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宝物は、一つしか持てないから?
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宝物は、一つしか持てないから?
でも、電話を握りしめたまま、ちゅんちゅんとスズメの鳴き声に目が覚めた時、いつの間にか窓の外は明るくなり始めて、はっと握りしめてた電話の画面には、「また会う約束の術」がかけられた形跡はなくて。あ・・お風呂忘れてる。それに・・お化粧とかした方がイイよね、帰りに「また会う約束の術」とか、かけられたら・・。それに、朝ごはんも。カレシができると急に忙しくなるのかな? と自問自答しながらあわただしく朝を過ごして。
でも、5秒間隔で電話を気にしながら、電車に乗って、5秒間隔で電話を気にしながら仕事をしていると、いつの間にかお昼休みの時間になって。
無意識に一人で昼食をテーブルに運んだ瞬間にポケットの中で震える電話に、もしかして、キターって、くす玉が弾けるようなファンファーレを期待したのに。電話の画面を見ると・・・なんだ優子か。仕方なく出てみると。
「で、で、で、その後どうなったの?」
と、私の期待を裏切る疫病神の心弾ませていそうな声が聞こえて。そのタイミングで、
「あっ、恭子ちゃん、イイヤツだったろ、アイツ・・で、あの後どうなったの?」
とケンさんもニヤニヤしながら私の前に座る。ったく、二人して。いつもいつもと思う。電話の向こうでは、優子が「私たちもあの後、その、ひとつ進展したかも」なんて甘ったるく言ってるし。
「はいはい、そうゆうコトはいちいち報告することじゃないでしょ、それに、私」
と言ってから。ニヤニヤしてるケンさんにイラっときて。
「私、今からケンさんと二人でお昼ご飯なの。ケンさんと ふ・た・り で」と言い放ってやる。すると。
「優子さん? 電話」とケンさんが聞くから。
「そうよ・・・かわる」と嫌味っぽく返事すると。
「ううん、別にいいけど、さっき話したし」とケンさん。
「ううん、別にかわらなくてもいいよ、さっき話したから」と優子。
右から左に通り抜けて欲しいこの甘ったるい響き、同じタイミングで左からも右からも入ってくるから頭の中でぶつかってモンモンとしている、きぃぃぃぃぃってなりそう。だから、乱暴に切ってやる。電話がミシッというほどのいつもより大きな力で。すると。
「でも、前もって言っとくべきだった?」と聞くケンさんに。
「ううん」と仕方ない返事してみるけど、前もって言ってほしかったかなとも思うし。それより。
「昨日は、どうして急にいなくなったのよ」と言っておかないと私にもメンツがある。ってどういうメンツかな? と考えながらケンさんを睨むと。
「なんとなく、いい雰囲気になり始めてたし。恭子ちゃんも、目から光線出しながら誠をロックオンしてたろ」といつも通りに優しく笑いながらそんなことを言うケンさん。
「してないわよ」
私は眼から光線なんて出してないし・・とも言いたいけど・・。
「恭子ちゃんにナニか話しかけようとしても誠のことしか見てないから話しかけられなくて」
そんなことないでしょ、昨日はケンさんにナニか話しかけられた記憶なんてないし・・。いや、ケンさんは話しかけようとしただけか、そいうことは話しかけてから言ってよね。とも思うし。それに。
「で、どう思ったの?」
という質問には、とりあえず、このイライラをしぼませて、正直な気持ちを、こんな言葉で表現しよう。
「まぁ、久しぶりに刺激的だった・・かな」
「刺激的?」とリピートするケンさんの表情はなんとなく嬉しそうで。ケンさんは嬉しいのかな? と言う気持ちもしてる私。そんなに喜んでほしくない、というのは正直な気持ちだと思う。でも、とりあえず。
「うん・・・」とうなずいて。だけど、あの人は私のことをどう思ったのだろう。そんな不安もある・・。あれから電話もメールもないし。やっぱり優子のコト怒鳴った瞬間に終わったのかもしれないし。そう思っていると。
「誠から、昨日の夜電話があってね・・・」とつぶやいたケンさん。
「・・・・」どんな電話? と、声にならないけど。こんなに眼を見開いてケンさんの顔を見つめると、この気持ちが、ものすごいテレパシーになってケンさんに伝わってしまったかも・・・。って、私、この気持ち・・ってどんな気持ちなの?
