あなたと結ばれたい。結ばれたいの、もっと吸って、もっと触って、もっともっと一つになりたい。そう思っているのに、
「お腹すいてない?」
だなんて。
「疲れていませんか?」
って、どうしてやめちゃうの、もっと優しい言葉があるでしょ。私の事好きって。私の事愛してるって。そう言ってよ、私の気持ちをもっとわかってよ、どうしてわかってくれないの? どうしていつも期待外れの気遣いばかりなの?
「どうしたの? 怖い顔」
「あなたがそうさせているんでしょ」
「そう・・ごめんね・・何でも言うこと聞いてあげるから、許して」
って、どこ触っているんですか、そこは、お尻でしょ・・。そんな所しつこく触らないでよ、と思っているのに、もっと触ってほしいって気持ちのせいで抵抗できないし。
「春樹さん。・・・ってなりましたか?」
「うん、・・・ってなりました、いい、しようか」
「しようか・・って。それって、いいですよ・・知美さんともそうして結ばれたんでしょ」
「知美さんの話はしないでって言ったの美樹ちゃんでしょ」
「はい・・もう話しません」
「それじゃ、いい?」
「うん」
そんなに詳しいわけではないですけど、少しは勉強もしました。結ばれるって、こういうことでしょ、私の鍵穴に、世界でたった一つだけぴったりはまりこむ鍵が、優しく ぬるっと 入ってきたら、愛の扉がパンパカパーンって開くって、本にもそう書いてたし、ねぇ、弥生。
「うん・・オトコをその気にさせるなんて簡単よ、裸になって、ハイどうぞって言えばいいの」
「弥生はそうしたの?」
「美樹だって、今そうしてるじゃない」
「あっ・・私、ハダカ・・春樹さん、結ばれていいんですよね私たち」
「じゃ結ばれましょう、合体」
「ちょ‥ちょっと待って・・合体って・・なんですか」
合体って、あの本のあのページだ・・。いよいよ合体の時。って、どうすればいいの。あのページって何が書いてたの? ベットの下、探すのに見つからない、どうしよう、思い出せない。
「無条件で無抵抗でカレシに委ねていればいいのよ」って私が言ってるけど。
「あの子ってそういうことに 鈍いのよ、とことん」って知美さん? 鈍いって?
「エッチってこうするのよ」っていわれても、私、そんなことわかりませんよ。
「はい、残念、今日はここまでよ」って弥生が言ってるけど。
でも、
「ここってどこ?」 弥生、どこにいるの? ここって、私の部屋?
「ホテル行こうって美樹ちゃんが言ったんでしょ」
「ホテルですか」
「ホテルですよ」
あれ・・さっきまで、裸だったのに・・。どうして私、上着だけなの? あの時の水着って上着だけだった? お尻丸出しなのは同じだけど、なんかこれじゃないような。
「美樹ちゃんって、こんなにかわいいお尻してたっけ」
「え・・?」
ちょっとそれは、セリフが違わなくないですか?
「美樹ちゃんってこんなかわいい顔してたっけ・・」じゃなかったですか?
「ううん、美樹ちゃんってこんなに可愛いお尻なんですね、でしょ」
春樹さん、お尻の谷間に指を差し入れるのって、くすぐったいからやめてくださいって。そこはお尻の穴です・・・それ以上差し入れないで、くすぐったいって言ってるでしょ・・・それ以上は入れないで、やめてって・・・その先は・・・何してるの私、ホテルって。
「春樹さん、何してるんですか?」
「ぷにぷにって・・美樹ちゃんのお尻ってこんなに可愛いから・・ってなってますよ」
「・・・って、なんですか?」
「結ばれるための儀式でしょ・・ほら・・ベットに行きましょ」
って、ひょいって。
「春樹さん」
それってお姫様抱っこじゃないでしょ、ベットに行くときは、もっとこう、ひょいって、こんな丸太を担ぐように私を肩に担がないでください。もっと優しく。
「春樹さん、お姫様抱っこしてください」
って、私が言ってるんじゃない。だれ、誰がそう言ってるの? きょろきょろ探しても誰もいない?
