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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情

1-36.結婚したい女VS. 結婚したくない男、の構図

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 正直、皇女の幼馴染くんは知らないが、ちょっと直情型っぽそうな皇女ならあり得なくはない展開だ。
 帝国に関しては、夜会に呼ばざるを得ない以上は情報収集していた。そして、色々と帝国内の不穏な情報が耳に入ってからは更に情報を集めるために奔走した。主に、アッサールが。正確には、そのアッサールに押し付けられているであろうアッサール直属の部下が。まあ彼らの涙ぐましい努力によって色々と話は聞こえていたから、帝国は要注意って認識していたのだが。まさか王族を直接狙うと思わないじゃん? いや警戒はしてたけど、呪術対策はそれこそ神子としてお披露目の万葉殿が狙われるだろうと予測の元に動いていたのだ。すぐに下がる予定の俺なぞ、王族としての最低限しか警戒していなかった。それであっさり呪術をかけられる俺も近衛騎士もどうかと思うけど。

 話が逸れたが、帝国の第一皇女と幼馴染の騎士くんについては、それなりに有名だ。ヘテロ主義の被害者、と。


「どうも、今回の夜会で神子殿を帝国へと熱望したのは公爵子息の方らしくてね。元を正せばこの夜会後は帰国したらすぐ、皇女殿下との婚礼の準備に入る予定だったそうなんだ」
「……もしかして、痴情のもつれって結婚したくないとかそういうことか?」
「そりゃ、女の雄と男の雌は一見かみ合っているが、それは本人たちの納得がなければ難しいからな。公爵子息は独身を貫きたかったそうだ、長男なのにセドなのもそういうことらしい」
「雄になってまで結婚したくない男と、雌になってでも好きな人と添い遂げたい雄みを爆発させた女の痴話げんかか? いや恋仲でないのに痴話げんかと称して良いか分からないが」


 公爵子息――幼馴染の騎士くんの家、ホーカンソン公爵家はバリバリのヘテロ主義だったはずだ。嫡男が雌ということを受け入れず、かといって本人が嫌がってばかりではハーレムを築けない。であるならば、とセドにしたのだろう。しかし、雄にはなれないと逃げた公爵子息に業を煮やして結婚を迫った第一皇女、と。くだらなすぎて冗談にしか聞こえない。

 本当に、冗談じゃないからな? そんなことで俺のユハを傷つける原因を作られたのか。

 たとえ催淫の魔術にやられてたとしても、無体を働いたのは俺だ。言い訳のしようのない加害者だ。でも、そうなる原因を作られたのだから情状酌量の余地はあると思いたい。少なくとも、ユハは表面上は許してくれている。……許してくれているといいな。


「アガタ殿、彼らの処分の予定は?」
「帝国に文を飛ばして返答待ちだ、どう転ぶか見えないけど切り捨てるんじゃないか? 公爵子息は我が国預かりだと思うが」
「なぁ、被害者の私の意見も聞いてもらえるだろう? 片や結婚したくないと主張し、片や強引に結婚を迫ったんだ。叶えてやろうじゃないか」
「あー、両陛下の了解は取りなさい。魔術も施すなら宮廷魔術師に頼むように、間違ってもこっそりやるなよ」


 どうでもいいが、宰相アガタ殿の口調がぞんざいなのは、王妃陛下がここにいないからだ。王妃陛下か、その他の人間という認識していないから、王妃陛下以外にどう思われても気にならないらしい。昔からこんな感じなので、俺も慣れたものだが。……俺、王族だよね? なんならリモに内定して、近日中に発表予定だよね? なんでこんなに俺の扱いが雑な人ばかり周りに居るんだろう。諸悪の根源であろう母上のことは気にしないことにする。

 取り敢えず、宰相であるアガタ殿からゴーサインは貰えたので、問題ない。帝国の返答次第でもあるけど、奴らはどう調理してやろうか。

 この後、俺と婚約者達で計画を練った。それを両陛下の面会で渾身のプレゼンしたら、仕方ないとオーケーもらえた。これで準備は整った。――待たせたなァ、元凶ども!


「っ、貴方様は……!」
「お初にお目にかかる。サンタタレイド帝国の忠臣、ホーカンソン公爵が子息イェスタフ殿。ご機嫌いかがかな?」
「ひ、姫様は……!?」
「おや、気になるのはそこかい? 自分の状態よりも皇族の心配とは、見上げた忠節だな」


 俺は、ケニーとユハを連れて皇女の幼馴染騎士の元へ訪れていた。計画にはパウの意見をふんだんに取り入れたが、同行は流石に12歳の女の子に見せたくないと俺が拒否。一応は俺の婚約者となっている万葉殿は、神子という立場もあるので直接出向くことは却下となった。代案として、アッサールの盗撮によるリアルタイム中継で見守ってくれるらしい。……パウまで一緒になってリアルタイムで見てないだろうな? 俺としてはなるべく、パウの前では優しい王子様でいたいのだが。パウがさー、権謀術数どんとこいな女傑って知っているけど、知っているけどそれとこれと別というか……。幸いなことにお姫様扱い自体はパウも喜んでおり、パウが完全に入り込めないほどまでかシャットアウトしてないせいか、現状はクレームをもらうほどではないようだが。

 さて、その皇女の幼馴染騎士の居る場所。拝み倒して、ちょっと特殊な場所に移動させてもらうことに成功していた。
 ひとつの大きな部屋の中央に、大きな鉄格子がある。牢屋相当の頑丈な鉄格子で、扉がない方の空間には牢屋の鉄格子の真ん中にある扉を開かなければ入れない。簡単に言えば、囚人を捕らえておく部屋の一種である。では、扉がある方の空間は何に使うのか。まあ有り体に言えば、貴族のままの罪人向けの拷問用だ。一応、貴族籍が残っている以上はある程度の配慮は必要だ。口を割らないが、もし冤罪だったら貴族籍があるから問題になる。だから、子供染みた嫌がらせとか行うために使う。目の前で晩餐をしてみたり、とか。

 ただ、一番に使われる方法は、媚薬を飲ませたうえで目の前で拷問官による性の狂乱を見せつけられるというものだ。身体が火照って仕方ないのに、目の前で行われている性交に混ぜてもらえない。罪人が雄ならば、目の前でハーレムによる乱交を、雌ならばそのタイプによるが逆ハーレムの光景を見せつける。まあ、だいたいは三大欲求である性欲を押さえられれば、口を開く。痛みに対する訓練はあっても、性欲に対する訓練はなかなかない。そもそもが、平民なんて乱交上等な性に奔放な風潮だから、性欲を我慢という感覚もないのだ。

 まあ、皇女に対してこれを行うには、帝国のスタンスが判明するまで難しいが、それも折り込み済で計画を立てた。この幼馴染騎士くん、当主である実父と仲が悪いらしいからね。返答を待たずとも、こちらの王族を害した事実もあるからこの幼馴染騎士くんの方は手を出しても問題にならないだろうという判断だ。そもそも、これ、一応尋問扱いだからね。なぁんで、こんなくだらないことしたのか確認せねばならない。

 こういうのは、鉄が熱いうちに打てってね。じっくりオハナシしようじゃないか、元凶その1。
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