「誠って、なんていってたと思う?」
「・・・・さぁ・・・」知るわけないし。もったいぶらずに早く言ってよ、という期待と、私にはそれほど興味を持ってくれなかったのかも、という不安。どうしてそれを不安だと思うの。
「あいつさ、やべぇ・・やべぇ。どうしようどうしよう、って繰り返してたけど」
やべぇやべぇ、どうしようどうしよう? それって・・・。意味不明・・・。だけど。
「・・・誠さん、私のこと・・」ナニを期待してるの私?
その、気に入ってくれたかな・・なんて聞いたら、ケンさんにナニか勘ぐられそうだし。でも、うんとうなずいたケンさん。ニコニコと笑って。
「電話しろよって言ったんだけど、あいつ、恭子ちゃんに電話しなかったの?」と言う。
昨日は誰からも。今日も、さっき優子からあっただけだし。だから、うんとうつむいたけど。
「今、アイツ、電話をこう持って、掛けようかな、掛かってくるかな、って、悩んでると思うよ、昨日の夜から徹夜で」
って・・それって私と同じ?
「ほら、あいつは親友だからね、気持ちとか、行動とか、なんとなく予想できる」
確かに、誠さんも、ケンさんのセリフを一字一句違わずに言ったね。って・・。でも。
「それって、私から、電話したほうがいい?」 という意味?
「さぁ、どうかな・・恭子ちゃんはどっち? 待つ? それとも、自分から?」
と言ってくすくすと笑うケンさんの意地悪。そう思うとケンさんは。
「優子さんとめぐり合わせてくれたお礼もあるし、これって、いつもお節介な恭子ちゃんに、お節介返しの術!」
忍者が術をかけるポーズをしても全然 ”術” になっていませんヨ。と思うけど。
「あいつには、オレからも、それっぽく伝えとくよ」
と優しい雰囲気のケンさんの言葉に、そんなお節介な ”術” もアリかなと思えて。
「うん、アリガト」と言うべきかなとも思うから、そううなずいてみた。すると、ケンさん独特の響きで。
「背中押してもイイか? 本当に、アイツと付き合ってみる?」なんて聞くから。とりあえず。断る理由はないし。だから。
「うん、まぁ」とうなずいてから。
「彼が私でもイイって言うなら、そうしようかなと思ってる」と言うと。くくくっと笑ったケンさんは。
「あいつも、そう言ったよ」と言った。
「えっ・・?」
「気になるなら付き合ってみれば、って言ったら。恭子さんが俺でイイって言うなら、そうしようかなって思ってる。って」
それって・・誠さんって、私のコト?
「それ、直接言ってみろよって、言ったんだけど、まだ直接言ってなさそうだね」
「まぁ・・まだ・・だね」
「もう少し待つ?」
「・・うん」そういうことならもう少し待とうかな。つまり、オトコを立ててあげる・・というヤツ?