「もう、仕方ないなぁ。ほら、お姫様抱っこってこれでいいの?」
って、どうしてあゆみが抱っこされてるの?
「春樹さん、メール見ましたか? 私のおっぱいに心奪われてくださいよ」
って言ってるあゆみのおっぱいってあんなに大きかった? あゆみじゃなくて、優子さんですか? あゆみだよね、それに・・。
「グラマーな女の子って、俺、好きなんだ」
って、春樹さん、どうしてあゆみを抱っこしたまま歩いていくんですか? どうして、あゆみにも好きだなんて言うんですか?
「春樹さん、どこに行くの?」
「私、フタマタする男って許せないし」って美里さん?
「いやらしい」って優子さん?
「ポイって するに決まってるでしょ。ポイよポイ」って奈菜江さん。
「つけずにしようとしたら、蹴っ飛ばしなさいよ」
ってみんなで春樹さんを蹴るのはやめてください。
「おほほほほほほほほ」って…知美さんまで。何してるんですかみんな。春樹さんをそんなに蹴ったらかわいそうじゃないですか。いじめないで。でも、助けに行くと私までみんなに蹴られそうだし。
「美樹ちゃん、助けて・・美樹ちゃん、助けて、ちゃんと付けるから」
って。何をつけるの? と思うのに。春樹さんが口から血を流しながら、大きな波に引きずり込まれてゆく、
「まって、今助けてあげるからね」
助けるって・・するめ・・これで助けるの?
「春樹さん、半分どうぞ」
「うん」
って、唇が触れたまま、私も大きな波にさらわれて、ずぶ濡れになって。春樹さんが溺れちゃう・・だめ、唇を離しちゃダメ、溺れちゃうでしょ・・。シャチが・・。
「春樹さん」
「美樹・・約束するよ・・幸せにしてあげる」
って。助かったの? どうしたの私、これってこの前のドラマみたいに、両方の肩をしっかりつかんで、がっちりと私の上半身を固定して。なにするの? キス?
「美樹・・愛して・・」
「春樹さん」
どこに行くんですか? だれですか一緒にいる人、知美さん? 違うの、あゆみ?
「お姫様抱っこしてください・・」
って優子さん? 春樹さん、やっぱり大きなおっぱいが好きなんですか? 春樹さん。
「行かないで、春樹さん、行かないで」
「って・・どこにも行きませんよ、ここにいますよ、大丈夫?」
って声に。
「えっ?」
っと思いながら。眼を開けると。
「まったくもぉ、どんな夢見てるの?」
とゆっくりとピントが合った春樹さんの顔が苦そうに笑っている。
「えっ?・・夢?」って・・・冷静になると、ゴトンゴトンと電車に揺られている感じと、春樹さんの優しそうな顔。整わない息が、はーはーしている。そして、ナニ今の?、と春樹さんの顔を見た瞬間に全部忘れたような、説明できないような、なにか恥ずかしい夢だったような。
「ほら、みんな笑ってるし、寝言って、もう少し小さな声でお願いします」
とキョロキョロすると、さっきの女の子の団体さんが、口を手で押さえて笑っている。
「春樹さん 行かないで・・」
「くくくくく」
って、隣の席の女の人たちが。口を押えて・・。ちらちら私たちを見ているし。
「春樹さん・・だって・・行かないでって・・かわいい・・悪い男なんだね・・春樹さんって」
だなんて、声も聞こえて。長い髪の綺麗な人がくすくす笑っているし。だから。
「知合いですか?」と聞くけど。
「美樹ちゃんが大きな声で寝言を言うから・・周りの人たちが心配してくれたんですよ。春樹さん春樹さん行かないでって、あんな大きな声で、恥ずかしいでしょ、もぉ」
