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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情

1-35.痴情のもつれは大抵が迷惑

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 さて。まだお披露目していないとはいえ、王太子候補というリモに内定している俺に呪術をかける。これがどれほどに大事なのか、その一端は想像つくのではなかろうか。

 ちなみに、我が母上は俺のことを心配してなかった。いや、『王妃陛下への貢ぎ物(イコール息子)は無事よね? そんな軟弱に育てていないから丈夫なはずだもの』というお言葉のみだったそうな。全く心配してない様子が恐ろし過ぎて震えた、息子に何か施してあるのだろうか。俺の教育は王妃陛下の管轄だったはずなんだけど。
 父上である国王陛下と王妃陛下は、頭を抱えていたけどケニーがいるしユハという事態収拾能力のある男まで居るから、催淫効果ならと一旦は矛を収めたらしい。収めなかったらどうなったのか、こちらも考えるだけで震える。
 宰相アガタ殿は、怒り狂ったそうな。なんせあの人、王妃陛下至上主義なので王家の瑕疵にならないよう、この夜会で二人目の神子様のお披露目をと一番奔走した人だ。あと、ユハのこともそれなりに目をかけているので、その嫁ぎ先になる俺が害されたとなって大変不快だったそうな。是非とも俺の心配もしてくれ、別に嫌われているとかそんなんじゃないんだけども。

 この世界、エロに奔放なところがあるから、媚薬とか催淫はたぶん前世とかあるあるなファンタジーより一般的だ。一般的なのに、何で大騒ぎって、俺が未成年かつ犯人の目的が見えてこないからだ。

 この国もそうだが、成人は15歳だ。そしてこの国では成人した翌年、実際に社交界に出る前に、プレ社交界と伝手を作るために、18歳までの3年間を学園で過ごす。だから、デビュタントは18歳だ。あと、デビュタントしたら流石に自分の言動には責任が取れるだろうということもあり、婚姻が盛んに行われる。まあ授かり婚も普通にあるので、前世やあるあるファンタジーより婚約期間や婚姻までの期間がやたら短いこともあるが、まあその辺はおおらかだ。
 が、しかし。その一方で、未成年の性行為や付随するあれこれは割と厳しい。本人が納得しているのなら、お小言くらいで目溢ししてもらえる。大人が唆したりとかだと、まあ白い目で見られるし場合によっては刑に処される。自由恋愛で乱交上等な文化でも、子を慈しむという側面はきちんとあるのだ。


「ということで、犯人の確保と動機の確認も済んでいる。殿下、どうする?」
「速攻で事が終わったな。先に動機を聞かせてくれ、フラットな状態で聞いた上でどの立場の者が行ったか知りたい」
「あー……、前提として帝国だな。神子様を欲しがった勢力と、ヘテロ主義の被害者と、痴情のもつれとでも言えばいいのだろうか……」
「……アガタ殿、それだと犯人は帝国の皇女ということになる。帝国は男系相続だから、男である神子殿を受け入れるには高貴な女性しかないではないか」


 ユハとの寝起きの微妙な結果に終わったアレコレは置いておいて、宰相アガタ殿から呼び出しを受けて宰相執務室へケニーを連れて伺っていた。ユハは俺の執務室で溜まった書類を整理してくれるらしい。あとは俺のリモのお披露目だけだから、執務室の書類の山もそろそろ落ち着くだろうという目算だ。その時は是非とも、婚約者となったユハやパウとの時間を作りたい。特にパウは相手しないと、暴走するから切実だ。

 で、聞かされた事情に半目にならざるを得なかった。何だその、触りを聞いただけでもくだらない理由は。

 帝国とは、我が国の隣国を挟んだ隣にある、サンタタレイド帝国のことだ。帝国は近隣諸国には珍しく、ヘテロ主義で男系相続の国だ。つまり、男女の恋愛を尊ぶ前世のカチコチの封建制度の国と大差ないと思っていい。そして、帝国に神子が来ることは滅多にないので、他国であろうと神子が現れるたびに大騒ぎする国でもある。
 今回公表した万葉殿も、双子の弟である神子殿も男だ。つまり、ヘテロ主義の国からすると種馬にしたいのではなかろうか。帝国は高位貴族になればなるほど、出生率は低い。なんか女神様が、まあ子が出来ないのは可哀想だけど愛が足りないんだよ男も女も関係ないんだよ分かってるのチミィ、とくだをまいている印象を受ける。いや、気のせいなんだろうけど。なんか、イマイチ女神様の恩恵を受けていないように思える国である。まあ、帝国に産まれたら異世界ギャップは少なかったかもしれない。実際、帝国から逃げ出す人も居れば、移住する人もいる。自由恋愛が苦手な人は、割と帝国へ移住する。ヘテロ主義は悪と言うほどでもないのだ、ちょっと行き過ぎなほど同性愛を排除しているだけで。


「よくできました。そうだ、帝国の第一皇女とその降嫁先候補の嫡男によるアレコレになる」
「ということは、目的は俺が神子殿を傷物にすることか」
「正確には、神子殿を狙いたかったけど難しく会場を出る殿下に苛立ち紛れに呪術をかけた、だな」
「……計画が杜撰にもほどがないか?」


 ……思った以上にくだらないし、そんなことで俺はユハに無体を働いたのか。沸々と怒りが再燃しているのを感じている。ビークールだ俺、苛立ちに任せて事を為したら奴らと変わらない。計画を持って、きちんと根回しを持って対応すべきだ。俺の意思を聞いてもらえる余地があるか分からないが、それはねじ込もう。八つ当たり上等、ゆっくり仲を深めていたのを邪魔された恨みは重い。

 しかし、第一皇女か。我が国に外交で来ていた際に、接待したことがある。その時の彼女を思い出す。
 ウルリーカ・ルツォ・サンタタレイド、それが第一皇女のフルネームだったはずだ。エメラルドグリーンのストレートな髪に、深紅色の瞳。すらりとした凛々しいと言っていい美人で、御年22歳と聞き及んでいる。この世界で、しかもあのヘテロ主義の帝国でこの年齢は独身にしては年嵩である。そんな彼女の第一印象は、生きづらそう。接していくうちにどうしてこのような第一印象になったのか分かったのだが、皇女はどうやら雄のようでありヘテロ主義の帝国では生きづらそうだな、と。ちょうど、俺の異母妹にあたるシェンティスと同じニオイがするし、シェンティスは本人も雄だと公言している。本人に確かめたことはないが、生まれが帝国でなければリモとして才媛の名を欲しいままにしていたであろう女傑だった。
 そして、そんな皇女の降嫁先候補となっている公爵家の嫡男、イェスタフ・セド・ホーカンソン。皇女の幼馴染で騎士としても出仕していると聞いたことがあるから、恐らく彼が護衛として今回の夜会に来ていたのだろう。で、積極的にかはさておき皇女に加担した、と。

 ……へえ? アガタ殿は痴情のもつれ、とも言っていたな。人の国に来ておいて、舐め腐った真似してくれるじゃないか。これは丁重におもてなしする必要があるな。にっこりとアガタ殿に笑いかけ、続きを催促した。
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