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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情
1-33.男が覚えていないは朝チュンはアリなのか
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ふわふわとくすぐったくて、でも手放し難くてぎゅうっと目の前のそれを抱きしめる。少し嫌がるように身動ぎしたようだが、離す気は毛頭ない。なんだか、抱き枕にしては少し暖か過ぎるような……。あと、いつもより抱き枕にしているそれよりしっかりしていて、安心感というか安定感があるというか。ううむ、原因はなんだろう、と薄らと目を開くと綺麗な銀色が視界いっぱいに広がっていた。
……ぎん、いろ? いつもの闇夜でなく、その闇夜を照らす月のような美しい銀?
かっ、と瞳をかっぴらいてみると、とても優しい顔をしたユハが俺の髪を梳いていた。ついでに、いきなり目を見開いて硬直した俺につられて驚いたのか、怜悧な顔が目をまんまるくしているせいで、少し幼く見える。
「ゆ、は……?」
「はい、おはようございます。レーメ様」
「えっと、……大丈夫?」
「少し違和感はありますが、支障ありません。レーメ様こそ、体調はいかがですか?」
どうやら、ユハが起きるまでと隣で寝そべったらそのまま二度寝してしまったようだ。目の前で穏やかで優しい笑みを浮かべているユハに、だらだらと冷や汗が背につたうのがわかる。これはアレだ、俺の女にしてしまったというヤツだ。今までとユハの雰囲気が違う気もするし、そういう空気でもないのにどこかエロさを感じる。処女喪失すると変わるって聞くけど、ガチだったんだなーと現実逃避したくなった。
え、この状況で俺、覚えてませんってごめんなさいするの……? が、謝らないという選択肢はない。絶対覚えてないの隠してもボロが出てバレる。
「レーメ様……?」
「ユハ、その。大変、申し訳ないんだけど……」
「はい。どうされましたか?」
「昨日のこと、ほとんど覚えてない……。ユハと何をしたのかも、覚えてない。ごめん」
気まずくて申し訳なくて、ユハを抱きしめる腕をぎゅっと力を入れて逃がさないように意志を込める。その上で、ユハの肩にぐりぐりと額を押し付けながら、謝罪を口にする。覚えてないけど、ユハを手放す気は毛頭ないのだ。逃げられても困るから、そのまま抱きしめていた。そんなお子ちゃま染みた言動しかしない俺の頭上で、ぷふっ、と吹き出す音が聞こえた。
そうっと、顔を上げると、ユハはくすくすと楽し気に笑っている。どうやら怒っていないらしい、と安堵しながら更にぎゅうっと抱きしめた。痛いかもしれないが、人が謝っているのに笑うのは酷いと思う。
「そんな気はしていました。レーメ様、あまり意識がはっきりなさってなかったので」
「う、えっと……最後までしてしまったり……?」
「避妊の魔術はかけてもらってますから、問題ありません。それに、レーメ様はお優しかったです」
「……ユハは、後悔してない?」
俺は、とても後悔しています。何で抱いたっぽいのに覚えてないんだ……! というか、知らぬ間に童貞卒業とか意味分からな過ぎるからやめて欲しい。
だが、ユハとしては問題なかったらしい。頬を染めて、こくりと頷く様子はとても可愛らしい。ユハって普段はどちらかというと冷ややかな視線を他人に送っていることが多いし、綺麗系だとは思うけれど。こういう婚約者同士の触れ合いとかそういう時は、とても可愛いんだよなぁ。……よく、今まで無事だったな。あの男の節穴さに乾杯、である。
取り敢えず、俺が無体を働いた件については、ユハはそこまで怒ってないようだ。これは朗報、でも童貞卒業してたのは悲しい。そもそも童貞なのに、よく最後まで出来たな?