だなんて言ってるけど。なんとなく記憶が全くないような・・そんな夢見てたような気がするというか。思い出そうとすればするほど思い出せないのに。
「どんな夢見たの、悪い夢? 怖い夢? 行かないで、だなんて」
そう言われると、本当に、なにも思い出せないし。
「どこにも行きませんよ。ほら、撮った写真メールで送ったから」
と言われて、携帯電話をポーチから出して、ふと思い出したこと・・。
「あっ・・そういえば、春樹さん」
「ナニ?」
「あゆみから、メール来てますか?」
とは、急に思い出した弥生の一言。あゆみって春樹さんに本当にメール送ってるよ。って。
「あゆみ・・・って・・あー、プールで会った美樹ちゃんの友達・・あーあの娘からだ、誰かわからないメールが最近ね・・」
なんて言い始めて。急に何かを思い出して、携帯電話をモジモジし始める春樹さんは。
「よくわからないから、こういうのって・・これが、あゆみちゃんだね、みんみんあゆみんって・・17歳とは思えない・・」とぶつぶつ言いながら画面を見てニヤッとし始めた。だから。
「なんですか?」と追及してしまうこと。
「えっ・・」
「17歳とは思えない・・なんですか?」なによその汗ってる顔。
「いや・・ほら・・写真・・」
って見せてくれたのは、胸の谷間のズーム写真、服の上からだけど・・。ニヤニヤしながらそれを見ている春樹さんが、まるでさっきの夢に出てきた、あゆみをお姫様抱っこして連れていくかのような・・。
「だれだかわからなくて、これ、同じような写真ばかりって、3枚だけだけど、送ってくる娘・・・あゆみちゃんって、思い出したよ、あの娘だね・・プールで会った・・しかし・・すごいね」
って、あゆみのバカ、何してるのよって思うような写真をめくる春樹さんを睨みながら、あゆみにも気があるのかなとも思ってしまう、春樹さんのにやにやした顔。だから。
「春樹さん・・」って、またほかの女の子を話題にしてるから、気持ちがむしゃくしゃしてしまう自覚がある。
「はい・・なに、どうしたの、また怖い顔して」っていつも私の顔が怖いという春樹さんに。
「あゆみの事も好きなんですか?」って、こんなことはストレートに口にできる私。だけど。
「またまたまたまた・・・一方的に写真が送られてきただけでしょ、ホントにだれかわからなくて、あーあゆみちゃんって美樹ちゃんの友達にいたあの娘だねって話です」
って言ってるけど、こないだ優子さんのバストをじろーって見てたのもそうだし。優子さんにも好きだって言ってたし。そういえば、夢の中で、私を置いて、春樹さんが連れて行ったのは・・。あゆみと優子さんだったような。だから。
「春樹さんって、おっぱい大きな女の子が好きなんでしょ」って、むしゃくしゃするとどんなことも言い放ってしまう私。
「えー・・どんな話ですか・・急に」って、春樹さんも、なによその顔、って思ってしまう困り切ってる顔は。
「ほら・・図星」やっぱりそうなんだ、どうせ、私のは・・って感情がもやもやしてしまうから。
「美樹ちゃん、まだ寝ぼけているでしょ・・もぉ・・どうかしてるよ」といわれて、
「どうもしてません・・」としか言い返せない。
何だろう、このむしゃくしゃしてる気分。隣の席のさっきの髪の長い女の人とも目が合って。にこっとされて、春樹さんも微笑み返ししてるし。よく見ると、この人もかなり大きめだし。そんな目で見ていたら。
「美樹ちゃん・・俺はね、どちらかというと、おっぱいよりお尻の方が好きな男なんです」
って・・急になんの話を始めるんですか?