でも、電話がなかったら私から・・という気持ちもあるよね。私的にはゲットしちゃうべきでしょ、と本能的に、そう感じた、いい感じの男の子だったし。そう思うとなんだかムチャクチャ照れくさいかな。それに、ケンさんには、私がこんなにデレデレなこと隠したくて、だから、これ以上どんな話を続けていいかわからないから、とりあえず、コロッケをほおばって。私を観察し続けていそうなケンさんをチラッと。すると。
「うきっ・・・・」って顔するから、ぶふっ! っと思い出して。コロッケが口から吹き出てきた。
「もぉ・・やめてよ・・・ばか」
と怒りたいけど、アレを思い出すと笑ってしまいそうで。それに、ケンさんの顔に飛んだコロッケの破片も、笑うツボを刺激してる。その破片を指で摘まみながら笑うケンさんは。
「誠のヤツ、恭子ちゃんがあんなに笑うの、無茶苦茶嬉しかったみたい」
と言ってるけど。「もぉ・・」と飛び散ったコロッケをお箸で一粒ずつ回収している私。
「それと、あいつは俺に、お前も恭子ちゃんのコト、好きなんじゃないのかって聞いたけど」
と言われて、お箸が止まって、はっと顔を上げたけど。
「そのこと、優子さんに、こんな風に言われた」
優子さん? に何言われの? この会話って、優子が割り込む余地がある会話だった?
「宝物が二つ目の前に現れたけど、一つしか持てないなら、もう一つは一番大切な友達にあげるべきでしょ。だって」
えっ・・それって・・どういう話かな? 宝物が二つって、宝物って、ケンさんにとっては私と優子って意味? 私にとってはケンさんと誠さんって言う意味? そして優子にとっては・・。
「優子さん、誠の方が俺よりもっと面白そうで、目移りしそうになったって、そんなつらいこと言ってさ」
まぁ、確かに、面白そうといえば誠さんの方がケンさんより面白そうだけど。
「でも、優子さん、そんなこと言って、誠さんは恭子にあげるべきでしょ。二つも持てないし、だって」
子犬や子猫を譲り渡すような言い回しだけど、それはそれで優子らしいたとえ話かもしれなくて。それに、そんなことを聞いて、ふと思いついたこと。ケンさんは二つの宝物の事をどう思っているのかな? つまり、私と優子。でも、どう聞けばいい? 思うまま、ストレートに聞いてみるかな。そう思いついて。これって、ちょっと前にも聞いたかな? でもいいか。
「ケンさん私のことスキ?」と聞いてみた。すると。一瞬考えるそぶりをして。
「・・・うん」と、恥ずかしそうにうなずいたケンさん。このかわいい仕草は、初めて出会ったあの日の「キュン」という気持ちを思い起こさせたけど。私をじっと見つめているケンさんは。
「だから、恭子ちゃんに誠を託したいのかな。親友ってこう言う時の為に存在するのかなって気持ちもあるし」と言った。そういうことか・・。
そういう運命なのかなと気付いた。ケンさんとそうなるのは優子で、私ではなく。私とそうなるのは、あの人、誠さん。なんてこと、・・・・昨日あったばかりの人なのに。
「よく面倒見てあげてほしい。アイツは俺よりは面白い男だけど、水とかエサとか毎日取り替えないとすぐ死んじゃう弱々しい生き物かもしれないから」
「ハムスターかよ」と笑いながら言う。
「どちらかといえば、お猿さんだったな。アレ以外は自信を持って紹介できるヤツだから、安心して」
なんていうケンさんにまた思い出して笑ってしまった。うきききって。
「それに、あいつ、俺よりエリートで金持ちだし、一応、ここより給料多い会社だし」
それは一番重要なチェックリストかもしれないナ。と、くすくす笑いながら、
「うん」そううなずいて、残りのご飯をお箸でつまむ。そして、そうだ・・と、ふと思いついたこと。
「ケンさん」とつぶやいて。
思いついたこと、というか、吹っ切れたってことかな、これ。と思いながら。
「ん?」って返事したケンさんに。
「優子とケンさんって、どっちが先に電話したの?」
そう訊ねた。すると、全く間をおかずに、返ってきた返事は。
「・・うん・・優子さんからの電話が先だった・・・」
うそ!!!???