「ユハ、お願いがあるんだけど」
「レーメ様がお望みならば、この身を尽くして叶えましょう」
「ユハとの初めてのやり直し、というか……リベンジしたい。覚えてないのは、すごく嫌だ」
「……昨晩は、きちんと愛でて頂きました。問題ありません」
「ちがうっ! 違うんだよ、ユハ……」
ユハと俺の関係は、何とも言い難い微妙なバランスで成り立っている。
最初は異母兄の婚約者と、未来の義弟という関係から始まった。こんな綺麗な人をお嫁さんにできる異母兄上は、人生勝ち組だなぁと思ったものだ。次期国王候補となれば、いいお嫁さんを宛がうものなのだな、と。まあこんな綺麗な義兄が出来るならアリだな、と幼いフリをしてユハに近付いたのだ。
いや、初めて会った時はちょっぴり異母兄上のお嫁さんたちに興味あったから蔵書室へ足を運ぶという体で、離宮から下心を持って出てきた。それから、ユハが婚約者のお茶会をする度に蔵書室に来ることを知ってからは、それとなく日程を確認して俺も蔵書室へ行った。どうせ蔵書室へ行くなら、美人に会いたいのは男の心理だろ? まあ、聞こえてくる噂とかで冷遇されているらしいな、と気付いてからはそっと声掛けしていたものだ。
ちなみに、10歳頃に侍従として俺の後ろに控えるようになったケニーは、年相応な普段よりも幼いフリしてユハに接する俺を見てピクピクしていた。離宮戻ってから爆笑されたが、猫被ってたんだから仕方ない。
事態が変わったのは、異母兄上のやらかし。この頃から、異母兄上を兄とも呼びたくなくなったのだが、それはさておき。ユハとの見合いが急造でセッティングされて、王家はこの人を逃したくないのだろうな、と察した。そして実際に話してみて、王家の意向もわからなくないし、やっぱりこの人は綺麗だなぁと思ったのだ。その上に可愛らしく、雌だしなんかエロいし、とこの人を俺のモノにしたいと決めた。――のはいいのだが、それがユハにはイマイチ伝わっている気がしない。それなのに、話しをしっかりすることも出来ていない。
全部、異母兄上のやらかしの尻拭いにユハが奔走し、俺も引き継ぎだ何だと忙しかったせいだ! 実質愛の告白な訳で、それを情緒なく言える訳ないじゃんか。その辺はロマンチストの気を出したっていいじゃんか……。
……ぎん、いろ? いつもの闇夜でなく、その闇夜を照らす月のような美しい銀?
かっ、と瞳をかっぴらいてみると、とても優しい顔をしたユハが俺の髪を梳いていた。ついでに、いきなり目を見開いて硬直した俺につられて驚いたのか、怜悧な顔が目をまんまるくしているせいで、少し幼く見える。
「ゆ、は……?」
「はい、おはようございます。レーメ様」
「えっと、……大丈夫?」
「少し違和感はありますが、支障ありません。レーメ様こそ、体調はいかがですか?」
どうやら、ユハが起きるまでと隣で寝そべったらそのまま二度寝してしまったようだ。目の前で穏やかで優しい笑みを浮かべているユハに、だらだらと冷や汗が背につたうのがわかる。これはアレだ、俺の女にしてしまったというヤツだ。今までとユハの雰囲気が違う気もするし、そういう空気でもないのにどこかエロさを感じる。処女喪失すると変わるって聞くけど、ガチだったんだなーと現実逃避したくなった。
え、この状況で俺、覚えてませんってごめんなさいするの……? が、謝らないという選択肢はない。絶対覚えてないの隠してもボロが出てバレる。
「レーメ様……?」
「ユハ、その。大変、申し訳ないんだけど……」
「はい。どうされましたか?」
「昨日のこと、ほとんど覚えてない……。ユハと何をしたのかも、覚えてない。ごめん」
気まずくて申し訳なくて、ユハを抱きしめる腕をぎゅっと力を入れて逃がさないように意志を込める。その上で、ユハの肩にぐりぐりと額を押し付けながら、謝罪を口にする。覚えてないけど、ユハを手放す気は毛頭ないのだ。逃げられても困るから、そのまま抱きしめていた。そんなお子ちゃま染みた言動しかしない俺の頭上で、ぷふっ、と吹き出す音が聞こえた。