「こないだもほら、プールで美樹ちゃん、お尻見せてくれたでしょ」
って言いながら、私の顔を見てニヤニヤする春樹さんは。
「どちらかというと、俺は・・お尻に・・」
「そんな話、しないでください」こんなところで、恥ずかしいでしょ。と春樹さんに背を向けて、無理やり窓の外を見ているふりをすると。
「また・・見せてほしいな・・触らせてくれないかな・・って思っていますよ。シタゴコロをむずむずさせながら」
って、耳元でささやく小さな声に、また、もやもやと膨らみ始めた、「それだったら、今夜はどこかで、二人きりになれば・・・」という気持ち。だけど、そんなこと口にできるわけないし。でも、もしかして、春樹さん、私のこの気持ちを解ってふざけているの? と思って、もしそうだったらと思うと、振り返るのが怖いし。と、また変にドキドキし始めているし。どうしようと思っていたら。
「まったく・・」
って、つぶやいて、私の耳に息を吹きかけるようなため息、に鳥肌が立つぞわぞわした感じがした、そのすぐ後に。
「写真届いているか見てよ、なんかこう、顔のアップばかりだったけど」
って、また、急に話題が元に戻ってしまったような。
「はい」
と返事して、携帯電話を操作しながら静かに深呼吸してる。仕方なしに画面を開いて、もじもじと呼び出すと。私と春樹さんの顔がピッタリくっついてる写真が現れて。春樹さんにちゅーしてる写真。シャチと空中に水の塊が静止している写真。
「自撮り棒、買っていけばよかったかな・・」
一枚一枚めくっていくと。その一瞬一瞬が思い起こされて。間違いなく確かに私の記憶にある春樹さんと二人で過ごした時間が写真の中で止まっている。それは、まるで魔法をかけられたシンデレラが王子様と過ごした一瞬のような。魔法が解けてしまうと、二度と同じことを経験できない出来事のような。写真の中で幸せそうに笑っている私は、間違いなく数時間前の私。その私が写真の中から「本当に好きだったら奪っていいのよ」と私に話しかけている錯覚までしている。どうして、私自身の写真にこんな嫉妬してる気持ちが沸いてくるのだろう、そんな気分を感じ始めたその時。
「今度、また、どこかに行ってみようか、遊園地とか。俺、乗り物とか乗ったことないから、絶叫マシーンっていうの、本当に経験なくて、乗ってみたいなーって思っているんだけどね」
と耳元につぶやいた春樹さんに視線を向けると。にこにこと嬉しそうな表情。でも、私は条件反射のように。
「そんなこと・・知美さんが怒りませんか?」
とつぶやいてしまう。そんな小さな囁き声を聞き取った春樹さんは。
「ときどき、あいつにもそんなこと言うんだけどね、遊園地とか行かない?って、でも、興味ないし、一人で行けばって返されるから」
ってどういう意味?
「ほかの娘は、ダメだと思うけど、美樹ちゃんならあいつも許してくれそうな気がして」
って、たしかに、8月中なら許してくれるかもしれないけど。これって、キターって思うことなのか、エーどうしようって思うことなのか。春樹さんの期待が膨らんでいるような優しい笑顔を見てしまうと。ディズニーランド? ユニバーサルスタジオ? どっちも泊りだよね。って気持ちが溢れるような。
「気が向いたらね、また、デートに誘ってみたいです。可愛い可愛い美樹ちゃんを」
って言いながら私にちょこんともたれる春樹さんに。えへへ、と照れ笑いするべきなのか。どうしよう、と息を乱すべきなのか。そんなこと考えていると。もたれるのをやめた春樹さんが背伸びして。
「んーっと、さてと、もうすぐ到着するから、忘れ物しないように」
と言い始める。そして、車内のアナウンス。何度も何度も夢から覚めて、何度も何度も魔法が解けていくような気持ち。電車が到着すると、ホームにいる人が、ものすごく多くて。
「ほら、はぐれないように」