「優子さんがそんなきっかけを作ってくれたから、上手に言えたのかも・・好きですって」
にわかに信じられない話だけど・・・そうなんだ・・・とイマサラながらに思ってしまった。そして、ケンさんがはにかむその視界の端でうろうろしているモノに気がついた。よく見なくても美佐だとわかる。ことに、ケンさんも気づいたのかな? チラッと後ろを気にした後。
「じゃ、そういうことで、お先に」と席を立つケンさん。
「うん・・」と返事して、いつものウィンクにキスを投げ返すと、美佐が軽く会釈して、ケンさんもそれに答えている。そして、美佐はものすごい形相で私の前に座って。
「恭子、あんた、ケンさんとなに話してたのよ?」と言い放つ。
「別にたいしたことじゃないよ」としか言えないでしょ、そんな顔されたら。
「気になるじゃない、あんなにホンワリした雰囲気で」
「ほんわりしてた?」
「してたわよ、このテーブルだけふわふわ浮かんでた・・」
浮かぶわけないでしょ。もぉ、ケンさんとのホンワリした会話の余韻に浸っていたいのに。と思うし。だからかな。ツンツンと言いたくなるのはコレ。
「安心してよ、私はケンさんを口説こうなんて思ってないから。それに」
「それに」
日ごろの鬱憤を。この女に吐き出したいという衝動とか、誰かに公表したくて仕方がない、この抑えきれない気持ちを。
「カレシ、できちゃったかも。私にも、安心して・・ケンさんじゃないから」
そんな言葉にしたら、うわーっ、無茶苦茶すっきりな気持ちがする。 この勢いで、お高く席を立とうとするけど。
「恭子、あんた、なに一人抜け駆けしてるのよ」
と美沙の目から発射される光線に引き留められてしまう私。
それは、抜け駆けなんかじゃない。この世は、日ごろの行いが運命を左右する、弱肉強食の厳しい世界なんだから。でも、そんなことを口にしたら、美佐との仲が音を立てて崩れるだろうなぁ。とりあえず、鬱憤は晴らしたいけど美佐との仲も と思い、誠さんと美佐を頭の中で天秤に乗せたけど、誠さんが重すぎて、美佐はピョンとどこかに飛んでってしまった。けど。
「あたしたちもう終わってしまったんだね」
そんな美佐の涙声は、やっぱり私には無視できないようで。思いつくままに。
「そんな顔しないでよ、今日、一緒にチョコレート選んであげるから、ね」
といやいやな提案をしてみたら。
「ねぇ恭子、あたし、一生カレシができなかったらどうしよ」と泣き始める美沙。
そのときは「にやにやタケチャン」を紹介してあげるわよ。なんて言ったら、美佐、そのまま舌を噛んで死んでしまうだろうな。だから、とりあえず。
「大丈夫よ、美佐って、私より顔もスタイルもいいじゃない」
とでも言ってごまかそう。としたのに。
「だよね・・」
が・チンっ・・・と、晴らしたつもり鬱憤がそのまま私の元に返ってきた・・・。本当の疫病神はこっちだったの? という思いが溢れてる。
でも、電話を握りしめたまま、ちゅんちゅんとスズメの鳴き声に目が覚めた時、いつの間にか窓の外は明るくなり始めて、はっと握りしめてた電話の画面には、「また会う約束の術」がかけられた形跡はなくて。あ・・お風呂忘れてる。それに・・お化粧とかした方がイイよね、帰りに「また会う約束の術」とか、かけられたら・・。それに、朝ごはんも。カレシができると急に忙しくなるのかな? と自問自答しながらあわただしく朝を過ごして。
でも、5秒間隔で電話を気にしながら、電車に乗って、5秒間隔で電話を気にしながら仕事をしていると、いつの間にかお昼休みの時間になって。
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「で、で、で、その後どうなったの?」
と、私の期待を裏切る疫病神の心弾ませていそうな声が聞こえて。そのタイミングで、
「あっ、恭子ちゃん、イイヤツだったろ、アイツ・・で、あの後どうなったの?」