そうっと、顔を上げると、ユハはくすくすと楽し気に笑っている。どうやら怒っていないらしい、と安堵しながら更にぎゅうっと抱きしめた。痛いかもしれないが、人が謝っているのに笑うのは酷いと思う。
「そんな気はしていました。レーメ様、あまり意識がはっきりなさってなかったので」
「う、えっと……最後までしてしまったり……?」
「避妊の魔術はかけてもらってますから、問題ありません。それに、レーメ様はお優しかったです」
「……ユハは、後悔してない?」
俺は、とても後悔しています。何で抱いたっぽいのに覚えてないんだ……! というか、知らぬ間に童貞卒業とか意味分からな過ぎるからやめて欲しい。
だが、ユハとしては問題なかったらしい。頬を染めて、こくりと頷く様子はとても可愛らしい。ユハって普段はどちらかというと冷ややかな視線を他人に送っていることが多いし、綺麗系だとは思うけれど。こういう婚約者同士の触れ合いとかそういう時は、とても可愛いんだよなぁ。……よく、今まで無事だったな。あの男の節穴さに乾杯、である。
取り敢えず、俺が無体を働いた件については、ユハはそこまで怒ってないようだ。これは朗報、でも童貞卒業してたのは悲しい。そもそも童貞なのに、よく最後まで出来たな?
「ユハ、お願いがあるんだけど」
「レーメ様がお望みならば、この身を尽くして叶えましょう」
「ユハとの初めてのやり直し、というか……リベンジしたい。覚えてないのは、すごく嫌だ」
「……昨晩は、きちんと愛でて頂きました。問題ありません」
「ちがうっ! 違うんだよ、ユハ……」
ユハと俺の関係は、何とも言い難い微妙なバランスで成り立っている。
最初は異母兄の婚約者と、未来の義弟という関係から始まった。こんな綺麗な人をお嫁さんにできる異母兄上は、人生勝ち組だなぁと思ったものだ。次期国王候補となれば、いいお嫁さんを宛がうものなのだな、と。まあこんな綺麗な義兄が出来るならアリだな、と幼いフリをしてユハに近付いたのだ。
いや、初めて会った時はちょっぴり異母兄上のお嫁さんたちに興味あったから蔵書室へ足を運ぶという体で、離宮から下心を持って出てきた。それから、ユハが婚約者のお茶会をする度に蔵書室に来ることを知ってからは、それとなく日程を確認して俺も蔵書室へ行った。どうせ蔵書室へ行くなら、美人に会いたいのは男の心理だろ? まあ、聞こえてくる噂とかで冷遇されているらしいな、と気付いてからはそっと声掛けしていたものだ。
ちなみに、10歳頃に侍従として俺の後ろに控えるようになったケニーは、年相応な普段よりも幼いフリしてユハに接する俺を見てピクピクしていた。離宮戻ってから爆笑されたが、猫被ってたんだから仕方ない。
事態が変わったのは、異母兄上のやらかし。この頃から、異母兄上を兄とも呼びたくなくなったのだが、それはさておき。ユハとの見合いが急造でセッティングされて、王家はこの人を逃したくないのだろうな、と察した。そして実際に話してみて、王家の意向もわからなくないし、やっぱりこの人は綺麗だなぁと思ったのだ。その上に可愛らしく、雌だしなんかエロいし、とこの人を俺のモノにしたいと決めた。――のはいいのだが、それがユハにはイマイチ伝わっている気がしない。それなのに、話しをしっかりすることも出来ていない。
全部、異母兄上のやらかしの尻拭いにユハが奔走し、俺も引き継ぎだ何だと忙しかったせいだ! 実質愛の告白な訳で、それを情緒なく言える訳ないじゃんか。その辺はロマンチストの気を出したっていいじゃんか……。
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