と私の手を取ってくれる春樹さんに引かれて、帰りたくないとまた思い始めている。家に帰りたくない。だけじゃない。私は今、現実の世界に帰ることも拒んでいる。本当に自分の意志で歩いている気がしない。春樹さんに手を引かれて、どこかにタマシイを置き忘れた体だけが、無理やりどこかにつれていかれているような。
「朝よりはマシかな」
という春樹さんに引かれるまま、朝と大して変わらない満員の電車に押し込まれて、無理やり現実の世界に押し戻されている私。ギューギューと押しつぶされて、へとへとになりながら、どんどん魔法が解けていくかのような気持ちの私。すべての魔法が解けて、何もかもが現実に戻ってしまった実感がするのは、あっという間に到着した、朝、春樹さんのマンションから少し歩いた、始まりの駅に到着したから? 改札に切符を入れると、本当に夢の世界から現実の世界に戻されたような気持に後ろ髪を引かれているような。改札を通り過ぎると。本当に恋人のようにふるまってくれていた春樹さんが。ただの知り合いになってしまったような。わたしの後から改札を通る春樹さんに振り向くと、改札口の扉が、もう二度と戻れない夢の世界への扉のように見えて、それがぱたんと閉まって。元いた現実の場所に戻ってきてしまったような。二度とあの扉の向こうには行けないような。
「お疲れ様、どお、楽しかった?」
だなんて、初めて男の人とデートした今日の出来事が、宇宙の彼方よりも遠くに過ぎ去ってしまったかのような過去形で聞くから。もう二度と楽しいことなんて私の人生には訪れないかもしれない、そんな悲しい気持ちが溢れて。くすん・・って、涙が出そうになった、けど、そんな顔はみせたくないのに。
「どうしたの?」って聞く春樹さん。こんな顔見せたくないからうつむいて。
「どうもしません」って言ったら。
「つかれたでしょ、どこかで休んでから帰ろうか」
って、その言葉は、ずっと待ち焦がれていた言葉のような響きだから、えっと思って顔をあげたけど。
「マクドナルドにでも入ろうか、エビフィレオが好きなんだけど、美樹ちゃんは? 好きなハンバーガーとかある?」
やっぱり、ちょっと違う意味。ますますもっと、やっぱりここは現実の世界なんだという実感にまた、なにかを幻滅してしまった。
駅を出ると、最初に目につくのは、なぜかキラキラと輝いて見える、「ホテル」の文字。ここにもあればあそこにもあって、駅の周りはホテルだらけ。なのに。
「マクドナルド、あそこにあるでしょ」
と春樹さんの嬉しそうな顔。とその向こうのマクドナルドの看板の背景にも「ホテル」がある。でも、冷静な気持ちに戻ろうと意識すると。私、やっぱりどうかしているような気分もするし。何だか二重人格になっている気もするし。
「このまま二人でどこか遠い国とかに行きたいです」
と言えば、それは現実になるのかな? と思っている私ではない私が。
「そんなこと、言えるものなら言ってみなさいよ、ほら、言えないくせに」
とけしかけている気がするから。つい、自分自身の振る舞いにムカッとして。
「春樹さん」
と本当に声が出たけど。
「なぁーに?」
と優しい笑顔で返されると、このまま二人で、とか、帰りたくない、なんて言い出せないから。
「・・・お腹すいた」だなんて、そんなことしか口にできない私の不甲斐なさ、と思うべきか、そんなことなら、ようやく口にできるようになった、少しは成長した私、と思うべきか。そう言って見上げた春樹さんの笑顔。
「ケンタッキーの方がいいかな、お腹すいてるなら」
「ううん・・エビフィレオ食べたいんでしょ」
「うん・・まぁ・・じゃ、マクドナルドでいい?」
「はい・・ケンタッキーはまた今度でいいです」
「はい、じゃ、また今度はケンタッキー」
また今度・・まぁ、それでもいいか、今日ですべてが終わってしまうわけではないし、と自分に言い聞かせて。