とケンさんもニヤニヤしながら私の前に座る。ったく、二人して。いつもいつもと思う。電話の向こうでは、優子が「私たちもあの後、その、ひとつ進展したかも」なんて甘ったるく言ってるし。
「はいはい、そうゆうコトはいちいち報告することじゃないでしょ、それに、私」
と言ってから。ニヤニヤしてるケンさんにイラっときて。
「私、今からケンさんと二人でお昼ご飯なの。ケンさんと ふ・た・り で」と言い放ってやる。すると。
「優子さん? 電話」とケンさんが聞くから。
「そうよ・・・かわる」と嫌味っぽく返事すると。
「ううん、別にいいけど、さっき話したし」とケンさん。
「ううん、別にかわらなくてもいいよ、さっき話したから」と優子。
右から左に通り抜けて欲しいこの甘ったるい響き、同じタイミングで左からも右からも入ってくるから頭の中でぶつかってモンモンとしている、きぃぃぃぃぃってなりそう。だから、乱暴に切ってやる。電話がミシッというほどのいつもより大きな力で。すると。
「でも、前もって言っとくべきだった?」と聞くケンさんに。
「ううん」と仕方ない返事してみるけど、前もって言ってほしかったかなとも思うし。それより。
「昨日は、どうして急にいなくなったのよ」と言っておかないと私にもメンツがある。ってどういうメンツかな? と考えながらケンさんを睨むと。
「なんとなく、いい雰囲気になり始めてたし。恭子ちゃんも、目から光線出しながら誠をロックオンしてたろ」といつも通りに優しく笑いながらそんなことを言うケンさん。
「してないわよ」
私は眼から光線なんて出してないし・・とも言いたいけど・・。
「恭子ちゃんにナニか話しかけようとしても誠のことしか見てないから話しかけられなくて」
そんなことないでしょ、昨日はケンさんにナニか話しかけられた記憶なんてないし・・。いや、ケンさんは話しかけようとしただけか、そいうことは話しかけてから言ってよね。とも思うし。それに。
「で、どう思ったの?」
という質問には、とりあえず、このイライラをしぼませて、正直な気持ちを、こんな言葉で表現しよう。
「まぁ、久しぶりに刺激的だった・・かな」
「刺激的?」とリピートするケンさんの表情はなんとなく嬉しそうで。ケンさんは嬉しいのかな? と言う気持ちもしてる私。そんなに喜んでほしくない、というのは正直な気持ちだと思う。でも、とりあえず。
「うん・・・」とうなずいて。だけど、あの人は私のことをどう思ったのだろう。そんな不安もある・・。あれから電話もメールもないし。やっぱり優子のコト怒鳴った瞬間に終わったのかもしれないし。そう思っていると。
「誠から、昨日の夜電話があってね・・・」とつぶやいたケンさん。
「・・・・」どんな電話? と、声にならないけど。こんなに眼を見開いてケンさんの顔を見つめると、この気持ちが、ものすごいテレパシーになってケンさんに伝わってしまったかも・・・。って、私、この気持ち・・ってどんな気持ちなの?
「誠って、なんていってたと思う?」
「・・・・さぁ・・・」知るわけないし。もったいぶらずに早く言ってよ、という期待と、私にはそれほど興味を持ってくれなかったのかも、という不安。どうしてそれを不安だと思うの。
「あいつさ、やべぇ・・やべぇ。どうしようどうしよう、って繰り返してたけど」
やべぇやべぇ、どうしようどうしよう? それって・・・。意味不明・・・。だけど。
「・・・誠さん、私のこと・・」ナニを期待してるの私?
その、気に入ってくれたかな・・なんて聞いたら、ケンさんにナニか勘ぐられそうだし。でも、うんとうなずいたケンさん。ニコニコと笑って。
「電話しろよって言ったんだけど、あいつ、恭子ちゃんに電話しなかったの?」と言う。
昨日は誰からも。今日も、さっき優子からあっただけだし。だから、うんとうつむいたけど。
「今、アイツ、電話をこう持って、掛けようかな、掛かってくるかな、って、悩んでると思うよ、昨日の夜から徹夜で」
って・・それって私と同じ?