「また今度って、いつですか?」
一か月前の私なら、そんなことすら聞くことなんてできなかったかな、と思ってみると。急に立ち止まった春樹さん、きょとんと私を見つめて。
「美樹ちゃん、知美の霊が乗り移ってない?」
と聞いた。知美さんの霊? と思うこと。
「また今度って、あいまいな日付で約束すると、あいつも必ず、それは何月何日なの? って聞き返すんだけど、そんな顔で」
と説明してくれたけど。そんな話題に考えてしまうことはやっぱり。
「知美さんの事は言わないって、朝も言ったでしょ」
「はいはい」
その後、私もエビフィレオを食べて、フィレオフィッシュ、てりたまバーガー、ポテト、こんなに食べたらまた体重が増えるかな、そんなこと考えながら、春樹さんとの一日を振り返って。指輪をむにゅむにゅと弄びながら。ふと思いついたこと。
「知美さんの前では、指輪外すのですか?」
むすっと聞いたら。凍り付いたような顔の春樹さん。
「・・・どうしよう、美樹ちゃんの命令で外せないんですって言い訳しようか」
ってどういう意味ですか? 私の命令なら、知美さん許してくれるの? そう思って。
「知美さんが外せって命令したら?」と聞くと。春樹さんはくすっと笑いながら。
「あいつは、そんな命令はしないよ」と言った。
「しないんですか?」本当かなと思う。私だったら、春樹さんが別の指輪をつけてたりしたら、どうなるだろうと考えていると。
「たぶん・・しない・・」と春樹さんは普通の顔でそう言う。でも。
「したら・・」
「しないと思う・・」
「もし、したら・・」どうしても聞き出したいことだと思うから、また、怖い顔してるかなと思いながらしつこくなっていることを自覚している私。を見て春樹さんは言う。
「美樹ちゃんに電話するよ、外していいですかって」
でも、それはずるい・・ずるくないですか? という気持ちがして。
「私、ダメって言ったら」と聞き返すと。
「美樹ちゃんは、ダメとは言わないと思うけど」
「言ったら・・」
「言わないでしょ・・」
「ダメって、言ったら・・」荒っぽくなってる声。
しつこいかな、という気持ちもする。でも、この問題の答えはどうしても聞きたいような気がすごくしているから。
「私、絶対、ダメって言います。外してほしくないから」
なんて、本当に私が言っている言葉なのかな? という思いもする。それに、どうしても聞いておきたこともある。だから、春樹さんをじろっとにらんだままでいると。
「そうか・・美樹ちゃんがダメって言うなら、外せないな」
と、ため息交じりにつぶやいた春樹さん。本当にそう思っていますか? と思ったら。
「知美と破局するようなことになったら、セキニン取ってくださいよ」
と言った。セキニン・・って? そうだね・・と気付いたこと。知美さんはあんなこと言ってたけど、知美さんか言っていたあんなことが現実になったら、知美さん悲しむのかな、春樹さんはどう思うのだろう。それに、私は・・。また思いがぐるぐるし始めた時。
「何度も言うけど、知美さんの存在も認めてください」
と困った顔でつぶやく春樹さんに。
「私の存在も認めてください」
と言い放つ私って、私なの? そして。くすっと笑いながら。
「認めている証でしょ」
と指輪をキラキラさせる春樹さんは。
「知美の話はしないって言ったの美樹ちゃんでしょ」と言い逃れ初めて。これ以上知美さんの事で言い合うことが怖くなった私も。
「そうですけど・・」としか言えなくなって。