「ほら、あいつは親友だからね、気持ちとか、行動とか、なんとなく予想できる」
確かに、誠さんも、ケンさんのセリフを一字一句違わずに言ったね。って・・。でも。
「それって、私から、電話したほうがいい?」 という意味?
「さぁ、どうかな・・恭子ちゃんはどっち? 待つ? それとも、自分から?」
と言ってくすくすと笑うケンさんの意地悪。そう思うとケンさんは。
「優子さんとめぐり合わせてくれたお礼もあるし、これって、いつもお節介な恭子ちゃんに、お節介返しの術!」
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「あいつには、オレからも、それっぽく伝えとくよ」
と優しい雰囲気のケンさんの言葉に、そんなお節介な ”術” もアリかなと思えて。
「うん、アリガト」と言うべきかなとも思うから、そううなずいてみた。すると、ケンさん独特の響きで。
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「えっ・・?」
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それって・・誠さんって、私のコト?
「それ、直接言ってみろよって、言ったんだけど、まだ直接言ってなさそうだね」
「まぁ・・まだ・・だね」
「もう少し待つ?」
「・・うん」そういうことならもう少し待とうかな。つまり、オトコを立ててあげる・・というヤツ?
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「うきっ・・・・」って顔するから、ぶふっ! っと思い出して。コロッケが口から吹き出てきた。
「もぉ・・やめてよ・・・ばか」
と怒りたいけど、アレを思い出すと笑ってしまいそうで。それに、ケンさんの顔に飛んだコロッケの破片も、笑うツボを刺激してる。その破片を指で摘まみながら笑うケンさんは。
「誠のヤツ、恭子ちゃんがあんなに笑うの、無茶苦茶嬉しかったみたい」
と言ってるけど。「もぉ・・」と飛び散ったコロッケをお箸で一粒ずつ回収している私。
「それと、あいつは俺に、お前も恭子ちゃんのコト、好きなんじゃないのかって聞いたけど」
と言われて、お箸が止まって、はっと顔を上げたけど。
「そのこと、優子さんに、こんな風に言われた」
優子さん? に何言われの? この会話って、優子が割り込む余地がある会話だった?
「宝物が二つ目の前に現れたけど、一つしか持てないなら、もう一つは一番大切な友達にあげるべきでしょ。だって」
えっ・・それって・・どういう話かな? 宝物が二つって、宝物って、ケンさんにとっては私と優子って意味? 私にとってはケンさんと誠さんって言う意味? そして優子にとっては・・。
「優子さん、誠の方が俺よりもっと面白そうで、目移りしそうになったって、そんなつらいこと言ってさ」
まぁ、確かに、面白そうといえば誠さんの方がケンさんより面白そうだけど。
「でも、優子さん、そんなこと言って、誠さんは恭子にあげるべきでしょ。二つも持てないし、だって」
子犬や子猫を譲り渡すような言い回しだけど、それはそれで優子らしいたとえ話かもしれなくて。それに、そんなことを聞いて、ふと思いついたこと。ケンさんは二つの宝物の事をどう思っているのかな? つまり、私と優子。でも、どう聞けばいい? 思うまま、ストレートに聞いてみるかな。そう思いついて。これって、ちょっと前にも聞いたかな? でもいいか。
「ケンさん私のことスキ?」と聞いてみた。すると。一瞬考えるそぶりをして。
「・・・うん」と、恥ずかしそうにうなずいたケンさん。このかわいい仕草は、初めて出会ったあの日の「キュン」という気持ちを思い起こさせたけど。私をじっと見つめているケンさんは。
「だから、恭子ちゃんに誠を託したいのかな。親友ってこう言う時の為に存在するのかなって気持ちもあるし」と言った。そういうことか・・。