「じゃ、食べたら帰りましょ」とニコニコし始める春樹さん。後味悪い感じかな、という気持ちがしてる。それに、指輪なんてしたまま帰ったら、知美さん本当になんて思うだろう、また、変な思いがぐるぐるし始める。駅前から、春樹さんの住むマンションまでは10分ほど。朝はあんなにウキウキしながら歩いたのに。今は魔法が解けたシンデレラが継接ぎの古着と片方だけの靴で泣きながら歩いている気分。あっという間にマンションの駐輪場。朝に乗ったオートバイに乗って、春樹さんにしがみついて、暗くなり始めた道路、対向車のライト、前の車の真っ赤なテールランプ。朝とは違う生ぬるい風。あんなこと言い合ったからかな、気持ちがなくとなくどんよりして。ぶつぶつ考えてしまうのは、知美さん、どうしてあんなこと私に提案したんだろう。
「好きだったら、力ずくで奪っていいのよ」だなんて。
「私と血みどろになって男を取り合うんだから」とも言ってたかな。
指輪、置いて来ればよかったのに、春樹さんも。
「一生の思い出になりそうだから、置いていくと後悔する」だなんて言ってたし。あんなに高価だったのに・・。そんなことぶつぶつ考えてたらあっという間に到着した家の前。
オートバイを降りて、ヘルメットを脱いでいると、玄関からお母さんが飛び出てきて。
「あらー、早かったのね、もっと遅くなるかと思っていたのに」
だなんて言って、春樹さんに駆け寄る。春樹さんも。
「遅くなりました、心配させてしまいました・・」
だなんて言って。
「全くもう、迷惑ばかりかけたんでしょ」と私に言うお母さんは。
「春樹さん、どう、ちょっとお茶でも飲んでいきなさい」と続けるけど、春樹さんはヘルメットもとらずに。
「いいえ・・今日は・・ちょっと」って。
「あ‥早く帰らないといけないのね・・はいはい」
って、やっぱり、知美さんのところに帰るんだね、という意味かな。
「それじゃ、またな、美樹」
「・・うん」と返事して、あんなことで言い合ったこと、まだ後悔してる気がする。私が脱いだヘルメットをオートバイに取り付けて。手袋を渡すと、指輪がきらり。
「楽しかった?」と聞く春樹さんに。
「うん、すごく楽しかった」と返事して。
力はこもらないけど、笑顔を見せよう。と無理やり微笑んでる私。
「じゃ、また今度、ケンタッキーと」
「遊園地」
「うん、じゃ、よく休んで、またお店で」
「うん・・帰り道気を付けてください、暗いし」
「うん、じゃ、帰ったら電話するから」
「はい・・」
でも、外していいかって電話はしないでください。と言わずに思っているだけの私に、本当に魔法が解けて、いつもの私に戻ったかなという自覚。ヘルメットの中から私にウィンクしてくれた春樹さん。ほほ笑む私に安心した顔。そして、オートバイのエンジンの音、ゆっくり走り始めるオートバイはすぐに遠くなって。角を曲がる赤いテールランプに手を振って。私は、はーっと長いため息を吐いた。
「どぉ、生まれて初めて男とデートした気分は」
と私を冷かしているお母さんに。
「どぉって・・普通でしょ」と言い返して。
「普通でしょ、だって」と、もっと冷かすお母さんをチラチラと気にしながら、左手の指輪をムニュムニュしている私。
「まぁ、とりあえず、無事で何より、で、なにか進展とかあったの? ご飯は?」
「うん・・食べてきたから」
「そぉ、でも、帰っちゃったね春樹さん」って、嫌味っぽいことに。
「言わなくても、わかってるわよ」と言い返してみるけど。
「帰ってこないかなとも思ったけど。ちゃんと帰ってきた。よしよし」
とにこにこするお母さんに。
「って、どういう意味、よしよしってナニよ?」
と聞き返したら。
「春樹さん、今日、美樹を帰さなかったら、付き合うのやめなさいって言うつもりだったけど、ちゃんと帰してくれたから、とりあえずは合格ね」
と私を見つめてそんなことを言うお母さんは、続けて。
「帰りたくない、帰りたくないってわがまま言ったでしょ」
「言わないわよ」
「言えなかったんでしょ、じゃ、帰りたくない帰りたくないって、一日中思っていたでしょ」
「まぁ・・」って、どんな話?
「美樹って、春樹さんとエッチしたいって、帰りたくないって、一日中思っていたでしょ」
「・・・・・」なにを言い出すのよ。
「朝、約束したでしょ、暗くなるまでには帰りますって。春樹さん、ちゃんと守った。遅くなりました、心配させてしまいました。ってちゃんと言った。美樹の事大切に思ってくれている気持ちは本物ってこと。フタマタしてる男だから、ちょっと心配したけどね、ってあんたそれナニ?」
えっ? って突然慌てふためいて私の左手を掴んだお母さんは。
「ちょっと、ナニコレ」ってものすごい剣幕。
「って、ただの指輪でしょ」と言いながらお母さんが掴む手を振りほどく。
「って、どうしてこの指についてるの」って怖い顔。だから、正直につぶやいたことは。
「春樹さん、お嫁さんになってくださいって」
「あの人が、あんたにそんなこと、言うわけないでしょ」
「言って、つけてくれたんでしょ」
「言って、つけてくれたって・・」
「お嫁さんになってくださいって、だから、お婿さんにしてあげますって、春樹さんもしてるし」
「って、知美さんとはどうするのよ、そんなことして」
「しらないわよ・・そんなこと」
「知らないって、美樹、そういうこと、冗談でしていいことじゃないんだから」
「冗談なんかじゃないし」ほんの少しは、だけど。
「冗談以外で、こんなこと、ありえないでしょ」
「もぅ・・うるさい・・」
なんでこんな言い合いばかりなのよ最近のお母さんと私。私が、反抗期なんだろうけどね。と気安い言い訳で納得してるけど。
「もういいでしょ」
と打ち切って。部屋に帰ってベットに寝転がると、朝から今までの出来事が鮮明な映画のように再生され始めて。楽しい一日だったと思う。あんなこと言い合わなければ。指輪をかざして、春樹さん、知美さんにどんな言い訳してるのかなと思う。あんなこと言い合わなければ。こんなこと考えもしなかったかな。とも思うし。また、ため息吐いて、写真を見直そうと携帯電話を手にすると。メール? 弥生から?
「これって美樹じゃないの?」という本文と、ユーチューブのURL。を押してみると。
「僕の好きな ピー 今は約束できることなんて何もないけど、僕のお嫁さんになってくれませんか」と膝まづぃて指輪を差し出しているのは顔がぼかされているけど、紛れもなく春樹さんで。少しの躊躇の後。
「はい、ピー さんを私のお婿さんにしてあげます。私を幸せにしてください、それだけは約束してください」
って、こんなにズームで指輪に指を差し入れてるところ、そして、もう一つの指輪を春樹さんの指に差し込む後姿は紛れもなく私で、それが、無茶苦茶鮮明な映像と音声と。まるで本物の映画のワンシーンのような感動してしまいそうなアングルで、どうして、こんなに近くから撮影されているの、と思ってしまうような。
「こんぐらっちれぃしょん・・ぱちぱちぱちぱち」
ってあの時の外人さんたちが写していたんだ、と、再生回数が・・・・。いいね・・が・・・。もう一度見てみるけど。それは、紛れもなく、私の記憶と一致する映像で・・。まぁ、私だということは私しかわからないわけだし・・。もう一度見てみると、私じゃないような、他人事の感動シーンのようだけど。紛れもなく私だけど。いや、でも、実感がないから、よく似た人じゃない? と弥生に返事しようと思っていたら。ぴろぴろぴろと春樹さんからの電話。
「無事に帰りました」と聞こえて。
「お疲れ様でした」と返事する。すると。くすっとした笑い声が聞こえて。
「あっそ・・って言われて、まだ外してないから」
と、普段の春樹さんの声に。
「あっそ・・って何ですか」と聞き返す私。
「いや、だから、知美さんの反応、指輪見て、美樹ちゃんとって話したら、あっそ・・それだけ」
だから。私も、こう言ってやったんだ。
「あっそ・・・」って。そして。
「じゃ、金曜日に会えるのかな?」
「え・・」
「アルバイト、次会えるの、金曜日だっけ」
「う・・うん・・私は明日も明後日も、日曜日までずっと入ってます」
「そぅ、じゃ、金曜日に」
「うん」
といって電話を切ったけど。何だろう、嬉しそうな声だったような、「次会えるの金曜日だっけ」って。春樹さんも私に会うこと待ち遠しく思っているのかな、という期待と。なんだろう、変な胸騒ぎが始まったような。「じゃ、金曜日に」って。それに。
「指輪見て、美樹ちゃんとって話して、あっそ・・」って。知美さんに何を話ししたんだろう。
それと・・弥生からメールがあったような・・。まぁ、それはいいか。とりあえず、お風呂入って、眠って。
「次会えるの、金曜日だね」
と薬指のイルカの指輪を天井にかざしながらつぶやいてみた。
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