そういう運命なのかなと気付いた。ケンさんとそうなるのは優子で、私ではなく。私とそうなるのは、あの人、誠さん。なんてこと、・・・・昨日あったばかりの人なのに。
「よく面倒見てあげてほしい。アイツは俺よりは面白い男だけど、水とかエサとか毎日取り替えないとすぐ死んじゃう弱々しい生き物かもしれないから」
「ハムスターかよ」と笑いながら言う。
「どちらかといえば、お猿さんだったな。アレ以外は自信を持って紹介できるヤツだから、安心して」
なんていうケンさんにまた思い出して笑ってしまった。うきききって。
「それに、あいつ、俺よりエリートで金持ちだし、一応、ここより給料多い会社だし」
それは一番重要なチェックリストかもしれないナ。と、くすくす笑いながら、
「うん」そううなずいて、残りのご飯をお箸でつまむ。そして、そうだ・・と、ふと思いついたこと。
「ケンさん」とつぶやいて。
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「ん?」って返事したケンさんに。
「優子とケンさんって、どっちが先に電話したの?」
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「・・うん・・優子さんからの電話が先だった・・・」
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「うん・・」と返事して、いつものウィンクにキスを投げ返すと、美佐が軽く会釈して、ケンさんもそれに答えている。そして、美佐はものすごい形相で私の前に座って。
「恭子、あんた、ケンさんとなに話してたのよ?」と言い放つ。
「別にたいしたことじゃないよ」としか言えないでしょ、そんな顔されたら。
「気になるじゃない、あんなにホンワリした雰囲気で」
「ほんわりしてた?」
「してたわよ、このテーブルだけふわふわ浮かんでた・・」
浮かぶわけないでしょ。もぉ、ケンさんとのホンワリした会話の余韻に浸っていたいのに。と思うし。だからかな。ツンツンと言いたくなるのはコレ。
「安心してよ、私はケンさんを口説こうなんて思ってないから。それに」
「それに」
日ごろの鬱憤を。この女に吐き出したいという衝動とか、誰かに公表したくて仕方がない、この抑えきれない気持ちを。
「カレシ、できちゃったかも。私にも、安心して・・ケンさんじゃないから」
そんな言葉にしたら、うわーっ、無茶苦茶すっきりな気持ちがする。 この勢いで、お高く席を立とうとするけど。
「恭子、あんた、なに一人抜け駆けしてるのよ」
と美沙の目から発射される光線に引き留められてしまう私。
それは、抜け駆けなんかじゃない。この世は、日ごろの行いが運命を左右する、弱肉強食の厳しい世界なんだから。でも、そんなことを口にしたら、美佐との仲が音を立てて崩れるだろうなぁ。とりあえず、鬱憤は晴らしたいけど美佐との仲も と思い、誠さんと美佐を頭の中で天秤に乗せたけど、誠さんが重すぎて、美佐はピョンとどこかに飛んでってしまった。けど。
「あたしたちもう終わってしまったんだね」
そんな美佐の涙声は、やっぱり私には無視できないようで。思いつくままに。
「そんな顔しないでよ、今日、一緒にチョコレート選んであげるから、ね」
といやいやな提案をしてみたら。
「ねぇ恭子、あたし、一生カレシができなかったらどうしよ」と泣き始める美沙。
そのときは「にやにやタケチャン」を紹介してあげるわよ。なんて言ったら、美佐、そのまま舌を噛んで死んでしまうだろうな。だから、とりあえず。
「大丈夫よ、美佐って、私より顔もスタイルもいいじゃない」
とでも言ってごまかそう。としたのに。
「だよね・・」
が・チンっ・・・と、晴らしたつもり鬱憤がそのまま私の元に返ってきた・・・。本当の疫病神はこっちだったの? という思いが溢れてる。
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